新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
1 最後の幕開け
エコーとの戦いに勝ち、安心できたのもつかの間。俺たちは教会の外に出て、上空を睨んでいた。
プラネテューヌのはるか上、空にぽっかりと大きな黒い穴が出現したのだ。
「ユウさん、あれなんだと思います?」
「俺が次元移動するときに開く穴に似てる。たぶんあれもそういった類のもんだろう。どこか別の場所に繋がってる」
ネプギアの問いに、俺が答える。
大きいネプテューヌが他の次元へ移動する際も、あれに似た穴が出る。
問題は、あれがどこに通じているかだ。
「エコーがいなくなったこのタイミングで出てくるなんて、嫌な予感がするな」
ゴールドサァドを巻き込んだ超次元のいざこざは、エコーを倒したことで収まった。
世界が改変された影響で失われた人々の記憶も徐々に戻っている。
だが、その黒幕である『黒い少女』はまだ存在する。
零次元や、俺たちの何人かの前にも現れたそいつが、ついに本格的に動き出したのだと思っていい。
「私が見てくるよ!」
「私も行くわ。アンチクリスタルを使われるかもってことを考えたら、女神だけで行かせるのは危険だもの」
手を挙げたネプテューヌに、イヴも参戦する。
「なら俺も」
「いえ、ユウはここに残ってて。もし私たちに何かがあったら対処をお願い」
もし全員が向かって、超次元が攻撃されたら守れる者がいなくなる。
穴には少数で向かわせ、こちらにもアンチクリスタルや強大な敵に対抗できる戦力が必要だ。
偵察にとどめておくように口酸っぱく言い、俺は残ることをしぶしぶ了承した。
結局、偵察班には女神四人とイヴが行くこととなり、何かあったらすぐ撤退することを肝に銘じさせた。
黒い穴の向こうに消えた女神たちを見送った俺たちは、エコーとの戦いで負傷した身体を休めるために、また教会の中へと戻る。
一様に落ち着かない様子のなか、アイが俺に近づく。
「ユウ、ちょっといいッスか?」
「ああ」
「ウチらもあそこに行く準備をしたほうがいいかもしれないッス」
「あの穴にか?」
「敵が何であろうと、あのエコーをけしかけてきた奴ッス。ネクストフォームのことも知ってるとみていい。それなのに、明らかに誘い込んでくるようなあの穴。罠の可能性はありありッス。杞憂だといいんスけど、心構えだけはしといてくださいッス」
俺は頷いた。
エコー戦のせいで全力は出せないが、まだ余力はある。
それに、いるのは俺だけじゃない。まだこんなにたくさんの仲間がいるのだ。
たとえ女神が窮地に追いやられようと……
そこで、一人足りないのに気が付いた。
ユニだ。
見回すと、みんなとは離れて、ユニはバルコニーに出て空を見つめている。
姉たちが行ってすぐなのに、そわそわとしだす彼女の肩に手を置いた。
「心配か?」
普段なら、強気に返してくるところだ。
お姉ちゃんは強いから大丈夫。私は心配してない。そう言って自分を鼓舞するのがユニだ。
しかし、予想とは違って、彼女は首を縦に振った。
「前もこんなことがあったの」
「犯罪組織の四天王を倒すために、女神たちがギョウカイ墓場に行ったときだな」
俺が女神たちに会うより、さらに前の話だ。
犯罪組織が台頭し、それを阻止するために女神たちは敵地へ赴いた。
「そのとき、私は留守番を頼まれて……」
「女神たちは捕らわれた」
妹は置いていかれ、姉が向かう。それだけ見れば、苦々しい記憶と同じ状況だ。
ユニが弱気になるのも無理はない。
「同じことにならなきゃいいけど」
「今回は偵察だ。危険を感じたら、戻ってくるさ。それに万一戦闘になっても、いまのあいつらにはネクストフォームがある」
「わかってるけど……」
敵は柄体が知れず、実際に戦わずとも女神を追い詰めた。
それが待ち構えているかもしれないと考えると、どうしても心配になるのは当然のこと。
それでも待つしかない。
「何かあったら、俺たちで助けに行く。前もそうだっただろう?」
「そうね。あのときよりも強くなってるし、きっと大丈夫よね」
言い聞かせるように、ユニはゆっくりとそう言った。
△
「通信ができないわね。完全にシャットアウトされたみたい」
綺麗な水色の壁とどこまでも続くような一本道。
穴の向こうは、そんな殺風景な景色しかなった。
奥に、点のような小さな光が見えるから、かろうじてゴールがあるんだなと感じられるが……それ以外は何もない。
ただ続く道だけ。
寒いとも暑いとも感じない空間なのに、私は少しだけ身を震えさえた。
振り返ると、正面とは違って真っ暗な闇だけが広がっていた。一歩でも向こうに踏み出せば、超次元の上空へと戻れるだろう。
「ま、いいんじゃない。すぐに戻れるみたいだし、敵が現れても私たちならどうとでもなるわ」
ノワールは強気。
アンチクリスタルすら乗り越えることのできるネクストフォームがあるのだから、余裕ができるのはわかるけれど……
「とにかく、さっさと終わらせましょう。さっきの今で、ラムとロムを置いておくのは心配」
私たちがこうしている間にも、エコーのような輩が超次元に現れることを危惧しているのだろう。ブランはあたりを警戒しながら前を進む。
といっても一気に飛んでいくのもなんだか怖くて気が引ける。
私はスーツを着たまま、女神たちは変身を解いて歩く。
「何の気配も感じられませんわね。本当にただの通路ではなくて?」
「ネプテューヌ、イヴ、あなたたちはどう思う? 次元を超えたことがあるのはあなたたちくらいだし」
「うーん、いつもああいう穴をくぐったらすぐ別次元って感じだからなー、ね、イヴ……イヴ?」
「え、あ、何?」
ネプテューヌに名前を呼ばれて、はっとする。
普通に歩いていたはずなのに、いま意識が飛んでたような……
ラステイション騒動からエコーとの戦いの疲れが溜まっているのかしら……
「何、じゃないわよ。ここは何なのかって話」
「ああ、いえ、そうね。いろいろな次元があるみたいだし、こういう何もない次元があってもおかしくないのかもしれないわ」
零次元のように崩壊間近なところもあれば、超次元みたいに平和と事件がわちゃわちゃなところもある。
結論づけはできないが、超次元とは別の空間ということだけは間違いない・
先を進んでいくも、変わらない景色に警戒が緩む。
音や気配もないし、数歩歩くたびにスキャンしてみても生体反応もない。ベールの言ったとおり、ここは通路なのではないか。空間と空間を繋ぐ中間地点のような場所なのかも。
「イヴ」
いきなり後ろから声をかけられた。
銃を構えながら振り向くと……
「やっと戻ってきてくれたんだな、待ってたぜ」
「うずめ……?」
零次元の女神であり、私の親友の天王星うずめがそこにいた。
私は銃口を彼女から逸らす。
「あなたがなんでここに?」
「そんなことはどうだっていいだろ? ほら、こっちこっち」
「ま、待って。いったいなにがどうなって……」
なんだかおかしい。そう感じて、私の手を掴んで先へ行こうとするうずめを振り払う。
「あの黒い少女を倒して、全部が解決したんだ。早く来いよ。平和になった零次元を見せてやるからさ」
ぐるぐると混乱している中、うずめの言葉はなぜかはっきり聞こえ、すっと頭に入ってきた。
おかしいことがたくさんある……あるはずなのに、それが何かを考えられない。悪いことは頭の隅に追いやられて、うずめの声だけが反響する。
「全部終わったの? 本当に?」
うずめは頷いた。
「そうさ、だからもう戦わなくていいし、強くなる必要もない」
うずめが私の手をもう一度掴む。
「ゆっくり休もうぜ。それから、俺たちの国を作るんだ。俺たちが安心して暮らせる場所を」
「私たちが……安心できる場所……」
欲しい言葉が投げかけられる。
私が、私たちが望んでいたこと。平和と安全と安心。戦いのない世界、人生。
それが本当に実現したのだとしたら……
「ああ、ほら、一緒に行こう」
引っ張られるままに、私はついていく。
いつも、私はうずめの後を追いかけていた。彼女がこうやって手を繋いで……
こうやって手を……手を……
「待って」
私は立ち止まって、自分の手をしっかり見る。
「どうしてあなたが黒幕のことを知ってるの?」
「どうしてって、お前が教えてくれたんだろ」
「いいえ、そのはずがないわ。そもそも私が黒い少女のことを知ったのは、超次元に行ってからだもの」
零次元にいたころは、敵はモンスターにマジェコンヌ、そしてダークメガミ。あの黒い少女には会っていない。
「それにもう一つ。あなたはどうして私のことを私だとわかったの?」
「どうしてって、それこそわかるだろ」
「わからないわよ。私は全身機械のスーツ。あなたが最後に見たものとはまったくデザインが違う。それなのにあなたは、まるで私がイヴだと確信したみたいに話してる」
いま掴んでる手だって、正確には私のじゃない。私に纏っているスーツのだ。
「声だよ、声」
「先に話しかけてきたのはあなたよ。名前を呼んで、待ってたと言ってね」
やっと頭がはっきりしてきた。この状況は明らかにおかしい。
「あなたは誰なの?」
そう言いながらも、私はその正体に思い当たる節があった。
ゴールドサァドに聞いた話と、いまの私の状況が一致している。
味方のような口調で、唯一の理解者のようなふりをして、心に入り込んで、操ってくる。
「あなたが黒幕なのね」
うずめだったそいつは落胆したかと思えば、にやりと笑う。
「あーあ、案外うまくいかないものだね。まあいいか。他の四人はもうこっちのものだ」
「四人……? ネプテューヌたちに何かしたの!?」
いまさら気づいたが、周りにネプテューヌたちがいなくなっている。
どこかに連れ去られたか、それとも私が連れ去られているのか。何もかもが曖昧で判断がつかない。
一つ言えることは、目の前にいるのは敵だ。
「もう遅いよ。彼女たちはオレの手の中だ」
「このっ」
銃を引き抜き即座に一発。しかし弾丸は敵をすり抜けた。
「無駄だよ」
その言葉を最後に、そいつは風に吹かれた砂のようにさらさらと崩れていき、消え去った。
静寂が支配する空間の中、残されたのは私一人だけだった。