新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
妹ちゃんたちを救出し、だるい身体でようやくホテルに戻ってくることができた。
ふんだんに身体に土を受けたせいで、パッと見はぼろぼろのウチを見て、すぐさま駆け寄ってきた少女がいた。
「ご、ごごごごご無事ですか!?」
メイド服を着た彼女は、フィナンシェ。
妹ちゃんたちを熱心に探してくれた健気な少女で、わざわざ隣町のギルドまで連絡を回してくれたのも彼女だった。
自分の服が汚れるのもかまわずに、フィナンシェはウチの服をはたいて綺麗にしてくれる。
「おかげでなんとか」
「心配かけちゃってごめんね、フィナンシェ」
ラムちゃんがぺこりと頭を下げ、追ってロムちゃんも頭を下げる。
彼女もまた、ブランの捜索をフィナンシェにお願いしていたのだ。
お互いクエストなどで外に出ることが多く、すれ違いが多かったのがフィナンシェを困らせてしまった。
そのことに文句を言うことなく、フィナンシェはほっと胸をなでおろした。
「いえ、ご無事でよかったです」
「いやはや、一時はどうなるかと思ったけど、ま、何事もなくてよかったッス」
にっと笑うウチに、フィナンシェもつられて笑う。
心の底から無事を祈ってくれたことが、その顔からわかる。
「さて、あたしはもう行こうかな」
行く。これは、シーシャがウチたちのもとから去るということを意味する。
もともと、ラムちゃんロムちゃんをともに探すだけの共闘関係だった。
だから彼女がここでこう言うのは自然なことだったが、こちらとしては寂しいという気持ちもある。
疑いこそすれ、それはまた、彼女を信頼していないということにはならないからだ。
「もう行くの? もっとゆっくりしていけばいいのに」
ブランちゃんも同じ気持ちだったようで、名残惜しそうに見上げる。
「きみたちとの共闘は妹ちゃんたちが見つかるまで。それにあたしもやることがあるしね」
差し伸べてきたシーシャの手を、ブランちゃんが握る。
「組んで仕事するのも、悪くないって思えたよ」
「あなたには助けられたわ。これからあなたが困ったら、遠慮なく頼ってちょうだい」
次にウチが手を握り、その暖かさを感じる。
余計に寂しさがこみ上げ、隠すために少しだけ力がこもる。
「ウチも手伝うッスよ。しばらくはブランちゃんと一緒にいるッスから」
「ふふっ、そうだね。その時が来たら、頼らせてもらうよ」
嫌味のない笑みを見せて、シーシャが踵を返す。
見送るウチたちにひらひらと手を振りながら、数秒後にはもう見えなくなってしまった。
「あの……アイさん。少しいいですか?」
しんとした雰囲気を引きずらず、フィナンシェがウチにこっそりと話しかけてきた。
「うん?」
「ええと、ここではその……」
秘密のお話、のようだ。
ウチはブランちゃんたちをそのまま部屋に戻し、フィナンシェを連れていったん外に出る。
外を歩き、少ししたところで単刀直入に話を聞きだす。
「そんで、何ッスか?」
「察していただいてありがとうございます。アイさん一人で、とのことですので」
とのこと、というからには、誰かの頼まれごとを押しつけられたのだとウチは思った。
その予想を裏付けるように、フィナンシェが続ける。
「実は、私のご主人様がどうしてもアイさんに会いたいとおっしゃってまして」
「ウチなら構わないッスよ」
「よかった。では、早速今からでよろしいでしょうか」
「もちろん」
街の中心部、富裕層が住む区画にまで案内されたのは、そう驚くことでもなかった。
しかし、お目当ての、外見からして豪華な洋館は、周りに比べても頭が抜けているほど目立っていた。
中に入り、通された一室は、一目見ただけで持ち主の性格がわかるほど、典型的なものだった。
たくさんの本棚に揃えられた政治経済、おまけに自己啓発の本。そのほとんどが新品同様、ほぼ綺麗なままで並んでいる。
一冊として、読み込まれた形跡のものはない。
読んで理解もしていないくせに、ステータスの一つとして持っているだけなのだ。と感じたのを一切表に出さずに、ウチはフィナンシェに連れられるまま、ソファに座った。
「それでは、ここでお待ちください」
そういって礼をした後、フィナンシェが部屋から出ていく。
呼びつけた本人は、ウチと一対一で話をしたいということだろう。
遠慮なくじろじろと見渡して十数分経ったところで、やっと件のご主人様が入ってきた。
「待たせてすまないね」
イメージしていたのと、ほとんど相違ない風貌に、思わず笑ってしまいそうになる。
嫌みったらしい口の角度に、表面はいいものの笑ってはいない目つき。
「ウチを呼び出して、何のつもりッスか?」
すっかり警戒モードに入ったウチは、敵意を隠そうともせずににらみつける。
それに対してあくまで冷静に返してくる相手の態度がさらに鼻についた。
「まあまあ、先走らないでくれたまえ。君をどうこうするってわけじゃないさ」
「ということはぁ……ブランちゃんかシーシャをどうこうするってことスかぁん?」
実力を求めているなら、ウチだけじゃなく三人を同時に呼ぶだろう。
その時点て、方法や過程はともかく、彼が求めている結果がどういうものか、すでにあたりはつけていた。
「図星ッスね。反応的には、両方を陥れるつもりッスかね」
「陥れるなんて、そんな乱暴なものじゃない。ただ、この国を返してもらうだけだ」
「返す?」
「この国はね、とても豊かで平和な国だったんだ。だけど、その国のあり方を真逆に変えてしまった張本人、そしてそんな平和な国に戻す力のない女神に私たち反乱軍は失望してしまったんだ」
「それで、二人を陥れようと」
「だから、そう乱暴なことは……」
ウチは首を横に振って、立ち上がる。
「悪いッスけど、いや、悪いなんて一ミリも思ってないッスけど、あんたに協力する気はないッス」
「なぜだ? 貧富の差が酷く、人々の安心安全が保障もされてない。こんな状況が最悪だってことは、別次元の君にだってわかるだろう?」
この状況は確かに最悪だ。
人の自由を踏みにじり、危険にさらしたまま改善もなし。
こいつが御大層な思想を持っていて、相応の行動をしているのであれば、賛同したのかもしれない。だが……
「アァン?」
ウチは感情を抑えずに男を見る目をさらに尖らせた。
「上に立つ者がどういう想いで平和を守ってきたか、この国の人たちへの想いも女神の苦労も知らねーテメーが革命だなんて企ててんのが一番最悪だっつってんだよ」
「なに……?」
「この国があることのありがたみを、それを支えてる人の想いをわからねーテメーが不満を言う権利なんてこれっぽっちもねえっつってんだよ!!」
乱暴にソファを蹴り飛ばし、本棚に直撃させた。
衝撃で本棚は崩れ去り、ばさばさと本が落ちていく。
呼びかける声を無視して、ウチは男を突き飛ばしてぱぱっと屋敷から出ていった。
クソ気分悪いが、同じくらい収穫もあった。
まずあの男。
記憶を失っていない。呼び出しの時やさっきの話から、明らかにブランちゃんのことを知っているようだったし、改変前後の世界の様子も知っていた。
狙いはおそらく……この国の支配。
国のトップとしてのブランちゃんがいないことと、シーシャが働いていないいまを狙って、ルウィーの上に成り代わる気だ。
この国のいまのライセンス制度にかかわっているのは間違いない。
その罪をシーシャに被せて、自分はそれを救った英雄として君臨するつもりだ。つまりは自作自演。シーシャがゴールドサァドだということを教えてくれたようなものだ。
さらにもっと悪いことがある。
ウチのことを知っていたことだ。
「別次元から来た君にだって」と彼は言った。
ウチが神次元の住人であり、さらに超次元に来たことを知っているのは限られている。
エコーだ。
あの男の裏にエコーがいる。
さらに、ライセンス制度に関わったのであれば、世界改変の黒幕も後ろに控えていることになる。
最悪だ。
もやもやした気持ちのままホテルに戻り、部屋のドアを開ける。
「ただいまッス」
「お帰り」
出迎えてくれたブランちゃんが人差し指を唇に添える。
ベッドの上では双子ちゃんたちが寝ていた。
「しーッスね」
「どうだったの? 何か呼び出されてたみたいだけど」
「ん、そうッスね。ちょうどいいッスから、話しておくッス」
先ほどあったことだけでなく、これまでの経験から得た情報と推測を全て話した。
話が進むごとにみるみる顔が険しくなっていくブランちゃんをなだめつつだったが、話し終わるころには怒りで肩が震えていた。
「つまり、その男から情報を引き出すべきってことね」
「そういうことッスね。嫌悪のあまり出てきてしまったッスけど」
フィナンシェには悪いが、あの場所には長く居たくなかった。しかしあの男を捕まえてきたほうが賢明だったか。
しかし、あまり大げさに動くのはよくない。こっちは相手の規模もわからないのだ。
フィナンシェにはかん口令が敷かれているはず。あの男意外で情報を得られそうなやつとなれば……
「シーシャしかいないッスね」