新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
超次元の空に突然空いた穴。その向こうには心を惑わす不思議な空間があり、さらにその奥は……零次元へと通じていた。
「うずめ、あなた……本物よね?」
ここに着いていきなり声をかけてきた少女を睨む。
見た目は完全にうずめ。だけどそれは謎空間でもあったことだ。
「何言ってんだよ。本物も何も、俺は俺しかいないだろ?」
うずめは何が何やらわからないといった声を出す。その顔に、さらに驚愕が混じった。
「お前っ……!」
「な、なにしてるんですか、ユウさん!」
ユウが、女神相手に抜かなかった剣の先をうずめに向けている。
「こいつだ。こいつが黒幕だ。あの黒い少女だ!」
「ち、ちょっと待って。落ち着いて。うずめは味方よ、ユウ。あなただって一緒に戦ったじゃない」
私の弁明に、ユウの怒気が収まっていく。しかし、剣は抜いたまま、先でうずめの身体を捉えたまま。
「あの女神か? あの、オレンジハート?」
「そっか、ユウさんは女神化したうずめさんしか見てないから……」
ネプギアがはっとする。
そういえば、直に顔を合わせたのは、ダークメガミと戦ってるときだ。
そのときうずめは変身していて……だからユウは『オレンジハート』としての天王星うずめしか知らないのだ。
「お前たちと会う前、俺はあの黒い少女に会ってる。お前とそっくりだったぞ。それに、天王星うずめと名乗ってた」
「そんな……俺はあのとき以外、ユウに会ったことはないぞ?」
両者とも嘘をついてるようには見えない。ただ困惑して、状況を掴めないの全員が同じだ。
無言が続いたが、ヤマトが一歩前に出て、うずめとユウの間に割って入る。
「ユウ、君ならわかるだろ。女神の力を感じる。この人は本物だよ」
ヤマトは剣を下ろさせた。
人が持つ力の種類と大きさを感じ取れる彼らにとって、それは相手が何者かを知ることのできる手がかりだ。
まだ謎は残っているものの、とりあえず納得して、ユウは剣を収める。
「すまなかったな」
「いや、わかってくれたならいいんだ。俺はわからないことだらけだけど」
「ていうか、あなた、黒の少女を実際に見たことがあるのね。ぼやけた輪郭じゃなく」
「ああ、言ってなかったっけ?」
「言ってないわよ! もう……」
呆れた。そんな大事なこと、もっと早く言ってくれればよかったのに。
「まあまあ、言ってたとしても余計にこんがらがるだけさ。いまとあんまり状況は変わらないんじゃないかな。イヴも心配事が増えるだけだったろうし、な?」
「納得したわけじゃないけど……はあ、過ぎたことだしね」
「あ、あはは……」
ヤマトがなだめたから……というわけでもないけど、私は無理やり納得した。
「そうそう。結局はこうやって姿を現すんだから、どっちにしても同じだよ」
「そうよね、うずめとそっくりなのがこうやって現れ……」
その瞬間、どっと冷や汗が噴き出した。一瞬で飛び退き、銃を構える。
「あ、あなた、あなたは……」
「お、お前誰だ?」
唖然として言葉が出ない私の代わりに、うずめが問う。うずめそっくりの少女へと。
「初めまして、かな。『俺』」
「やっほー、みんな。久しぶり!」
いつの間にか、服と髪が黒……というか濃い紫色のうずめがいた。その後ろには大きいネプテューヌもいる。
「ついに出やがったな」
「黒い……うずめ?」
「それにおっきいお姉ちゃんも」
これが黒幕? 話を聞いても半信半疑だったけど、本当にうずめそっくりじゃない。
それに、なんでネプテューヌが彼女の横に?
「君が全ての元凶か」
ヤマトが代表して黒うずめに話をかける。
「その通り。と言っても、オレは少し唆しただけだけどね」
「超次元を滅茶苦茶にして、どうするつもりだ」
「あの世界を返してもらうのさ」
「返す?」
「プラネテューヌの女神は、もともとオレの称号だったんだから」
黒うずめはうずめを指さす。
「そこにいる『俺』はオレの一部、搾りカスでしかない。だから記憶も曖昧、力も足りない。教えてやろう、『俺』」
彼女は嘲るでもなく、ただ無表情に言葉を続ける。
「天王星うずめは、超次元のプラネテューヌの女神だ。いや、『だった』というほうが正しいかな」
「頭がこんがらがってきた」
流石のうずめもこんな奇怪な状況にはついていけていないみたいだ。
「つまり、あなたは本当の天王星うずめで、私たちがうずめと思ってたのはあなたの一部……しかも、うずめはネプテューヌよりも前の女神ってことね」
「さすがイヴ。ものわかりがいいね。正確には先々代の女神さ」
まるで長年一緒にいたような口ぶりにイラっとしながらも、私は続けた。
「エコーはあなたが差し向けたの?」
「キミが造ったものは完成自体はしていたからね。あとは少し手を加えただけさ」
あっさりと白状する。
「女神を殺すことを目的にして、超次元と繋がりのある神次元まで巻き込んだのは想定外だけどね」
「そこまでして、何が目的なんですか?」
「崩壊」
ネプギアに対して、黒うずめは一言だけ返した。
無感情にも聞こえるその言葉は、しかし様々な感情がないまぜになっているようにも感じる。
「世界を崩壊させるのさ。すべてを壊して、零にする。この零次元と超次元を融合させてね」
「次元を……融合?」
「そんなこと……」
「できないと思うかい? まあそう思ってくれて構わないよ。どうあっても結果は変わらないからね」
黒うずめはくすくすと笑った。
「ぶつかって交わって、超次元は零次元と同じになる。もしくは、君の出身と同じと言ってもいいかな、ユウ」
「ユウ……?」
私は彼を見る。
私と同じく、彼が超次元の出身でないことはすでに聞いたことがある。
だけど彼のもといた次元がどうなっているのかは知らない。
「人もいない。文化も歴史も跡形もなく消える。超次元は、君が作り上げた……いや崩れさせた次元と同じ場所になるのさ」
ちょっと待って。ユウが崩れさせた?
こいつは何を言ってるの?
まるで……ユウが何もかも壊した張本人みたいな言い方じゃない。
「女神が邪魔になりそうだったから始末しようと思ったけど、エコーも女神本人も意外と役立たずだったね」
「お前っ!」
怒りの爆発したユウが剣を抜く。しかし、黒うずめは手を挙げて距離をとった。
「君たちを相手にするのは賢くない。ここは退かせてもらうよ」
「待て!」
その声も虚しく、ネプテューヌが開いた次元の穴に消えていく。
二人が通った瞬間、それは閉じられ、追うことすら許されなかった。
急な黒幕の出現と自己紹介、ネプテューヌとの再会。
いくつもの衝撃に、私たちが沈黙するなか、一番困惑しているうずめが力なく口を開いた。
「なあ、一体何がどうなってるのか教えてくれ」
説明されたことをうずめが噛み砕いている間、私たちも同じく状況を把握しようとしていた。
「これで全部繋がったな」
ほぼほぼそうだと思っていたが、これで確定した。
エコーと黒うずめは繋がっていて、つまり超次元の改変もゴールドサァドの異変も黒うずめのせいだ。
「とはいえ、あいつをどうするか」
「いったん休もう。今のままじゃ、短絡的な行動に移ってしまう」
敵が消えて所在がわからなくなったせいで再び後手に回らざるを得ない。
それにエコーとの戦いから引き続いて、女神が洗脳され戦わされ、私もみんなも憔悴しきっている。このまま無理に動いたとして、良い案も出なければ、満足に戦えるとも思えない。
ヤマトの提案に、うずめは頷いた。
「ならついてきてくれ。少しいったところに拠点がある」
△
「うずめ、無事に帰ってきてくれてなにより……って、イヴにぎあっちじゃないか」
廃墟の中を改造した拠点では、喋る魚……海男が待っていてくれていた。
「久しぶりね、海男。ちょっと厄介ごとになって……」
「それはいつものことだろう……といろいろ話したいところだけど、どうやら疲れているみたいだね。ちょっと待っててくれ。いまちょうど魚が焼けたところなんだ」
「共食い……」
「海男は魚食べないわよ。振舞うのは好きみたいだけど」
嫌な顔をして、ぼそりと呟くユウへフォローをする。
「人面魚を前にして、魚を食えってのか?」
「大丈夫。『魚を綺麗に食べる人は嫌いじゃない』って言うくらいだから」
初顔合わせ同士の自己紹介を軽く済ませ、うずめと海男の手料理を味わう。
プリンパーティ以来、お菓子の材料がよく見つかるみたいで、デザートまでごちそうになった。疲れた身体に甘いものがよく染みる。
こうやってお菓子を一緒に食べる、なんて何週間かぶりなのに、何年も昔に思える。
超次元での出来事は、密度が濃すぎた。そこに、今回の黒うずめの件。
もう一生分の驚きは体験したかも。
『ぶつかって交わって、超次元は零次元と同じになる。もしくは、君の出身と同じと言ってもいいかな、ユウ』
黒うずめの言うことが、頭に引っかかっていた。
気になる。けれど訊いてしまったら、取り返しのつかないことになるような気がして……
それでも意を決して口を開いた瞬間、私の携帯端末が鳴った。
誰かから通信だ。超次元に戻った組からの連絡かしら。
開くと、一通のメールが届いていた。タイトルはなし。本文には数字がずらっと並んでいるだけ。
「これ……」
私が眉をひそめると、ネプギアたちが覗き込んでくる。
「なんだ、この数字の羅列……次元座標か?」
一番に言ったのはユウだ。
「次元座標?」
「そのまんま、次元の場所を示す座標だよ。見たことのない座標だな」
「誰から送られてきたんですか?」
ネプギアに言われて、ようやく差出人を見る。
「ネプテューヌよ、大きいほうの」
黒うずめの隣にいたり、こんなメールを送ってきたり……彼女の意図が全く分からない。
おそらくこれは彼女たちのいる場所か、何かヒントになるような場所……もしくは……
「罠かも」
「だけど、僕たちには他に手掛かりが一切ない」
「ここに行くしかないってことですね。ユウさん、お願いできますか?」
こことも、超次元とも違う次元へ、どうやって行くのかという私の疑問は、ネプギアがユウを呼んだことですぐに晴れた。
彼は大きいネプテューヌと同じく、次元の旅人なのだ。