Fate/trinity chalice -The Fourth Wizards- 作:琴浪新(水)
ステータスはイマイチだが頑張る!
嵐の海の瞳の男は公園を出て鋭角に折れて大通りを歩いていく。
元来た道、ブロードウェイと約三十度ほどしかずれていない道だが、男はどこかを目指して歩いていく。
もともと、男が公園に来たのはほんの暇つぶしに過ぎない。
彼が協力するマスターの命でライブを開いた歌姫エカテリーナ・シャンタールの視察を終えて、約束の時間までに少し暇があったので遠回りしただけなのだ。
期せずして数組のマスターとサーヴァント、またはその召喚現場を見つけてしまっていたが……。
男は彼の仲間に届いた書状に書かれた待ち合わせ場所に向かって歩いていく。
嵐の瞳の男が通り過ぎた大通りのビルとビルの間、所謂、路地裏に一人の壮年の男が壁にもたれて立っていた。
彼の手には一本の槍が握られている。
穂先から柄にかけてその槍は真っ赤な血に染まっている。
その血は垂れることなく、しかし乾くこともなくその槍の表面に留まっている。
男はその槍を何度か拝んだ後、槍を消した。
その顔は目に見えて苦々しい色に満ちており、槍を消すのが不本意であったことがわかる。
しかし、聖杯に与えたれた知識には街中で槍を持つことを普通のこととはしていない。
そして、男は街の明かりの中に踏み出した。
男は目を瞑っていた。
盲目なのか、それとも何か故あって目を閉じているのかはわからないが、男は目を閉じたまま何の不自由もなく街を歩く。
そして男はその見窄らしい格好に似合わない物を服のポケットから取り出した。
スマートフォン。
それも外部からのハッキング対策が徹底的に施された物である。
男は慣れた手つきでスマホを操作し耳にあてがう。
コールというべき音が鳴る前に電話の相手は応答した。
「もしもし、だったか?
とにかくマスター、エンパイアステートビルまで行くのは私だけでいいのかね?
先ほど君からのメールを見た限りでは顔合わせにはマスターの参加も義務ずけられているようだったが?」
そのエンパイアステートビルへの歩みを止めずに男は問う。
返答する声は何かの仕掛けが施されているのか、機械音だった。
『構いませんよ。
私には体と呼べる物がありませんから。
そのスマホ越しに会話するので、ランサーはスマホのスピーカーの音量を最大にして会見に臨んでください』
「君に体が存在しないことは聞いているし理解しているつもりだが、マスターが姿を現さないことで私が疑われて最悪その場で抹殺される、というようなことはないんでしょうな?」
声の抑揚を全く変化させずに男はマスターに問う。
女性のように思われる機械音は淡々と答える。
「大丈夫でしょう。
私なりに様々な文献を調べましたが、聖杯戦争ではほとんどの場合でマスターは他のサーヴァントの前に姿を現さなかったらしいですし」
「マスター、今回のは聖杯大戦であって、聖杯戦争ではない。
大戦では同一の聖杯に呼び出されたサーヴァントとそのマスターは協力する必要があるらしいから顔合わせは重要だ。
同じ軍の将が互いに信頼関係を築けなければ軍は瓦解してしまう」
軍を率いた経験でもあるのか、男の言葉には説得力があった。
マスターの方も指摘されたことを自覚していたのか、歯切れ悪く答える。
「しかし、私はここから動くことはできないよ。
どうしようもない。
ここから間接的にスマホを使って君と戦うことぐらいはできるだろうけど姿を現せと言われても……」
「他のマスターを研究所に招いて実態を見せる、というのはどうだ?」
「嫌だ!」
男、ランサーのサーヴァントとそのマスターはしばらく言い争っていたが、マスターが強い拒絶の意思を持っている理由を知っているランサーはついには折れた。
そしてランサーは夜の街を約束の待ち合わせ場所、エンパイアステートビルへと歩いていく。
ランサーとマスターでした。
だいぶぼかしましたが、聡い方はランサーの正体を見破られたかも?
マスターの方がより謎に包まれてますね……。