新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
妹ちゃんたちはホテルに残し、ウチとブランちゃんはシーシャを探し始めた。
幸い、シーシャはこの街から離れておらず、数人に聞いた程度で居場所がわかった。
ギルドへ向かう道の途中で、とぼとぼと歩くシーシャに声をかけた。
「シーシャ」
「おや、アイにブランちゃん。お別れを言ってからすぐなのに、もうアタシが恋しくなったのかい?」
ウチらを見た途端。嬉しそうに顔を輝かせるシーシャ。
そんな彼女に、ウチはにやりとしながら顎に手を当てる。
「恋しくなってたのはそっちじゃないッスか? 寂しそうにうつむいて歩いちゃって」
「み、見てたんだ。恥ずかしいね」
「その話は後よ。シーシャ、あなたに聞きたいことがあるの」
あはは、と頬をかくシーシャと同じく笑うウチを遮って、ブランちゃんが話の本題に入る。
「話?」
「革命軍のこと、その狙い。そして……」
「あんたのことッスよ、ゴールドサァド、シーシャ」
「ああ、やっぱり、ばれてたんだね」
先ほどとはうってかわり、観念したような顔のシーシャの様子が、全てが真実だと物語っていた。
思えば、これが初めて見たシーシャの素顔かもしれない。
今までは彼女はどこか何かを隠したままで、さらにウチが疑ってかかっていたせいで、本当の顔と言うものは見えていなかった。
そしてその素顔は、ゴールドサァドとかそんなの全く関係ない、一人の女性の顔だった。
きっと、望んだか望んでいないか、その思惑とは関係なく不意に得た力だったのだろう。
そんな彼女にとって、この世界の有様は望んだものじゃないはずだ。それはこれまでの彼女の様子からわかっていたことだ。
だとしたら、この世界を元に戻す手伝いにもなる。
お互いに心の内を話し合おうとしたその瞬間、大げさな足音が鳴った。
見慣れない装備をした兵士十数人が、あっという間にウチらを囲んだ。
兵数と同じ銃口がこちらを睨む。
その奥からパチパチと一人分の拍手が聞こえる。
「手伝ってくれてありがとう」
あの男だ。
ウチに協力を求めてきたいやみったらしい顔がそこにあった。
「なにを……」
「場所を特定してくれた。私との話し合いのとおりね」
一言ひとことがなめまわすような口調。さらに強調するかのように、シーシャを指差す。
それを合図に、兵士たちがシーシャを捕まえる。人を傷つけるわけにはいかない。シーシャは大人しくせざるを得ず、ウチらも手を出せずにいた。
「そこのゴールドサァドがこの世界の混乱の原因だと、証明することができる」
「二人とも……アタシを裏切ったの!?」
シーシャがウチとブランちゃんをキッと睨む。
この男の狙いはこれだ。真実がどうあれ、シーシャを無力化できれば、あとは力を失った女神だけ。
ルウィーを支配するのは簡単になる。
「誤解ッス! あんたらもシーシャを離すッスよ!」
「それはできないね。これから彼女を処刑するんだから」
「この……!」
シーシャを連れ去ろうとする兵士たちを、ブランちゃんが止めようと一歩踏み出す。
ウチも続こうとしたその次の瞬間、どすんと大きな何かが目の前に立ちふさがった。
「おっと、これ以上はオレが相手だ」
赤い目が怪しく光る。
人間ではない。機械だ。しかも二メートルほどもある人型のロボット。
ヤマトから聞いた、エコーというロボットはこいつのことだろう。参ったことにこいつはプラネテューヌだけでなく、ラステイションでも暴れたという情報が入っている。
「相棒だと信じてたのに!」
連れ去られるシーシャが恨み言を言う。
少し話せば解ける誤解を、こいつらが邪魔をする。
ウチは逆なでされた神経を誤魔化すことなく、ロボットに向かっていった。
「シーシャ! くそっ、どけ!」
黙らせるためにキックを一撃。
しかし、モンスターを吹き飛ばすほどの攻撃も、重厚な装甲に阻まれてしまう。
いいや、装甲だけのせいじゃない。
「他の国とは違って、ここには女神しかいない。オレには勝てないぞ」
エコーはウチの足を掴み、乱暴に持ち上げ、地面に叩きつけた。
予想よりもはるかに大きいダメージが身体を襲う。まるでシェアがなくなったように、力が出ない。
「ぐっ……かはっ……」
「アイを離せ!」
ブランちゃんが変身し、斧でエコーを殴りつける。
機械人形は地面を転がり、バウンドする。だが、傷はほとんどついていない。
「なんだか、いつもより力が出ねえ」
「女神の力を奪い取る何かが搭載されてるっぽいッスね」
ホワイトハートも同じく、力の不足を感じているようだ。
エコーは女神の力を遮断するなにかを持っているに違いない。
ならばノワールが捕らえられたというニュースは本当のことだろうし、こいつが関連しているのは間違いない。
ウチもローズハートへと変身し、構える。
「まったく、最悪だぜ」
こうなれば、数は関係なく、完全にこっちが不利ということになる。
プラネテューヌにはヴァトリがいるし、ヤマトだって女神の力を使わない矢を持っているから大丈夫だろうが、ウチらはそうもいかない。
どちらも女神なうえに、武器は斧と脚。相性が悪すぎる。
顔をしかめながら、同時に跳ぶ。
エコーが立ち上がった瞬間に、ウチが膝を蹴りつける。体勢が崩れた機械の顔面を、ホワイトハートが斧で襲う。
またもや完全に姿勢が乱れたエコーの顎をウチが蹴り飛ばした。
反撃を食らう前に攻撃を畳みかけるのは間違ってはいない。特にこの状況においては。
しかし、触れるたびに力が抜ける感覚に襲われながら戦うのは、予想よりもしんどい。
ダメージもそう通っているように見えない。かといって、負ける気はさらさらなかった。
なによりもシーシャが捕らえられたこと、ウチが利用されたことに怒りを感じていた。そのストレス発散のために、こいつには付き合ってもらおう。
ウチがさらに胸、首を蹴りつけると、ホワイトハートも続けて斧を振るう。
いくら弱体化させられたとて、シェアを取り戻しつつある女神の勢いと威力は計り知れない。
くわえて一般人では扱うことすらかなわない重量の斧がエコーの右腕を切断した。
思わず反射、といったエコーの反撃がやってくる。残った左手がウチの首を真っすぐ狙う。
掴まれるその直前、ウチはぎりぎり届かない程度まで頭をそらし、冷たい手の勢いが止まったそのとき、ウチは逆にその手を掴む。
ウチが跳びあがり、エコーの首に脚をかけると、ホワイトハートがエコーの足を刈り取る。
脚に力を込め、反撃手段がなくなったエコーの首を起点に、身体を浮かせる。
だんだんと無くなっていく身体の力を振り絞って、歯を食いしばりながらプロセッサに意識を向ける。
「落ちろ!」
プロセッサが黄金色に輝き、全身の重さが増す。構わない。それも一瞬だ。
重力に任せ、足を刃としてエコーを地面に叩きつける。抵抗する間もなく、首を断ち切られたエコーは、それ以上動くことはなかった。
それを確認すると、ウチの力がどっと抜けた。ふらふらする身体を、ホワイトハートが支える。
「こいつ……厄介なやつだな」
「こんなにもめんどくせぇやつとはな……もっと聞いとくべきだった」
一息ついて、ウチもホワイトハートも変身を解く。
たいした動きもしていないはずなのに、予想以上に削られてしまった。
体力の限界だ。
「知ってるの?」
「他の国でも暴れてる機械ッスよ。まさかこんな機能まで備えてるとは思わなかったッスけど」
いまやただの機械の塊となったエコーを見下ろす。
こいつが革命軍と組んでいるというのは、一番悪い知らせだ。
倒すべき相手が、ウチらに有効な対抗手段を持っているのはまずい。非常にまずい。
「でも……」
ブランちゃんがつぶやく。
そう。それでも、ウチらは止まるわけにはいかない。
「諦めるわけにはいかない」
ウチも頷く。
「シーシャを絶対に助ける」
友達を騙して連れ去ったこと、そしてウチを利用したことを後悔させてやる。