新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
俺たちは何も言わずに教会へ戻り、無表情の中にちょっとした怒りを滲ませるエスーシャと対峙した。
「それで、戻ってきた理由は何だい? 私は魔王の調査を頼んでおいたはずだが」
無駄話はなしにして、単刀直入に問うてくる。
玉座にどっかりと座っているが、ひじ掛けに指をとんとんと叩く。
「ただで動くほどボランティア精神があるわけじゃない。お前には聞きたいことが山ほどあるんだ」
「必要あるのかい?」
「あるから聞いてるんだ。こっちには女神がいるんだぞ」
「……君の聞きたいことに、興味はないね」
女神という言葉に疑問はなし。やはり、ゴールドサァドは例外だ。世界改変の影響を受けていないエスーシャなら、知りえていることも多いはずだ。
「なら魔王を倒して終わりにする」
エスーシャの眉がぴくりと動いた。
「何を目的としているかは知らないが、魔王を捕獲する必要があるんだろう? だが、お前が真面目に話を聞かないんなら、俺たちも真面目に仕事をするつもりはない」
魔王の呪いを対処したいのはこちらも同じだ。だが、捕らえる必要があるのはエスーシャだけだ。
この違いが、俺たちがもつ武器。
「……魔王の捕獲理由に関しては言わないよ」
「構わん」
予想通りの展開に、ひとまずほっとした。
こんなに簡単にいくとは思っていなかった。魔王に対する執着は思ったよりも深いらしい。
「その前に、そこの子は誰だ?」
エスーシャは俺の後ろにいるネプギアを指差した。
「この子はネプギアちゃん。わたくしのいも……」
「ソルジャーが外敵と勘違いして攻撃した、俺たちの仲間だ」
「もう、せっかくわたくしが紹介してましたのに」
「いらんこと言って話を長引かせないでくれ」
ネプギアを抱えるようにして、ベールがずいっと前に出る。当のネプギアは話に加わろうとして、入れずにおろおろとしている。
とりあえず、二人を一歩下がらせて、俺だけが対応する。
「それで、聞きたいこととは?」
「この世界はどうしておかしくなった?」
「さあね、知らないんだ。闘技場の戦い以降、気づけば私たちが国の統治者になっていた」
『たち』というからには、他のゴールドサァドもそうなのか。
プラネテューヌはビーシャというやつが治めているのはネプギアから聞いたが、ラステイションとルウィーもそんな状況なのか。
「お前たちゴールドサァドとは何者だ」
「ゴールドサァドの一人が見つけた予言の書に記されていた場所に向かって、この力を手に入れた一般人さ」
「国に興味がないのは……」
「他にやることがあるからさ。それ以外のことには興味がない」
「やること?」
「……」
黙ったところを見ると、それが魔王捕獲に関係があるのか。
力を手に入れた一般人か。
急に不相応なものを手にした人間の末路がどうなるか、ろくなものを見た記憶はほとんどない。
しかも女神以上の実力だ。警戒するに越したことはないだろう。
「あの機械軍団、外敵とは何なんだ」
「どの国にも属さないロボットだ。どこからか私たちの邪魔をしては、暴れて去っていく。魔王との関係性は不明だ」
さらりと言ってみせる。
一つのものに固執しながら、他は一切切り捨てる姿には見覚えがある。
往々にして、そういうやつは隠すのが上手い。
「これでいいかい? 悪いが、魔王の捕獲は急務なんだ。君がやってくれなければ、こちらとしても困る。どうやら、ソルジャーよりもはるかに強いみたいだしね。女神がシェアを失っているいまは、君が一番の戦力じゃないのかい?」
犯罪神の力を持っていること、女神殺しの魔剣を所持(といっても今はプラネテューヌにあるが)していることは知らないようだ。
そのことは、俺に関わった者の記憶と、ラステイションの教祖である神宮寺ケイが握るデータのみに収められている。
「お前は」
「この立場を利用するにあたって、この国を成り立たせないといけないからね。こう見えて、忙しいんだ」
「わかった。さっさと行ってくる」
あっさりと話しながらも、何かを隠されている違和感に気持ち悪さを感じながらも、俺は二人を引き連れて教会を出た。
エスーシャに指定されたダンジョンは、ダンジョンとは名ばかりの元ゲームセンターだった。
今はほとんど廃墟のようになっていて、誰も何も出入りはしていないはずだ。
「よくあのエスーシャから話を引き出せましたわね」
リーンボックスから離れてすぐ、ベールが感心する。俺と再会するまでによっぽど無下に扱われたようだ。
「魔王捕獲に必死なのは見ててわかってたからな」
「貴重な話が聞けましたね。エスーシャさん、ある程度は答えてくれましたし」
「肝心なところは隠されたままですが、まあいいとしましょう」
「らん豚をどうにか戻したいのはむしろ俺たちのほうだからな。さっさと捕まえてしまおう」
ネプギアから、プラネテューヌや女神候補生の現状を聞きながら歩く。
ユニはなんとか、あの……イヴという女に協力できたみたいで、ラステイションで戦っている。
ラムとロムはまだブランに会えていないようだ。あの二人のことも心配だが、まあなんとかなるだろう。
「ここですわね」
辿り着いたのは、思ったよりも朽ちていない建物だ。
しかしこんな離れたところにゲームセンターを建てて、人が来るのか。来ないから潰れたのか。
鍵のかかっていない扉を開けると、乱雑な音が聞こえてきた。まだ電気は通っていて、筐体から出る光がうっすらと室内を照らす。
「暗いな」
「広そうですし、手分けして探しましょう」
ネプギアの言葉に、俺たちは頷いた。
「外敵に襲われる可能性もある。ベールとネプギアは一緒に行動してくれ」
奥をずんずんと進んでいく。
電気があって助かった。ゲーム機からこぼれる光だけではまだ暗いが、なければ何も見えなかっただろう。
それにしてもかなり広いゲームセンターだ。街の中心に建てれば話題になったろうに、もったいない。
魔王とは、どんな存在なのだろう。
俺が知る限り、人々に呪いをかけ、搾取する存在。まるで犯罪神のような敵だが、姿は見たことがない。
少しの気配も逃さないように気を張っていると、その警戒に何かが引っ掛かった。後ろに何かがいる。
かなり抑えているつもりだろうが、その大きな力は隠しきれない。
背中の剣の柄を掴んで抜く。
「圧撃のスラッシュウェーブ!」
当たっても死にはしない程度に、衝撃波を飛ばす。
しかし、いきなりの不意打ちにもそいつは反応した。人型のそいつはくるりと身をひるがえして、かわす。
外敵か?
ひゅん、と空を切る音を立てて何かが飛んでくる。暗い中気配だけを頼りにそれを弾く。
筐体の光で薄く照らされているが、その全貌は見えない。しかも、フード付きコートという服装のせいで、余計に正体がわからない。
鈍く光る金属の弓と背中についている矢筒だけが見える。
ぐっと間を詰めて剣で斬りかかるも、間一髪のところで避けられてしまう。あまりにも軽い身のこなしに驚いた。
だが、こちらも負けてはいない。反撃の拳を受け止めて、筐体へ叩きつける。散らばる部品とともに倒れる身体を掴んで立たせる。
その瞬間、そいつが刃を突き立てようとしてきた。矢の先だ。あと数センチのところで矢を止めた。
拳か、蹴りでもくわえてやろうかと思ったとき、矢が弾けた。
ぶうん、という音が鳴って、俺と敵の身体は吹き飛ばされる。
両者とも壁に叩きつけられたがすぐに立ち上がる。俺は剣を、敵は弓を構えた瞬間だった。
天井の照明が急に点灯した。まばゆい光に思わず眩んだ目を無理やり開けると、敵はこちらをしっかりと見据えていた。フードがあるぶん、慣れるのが早かったみたいだ。
「ユウ?」
聞いたことのある声。そいつがフードを脱ぐと、俺にもようやくその姿がわかった。
「ヤマトか?」
甲殻エイリアンのような見た目の半身、もう片方は人間。
ここにいるはずのない人間だ。
ヤマト。神次元でネプテューヌたちと敵対し、やがては共闘した弓使い。
その戦いの最終決戦、超次元で行われた古代の女神との戦いで俺とヤマトは出会った。
その後は神次元に戻って、エディンという国の運営兼治安維持をしていると聞いたが……
「びっくりしたよ。そうか、その感じ……」
「久しぶりだな。こっちに来てたのか」
「うん。神次元で事件が起きてね、それに超次元がちょっと関係しているみたいなんだ」
優男な話し方からは先ほどの身のこなしは想像できない。思えばその実力を見たのは初めてだ。
女神の力を持っているとは聞いているが、それ以上に戦いなれている。
「超次元が?」
「それで、ネプギアに聞きたいことがあるんだけど……ここには君一人?」
「いや、ネプギアも……」
言いかけたところで、当のネプギアがベールを引き連れてやってきた。
「ユウさん、大丈夫ですか? ……ってあれ、ヤマトさん?」
「戦いの音を聞きつけてきてみれば……」
「まあ、再会の挨拶みたいなもんだと思ってくれ」
剣を収める俺を見て、ほっとしながら呆れるベール。
息を切らしているところを見ると、電気を点けてからすぐ来てくれたようだ。
少し話し込んでいるヤマトとネプギアを置いて、ベールが首をかしげる。
「ヤマト……ってどんな方でしたっけ?」
ああ、そうか。ベールはヤマトとそれほど面識があるわけじゃないのか。
俺もそんなに知っているわけではないが。
神次元の住人であるヤマトとは、ネプテューヌとネプギアが詳しい。
「神次元の人間……まあ人間、だな」
半分モンスターの姿に、女神と同じ力。
かなりミスマッチな内外だが、見た目や力が全てじゃないことはよく知っている。
「これについて見てほしいんだけど」
一息ついたところで、ヤマトはごそごそと何かを取り出した。
千切れた人……かと思いきや、機械の頭や腕だ。
「ロボット……ですか?」
「敵の正体を知るのに必要でね。プラネテューヌから持ってきたんだ」
「持ってきたって、船出てないだろ」
「泳いで来たよ。いやあ、しんどかった」
しんどかった、で済まされる距離か?
プラネテューヌからリーンボックスまで、飛んでいったとしてもかなりの時間がかかるはずだ。
それだけ急務ということか。
俺はその部品をまじまじと見た。
機械に関しては、かっこいいと思うことはあっても全く詳しくない。
それは女神も同じで、だからこそ唯一メカオタクであるネプギアを訪ねてきたのだろう。
機械は動きそうにはないが、それでも異様な雰囲気は見て感じ取れる。
「早速調べてもらいたいところだけど……」
「後、だな」
俺とヤマトは近づいてくる影に気が付いていた。
まったく音がしなかったのは、そいつが浮遊しているからだ。
爪や角はまだいい。蜂のような膨らんだ腹に、威圧するに足る巨大な上半身。人に似た顔があるのが、余計に気持ち悪い。
異様な見た目から生物かすらも怪しまれるそれは、この超次元には存在しないはずのモンスターだ。
「魔王ですわね」
「いえ、このモンスター、魔王なんかじゃないです。私が零次元で会ったモンスターです!」
ベールの言葉をネプギアが否定する。
確かにこんなやつがいたな。なぜこんなところに零次元のモンスターが……という疑問が湧くが、
あの黒い少女だって次元を超えて超次元に逃げ込んだ。むしろ、あいつが連れてきた可能性だってある。
「とにかく、こいつを捕らえるぞ」
「捕らえる? 倒すんじゃなくて?」
ヤマトの疑問ももっともだが、モンスターを目の前にしてのんびりと話せるほど簡単な事情じゃない。
「話は後でする。お前も手伝え」
再び剣を抜き、構える。
倒すならまだしも、捕らえるか……余裕だと思っていたが、案外難しいかもな。