新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
ラムとロムを担ぎ、真上へぐんぐんと上昇し、船から離れていく。
「お、お兄ちゃん……す、すとっぷ……」
ロムに肩を叩かれ、二十秒ほど上がったところで、ようやくストップ。
下を見ても、船はまだ大きく見えるが、戦いの音は届いてこない。
「もう一回1 ねえもう一回やって!」
「アトラクションじゃねえんだけど」
はしゃぐラムは嬉しそうにぎゅっと腕に引っ付く。
これが終わったら何度でもやってやるから、今は集中してくれ。
「どうだ、力は元に戻ったか?」
「さっきよりはうんと!」
「これなら、戦える……!」
二人はぐっと杖を握る。
アンチクリスタルの効果の強さと範囲には、限度がある。
あの船の中にある石がどれだけ大きいかわからないが、ここまで離れればその力は弱まるだろう。しかし変身できるまでとはいかないようだ。
世界改変のなか、奔走する俺たちをしり目にせっせと集めたのだろう。船の中にある石は相当巨大だとわかる。
だが万全じゃない。
「なら頼むぞ!」
下からは夥しい数の機械がやってくる。ここまで追ってくるとはあっぱれだが、自殺行為だ。
ここにはルウィーが誇る最強の双子がいる。
「アイスコフィン!」
二人の魔法が炸裂する。
完全に意表を突かれたロボットたちは避けることもできないまま、突如として現れた氷塊に潰され、凍らされ、ばらばらになっていく。
俺が思ったよりも威力があった。
そりゃそうか。俺が帰ってこなかった数年間、こいつらだって遊んでばかりだったわけじゃない。
人を守る女神として、どんどん強くなっているんだ。
▲
「なるほど、石の効果適用外で戦っているのね」
「イヴさん、見えるんですか?」
私は頷く。
上空をズームしながら、ユウたちの様子を見る。
ラムとロムがさまざまな属性の魔法で対応しつつ、潜り抜けてきた少数はユウがあっさりと蹴散らす。いい考えね。
「それだったら、私たちも連れてってくれたらいいのに!」
「無駄ッスよ。あの感じを見るに、変身はできないみたいッスからユウからは離れられないし、ウチらはほとんどが近接向きッスから、力にはなれないッス」
「あんな上空から攻撃を飛ばしても、船にたどり着くころには表面を削るくらいにしかならないしね」
ぷんすか怒るネプテューヌを、ヤマトとアイがなだめる。
「だいぶ引き連れてくれたみたいだし、こっちには余裕が出てきたわね」
「それよりも、本当にこれをなんとかできるの?」
「もちろん。まあ、どうにかするのは私じゃないけれど」
私はノワールへウインクする。といっても、アーマーを着ているこの状態じゃ、たんに顔を向けただけに見えるだろうけど。
「頼むから、口より手を動かしてくれ」
盾で襲い来るロボットを粉砕しながら、ヴァトリがぼやく。
その上空を飛ぶ敵を、ヤマトが矢で射抜いた。実弾……というか女神の力だけに頼ることのない彼とユニは、女神の力を持ったメンバーの中じゃ一番敵を倒している。
「もうへばったか?」
「まだまだ。そんなやわな鍛えられ方してないさ」
ヴァトリが盾を投げると、ヤマトの後ろから忍び寄っていたロボットへ突き刺さった。
「アンチクリスタルは放置でいいの?」
ブランが鎚を振り回しつつ、私に疑問を発する。
「むしろ、下手に壊して変に対策されるよりかはいまのままのほうがいいわ」
「……本当に?」
「いまは信じるしかありませんわ。包容力のある女性というのは、いかなるときも寛大に、ですわよ。ブランには難しい話かもしれませんわね」
「てっめえ! 喧嘩売ってんのか!」
にやにやと笑うベールに、ブランがあらん限りの勢いで武器を振るう。
その衝撃に巻き込まれ、何体ものロボットが犠牲になった。
この状況下で、よくあんな力が出せるわね……
「ああ、ブランさん、ベールさん……」
「あれで息合ってるのが不思議よね……」
ネプギアとユニが呆れ気味にその様子を見つつ、背中合わせで攻撃を防ぎつつ倒していく。
不思議と、みんなには余裕があった。
もちろん真剣に戦っているが、どうにかなると信じ切っている。
それは、全員で力の限り戦っているから、そして私の策を信じてくれているからだろう。
この結束力が、いままで幾度とあった脅威を薙ぎ払ってきた。
これこそが、超次元と神次元の強さなのだ。
「ずいぶん余裕だな。今にもプラネテューヌは壊されそうだっていうのに」
エコーがどこからか降り立ち、まっすぐ私へ向かってくる。
放たれる砲撃を避け、次々に銃弾を返す。
その応酬を繰り返しながら、私は近づいた。腕から先の部分を刃に変形させ、振りかぶる。
エコーも同時に同じ変形をし、受けた。
「馬鹿ね。私たちは負けないわ、絶対に」
刃を離し、距離を取る。
「根拠は?」
「女神九人、同じくらいの力を持った男一人、極限まで鍛え上げられた男一人、アーマーを着た天才一人」
私は指折り数えながら、相手に自分の戦力を紹介する。
十二まで数えたところで、真上を指さした。
「そしてあなたが恐れた魔人が一人。これだけ揃っていて、負けるほうがおかしいわよ」
「現状も見れない奴だとは思わなかったぞ、イヴ。それほど夢見がちなのは、確かにおれの計算外だ」
嘲笑するエコー。
だが、そこが私と奴の最大の違いだ。零次元での経験が、その差が、この戦いの勝敗を決める。
「希望を夢見る。私はそうやって零次元を生きてきたの。勝つのは私たちよ」
「やってみろ!」
エコーは私に向かって飛んでくる。同時に私も跳びあがった。
お互いの身体は空中でぶつかり、派手な音を立てて転がる。
私はぱっと立ち上がって、弾丸を放つ。しかしエコーはすっと避け、すぐさま拳繰り出してきた。
まともに受けた私は、甲板の上を転がり、十メートル吹き飛んでようやく止まった。
幾度の戦いで使ってきたこのアーマーのあちこちの装甲がはがれかける。
仰向けになった私の目に、驚くべきものが映った。
エコーは私の頭をつかみ取り、持ち上げる。
「ふん、驚いたか。私は進化し続けるのだ。ヴァトリやアイとの戦いのデータを分析し……」
見当違いの自慢に、思わず堪えていた笑いがこぼれる。
エコーはそれにいらついて力を込めたが、ヘルメットは特に頑丈に造ってある。その程度じゃ壊れない。
「何がおかしい」
「ごめんなさい。驚いたのは確かだけど、あなたにじゃない。アレよ」
私は上を見る。
はるか上空。ユウたちが戦っているのよりも上。そこには、ぽっかりと巨大な丸い穴が開いていた。
その中の真っ黒い空間の中から、これまた大きい刃先が、雷を纏いながら現れてくる。
「ユウの仕業かしらね。ラムとロムがロボットを相手すれば、必然的にユウには余裕が生まれる。あれほどのものを出せるのは計算外だけれどね」
「そんな、まさか」
唇をわなわなと震わせ、エコーは私を突き飛ばした。
ユウを止めるために、自らも真っすぐ飛ぶ。
「もう遅いわ」
私がそう呟いた瞬間、刃は真っすぐ下に、つまりこの船へと向かって落ちてきた。
槍だ。ダークメガミが持つ武器のような規格外の槍が、轟音とともに狙いへ一直線。
それから発せられる衝撃波と雷は、周りのロボットを一瞬で粉々にしていく。
勢いはとどまることを知らず、ついに船の真ん中に突き刺さった。
刺さった時の衝撃で破壊力はより一層増し、吹き飛ばされないようにするので精一杯。
空気が震え、耳をつんざく雷と暴風が伝う。
巻き起こる嵐が徐々に止み、やがてそよ風に変わっても、私たちは口を開けたまま絶句していた。
あれだけいたロボットは急激にその数を減らされ、やられた残骸は次々と落ちてくる。
あと残っているのは、もう三桁に届くかどうかくらい。先ほどまでの残っていた数や倒した数を比較すれば、大したことはない。
沈黙の中、涼しい顔をしたユウが降りてくる。
「どうだ?」
彼が問うても、沈黙。
彼を知るネプテューヌたちでさえ、目を丸くしたまま固まっている。
「どうだ、じゃありませんよ! もう、危なかったんですから!」
「いーすんが川の向こうで手を振ってたよ……」
「イストワールは死んでないから」
ネプギアが口を開いたことで、やっと私たちも麻痺が解けたようになる。
ネプテューヌがへなへなと腰を砕けさせ、ヴァトリがそれを支えた。
「め、めちゃくちゃね……」
スーツの中で、どっと汗が噴き出てきたのがわかった。
つくづく敵じゃなくてよかったと思う。
「なに引いてんだよ。お前が数減らせって言ったんだろ」
「限度! 限度があるわな、おい! この二十数年が走馬灯のように駆け巡ったわカス!」
あっけらかんと返すユウに、アイが怒りながら額をつつく。
「おお、珍しいアイの乱暴口調」
「ますますブランに似てきたな、あいつ」
神次元組が珍しいものを見る目をするなか、私はばちばちと小さく火花を散らせる巨体に目をやる。
ロボットの残骸の山に囲まれているそれは、ゆっくりと立ち上がった。
エコーは持ち前の頑丈さで、なんとか機能停止は免れたが、あとひと押しで壊れるのは見ただけでわかる。
「さてさて、まだやる気?」
「もちろんだ。今のでも支障はない。お前たちにこの船は止められん!」
船に槍が突き刺さったままだが、エコーの言う通り速度は落ちず、船は進んでいく。
あのユウの攻撃でさえ、エコーの予想範囲内なのだろうか。ともかく、船を壊すにはまだまだ足りない。
今のままじゃ、ね。
「いいえ、ここで終わる」
私はエコーのさらに後ろを見やる。
「ちょうど十五分。ぴったりね」
訝しんだ目で、エコーがその方を見る。
飛ぶ何かが、こちらに近づいてきている。
ロボット……ではない。たしかに人型の機械だが、あれは私のものだ。
小型ジェットで飛ぶそれが、肉眼でも形がはっきり見えるくらいに近づいてきたとき、拳銃を取り出して一発撃つ。
あ、という暇もなく、それはエコーの足元に着弾した。弾丸は瞬時に爆発を起こし、ぼろぼろの下半身を吹き飛ばす。
腰から上だけとなったエコーが無様に這いつくばりながら私を睨んだ。
「き、貴様……」
私は優越感に浸りながら、今着ているバトルスーツを身体から外す。
「今のユウのは、別に切り札でもなんでもないわ」
「いや、割と頑張ったんですがそれは」
「切り札っていうのはね、こういうもののことを言うのよ」
危なげなく目の前に着地した新作スーツを指さして、私はにやりと笑う。
新品のように……実際、お披露目するのは初めてだから新品なのだけれど、銀色に輝くボディは傷一つない。
何も言わずとも、ぱかりと背中部分が開く。私が乗り込むようにして中に入ると、スーツは自動で私を包み込んだ。
このスーツは、零次元で作った一作目、それをもとに作成した『mark2』とは比較にならない。
ケーシャとの戦いで足りないと感じたものを全て搭載してある。
装甲の厚さは変わらないが、シェアクリスタルとゴールドクリスタルを調べるうちに、そのエネルギーをいくらか利用させてもらうことにした。
おかげで持続力は飛躍的にアップ。エネルギーが続く限り、薄いバリアも張れるから、相手からのダメージは大幅に減る。
エコーと同じく、アイやヴァトリの戦闘データを取り込んで近距離戦闘もなんのその。
やっと理想を形にできたというところかしら。
紆余曲折を経た三作目、四作目の先の五作目がこれ。言うなれば……
「バトルスーツマークVってところかしら」