ハイスクールD×D 死を視た者の物語 作:憂姫ちゃんの猫
逃げる、逃げる逃げる逃げる。
「──っっ!?」
不意に横飛びに逃げれば先程まで居た場所に光の槍がめり込んでいた。
立ち止まっては居られない、逃げなければ。
「はぁ…はぁはぁ…はぁ…」
息を整える暇もなく駆け出す、単調な真っ直ぐの動きにはならないようにとにかく宛もなく逃げる。
「どうせ逃げたところで最後には殺されるのよ、だから早く楽になりなさい!」
ふざけるな、そう叫びたがったがそんなことをする余裕もない。
そうして俺はひたすら逃げに徹した。
「うぐっ、ぁがぁぁぁぁ!?」
そして公園の中にある雑木林と言えるような木々の中まで逃げたところで逃走劇は終わりを告げた。
「あら、もう詰まらなくてくだらない鬼ごっこは終わりかしら?」
足へと突き刺さった光の槍を俺は歯を食いしばりながら引き抜くと彼女へと視線を向けた。
「いくら遊んでる堕天使とはいえ、此処まで逃げ切れたのは誉めてあげるわ。でもそれも此処で終わりよ…」
一際輝いて見える新たな光の槍をその手に生み出すとそのまま俺へと投げて………
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生きることを諦めるのかい?
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「ふざけんじゃ…ねぇぇ!!」
目を閉ざし暗くした視界にもう一度光を入れる。
そのまま俺はほんの一瞬、一瞬だけ見えた光の槍に浮かぶ黒い線をその一瞬に置いて左手の手刀でなぞる。
「な…私の槍を素手で…切り裂いた……!?」
黒い線をなぞりその通りに光の槍は切れていき同時に空へと霧散していった。
その黒い線は見えなくなると偶然にもすぐそばに落ちていた鉄パイプを拾い上げ、まるで刀の居合い切りのように構えた。
「貴方…面白いわ、それに…雰囲気が変わったわね…」
彼女、自称『堕天使』は最初は驚いていたがすぐに妖しげな、妖艶とも言えるほどの笑みを浮かべて此方を見つめる。
「悪いけど…今のでどうも手品は品切れだ……」
俺には分かる、どうころんでもこのままでは俺は死ぬ。
“ただの一般人”でしかない俺は間違いなく。
「最後に聞きたいことと頼みたい事があるんだ…」
「いいわ、聞いてあげる」
「あんたの名前は?」
「…………ふふっ、この姿は天野夕麻っと名乗ったわ…でも人間の分際で遊ばれてでもここまで逃げたこと、紛れでも私の光力を防いだこと、それを評して本当の名前を教えてあげる」
彼女は最初は『何を言ってるんだこいつ』という顔をしていたがすぐに微笑みそのまま言葉を続けたんだ。
「私の名前は堕天使レイナーレ、生まれ変わっても忘れないでおきなさい」
「成る程…それじゃあ頼みたい事もお願いしていいか?」
「出来る範囲で叶えられるなら、とりあえず聞いてはあげるわ」
一息を吐く、膝立ちで鉄パイプを腰溜めに構えたまま足の傷口を一瞬見た。
出血自体は殆どない、どうも傷口が光で焼けたみたいで、後一撃分くらいは耐えれると思える。
「あんたの胸に抱かれてトドメを刺されたいな、こう…今みたいな侍っぽく格好付けて」
痛みを無視し余裕そうな口調で頼みたいことを伝えると彼女──レイナーレは腹を抱えるように笑い出した。
笑うと美少女なだけあって可愛いぜ。
「おかしな人間ね、もう無理だと悟ったのかしら?いいわ…私の胸に抱かれて安らかに死になさい」
そう言って静かに、それでいてゆっくりと近づいてくる。
俺は目を閉じると意識を済ませた。
鉄パイプを腰に、力を込めて溜めて。
「永遠の眠りにつきなさない、それじゃあ…」
「あんたに一つ嘘を吐いたよ」
不意に俺がそう告げると目の前で怪訝そうにしたのを感じるのと同時に極至近距離で溜めに溜めた鉄パイプを全力で振るう。
「秀綱流の奥居合い四本目…
(全部嘘だったという嘘を、一つだけな)
鉄パイプがなければ恐らくすぐに逃げようとして死んでいただろう。
俺はレイナーレの名前に何一つ興味がなかったしこの鉄パイプを持った時点で死ぬつもりもなかった、侍みたいな格好で死を迎えるなんて真っ平ごめんだっての。
『釜蓋朔日』、居合いのように構える際に手を鞘と見立てて溜め、一気に解放するいわばデコピンの棒バージョンだ。
レイナーレは鉄パイプがひしゃげて手が痺れるほど俺には格上では有ったが胴に入った際に骨が逝く感触は伝わった以上にはダメージが入ったはず。
「ぅ…ぁ……やってくれたわね、この人間風情が!!」
「騙されたあんたが悪い」
「このっ…って言いたいところだけれども、私は今ので脇腹が酷いダメージを被り貴方は焼けたはずの足の穴から血が溢れかえっている、放っておけば貴方は死ぬ以上これ以上の戦闘はデメリットしかないの」
「へぇ…俺はあんたが怒ると思ってたんだが……というかやっぱり死ぬのかよ…くそ、昨日録画したアニメと…今日の深夜アニメは観たかったのに…よ…」
「正直、私としては今すぐにも怒り狂って貴方を跡形もなく消し去りたいくらい…でもそんなことをしてたら悪魔が来て面倒なことになるわ…万が一生きてたら会いましょ?」
痛みを堪えている様子で苦しげに呻くと背中に生えた黒い翼、堕天使の羽で何処かへと飛んでいった。
俺はそれを見届けていたがすぐに視界が暗くなっていき気がつけば倒れ伏せていた。
(くそ…今日……何がやるんだった…かな……あのエ…ゲー……クリアしてねぇ…目の前が………)
俺の意識は其処で断絶した