新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ルウィー編4 三撃

「アイちゃんこの前助かったよ」

 

「痴話げんかも大概にするッスよ」

 

「アイちゃーん遊んで―」

 

「ごめんごめん、今忙しいからまた今度」

 

「ブランちゃん、ほれ持っていきな。しっかり体力つけるんだよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「シーシャさん、これお願いできるかな」

 

「ん、お姉さんに任せときなさい」

 

数日が経った。

ウチたち三人はその実力をもって有名人となり、様々な仕事を任せられるようにまでなった。

そのおかげでブランちゃんのシェアも少しは増えたようで、今では倒れていたときの元気のなさは見る影もない。

 

「かーなり有名になってきたッスね」

 

「おかげで力もだんだん戻ってきたわ」

 

「格闘トリオなんて言われて、いまじゃ最高難度のクエストまでやってのけてるからね」

 

主に猛争モンスターと渡り合えるのはほぼウチたちだけということもあって、ギルドからお願いされるほどだ。

 

「私は格闘なんてしてないのだけど……」

 

「これが風評被害ってやつなんスかね。ままま、先にお仕事してたのはウチら二人ッスから、その第一印象が……おっと」

 

唐突に端末が震える。

通話だ。相手は隣町のギルドの受付さんからだった。

何かあった用に番号を教えていたのだが、問題が起きたのだろうか。

 

「はいはい、こちら篠宮アイッス」

 

『あ、もしもし! アイさん大変です!』

 

繋げるなり、叫ぶ声が聞こえた。

ウチは耳から少し離して、通話をつづける。

ああ、まだ耳がキンキンする……

 

『探してた双子が来たんですけど、それが、あの!』

 

「何ッスか?」

 

『新人が受付しちゃったみたいで、いまクエストに向かっています!』

 

「分かったッス。すぐ向かうッス!」

 

切羽詰まったようすの受付ちゃんをなだめるのも忘れて、通話を切る。

よかった。こんなに早く見つかるなんて、連絡先を教えておいて正解だった。

ウチはすぐブランちゃんを見る。

 

「ブランちゃん」

 

「場所はどこ?」

 

通話を聞いていたブランちゃんが眉間にしわを寄せてウチを見る。

受付ちゃんからすぐ送られてきたクエスト内容は、隣町とこの街の間にある場所にいるモンスターを倒してほしいというものだった。

 

「ここからそんなに遠くないッス」

 

「急ごう。もしかしたら危ない目にあってるかも」

 

「冗談でもやめてほしいッス」

 

シーシャをたしなめて、ウチたちはすぐさま走り出した。

猛争モンスターが相手なら、まだ妹ちゃんたちでも勝てない。

最悪の状況を浮かべてしまった頭を振り払いつつ、ウチは歯ぎしりした。

 

 

 

クエスト場所は山道だ。

開けているとはいえ、木が邪魔でいまいち探しづらい。

焦りが生まれて、荒い呼吸になってしまったのに気が付いて、一度冷静になる。

 

「アイ、どう?」

 

「痕跡はあり、しかも近いッス。すぐそこにいるはずッスよ」

 

足跡が二人分。小さいものだ。

前に見たものと相違ない。

ラムちゃんロムちゃんは確実にここにいるはずだ。

 

「きゃあ!」

 

そのとき少し遠くで、悲鳴が上がった。

 

「噂をすれば、だね」

 

鋭くとがった牙に、ゆらゆらと揺れるひれ、風船のようにぷっくりと膨らんだ身体。

サメとクジラを足したような、巨大で凶暴な生物が宙を漂っていた。

しかも最悪なことに、黒いオーラ付き。猛争モンスターだ。

モンスターの真下には幼女が二人、その場でうずくまっていた。

逃げるという選択肢をなくしてしまうほど圧倒的な威圧感があのモンスターから放たれているからだ。

 

「ブランちゃん!」

 

「分かってるわ!」

 

「変身!」

 

ウチたち二人は躊躇なしに変身して、勢いよく地面を蹴った。

飛行機よりも速く飛び、一気に間合いを詰める。

 

「私の妹たちに近寄るんじゃねえ!」

 

「おらぁ!」

 

ホワイトハートの斧とウチの回し蹴りが炸裂し、モンスターはぐるぐると巨体を回しながら数多の木をなぎ倒していった。

 

「大丈夫か、ロム、ラム!?」

 

モンスターの行方には目もくれず、ホワイトハートはすぐさま妹に駆け寄る。

なるほどブランとよく似た姉妹だ。

 

「お姉ちゃん!」

 

「来てくれたの……」

 

二人は安堵の涙を流す。二人とはもちろん、ラムとロムだ。

見た目はそっくりだが、雰囲気からしてやんちゃと大人しいと分かれているのがわかる。

ブランから聞いた話だと両方ともいたずら好きだそうだが……ああ、いや、そんなのは後だ。

 

「こんな危険なことしやがって……」

 

「話は後だ。こいつを片付けてから再会の抱擁でもなんでもしろ」

 

轟音とともに、モンスターが再び宙を舞う。

そこでやっと、シーシャが追いついてきた。

 

「相変わらず乱暴だね。だけど嫌いじゃないよ」

 

「そんなんいいからさっさとぶっ倒すぞ」

 

三人で戦闘態勢に入り、モンスターを見据える。

相手にするにはあまりにも大きすぎる敵だ。

遠距離攻撃ができるならともかく、近接戦闘をするメリットはほとんどない。とはいえ、この場にいるのは全員近接戦闘員だ。

ラムとロムが戦えるならまだしも、彼女たちは腰が抜けていて戦えないだろう。

 

となれば、できるだけあのモンスターを二人から遠ざける必要がある。

ウチはぐいっと上昇し、モンスターと同じ目線に立つ。

直線的に飛んで、すれ違いざまにモンスターの眉間を蹴り飛ばす。

モンスターは少しばかりのけぞったものの、それだけだった。木が揺れるほどの咆哮とともに、こちらを睨む。

しかし注意を引くことはできた。できたが……

 

「さて、こっからどうすっかな」

 

こちらに向かってくるが対応策がいまいち思い浮かばない。

チューニング・フォールがあるが、それで足りるとも思えない。プラスで一撃加えなければ、あのぶよぶよした身体の中にまでは届かないだろう。

くそめんどくせぇな。

 

「ツェアシュテールング!」

 

ホワイトハートが斧で思い切り腹部を強打する。

気が完全にこちらに向いていたモンスターが直撃をくらい、またしても巨体を揺らした。

だが、今度はその勢いを利用して、尻尾をひらめかせた。

それだけでもウチの身体より遥かにでかいのに、迫ってくる。

 

「くそっ」

 

毒づきながら、ウチはプロセッサを展開させる。

 

「チューニング・フォール!」

 

金色のプロセッサが足を覆うと同時、ついにウチをはたこうと目の前まで来た尾ひれを、蹴り返す。

脚が折れそうなほどの衝撃が襲ってきたが、なんとか押し返す。だが、代償としてウチも地面に叩き返される。

地に激突してしまったせいで、土煙が上がる。

痛む身体をなんとか立ち上がらせて、くらくらする頭をむりやり動かす。

ダメージで、チューニングが解除されていた。

 

「おい、ブラン!」

 

どこにいるのはわからずに叫んだが、ホワイトハートは隣に降りてきてくれた。

 

「なんだ?」

 

「同時に叩き込むみたいところだが、隙をつくらないといけねえんだ。いい案は?」

 

一人が囮になって引き付けておきたいが、同時攻撃がちょっとでもずれたら終わりだ。

囮役はできれば他に任せたいが、ラムロム姉妹はいまは戦力とは数えられない。

 

「アタシが行くわ」

 

そんなとき、いつの間にか近くに来たシーシャが言った。

囮としては、もちろん人間であるシーシャは力不足だ。もし本当に人間であればの話だが。

 

「おい、大丈夫なのか?」

 

「平気、任せといて」

 

一応聞いてみたが、即答だ。

シーシャは胸の前で拳を構える。

 

モンスターがまっすぐこちらに向かってくる。

 

「シーシャ……」

 

「大丈夫っつってんだから大丈夫なんだろうよ」

 

体当たりの直前で、ウチは空中に飛び立ち、ホワイトハートは横に避ける。

シーシャに真正面から突っ込んだモンスターは地面をえぐりながら、木々を巻き込んでいく。

止まることのないと思ったその巨体は数百メートル進んで、不意に止まった。

モンスターの顔の先にいるのは、無傷のシーシャだ。

遠くでよくは見えないが、金色のオーラが見え隠れする。

 

「打ち上げるよ!」

 

シーシャの怒号が聞こえる。

ウチははっと我に返って、すぐさまシーシャとモンスターの真上に向かう。

地上のホワイトハートも同じく、モンスターのもとへ向かっていく。

 

「やれ、シーシャ!」

 

ウチは叫ぶとともに真っすぐ上へ上昇していく。

 

「ふん!」

 

シーシャは拳でモンスターの顎を突き上げた。

モンスターが空へ打ち上げられ、低い唸り声と巨体が近づいてくる。

 

「貫け!」

 

チューニング・フォールを起動させて、落下していく。

ホワイトハートも、下から砲弾のように飛んでくる。

 

「カーディナル・アスター!」

 

脚から放たれたエネルギー砲弾が、ウチとともに落下していく。

 

「妹をいじめやがった罰だ! もう一発食らいやがれ!」

 

「ぶっ飛ばしていくぜ! クリムゾン・アルカネット!」

 

「ツェアシュテールング!」

 

合計三発の必殺技がモンスターを同時に襲った。

ただでさえ無駄にでかい身体が、衝撃でゴムのように伸び、二倍ほどに広がる。

やがて耐え切れなくなったのか、粒子となって霧散した。

黒いオーラからは想像できない、きれいなきらきらとした粒があたり一面を覆う。

 

「ふう……」

 

地上に降り立ち、一呼吸。汚れた身体をはたく。

 

「なんなく、ってところかな」

 

「どこがだよ、まったく……」

 

もう一度深呼吸しながら、変身を解く。

「チューニング」はやたらと力を使う。おかげで、全身からどっと体力が抜けた。

だが、感動の再会を邪魔するわけにもさせるわけにもいかない。

 

「ここは任せてくれていいッス。妹ちゃんたちとは」

 

「お好きに」

 

台詞をとられて、シーシャをじとっと睨んだが、彼女はどこ吹く風であたりを警戒する。

とはいえ、あんな騒ぎがあったあとじゃ、何も近づいてこない。

周りに人どころか、モンスターもいなくなっているのは、わかりきっていたことだ。

 

ホワイトハートは変身も解かずにぐいっと妹たちを引き寄せる。

 

「おねえちゃあああん!」

 

「お前ら……ハンターなんかになりやがって、こんな危ないことして、このバカ!」

 

涙を流す双子に、姉はきつく言い返す。

たとえ変身を解いていたとしても、同じくらいの剣幕で叱ったことだろう。

 

「ちょっと言いすぎなんじゃないのかい」

 

「それだけ心配してたんスよ。どうせあとでたっぷり甘やかすんだし、いまは感情を吐き出させても悪くはないんじゃないッスか」

 

怒りたくないのは、ブランちゃんが一番感じている。

それでも怒号を発してしまうのは、それがどうしても出てしまうからだ。

感情が出てしまうのは、そこらにいる少女と変わりない。

 

「わたしたち、お姉ちゃんに会えると思って……」

 

「だからいろんな場所に行けるハンターになって……」

 

ラムちゃんとロムちゃんの、尻すぼみに小さくなっていく声は、しかししっかりとブランちゃんに届いていた。

 

「ほんとに……ほんとに無茶しやがって……」

 

ぎゅうっと妹たちを抱く力が強くなる。

激昂はほんの一瞬で、ホワイトハートが次に見せた顔は、やはり優しい姉の顔だった。

 

「無事でよかった……二人とも」

 

ひと段落。

ウチはその場に座り込んで、あぐらをかく。

隣にシーシャも同じように座った。

 

「ほんとうに、無事でよかったね」

 

シーシャがいやらしさのない、さわやかな笑顔で言う。

ウチの中にあった、彼女への疑いが少し緩んでしまう。

それが果たしていいことなのか悪いことなのか、わからない。

 

「そうッスね。みんな無事でよかったッス」

 

ただ、今は安堵に身と心を任せるのも悪くはない。

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