新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ラステイション編5 悪夢

血が舞う。

男性が倒れる。

黒い何かが鼻歌を歌いながらその場を通り過ぎていく。

 

血を流しながら倒れたのは、父だった。

私が駆け寄って揺さぶっても反応はない。

ああ、こんなこと。酷い。酷すぎる。

周りには誰もいない。

誰も助けてくれない。

こんなことはあってはいけなかった。

 

私は何もできなかった。何も。

犯罪神が世界を壊していくのを止められなかった。

私が強ければ、救えたかもしれないのに、何もできなかった。

 

不意に、父が目を見開いて私を見た。

 

「私は殺された……」

 

私は驚きながらも、一語一句聞き逃さないように身体を掴む。

父の顔は痛みに歪んで、目は絶望に染まっていた。

 

「私は殺された!」

 

 

はっとして目が覚める。

目をこすりながら、体を起こす。作業している間に、机に突っ伏して寝てしまったようだ。

伸びをして、深呼吸する。

嫌な悪夢を見てしまった。もっとも、良い悪夢とやらがあるのかは知らないが。

 

エコーを倒して、地下鉄から戻ったあと、助けた人たちだけでなく、兵士たちもノワールたちを認めた。

その場にいた野次馬たちも私たちを賞賛した。

兵士たちは早速ノワールとユニのことについて調べ、すぐさま彼女たちが指名手配されているのが、理由のないものだと判明した。

それから兵士たちはノワールたちを発見しても、見て見ぬふりをしてくれている。いまでは前と比べものにならないほど、動きやすくなっていた。

 

くたくたに疲れきった私だけど、どうしても気になってエコーの残骸の解析を進めていた。

少し調べてわかったことは、この世界のどこの国のものでもないということだった。

機械というのは、外に関しても中に関しても、造った人の特徴がある程度の現れる。

癖といってもいい。

これだけ精密なものなら、余計にそれが顕著に現れるものだ。

だが、エコーに使われていた技術は、四国のどの企業が造ったものとも逸脱していた。

誰かが遠隔操作しているのか、それとも意志を持った機械か。

敵であることには違いない。ノワールを狙っていたようなことを言ってたし。

 

気分転換に外に出る。

時計を見てみれば、もう昼だ。

力を増そうとしているのに、昼夜逆転して体調を崩すなんてしてしまったら、元も子もない。

ノワールたちはもう研究所にいなかったし、すでに外に出てるのだろう。情報収集かモンスター退治か。

シェアが減っている状態で、しかも凶暴なモンスターがいる。あのエコーとやらもまた襲ってくるであろうこの状況で目につかないところに行かせるのはやや心配だが、危険なら連絡するように言ってあるし、信用することにしよう。

 

「イヴ、今起きたの?」

 

そんなことを考えていると、件のノワールが話しかけてきた。

 

「あら、ノワール。どこかに行ったんじゃないの?」

 

「ちょっとパトロールしてたの。ひと段落したから戻ってきたってわけ」

 

「そう、ユニとケーシャは?」

 

「あの子たちとは別行動よ。二人とも傭兵組織の情報を集めてくれてるの」

 

私は頷いた。

聞き込みをするにもこの国は広い。

手分けして情報を集めるのは至極納得のいくことだった。

 

「なら、私も動こうかしら。ネットじゃ限界があるし」

 

「それよりも」

 

ノワールは私の肩をぽんとたたいた。

なんだか、前よりも距離が近く感じる。

パーソナルスペースというものがあるが、彼女のそれは人よりも近いのかしら?

普段の言動から考えると、そう考えるのは難しいが。

 

「一緒に街を歩かない? 私はあなたのことあまり知らないし、もっと仲良くなりたいの」

 

この提案に、正直私は度肝を抜かれた。

ネプテューヌの言っていたようなツンデレとは、まったく印象が違うのだけれど。

捕らわれたのを助けたことと地下鉄のことが距離を縮めたのかしら。

 

「え、ええ、まあいいけど……」

 

「なら決まりね」

 

にっこり笑って、ノワールは私の隣を歩いた。

 

 

 

「ち、近くないかしら?」

 

「そう? 普通だと思うけど」

 

「これが普通? いえ、普通というものを知っているわけじゃないけれど……」

 

公園のベンチで、屋台で買ったクレープを頬張りながら、ノワールはやたら上機嫌に笑う。

それまでもいろいろとウィンドウショッピングをしていたが、その間も近いこと近いこと。

周りの視線が気になって、離れるように言ってもきかない。

なによりも、その……

 

「私のも食べてみる? ほら、あーん」

 

気持ち悪っ!

 

「う……」

 

しかし、仲良くしようとしている好意を無下にするのもよくない。

仕方なく近づけられたクレープをいただく。

にこにことしているノワールに、なんだか気恥ずかしさを感じて、私は視線をそらした。

 

「ごめんなさい、ちょっと離れるわ」

 

これ以上耐えられなくなって、私は返事も待たずにその場を離れた。

 

何度か深い呼吸をして、いろいろな感情を抑えつける。

急に寄られると、気後れする。

でも私はそれぐらい強引に来られないとだめなのかもしれない。

うずめのときも、ネプテューヌのときもそうだった。

私からも、歩み寄るべきなのかもしれないわね。

あー、それにしても、あんなにぐいぐい来るなんて予想してなかったわ。

第一印象っていうのは案外あてにならないものなのかしらね。

落ち着いたところで、待たせているノワールのもとに戻るために、私は足早に歩いた。

 

「あら?」

 

だけど、そこには誰もいなかった。

代わりに見つけたのは……

 

「ユニ」

 

「イヴ!」

 

目的のノワールの妹だ。

控えめに手を振ると、彼女も振り返してきた。

 

「ねえ、お姉ちゃん見なかった? さっきまで一緒にいたんだけど、急にどっか行っちゃって……」

 

私は首を傾げた。

 

「さっきまで? ノワールならさっきまで私と一緒にいたけれど」

 

「え? そんなはずないわ。つい直前までなんだかやたらとベタベタしてきて困ってたもの」

 

「私もやたらと密着されてたわ」

 

二人してはてなを浮かべる私とユニ。

ユニが嘘をついているように見えないし、つく意味もない。

これは一体どういうことかしら?

私が目を離した隙を見て両方とお出かけしてた? いいえ、ずっと一緒だったもの。それはない。

 

「ユニと……イヴ?」

 

ぽかんとしている私たちのもとに新たに現れたのは、話の種であるノワールだ。

私とユニを交互に見て、まるで今日初めて会ったかのように挨拶する。

 

「あ、お姉ちゃん、どこ行ってたの? 急にいなくなるから心配したのよ?」

 

「え、私は……」

 

「私と一緒だったわよね?」

 

「え、えぇと?」

 

 

 

研究所に戻るまで、私たちは今日あった出来事を各々話したが、奇妙なことに三者の話はまったく食い違っていた。

ユニはノワールと一日お出かけしてたみたいだし、ノワールは街の人に頼まれてモンスター退治していたそうだ。

そのことを、先に帰ってきたケーシャも交えながら喋っていると、余計に混乱する。

 

「今日はなんだか変な日ね。異様に疲れたわ」

 

「昼まで寝てるからでしょ。もうちょっとちゃんとした生活を送りなさいよ」

 

ケーシャが作ってくれた料理でおなかを膨らませたあと、昨日までの研究や開発をほっぽりだして、私は悩んでいた。

考えても答えは出ないとわかっているが、もやもやした気持ちを持ったままだと何も手につかない。

 

「いや、それもそうなんだけれど」

 

「まったく、ユニも変なことばっかり言うし……」

 

「変なことですか?」

 

皿の片づけが終わったケーシャがノワールの隣に座る。

地下鉄の事件以来、つまり昨日から、ケーシャはこの研究所に入りびたりだ。

ノワールのことをよほど心配しているらしく、キーカードをせがんできたくらいだ。

昨日帰ってきたときも、ノワールのそばから決して離れることはなかった。

 

「今日はノワールがべったりしてたって」

 

食後のお茶を飲みながら、私は答えた。

今日の心労がたたったのか、ご飯も食べずにすぐに寝てしまったのだ。

 

「帰ってからすぐに横になるなんて、なんだか心配ね。あの子は一人でため込む癖があるから」

 

「それはあなたも一緒じゃない?」

 

「私は一人でできるから大丈夫」

 

「あら、捕らえられて、地下鉄でもけがをしたのに、一人でできるですって?」

 

軽い口調で言い合う私たちに、ケーシャはむっとした表情を見せた。

 

「なんだか、仲が良いですね」

 

「そう?」

 

「遠慮がないというほうが正しいんじゃないかしら」

 

ノワールと私が揃って言う。

まあ、仲が悪いわけではない。お互い恩があるのは承知の上。だからこそ気兼ねなく話そうとする。

私もノワールも引け目を感じて、もじもじとするのは気持ち悪いもの。

 

「……私は軽口も言えないのに」

 

「ケーシャ?」

 

ぼそっと呟いた言葉に、ノワールが反応した。

ケーシャの目つきがやたらと鋭く見えたが、一瞬あとには普通の少女ケーシャの可愛らしい顔がそこにあった。

見間違いだろう。見られた人を射抜き、戦慄させるような目だった。

 

「あ、はい、いえ、なんでもありません」

 

「そう、ならいいけど。ちょっとユニの様子見に行ってくるわ」

 

ノワールもお茶を飲み干して、隣の部屋に向かった。

昨日から今日にかけて、いやそれまでもいろいろとあった。

ユニが心身ともに疲れ果てても無理はない。

 

「……またユニのところに」

 

だが、ケーシャはそれに嫉妬しているみたいだ。

暗い顔をして、ぼうっと俯いている。

 

「こんな状況よ。妹を心配するのは当然だと思うけれど」

 

「でもそのせいでノワールさんは私を構ってくれない」

 

せっかく出来た友達に構ってもらえないことに寂しさを感じているのだろうか。

怪我をして助けたと思ったら、また大けがをして戻ってきたノワールを見れば、不安を感じるのもわかるが。

傭兵組織に、エコー、そしてこの世界自体。敵が多すぎる。

 

「もう寝ましょう、ケーシャ。余計なことは考えずにね」

 

私は自分に言い聞かせるように、ケーシャの肩をたたいた。

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