『水の都』ヴェネツィア。イタリア北東部、アドリア海の最奥に位置する世界有数の観光都市。街には情緒溢れる石造りの建物が並び、その間を縫って無数の運河・水路が縦横に走る。
そのヴェネツィアの中でもきっての観光名所、見物人でにぎわうサン・マルコ広場に少女の姿はあった。年の頃は十一、二歳くらい。黒の長髪と瞳を持つ小柄な東洋系の少女だ。胸元に黒い宝石の周りに金色のリングを二つ交差する形であしらった、少し変わった意匠のペンダントを下げている。
彼女はフレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』。紅世の真正の魔神“天壌の劫火”アラストールと契約するとりわけ強力な討ち手だ。
少女の様子は周囲の観光客たちと明らかに異なっていた。それはフレイムヘイズが放つ特有の圧倒的な存在感が――などという話ではなく、単純に少女の浮かべている表情のことだ。観光客たちが、広場を囲むようにして立つドゥカーレ宮殿やサン・マルコ寺院の見事な外観に感動し一様に明るい表情をしているのとは真逆に、少女は仏頂面だったのだ。
景観に不満があるわけではない。むしろそれらは少女の心を動かすに十分な美しさを備えており、少女はそれに関してはすっかり満足していた。少女が形のいい眉をへの字に曲げているのは、広場の風景とはまったく関係がない。
少女の仏頂面の理由、それは少女の隣に立つ連れにあった。その連れは今、ガイドブック片手にきょろきょろと周りを見渡して
「見て見て、贄殿ちゃん。あのレンガ造りの塔は鐘楼なんだって。高い! おっきい! さすが町のシンボル!」
無邪気な笑顔を浮かべてはしゃいでいた。そんな連れのすっかり浮かれた様子に贄殿ちゃんと呼ばれた少女は小さくため息を漏らすのだった。
◆◆◆
この世には紅世の徒がのさばっていた。歩いてはいけない隣の世界『紅世』から渡り来る彼らは、人間がそこに存在するための根源的な力『存在の力』を糧としてこの世に顕現し、自らの欲望を満たす為だけに行動した。彼らに存在を喰われた人間は世界に存在しなかったことになり、その欠落は本来その人間が関わるはずだったすべてのものに影響を及ぼし、世界を不自然に歪ませた。世界の歪みは紅世の徒が人間を喰えば喰うほど大きくなった。
紅世の徒たちの放埓によってこの世の歪みが広がるうちに、紅世ではとある懸念がささやかれるようになった。この世の歪みの進行はやがて、隣の紅世をも巻き込んだ世界の崩壊――『大災厄』の引き金になるのではないだろうか……と。『大災厄』への危機感を強めた紅世の王たちはとうとう放埓を繰り返す同朋を討滅するという苦渋の決断を下し、人間に彼らを討ち滅ぼすための異能の力を与えた。
こうしてこの世には紅世の徒を討つ異能者が生まれた。紅世の王と契約し己が存在のすべてを対価に異能を得た討ち手のことをフレイムヘイズという。
◆◆◆
昨夜。同じくイタリアはジェノヴァのとある高級レストランに『炎髪灼眼の討ち手』たる少女は居た。まるで古城の大広間と見える石造りの内装の店内には少女の他に人影がもう一つ。黒髪と口髭、それにたれ目が特徴的な優男が少女と席を共にしていた。
優男は名をピエトロ・モンテヴェルディといい、“珠漣の清韻”センティアと契約した『无窮の聞き手』の称号を持つフレイムヘイズである。さらに彼は、全世界に散らばるフレイムヘイズの情報交換・支援施設『外界宿』において、交通手段を手配・提供する運行管理者の一団『モンテヴェルディのコーロ』の指揮者でもある。
ピエトロは今、書類の束に視線を落としていた。それは少女が彼に提出した報告書だった。
半月ほど前、少女はちょうどこのレストランでピエトロから隣国のオーストリアに居座る徒の討滅依頼を受けた。“皁彦士”オオナムチ。古くからその名を世界に轟かす強力な紅世の王だったが、少女は死闘の末これを討滅した。依頼を完遂した少女は報告のために再びジェノヴァのピエトロの元を訪れたのだった。
ピエトロはしばらく報告書に視線を落としていたが、一通り目を通し終わったらしい。視線を上げると少女に甘い笑顔を向けた。
「報告は確かに受け取った。依頼は見事に完遂された」
「とりあえずはご苦労様だったね」
机の上に置かれた懐中時計――センティアの意志を表出させる神器『コローザ』からも労いの声が飛んでくる。
「『荊扉の編み手』がやられたことは残念だったけれど……ま、仕方のないことさ。僕たちフレイムヘイズはそういうものだから」
フレイムヘイズは寿命とは無縁の不死者だが、同時に常に戦いの中に身を置く討滅者でもある。長く生きる者以上に短く命を散らす者が多くいる。だからフレイムヘイズに感傷は似合わないとピエトロは肩を軽くすくめて、話を締めくくった。
「さ、堅苦しい話はここまでにしておいて食事としよう。今日は君の働きのお礼としてディナーを用意させてもらったよ」
ピエトロの言葉に少女の眉がピクリと動いた。
少女は世界のバランスを保つという使命を遂行するためだけに存在する完璧なフレイムヘイズだ。幼き頃からそのようにあれとして育てられて来たし、彼女自身がそうあろうと選択してフレイムヘイズになった。そんな少女にとってオオナムチを討ったことは、使命を果たすという当然の行為であり、そこに対価や感謝の必要性は欠片も感じていない。
しかし先日、ピエトロから依頼を受けた際、少女はこのレストランで絶品のパスタを口にしていた。ずっとレトルト食品で育ち、討ち手となってからも適当な出来合いの品ばかりを食べてきた少女にとって、あのパスタはもう一度食べるにやぶさかではない一品だった。
「別に感謝されるようなことはしていない」
だから平静な態度で(少なくとも本人はそのつもりだ)そう言ったものの少女の頬は明らかに緩んでいた。これから出てくるであろう料理への期待がありありとうかがえる。そんな少女の様子にピエトロはわずかに相好を崩しながら、ちらりと懐中時計を確認して言った。
「そうそう。実はこのディナーにはもう一人、ゲストを招待しているんだ」
「ゲスト?」
「ああ、そろそろ来るはず……ああ、噂をすればだね」
カランと入口の方でベルが鳴る。レストランに入って来たのは少女と同じ東洋系の女だった。年は十五歳くらいだろう。肩まで伸ばされた黒髪に縁取られた小顔に浮かぶ笑みにはまだ幼さが残っている。
その少女は純白のミニドレスに身を包んでおり、胸元には銀のロケットペンダントが揺れていた。店に合わせたのであろう上品な装いは少女の清楚な外見に良く似合っていたが、一方で着なれていないのだろうと察せられるぎこちなさが少女にはあった。それはまだ顔立ちに幼さの残る少女のちょっとした背伸びを感じさせて、見る者にどこか微笑ましさを覚えさせる。
「ごきげんよう、ピエトロさん、センティアさん。晩餐にお招きいただきありがとうございます」
ドレスの少女は努めて礼儀正しくしようとしているような、やはりぎこちない調子で挨拶した。そんな少女に最初に答えたのはセンティアだった。
「おやおや。お転婆娘がこれはまたずいぶんと似合わない格好で来たもんだ」
それにピエトロが続いて
「いやいや、僕のおふくろ。よく見てごらんよ。それなりに似合っているよ。馬子にも衣裳ってやつだね」
二人のからかうような声にドレスの少女は唇を尖らせた。
「あー、二人してそんなこと言います? 高級レストランでディナーだって言うからせっかく綺麗な格好してそれっぽく挨拶したのにー」
ドレスの少女は途端に丁寧な言葉づかいを崩し拗ねたように頬を膨らませる。そのふるまいは外見以上に幼さを感じさせるものだったが、不思議と彼女にはしっくりとくる。ドレスの少女はじろりとピエトロをにらんで
「大体男の人ならレディに対してもっとちゃんとした態度で接しないといけないと思います」
「おや、これは失礼。それではこちらへどうぞ、お嬢さん」
ピエトロが立ち上がり恭しく椅子を引く。ピエトロの芝居がかった動作がお気に召したのかドレスの少女は満足げな笑みを浮かべて席につくと、この場にいるもう一人の少女に視線を向けた。
「キミとは初めましてだね。あたしは“淵の水鱗”ミヅチのフレイムヘイズ『雨声の聴き手』ナツキ。ナツキって呼んでくれると嬉しいな」
その名乗りに『炎髪灼眼の討ち手』たる少女は怪訝な表情を作る。
「フレイムヘイズ……?」
少女の怪訝な表情の理由はナツキの気配にあった。フレイムヘイズは常人と異なる圧倒的な存在感と違和感を纏う。それは自らの内に強大な紅世の王を宿したことによるものであり、強力な討ち手ほどそれが顕著になる。
しかしナツキにはそうしたフレイムヘイズ特有の気配がなかった。いや、違う。確かに彼女にはそうしたものが備わっているのだが、ナツキが名乗るまで少女はそれに気がつけなかったのだ。ナツキの気配は決して小さくない、というよりむしろ大きい部類だが、しかし彼女の気配は周囲の空気にすっかり馴染んでしまっていた。ナツキの気配はまるでそうあるのが当然とでもいうようにそこにあって、だから少女はナツキがそう名乗るまで彼女がフレイムヘイズだと気がつかなかったのだ。
(変わったフレイムヘイズ……)
そう思いながら少女も礼儀として名乗りを返す。
「私は“天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』」
しかしナツキは少女が挨拶を終えてもじぃーっと少女の方を見たままだった。
「何?」
「あれ? 今のでおしまい? キミの名前は?」
「名前なんて必要ない。私はアラストールと契約したフレイムヘイズ。それだけ」
少女の言葉をどう受け取ったのか、ナツキはどこか寂しげな顔をした。けれど一瞬で笑顔を作って
「そうなんだ。じゃあキミのことをなんて呼べばいいかな? 『炎髪灼眼の討ち手』って言うのも長いしさ」
「贄殿遮那のフレイムヘイズと呼ばれることもある」
「にえとののしゃな?」
「私の持っている大太刀の名前」
「それはまた物騒だね。でも贄殿遮那かあ。まだちょっと長いかな。贄殿遮那ちゃん、贄殿……ちゃん、贄殿ちゃん! 贄殿ちゃんってどう? 可愛くない? あたしはキミのこと贄殿ちゃんって呼びたい! っていうか呼ぶね。呼んじゃう、贄殿ちゃん!」
「す、好きにすればいい」
ぐいっと乗り出すようにして突然喋り出したナツキに、屈強な紅世の王をものともしない胆力を備えた少女は珍しく気圧された。ナツキは少女に対する好奇心で瞳をきらきら輝かせながらさらに畳みかけて
「贄殿ちゃんは可愛いね。ピエトロさんから、今日は有名な『炎髪灼眼の討ち手』さんがいっしょだとは聞いていたけど、まさかこんな小さい子だとは思わなかったなあ。ああ、もちろんフレイムヘイズの力と外見は関係ないから全然おかしくはないんだけど。実は私の師匠もキミかそれ以上に小さい人だったんだ。そうそう外見っていえばキミ日本人だよね? 実は私も日本出身なんだけど――って、しゃべりすぎだね。あたしの悪い癖なんだ、ごめんね」
ナツキは少女が面喰っているのを見て自重して口をつぐんだ。そんなナツキの様子にピエトロが苦笑しながら
「それじゃあ、本日のお客さんがそろったところで始めようか」
こうして三人して六人のフレイムヘイズのディナーが始まった。
◆◆◆
「ふーん、贄殿ちゃんは紅世の王を倒してきたんだ」
「ただの紅世の王じゃないさ。“皁彦士”オオナムチといえばビッグネームだからね」
時は進みメインディッシュに差し掛かかるころ、話題は少女が先日討滅した紅世の王に移っていた。喋っているのは主にピエトロとナツキである。紅世の王の討滅を成し遂げた張本人にして、本来その会話の中心となるはずの少女は、必要以上に会話をする性分ではなかった。
そんな少女とは対照的にピエトロとナツキは他人との会話に楽しみを見出すタイプのようだった。少女はピエトロがお喋りであることは知っていたが(少女はこっそりピエトロに「お喋り男」とあだ名をつけている)、ナツキも負けず劣らず良くしゃべった(少女はナツキにピエトロにならって「お喋り女」とあだ名をつけた)。
「贄殿ちゃんは契約して間もないって話だったけど、それでそんな強いのをやっつけるなんてすごいね。あたしたちが最後に徒を討滅したのはいつだっけ、ミヅチ? 一年前? そんな前だっけ?」
しかしナツキと契約している紅世の王は寡黙なようだ。顔を合わせてから現在までミヅチというらしい紅世の王はいまだ声を出すということをしていない。時折、今のようにナツキが呼びかけることがあるのだが、それにも念話で答えるのみだった。
ナツキの一年前という言葉に少女は思わず食事の手を止めた。ピエトロのように組織の指導者のような立ち位置に居る者ならまだしも、普通のフレイムヘイズが一年間も紅世の徒を討っていないというのはいささか奇妙な話だった。少女の怪訝な表情に気がついたのだろう、ナツキが答えた。
「あたし、討滅は専門外なんだよね」
フレイムヘイズなのに徒を討滅するのが専門外? ますます怪訝な表情になった少女にピエトロが言う。
「彼女は調律師なんだよ」
ピエトロの説明に少女はわずかに目を見開いた。調律師とは紅世の徒によって歪められたこの世を修復する技能を持ったフレイムヘイズのことである。その絶対数は少なく、少女は調律師にまだ会ったことがなかった。
調律師が少ないのには理由がある。フレイムヘイズは基本的に紅世の徒に対する憎しみの感情から誕生する復讐者だ。そのため大多数のフレイムヘイズにとって優先すべき事柄は徒の討滅であり、世界の歪みを直すという作業はただの面倒でしかない。だから好き好んで調律師になるものがいないのだ。
ではどんなフレイムヘイズが調律師になるのか。その多くは、徒との長く戦いを続けるうちに復讐心を超え、純粋な使命感の塊となった者たちであると少女は聞いていたが、しかし目の前にいるナツキがそうだとは到底思えなかった。ナツキは歴戦の猛者というにはあまりにも風格が欠けていた。だから、おそらくナツキはレアな調律師の中でもとりわけ珍しい、好き好んで調律に励むフレイムヘイズなのだろうと少女は思った。
「実は彼女がイタリアに来たのは調律のためなんだよ」
「そうそう、あっちの方角に歪みがあるっぽいんだよね」
ピエトロの言葉にうなずいて、ナツキがレストランの壁を指した。
「歪みの位置が分かるの?」
「なーんとなくね。これでもあたし専門家だから」
得意げに嘯くナツキに少女は驚く。フレイムヘイズは誰しも歪みの存在を感知する能力を有しているがそれには距離的な限度が当然あって、少女はナツキの指す方向にあるという歪みの存在を全く感じ取ることができなかった。それがナツキには分かるということは、調律師は――あるいはナツキだけかもしれないが――歪みに対する感度が普通のフレイムヘイズより高いのかもしれない。
「調律師はみんな遠くの歪みがわかるもの?」
少女が続けて疑問を口に出すと、ナツキは細いおとがいに手を当てた。
「んー、どうかなあ。少なくともあたしはあたしほど歪みを見つけるのが得意な調律師にあったことはないなあ。それにしても贄殿ちゃん調律師に興味津々だね。ひょっとして調律師に会うのは初めて?」
「うん」
少女が頷くと、ナツキはじゃあさと少し身を乗り出した。
「贄殿ちゃん、私の調律を見物してみない? 作業自体はたぶん二、三日で終わるし、場所もジェノヴァからそう離れてないからさ」
ナツキの唐突な提案に少女は逡巡した後、自分の内の紅世の魔神に問いかけた。
(行ってもいい? アラストール)
ナツキの言う通り、少女は調律師や調律に少なからず興味があった。一応、少女は教育者たる女性から調律についての一通りの知識を授けられてはいたが、それはどこまで行っても知識でしかなかった。フレイムヘイズとして一人で活動するようになってからというもの、少女は知識を自分の肌で実際に感じてみることの重要性を深く感じていた。
(よいのではないか、何事も経験だ)
アラストールの肯定を聞いてから、少女はナツキにこくりと頷いた。
◆◆◆
そして今朝、少女はナツキに同行してヴェネツィアへと入ったのだが、ナツキには調律を始める様子が全くなかった。ガイドブックを片手に観光名所を回るうちにお昼も過ぎて、そろそろ夕方に差し掛かろうとしているというのに、今もナツキは鐘楼を見てはしゃいでいる。これでは道行く観光客と何ら変わらない。少女はそんなナツキに苛立っており、先ほどからすっかり不機嫌な顔をしていた。
「『雨声の聴き手』よ」
契約者の苛立ちを感じたアラストールが無邪気にはしゃぐ少女に声をかけた。するとナツキが途端に表情を曇らせた。
「ルール違反ですよ、アラストールさん。ナツキって呼んでくださいって言ったはずです」
「む」
ナツキの言葉に紅世の魔神が唸る。ナツキは少女とアラストールの同行に対して一つ条件を出した。聞けばナツキには自分ルールというものがあるらしく、一緒にいる間はそれを守ってほしいとのこと。ルールの内容はすべて少女とアラストールにとってどうでもよいことだったが、ナツキにとっては極めて重要な事柄らしい。そしてその中でもとりわけ重要なルールが彼女のことを呼ぶときは称号ではなくて名前で呼ぶというものだった。
「これイエローカードですからね。次やったらレッドカードです。そしたら私もアラストールさんのこと天壌の劫火って呼びますから」
ナツキは憤然とした様子でそう言い放つ。カードの色がどうとかナツキの言っていることはアラストールにはさっぱりわからなかったが警告しているらしいことだけは理解できた。もっともナツキにどう呼ばれようがアラストールにとってはどうでもよいことだったが。
「ではナツキよ」
しかし、あえて調律師の機嫌を損なうこともない。アラストールが言い直すと、少女はにこりと笑った。
「はい、なんでしょう。アラストールさん」
「調律はしなくてもよいのか?」
「どういう意味ですか?」
首をかしげるナツキに今度は契約者の少女が堅い声で言う。
「ヴェネツィアに着いてから遊んでいるようにしか見えない」
「ん? なんだか贄殿ちゃん怒ってる?」
「別に」
「ええっ、怒ってるじゃん。あ、でも怒った顔もかわいいね」
「ふざけないで」
少女の剣幕にナツキはおおこわいと肩をすくめた。
「別にからかってるわけじゃないよ。真面目な話をするとね、あたしはちゃんと調律に必要な作業をしている。今この瞬間もね」
ナツキの言葉に少女は怪訝な表情をした。
「どういうこと?」
「贄殿ちゃんは調律師に会うのは初めてみたいだけど、調律についてはどれくらい知ってるの?」
「この世の歪みの修正のこと」
「そのとおり。調律とは紅世の徒によって歪められた世界を本来あったであろう姿に限りなく近く戻すこと。やり方は調律師によって微妙に違うけど、大前提としてあたしたち調律師が世界の歪みを修正するには、本来あるべきはずだった姿のイメージが必要なんだ。そうじゃないとどこをどう修正すればいいのかわからないでしょ? そして多くの調律師は現地に長く住んでいる人に協力してもらって、そのイメージを手に入れるの」
でもね、とナツキは続ける。
「私たちに限って言えばその必要はないんだ。これのおかげでね」
ナツキは胸元のロケットペンダントを得意げに示した。
「神器?」
「ううん宝具。神器はチェーンだけで、ロケット本体は宝具なの。『スーヴニール』っていうんだけど、存在の力を込めれば人や物、場所に残された思い出――記憶の残滓を収集することができるの」
すごいでしょ? とナツキは少女に向かって自慢げに微笑んだ。
「私たちは今、散策しながらこの町の思い出の数々を収集している。そうして集めた思い出を元に本来あったはずの町のイメージを構築して調律の自在式に組み込むの。ね、ちゃんとお仕事してるでしょう?」
どうだとナツキは胸を張ったが、少女はナツキの言い分を理解した上で、極めて真っ当な反論を口にした。
「でも遊ぶ必要はない」
「ええー、ただ町を歩き回るだけよりその方が楽しいでしょ? あたしも贄殿ちゃんも」
「別に」
少女がつれなくそう答えるとナツキは少し唇を尖らせて
「むー、贄殿ちゃんだって昼間はジェラートおいしそうに食べてたじゃん」
ナツキの糾弾に少女の頬が少し赤くなった。ナツキはその様子にしてやったりと目を細めた。
「ふふっ。心配しなくても本格的な調律は明日の午後くらいに始めるって。それまでは贄殿ちゃんは私といっしょにヴェネツィアの街を見て回るの。これは決定事項だから。ね?」
「……わかった」
「よろしい」
ナツキは満足げに頷くと少女の手をとり、次の目的地へ歩き出した。
◆◆◆
日が暮れると少女とナツキはホテルに入った。部屋はナツキがあらかじめピエトロに頼んで手配してもらっていたものらしく、飛び入りの少女はナツキと同じ部屋に泊まることになった。少女がシャワーを済ませて浴室から出てくると、湯上り姿のナツキがベッドの上に寝転がって自在式を弄っていた。
「それは?」
少女が尋ねるとナツキは「んー?」と自在式から顔を上げる。
「これはね、明日使う調律の自在式だよ。今日、宝具に集めたイメージを調律の式に組み込んでるの。贄殿ちゃんは自在師だっけ?」
ナツキの問に少女は首を横に振った。少女は自在法が不得手で封絶くらいしか使えなかった。今ナツキの弄っている式に関しても、それが自在式である以上のことは少女にはわからなかった。
「そっかあ、じゃああんまり見てても面白くはないかな。それに作業はもう……ほら! これでおしまい!」
ナツキが最後に式を足すと、中空の式が微かに揺らめいて消えていった。
「あとは明日の仕上げをお楽しみにってね。ほら、贄殿ちゃん。そんなとこに突っ立てないでこっちおいで」
自在式をしまったナツキは自分の隣のシーツをばすばすと叩いた。この部屋にはベッドが一つしかないため、必然的に少女はナツキと同じベッドで寝ることになるのだが――
「も~、贄殿ちゃん。なんでそんな端っこに寝転がるの」
少女がベッドの左端に身を置くとナツキが不満そうに口を尖らせた。ころころと転がって少女の隣まで移動してくる。少女は不服そうに眉をひそめた。
「広いのにこんなに引っ付いたら意味ない」
「その方が仲良しって感じで楽しいじゃん。私と贄殿ちゃんは今から女の子同士、楽しい夜のお喋りをするの」
「喋ることなんてない」
「え~、あるよ。あたしは贄殿ちゃんの話を聞きたいの」
「なぜ?」
「なぜって。いーい、贄殿ちゃん。会話っていうのはキャッチボールなの。なのに昨日からあたしばっかりボール投げてるよ。もっと積極的に投げ返さないと贄殿ちゃんはいつまでたってもレギュラーになれないんだから」
「ナツキの言うことはよくわからない」
「それは贄殿ちゃんが人と話すことに慣れてないからだよ。でも、大丈夫。あたしが練習相手になってあげる。それ、ばっちこーい」
「いらない」
「もうっ、贄殿ちゃん、つーめーたーいー」
「うるさい……」
耳の近くで騒ぐナツキに少女は鬱陶しそうにこぼした。
◆◆◆
結局、ナツキは一人でしゃべるだけしゃべって寝てしまった。ナツキのおしゃべりからようやく解放された少女だったが、ナツキは抱き枕とでも言うように少女の身体をがっちりホールドしており今度は物理的にナツキに悩まされていた。
生まれ育った天道宮を出てからこうして誰かの体温を感じるのは少女にとって二度目のことだった。一度目――ゾフィー・サバリッシュに添い寝をしてもらった時には包みこむような安心を感じたけれど、今のナツキは単純にうっとおしい。ナツキの外見年齢が少女と近いこともあるのかもしれないが、ゾフィーの時とはえらい違いだった。
(変なやつ……)
天井を見上げながら少女は一人、呆れ顔をつくる。一目見た時から変わったフレイムヘイズだと思っていたけれど、一日行動を共にしてその違和感はより強くなった。
ガイドブックを片手に難しい顔で道を探したり。
道行く観光客に頼まれて写真を撮ったり。
アイスパーラーでお店の人と談笑したり。
露店で気に入ったアクセサリーをちゃっかり値切ったり。
観光名所で歓声を上げて顔を輝かせたり。
ナツキのふるまいはそこらの往来を歩いてる普通の人間とまるで変わらない。
言ってみれば、ナツキはどこまでも
(ほんと変なやつ……)
頭の中で少女がもう一度ナツキをそう評していると、
「あかね……」
ふと耳元でナツキの口から声がこぼれた。アカネ? 少女は天井からナツキの方に視線をやる。そしてナツキの寝顔を見てぎくりとした。
閉じたナツキの目の端から一筋、涙がこぼれていた。
「アカネっていうのはナツキの妹のことだよ」
なぜ、とナツキの涙に驚く少女の耳に、ふと少年のようにも少女のようにも聞こえる中性的な声が響いた。その声はベッドの脇のナイトテーブルの上に置かれたロケットペンダントから――正確にはチェーンから聞こえていた。“淵の水鱗”ミヅチ。ナツキの契約する紅世の王が初めて口を開いていた。
「貴様なぜ今の今まで喋らなかった」
アラストールが重苦しい声で問いかけると、ミヅチは軽い調子で
「遠慮していたのさ。自分で言うのもなんだけれどボクはナツキに負けないくらいおしゃべりだからね。ナツキが二人になったらって考えるとキミたちも弱るでしょう?」
「それは……」
「うむ……」
『炎髪灼眼の討ち手』の少女と紅世の魔神は口ごもった。一人で常人の二倍はうるさいナツキが二人になったら煩わしいどころの話ではない。
「ふふっ。二人ともお喋りは苦手そうなのに、今日はナツキに付き合ってくれてありがとう。おかげでボクの可愛い契約者はいつにもまして楽しそうだったよ。贄殿ちゃんはアカネと歳が同じくらいに見えるからね。妹といっしょにいるみたいで嬉しかったんじゃないかな」
「歳が同じくらい?」
「うん。正確にはナツキがお別れした頃のアカネとだけど」
「お別れ……?」
「契約のことさ」
契約。それは人間が紅世の王と交わすフレイムヘイズとなるための儀式だ。フレイムヘイズは過去・現在・未来、この時空に広がる人間としての自分の存在のすべてを消失させることで時空に存在の空白を作り、そこに紅世の王の存在を挿げることで完成する。つまり契約者は人間として世界に残して来たすべてのものを代償にしてフレイムヘイズになる。そこには一つの例外もない。
「フレイムヘイズになると決め、ボクと契約を結んだその瞬間から、ナツキという人間の少女の存在は誰の記憶からも消えたのさ。知人も友達も家族もね。それはしかたのないことさ」
存在を代償にするっていうのはそういうことだから、とミヅチは淡々と言葉を紡ぐ。彼あるいは彼女の中性的な声には感情の色が見えなかった。
「ナツキは、そうなることを覚悟の上で契約したから後悔はないってよく言うんだ。でも普段はそう言って気丈に振る舞っていても、寝ている時は気が緩むんだろうね。こうやってたまに家族を思い出して泣くのさ。贄殿ちゃんはどうしてナツキが名前で呼ばれることにこだわるかわかるかい?」
少女が首を横に振る。するとミヅチが言った。
「それはね、名前が唯一残っている証だからだよ。ナツキという名前は彼女の両親だった人がくれたもの。つまり、ナツキという人間の少女が確かに世界には存在したという証なのさ」
ミズチは最後にそう言って、話を終えた。少しの沈黙の後、少女が口を開く。
「どうして私にそんな話を?」
「特に深い意味なんてないさ。贄殿ちゃんがアカネのことを気にしたから。単純にボクがおしゃべりだから。ナツキが今日一日贄殿ちゃんを振り回したお詫び。好きな理由を選ぶといい」
軽い調子で紅世の王は答えた。それから、一言
「贄殿ちゃんは誰かと別れたことはあるかい?」
ミヅチの問いに少女は答えられなかった。
フレイムヘイズになった日、少女は少女の家族ともいえる二人、紅世の王の男と教育係の女性と別れた。けれどそれはナツキの経験した別れとは質が違っている。『炎髪灼眼の討ち手』として、完全なフレイムヘイズとして、フレイムヘイズと紅世の王に育てられた少女は契約による誰の記憶からも自分が失われるという別れを知らない。
だから、ナツキという底抜けに明るくお喋りな少女が流す涙の意味を完全に理解することはできない。それでなくとも少女は人の感情の機微に疎いところがあった。
少女は隣りのナツキをもう一度見た。ナツキは頬を涙にぬらしながら、縋るように少女の腕に身を寄せていた。そこにはフレイムヘイズの頑強さなんて欠片もなくて、ただただ一人迷子になった子どものような弱々しさだけがあった。
「変なやつ」
少女はもう一度、今度は声に出して言ってから目を閉じた。静かになった部屋にはまもなくすう、すうと二人分の寝息が聞こえ始めた。
結局、少女は最期までナツキを腕からふりほどくことはしなかった。どうして自分がそうしたのか、それは少女にもわからなかった。
◆◆◆
翌日の午後。少女とナツキは街の中でもひと際高い建物の屋上に立っていた。見下ろすとヴェネツィアの町並みが、見上げると夕焼けでわずかに茜色に染まった空が目に入り、遠く向こうを見渡すと暮れの陽光を受けてきらきらと輝く海が見える。
「綺麗だねー。茜ってあたし好きなんだ」
ナツキが無邪気につぶやき、少女の頭に昨夜のことがよぎる。アカネ。ナツキの妹の名前。少女は思わずナツキの方を見たが、ナツキは影のない天真爛漫な笑顔を浮かべていた。
「どしたの?」
少女の視線に気が付いたナツキがこてりと首を倒す。それに対し少女が「なんでもない」と答えると、ナツキは「そっか」と言って、大きく伸びをした。
「よっし、それじゃあ、調律始めよっか。ところで贄殿ちゃん、歌を聴くのは好き?」
ふとナツキが問いかける。
「歌? 調律に関係あるの?」
「うん。これから雨乞いのために歌を奉納するの。雨乞は神様にお願いしなきゃいけないからね」
「雨乞? 自在式のこと? それに歌が必要なの?」
「んー、本当は絶対に必要ってわけじゃないけれど、ミヅチは竜神様で、あたしはその巫女だから。ちゃんとした方がいいかなってね。じゃ、はじめるね」
そう言ってナツキは静かに目を閉じた。途端にナツキからいつもの賑々しい雰囲気が消え、空気が張りつめる。街の喧騒が遠ざかり、静けさが訪れる。そして、一秒。二秒。三秒目でナツキは目を開け、すっと小さく息を吸ってから、歌い始めた。
静寂が破れ少女は息を呑んだ。ナツキの歌声は澄み切っていて、どこまでも素直に、まっすぐに、心に響いた。
ナツキの口から出てきたのは神事などで持ち出されるような歌ではなく、流行り歌の類だった。ノスタルジックで温かみのある旋律。なのに、その裏にほんの少し寂しさが垣間見えるような気がして、切なさを感じさせる。
歌いながらナツキは手のひらに勿忘草色の炎を灯した。炎の中にはヴェネツィアの町並みが、正確には本来あるべき姿のヴェネツィアが映っていた。炎はナツキの手を離れゆっくりと上へと昇っていく。ゆらゆらと空まで上った炎は天空ではじけて自在式へと変わり、空に広がった。
「自在式『雨乞神楽』起動」
ミヅチの声がした後、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。晴れた空の下に降る雨は不思議と温かく、雨粒が街に落ちる度に波紋のように調和のイメージが広がっていく。それは共鳴し、大きくなって瞬く間に街を包みこんだ。ゆっくり、ゆっくりと、ナツキの歌声に導かれるように、町が本来あるべき姿へと修正されていく。
雨はナツキが歌い終わるまで降り続いた。そして、雨が止む頃には街はすっかり本来の姿に戻っていた。
歌い終えたナツキは調律の出来栄えを確認するかのように街へと目を走らせた。そして満足げに一度頷くと、ショーを終えたパフォーマーのように、たった一人の聴衆に向かってぺこりと頭を下げた。
「綺麗だった」
少女は彼女らしい端的で素直な感想を口にした。少女の言葉にお喋りな調律師はちょっとはにかんで
「ありがとう」
◆◆◆
「本当に行っちゃうの? もう夜だよ?」
調律を終えた数刻後、少女がナツキに新天地への移動を告げると、ナツキはひどく不満げに少女を見た。
「夜の方が移動しやすい」
「もう一日くらい一緒に観光しない?」
「調律は見た。その必要はない」
そう答えて少女が首を横に振ると、ナツキはちょっとうつむいて呟いた。
「必要はない……か。ねえ、贄殿ちゃん。ひとつ聞いてもいい?」
「何?」
「贄殿ちゃんはさ、どうしてフレイムヘイズになったの?」
それは唐突な問いだった。ナツキは普段のおどけた調子をがらりと変えて、驚くほどに真剣に少女を見つめた。
「贄殿ちゃんは私が今まで見てきたフレイムヘイズとは違うんだ。フレイムヘイズにはね、それになるに足る何かがあるわけ。背負った過去があるの。その多くは徒に対する復讐心に繋がるわけだけど……でも贄殿ちゃんはきっと違うよね。贄殿ちゃんは復讐心とかそういう感情とは無関係で、まるで赤ちゃんみたいにフレイムヘイズとして生きることに純粋だ。そんなキミが私の眼には不思議に映るの」
ナツキの問いかけに少女は答える。
「私は完全なフレイムヘイズだから」
「完全なフレイムヘイズ?」
「世界のバランスを保つという使命に準じるフレイムヘイズ。私はそうなるように育てられ、そして自分でそう生きることを選んでフレイムヘイズになった」
少女の答えを聞いたナツキは寂しげな顔をした。それは初めて顔を合わせた時、少女が『炎髪灼眼の討ち手』とだけ名乗った時に、ナツキが浮かべた表情と同じものだった。
ナツキが少女の方へ一歩距離を詰める。少女の背中に手を回し、少女を抱き寄せた。
「完全なんてないよ」
耳元でナツキがささやく。
「フレイムヘイズは人間だから。時の流れから切り取られて姿が変わらなくとも、異能の力で摩訶不思議を起こせても、心だけは人のまま。それは変わらないし、変えちゃいけないんだ」
ナツキの体が離れる。少女と向き合ったナツキの顔にもう寂しげな色は残っていなかった。ナツキはにこりと笑って
「つまりね。フレイムヘイズでもジェラート食べて頬を緩める時間は必要ってこと」
そして笑顔のまま、まるで願うように、祈るように言葉を紡ぐ。
「わからなくてもいい。でも忘れないで。心に残しておいて」
ナツキの言葉に少女はなんと答えればよいのかわからなかった。けれど、ナツキは少女の答えを待ってはいなかった。
「そうそう、贄殿ちゃん。私がさっき歌ってたのはねー、日本のポップスなの。贄殿ちゃんもあたしと同じ日本人でしょ? 気が向いたら行ってみなよ。たまに故郷に帰るのもいいもんだよ」
ふと思いついたようにそう言うと、もう一度ナツキはにっこりと笑って
「じゃあね、贄殿ちゃん。因果の交差路でまた逢いましょう。次に会う時は――」
本当のキミの名前を呼べたらいいな。そう言い残して調律師の姿は雑踏の中へと消えていった。
◇◇◇
それは学校からの帰り道。商店街に差し掛かった頃のことだった。ふいに聞こえた懐かしい歌に少女――シャナは足を止めた。
音の方に視線をやると、そこには家電量販店があった。歌はその奥から――おそらく展示のテレビからだろう――聞こえていた。
「これ、何年か前に流行った歌だね」
隣に立つ少年が言う。高校の制服をきっちりと着たどこにでもいそうな平凡な少年。けれど彼は普通ではない。名前を坂井悠二といい、宝具『零時迷子』を内蔵したミステスだ。
「悠二、知ってるの?」
「うん。けっこうテレビとかで流れてたからね。曲名は……なんだったかなあ?」
悠二が首を捻る。思い出そうと悠二はちょっと難しい顔をしたが、少しして苦笑いした。
「ごめん。思いだせないや」
「別にいい」
特に歌の名前を知りたかったわけではなかったので、シャナは気にしなかった。立ち止ったまま、歌に耳を傾ける。
「シャナは歌とかにあんまり興味ないと思ってた」
シャナがしばらくそうしていると、悠二が意外そうに言った。
「興味があるわけじゃない。ただこの歌は昔聞いたことがあっただけ」
「へえ。どこで?」
「それは――」
――完全なんてないよ。
悠二に答えかけて、ふと、シャナの頭に少女の声が蘇る。
――わからなくてもいい。けれど忘れないで。心に残しておいて。
彼女が耳元で囁いた言葉が記憶の底から浮かんでくる。
――次に会う時は本当のキミの名前を呼べたらいいな。
「シャナ?」
突然黙り込んだからだろう。悠二が
それに対しシャナは、くすりと笑って、「なんでもない」と悠二に答える。
悠二はそんなシャナを見て不思議そうな顔をしたが、シャナが歩き出したので何も言わなかった。そして二人は肩を並べて家路を歩む。
知らず、ゆらぐように
完全と不完全の狭間を、討ち手は進む
いつか重ねる時が来ようとも
今はまだ―