新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
「あの、イヴさん」
「あら、ネプギア。どうしたの?」
ネプギアが私の部屋に入ってきた。
工具や材料が置かれた机が所狭しと並んでいるここは、私にとっての『工場』。
うずめの案内はもう終わったのかしら?と思い、時計を見ると、あれからすでに七時間も経過していた。
いまはすっかり深夜。
今日は戦いと研究と製造があったっていうのに、不思議と疲労感はなかった。
「この街……なんて名前なんでしょう」
「さあ……私はこの世界についてほとんど知らないから……。うずめに聞いても同じよ。彼女、記憶喪失だから」
「記憶喪失?」
「ええ、彼女が覚えてるのは、この国の女神ってことくらいかしらね」
「そうですか。なんだか、その、イヴさんは他にも知ってるようなそぶりでしたから……」
モンスターの残骸を分解する私の手が止まった。
うかつだった。
話したくないってことではないが、あまり詮索されたくない話題でもある。
なにより思い出すのが苦痛だ。
「あ、あの……」
「ごめんなさい。ちょっと思い出したくないから……」
うずめの話をすれば、当然私のほうにも話は飛んでくる。
だが『話さない』という選択肢はなにかと勘繰られることも多くなる可能性は高い。
そこで私はわかりやすく頭を押さえるふりをした。
「な、ならいいです。そんなに無理しなくても……」
「ごめんなさいね」
私の予想通り、ネプギアはこの話題から大人しく引き下がってくれた。
手持無沙汰になったネプギアはきょろきょろとせわしなく見回して、ある物を見つけた。
広げられ、重ねられた大きな紙だ。
「これ、設計図ですか?」
「ええ、私は無力な人間だから、防御のためにパワードスーツを設計したの。前の拠点で完成しそうだったのだけれど、ダークメガミが現れておじゃん。また最初から作り直さなきゃ」
完成させるために、時間と材料を使いすぎたのが良くなかった。
おかげであの時は義腕のバッテリーも充電が十分じゃなかったし、爆裂銃『ブラストバレット』も調整できなかった。
「そんなものまで作れるんですか?」
「父が天才的な科学者でね。長い間その教育を受けたの。ラス……私のいた国の大学は小さいころに飛び級で卒業したから」
私は再び手を動かした。
いままでよりも大量に、良質の材料がそろっている。
ネプテューヌたちがいるのも考えれば、パワードスーツを作るのも夢ではなくなった。
メタルアームと銃だけじゃ、心もとないものね。
「あの、うずめさんってシェアクリスタルで変身してましたけど、どこで手に入れたものなんですか?」
「ああ、あれ?落ちてるのよ。そこらへんに」
「お、落ちてる!?」
飛び上がったネプギアは設計図を落とした。
「シェアエネルギーを凝縮したエネルギー結晶体がシェアクリスタルなのに、それが落ちてるんですか?」
「落ちてるわね、普通に」
私は汚れた手で落ちた設計図を拾う。
エネルギーが凝縮されたシェアクリスタルは、うずめの変身、いわゆる『女神化』に必要なアイテムだ。
貴重なアイテムだが、ところどころに落ちている。
守っている対価というわけでもないが、善良なモンスターに拾ってもらうのを手伝ってもらっている。
「あ、ありえません!シェアクリスタルの製造には莫大なシェアとそれを結晶化させる特殊な製法が必要なんです。以前、犯罪神と呼ばれる敵と戦った時に作ったことがありますが、小さいのを作れただけで……」
「犯罪神?」
私は『犯罪神』という単語に反応した。
今まで頭をもたげていたものがすべて吹き飛び、ネプギアに詰め寄る。
「犯罪神って言った?」
今ここでそんな名前を聞くとは思えなかった。
掴みかからんとする勢いの私に、ネプギアは首をかしげた。
「……?はい。何年か前に私たちが倒しましたけど……」
「倒したの……そう、倒したのね」
私は我に返って深く息を吐き、ちらっとネプギアを横目で見た。
「国は破壊された?」
「いいえ、話はちょっと複雑ですが、復活してすぐに倒しにいきましたから……」
ということは、私の知っている犯罪神とは違うのだ。
私は意気消沈して、視線を落とす。
それにしても犯罪神を倒すなんて、ネプギアは相当な実力者のようだ。
見た目は普通の少女だと言うのに、女神という存在は常識を逸している。
「たたたたた大変だよネプギア、イヴ!プリンがどこにも見当たらない!」
ネプテューヌが埃を巻き上げて走ってきた。
その後ろにはうずめもいる。
「プリンなんて無いわよ。材料すら見たことないわね……」
あるものは出来うる限り使うようにはしているが、生ものなんてしばらく見ていない。
私がそう言うと、ネプテューヌは明らかに落ち込んでみせた。
「そんな……うぅ…プリン……」
「お姉ちゃんはプリンが大好物なんです」
「それは……悪いことを言ってしまったわね」
しょげているところ悪いが、無いものはない。
そこで私はこれからのことを考えようとした。
もう夜遅いが、全員が揃っているならちょうどいい。
私はここで、紫姉妹のことを気にかけた。
「それで、これからどうしましょうか」
「ここが別の国?それか別の次元かってことはわかったけど……」
「いーすんさんに連絡が取れればなんとかなるかもしれないけど」
その『いーすん』とやらは様々なことを知っているみたいで、連絡が取れれば、ここがどこか、帰り方までおそらくわかるらしい。
だがネプテューヌは首を横に振った。
「けどさ、このまま帰っちゃっていいのかな」
ネプギアが疑問を発するような顔でネプテューヌを見る。
「うずめたちだよ、あんなでっかいのを相手にするなんて……帰る前にうずめたちを手伝ったほうがいいんじゃないかな?」
「そんな気遣いは無用だぜ、ねぷっち」
うずめは口を開いた。
その顔は希望を持った顔でも、絶望を感じた顔でもなく、凛とした天王星うずめのものだ。
「帰れる場所があるなら、さっさと帰ったほうがいいぜ。もともと俺とあいつの喧嘩だ。ほんとはイヴだって戦わせたくないんだよ」
「うずめ……」
強がっているが、私たちを巻き込みたくないのだ。
それはわかってる。
記憶喪失、崩壊した街、犠牲になった仲間。
うずめもまた、失うことをおそれている。
だからこそ、私は彼女とともに戦う。
これ以上、失うことの無いように。
「言ったでしょ、私に帰る場所はないって。私はあなたと一緒に戦うわ」
「わたしも手伝うよ!二人より三人、三人より四人だよ!」
私の言葉に、ネプテューヌも賛同する。
それでも納得していないようなうずめの様子に、ネプギアが手を挙げた。
「提案ですが、私たちが帰るまでの間、うずめさんたちを手伝わせてください」
「はあ?帰るまでって……だから、それは危ないからさっさと帰れっていってんだろ」
「それなんです。私たちはこの国についてはほとんど知りませんし、さっきの大きいのだっていつどこに現れるのかもわからない。私とお姉ちゃんだけじゃ対処できないかもしれません」
ここがどこか、そして帰る方法がわからない以上、ネプギアの提案は理に適っている。
隙のない案を出したネプギアはにこっと笑った。
「知り合ったのも何かの縁ですし、協力し合いませんか?」
「なるほどな。俺はお前らの帰る方法を探すのを手伝い、その間お前らは俺たちと一緒に戦う」
うずめはやれやれと首を振った。
どうやら納得はしてくれたらしい。
と言うより根負けしたと言ったほうが正しいかな。
「良い案だと思うけど。私だってネプギアの手も借りたいし」
「わたしは?」
「もちろんあなたもよ、ネプテューヌ」
ネプテューヌはやったー!と大げさにばんざいをして喜んだ。
それを見て、うずめもようやく笑った。
「…しゃーない。どうせ言っても聞かないだろうし、ここはぎあっちの提案通り、協力し合おうぜ」
そしてうずめはネプギアをびしっと指さす。
「だけど、帰る方法がわかったらそっこーで帰すからな」
「ふふ、はい」
「ああ言ってるけど、かなり喜んでるわ。他の女神なんて出会ったことなかったから」
私は小声でネプギアにそう告げる。
私が協力すると申し出たときも同じような顔をしたものだ。
まさかまた、うずめがこんな顔を見せてくれるとは思わなかった。