新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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リーンボックス編5 方法は問題じゃない

翌日、俺は武器屋で刀の調子を見てもらっていた。

昔は刀を使っていたが、この次元で戦ってからずっと魔剣を使用していたせいで、すっかり当時の繊細さを失っていた。

スピード重視のヒットアンドアウェイと逆の、圧倒的なパワーで一撃で沈める戦いをしていたせいだ。

素人目でみても刃こぼれが酷く、店主が呆れかえるのも仕方ない。

 

「あんたに刀は合わないみたいだな」

 

そんなことを言われても、笑って返すことしかできなかった。

超次元換算で約四年の月日は思ったよりも長く、強くはなっているいるものの、色々なものが悪い意味で削ぎ落され、付随している。

ネプギアに対する気持ちもそうだ。

もちろん再会できて嬉しい気持ちでいっぱいだ。だが、ずっと置いていた罪悪感が大きい。

いつか戻ってくると約束したのに、何もかもに決着をつけられなくて、結局放置した。

こうやって一人で外にいるのも、ネプギアと顔を合わせづらいのと、問答を避けるためだ。

新しく刀を購入し、背中に差す。

魔剣はプラネテューヌにある。だが飛んで戻ってくる間に、何かがないとは言い切れない。

残念ながら、俺以外の全員が、女神と、女神の力を源にしている者だ。

ルウィーにいるアイから話を聞いたヤマト、さらにラステイションのユニの話を聞いたネプギアによると、エコーには対女神用の手段があるようだし、うかつには離れられない。

幸い、魔剣の無事は確認している。ヤマトから神次元の仲間経由で、教会で俺が借りている部屋の中にあるのはわかっている。

適当にぶらぶらと歩いていると、頭痛の種が一人歩いていた。

 

「エスーシャ」

「ん、ユウか」

 

先の魔王の件がうやむやになったことで、未だにリーンボックスの実権を握っているエスーシャだ。

雰囲気と佇まいは異様で目立っているせいで、少し遠くからでもすぐわかった。

 

「お前も外に出るんだな」

「出るさ。私だって人間だからな。悪いか?」

「会ってから、教会でしか見なかったからな。外で偶然なんて新鮮だと思っただけだ」

「それより、何か用かい」

「少し、話をしないか」

 

彼女は珍しく驚いた表情をして、俺を指さした。

 

「君と?」

「俺と」

 

エスーシャはため息をついて、額に手を当てて首を振った。『やれやれ』だ。

 

「何か企んでるんじゃないのか」

「確かにお前の目的を知りたいってのもあるが、九割は好奇心だ」

「好奇心?」

「お前がどんな人間か、興味がある」

 

今まで会ってきた中で、これだけ自分のことを話さないやつも珍しい。

お互いが敵ってわけでもないし、何を悩んでるにしろ、色々話せば活路が見えてくるというのに。

 

「大したことのない人間だよ」

「俺だってそうだ。だが、本人が思ってる以上に、人間ってのは不思議なもんだ」

「ふふ」

 

突然、エスーシャが小さく笑った。これまた珍しい。

 

「いや、あれだけ大きな剣を振り回して、私たちとも互角に戦える男が、大した人間じゃないって言い張るのがおかしく思えただけさ」

「それを言ったら、お前だってあのときの女神以上の力を持っているだろう」

 

異常な力を持つ者同士が、自分のことを普通だと言い張る。

所詮どれだけの力を持とうと、人間が人間であることに変わりはない。いや、人間である以上、限界があると言ったほうが正しいか。

論理や倫理や感情。この小さい身体で考えつくこと、耐えうることには限りがある。

 

「力というのは、善も悪もないものなのかな」

 

俺が目を細めると、エスーシャは続ける。

 

「君から感じられるのは、明らかに奇妙な、言ってしまえば好ましくない類のものなのに、当の本人はそこらの男と変わらない人間と同じだ」

「言ってるだろ。俺は、ただの人間だ」

 

犯罪神の力を持つ俺は、その種類を感じ取ることができる者からすれば敵だと認識されてもおかしくない。

現に、別の次元じゃ会った瞬間刃を向けられたことだってある。

それでも、その力を使う俺は脆い心をもつただの人間だ。

 

「君ほどの力をもつ男が、なぜ頑なに無力を主張するんだい?」

「力を持つことは、何でもできるとはイコールじゃない。むしろ一人を救うことすら難しくなる」

 

力を持つがゆえに人は傲慢になる。感情一つで壊せるものが多くなってしまう。

 

「君は……」

「誰一人として救えなかった。その時のことを毎日夢に見る」

 

超次元でネプギアたちと共に戦ってから四年近くが経っているが、満足に寝られたためしがない。

これまでの戦いの記憶が鮮明に思い出される。戦いとは呼べない、一方的な虐殺も。

 

「もし」

 

エスーシャが深く息を吸った。

 

「もし、その人たちが戻ってくる方法があるなら、何でも犠牲にできるかい?」

「それができればな」

「いまは、得るものと失うものの話をしているんだ。方法とはまた別の、ね」

 

俺と彼女の間に、緊張感が走った。これ以上はもう世間話で収まらないことは両方ともわかっている。

 

「お前がどんな方法を誰に聞いたか知らんが、お目当ての魔王は結局この世界にはいないぞ」

「方法の話はしてない」

 

エスーシャは繰り返した。

あくまでこれは『仮の話』として喋っているようだ。

 

「……戻ってくるなら、こんな力も何もかも捨てて、取り戻したいと思う」

「なら……君に、私を否定する権利はない」

 

そう言って、エスーシャは立ち去ろうと踵を返す。

これも権利がどうのこうのいう話じゃない。

肯定してほしいかのような、自分のやることが間違っていないと誰かに言ってほしい目。

その目を鏡で見たことがある。

 

「エスーシャ!」

 

その背中を呼びつける。

無視してそのまま去っていくと思われた彼女は、しかし立ち止まった。

 

「何をするつもりだ」

「私は、私の望むことをする」

 

彼女が言ったのは、それだけだった。

 

 

 

そのあと、試しに剣の素振りをしていた俺は、ベールに呼び出されて急いでホテルに戻った。

何かあったのかと帰ってきた俺に、ベールは自分の端末を差し出してきた。

画面に映し出されているのは、メールだ。差出人はエスーシャ。

題名はなし。本文は『エスーシャを止めてください』。気になるのは、文末に『イーシャ』と書かれていたことだ。

 

「イーシャ……?」

「知っていまして?」

 

俺は首を横に振った。エスーシャから、他のゴールドサァドのことや他の数少ない友人のことを聞いたことがあるが、この名前には聞き覚えがない。

文調からいっても、打ち間違いというわけでもないだろう。だがエスーシャと関係があるのは明らかだな。

 

「その次のも見てください」

 

ネプギアに促され、そのあとすぐに来たメールも見る。

『エスーシャは百万匹のらん豚を連れて黄金の頂に来ている。時間がない』。またしても文末にイーシャの文字

 

「黄金の頂?」

「おそらくあの塔だろう。いやって言うほど金ぴかじゃないか」

 

ヤマトが答えた。

ゴールドサァドが現れてから、同時に現れた謎の塔。街の中心にあるそれを、もちろん怪しんだことはあったが、入り口は固く閉ざされていて、俺でも開けられなかった。

あれがもし、ゴールドサァドにとっての教会のようなものだったら、エスーシャが開けと命じれば簡単に開くのかもしれない。

『止めて』という文。しかもかなり切羽詰まってるみたいだ。

先ほどのエスーシャとの会話を思い出す。

人を失ったことを吐露すると、彼女はこう返した。『もし、その人たちが戻ってくる方法があるなら、何でも犠牲にできるかい?』

その方法は、すでに知っていたのだ。そして、それを実現しようとしている。

どうやって? いや、方法は問題じゃない。それはエスーシャも言っていた。問題は、何を犠牲にするかだ。

その答えはすでに出ていた。

 

「なんてこった……」

 

百万の命を生贄に、誰かを蘇らせようとしているのだ。

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