記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
日の経過は早いことで、翌日――つまり〝ヒッポカンプの騎手〟開催当日。時刻は昼頃で、ゲーム開始まであと半刻程に迫ったなか、〝ノーネーム〟の一行はコミュニティ毎に設けられた更衣室代わりのテントの前に集まっていた。
女性人は既に水着姿になっており、残すところは審判の黒ウサギだけだ。
「――しかしまあ、馬肉とのマジ勝負とはいっても……明らかにこっちは過剰戦力だろ。絵錬とチビッ子達が参加しないってだけ手抜きだが、」
この場にいる面子……特に雪羽を意識して十六夜が呟く。飛鳥と耀もそれには苦笑した。
確かに雪羽(闇邪)は北側でペストと姉の絵錬を打ち倒したり、此処アンダーウッドで巨龍を迸りで消し去ったりと、十六夜以上に結構やらかしてる。そして、彼女のギフトが万物の〝創造〟だというのだから巫山戯てる。更に、これは影禍が隠匿したが……彼女は竜の力を所持している。レティシアや白夜叉とは違った系統の力を………
「えっ? ……もしかして、私、ですか? だ、だからそんな事ありませんって! 皆さんだって十分、」
「謙虚にならなくていい。雪羽達は……悔しいけど、私達よりもずっと強い」
「そうよね……。私達は今も徐々に力を付けてるけど、まだ貴女達には届かないもの……」
「それに、あまり謙遜しすぎると要らん顰蹙を買うぞ。そんなの雪羽が臨む所では無いだろ?」
「うっ、うーん…………は、はぃ。そう、ですね……?」
「………首肯されるってのも少しイラッとくるな」
「ふぇ!? じゃ、じゃあ如何すればいいんですかっ!?」
十六夜の冗談に涙目で縋りつく雪羽。一行に笑いが起こった。
そんなこんなしている内に、如何やら黒ウサギの着替えは終わったようで、彼女はテントから頭だけを覗かせた。けれど、それ以上出てこようとしない。心なしか頬が赤い事からも、恥かしいからだろうと思う。
「お……お、お待たせしました」
「お? ………って、終わったなら出て来いよ」
「い、いや……その、ですね。まだ心の準備が……」
「何に対して準備してるのよ」
じれったい。飛鳥と耀はテントの前まで行くと問答無用で黒ウサギのウサ耳を引っ張った。「フギャァ!?」と乙女らしからぬ悲鳴を上げながら黒ウサギは外へと引きずり出された。
その現れた姿に、一同感嘆を………雪羽は何故か恥かし羨ましそうに赤面する。
「エロいわね」
飛鳥が断言する。
「ああ、エロいな」
十六夜がキッパリと続く。
「うん。エロエロだね」
耀がトドメを入れた。
黒ウサギは、最早ツッコム気力も湧かずに項垂れた。普段から扇情的なディーラーもどきを装っている彼女ではあるが、ここまで破廉恥な格好は200年以上生きてきて一度も無い。勇気をだして着用してみたものの、感想が率直に〝エロい〟だと軽く泣けてもくる。
「ほぁー…………」
「あ、あの雪羽さん? そんなにジロジロ見られると……は、恥かしいのですよ」
「あっ、そ、その……すみません」
「ハハッ。──ま、見蕩れる気持ちも分かるな。アンダーウッド全域を見回しても、ここまで可愛いそうは奴はいねえ。俺ん中じゃダントツで一位だなっ」
「………そ、そうですか」
これまた率直な感想に、ウサ耳が紅潮した。
まあ、ラブコメってのは置いておこう。もう直に、レースは開始する。選手の召集の合図が鳴り響くのは間もなく────
「ねえ雪羽。影禍は参加しないの? というより、ずっと姿が見えないけど……」
「そ、そういえば……そうですね。一応参加申請はしてたみたいですけど、(まさか、まだリンネに捕まってるのかな? 砂羅お姉ちゃん……忘れてる、と思うなぁ……)」
「あいつの事だ。競技が始まればどうせ姿を表すだろ。きっと愉快な演出を引き連れてくれるぜ?」
「愉快すぎて巻き込まれたら洒落にはならないけどね」
雪羽以外の彼らは正直、影禍の実力はまだ把握しきれていない。だが、巨龍を雪羽との喧嘩の迸りっなんて呆れた動機で消し去っした事から、少なからず雪羽に劣らない実力者だとは認識している。
やがて、召集の合図が一帯に響き渡った。
雪羽達はお互いの健闘を掲げ、話を一旦切り上げると会場のスタート地点まで向かう事にした。余計な事は考えず、今は純粋に楽しんで勝つ、ただそれだけを念頭に置いて。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
雪羽達が勇んでゲームのスタート地点に向かっている頃、絵錬とペストは観戦席にて〝サウザンドアイズ〟の幹部・〝ラプラスの悪魔〟の端末小悪魔が映し出すスクリーンを見ていた。小悪魔というのは、以前女性店員が雪羽達を巻き込んで探していた手の平サイズの郡体精霊のことだ。彼女らは情報収集能力に大変優れているようで、このように遠くの景色を別の場所で映し出す事が出来るようだ。その力、と特製に、絵錬は少なからず共感というものを覚えていた。
まだ他の誰にも公言していない……〝記録者〟という立場。その詳細はきっと雪羽達も明かしていないのだろう。特に知られて困るという事は無いのだが、彼らは聞かれないと必要外は答えない主義故、こうして放置され続けてしまったのだ。
絵錬はうなぁ~…と椅子の背凭れに寄り掛かり非常にリラックスしていた。その度に開く外套の隙間から覗く豊満な胸が、厭でも強調される。まして今は水着姿だ、その威力は計り知れない……。ペストは怨恨詰まった双眸を視界の端から排除する。具体的には、
「うにゃっ!? (ガツンッ!)~~~ッ!!?」
寄り掛かって重心のズレた椅子の支点を勢い良く払った。
絵錬は突然バランスを失った椅子ごと後ろに倒れこみ、後頭部を思いっきりぶつけた。
少しスカッと気分が晴れたペストであっ……
「うぅ……何するのさぁペスト!」
「何って、こっちが聞きたいわよ。勝手に倒れておいて私のせいにするの?」
「いやいやっ! 見てたから、バッチリ見たからね!? 躊躇い無く蹴ったじゃん!」
「さあて、レティシア達の販売の手伝いに戻りましょうか」
「露骨に逸らしたねぇ?! ってか、さっきダルイって手伝い止めたばかりだよねぇ!」
絵錬の言葉をシレーと聞き流すペスト。その近くには、会場内を回って飲み物や果実を販売しているレティシアとリリの姿があった。
ほんの四十分程前、ペストと絵錬も競技開始まで暇だったと言う事でそちらの手伝いをしていたのだが、ペストの我が儘……に絵錬の性格が後押しして、レティシアの承諾の後観戦に回っていたのだ。
絵錬は頭を擦りながら椅子に今度はちゃんと座………前に腕と上半身を投げ出す。完全にリラックスモード再開だった。再度胸が、今度はマシュマロ見たく圧され、違った意味で強調される。
「…………チッ」
「ねぇペスト? …………胸を怨んでも大きくはならないよ~?」
「そこの余分な脂肪の塊、切り落としてあげましょうか?」
「エグっ!? あ、あのねペスト。大きくて、何も良い事なんて無いんだよ? 動き辛いし、重くて肩が凝るし……ね?」
「えぇ確かにそのようね。だから死んでよ」
「文脈が成立してないよ!?」
「五月蝿い。ほら、そろそろ始まるみたいよ、」
絵錬の抗議を一蹴して、ペストはスクリーンへと視線を戻した。
舞台の袖から、絵錬に負けず劣らずのプロポーションを誇る黒ウサギがいそいそとマイク片手に現れる。その袖、解説席には、白夜叉とお馴染みストッパー役の女性店員が立っていた。しかも、格好は普段の割烹着ではなくてビキニタイプの水着姿。恐らく白夜叉に強制でもさせられたのだろう。オーナー故、断りは聞きそうに無い、というか聞けない。
絵錬は渋々引き下がると、外套の胸部から臍辺りまでを留め隠し、机の上の〝斑梨ジュース〟を一口飲む。決してだが、黒死病などに掛かりはしない………しない筈。
『──大変長らくお待たせしました! それでは只今より、〝ヒッポカンプの騎手〟を始めさせて頂こうかと思います! 司会進行は毎度お馴染み、黒ウサギが────』
舞台上に上がった黒ウサギが開幕の挨拶をする刹那――――アンダーウッド全域が揺れた。比喩ではない。本当に揺れた………歓声で。
雄々おおおおおおおお――――ッッ!!! と、各場所のスクリーンに注目していた、はたまた舞台前にて集う観衆から、猛々しい歓喜の声が轟く。野太いものが多かったから、大半は……殆どは男共のだろう。
「「「黒ウサギの水着万歳!! 黒ウサギの水着万歳!!」」」
「「「白夜叉様万歳!!! 白夜叉様万歳!!!」」」
「此処に来て良かった………我等、生涯に一片の悔い無し!!!」
いや、悔いるならコミュニティ関係にしろ……なんて意思は彼ら阿呆共に伝わる筈もなかった。
阿呆共が居たのは絵錬達の周りとて例外ではなかった。
「うわぉっ……。黒ウサギったら、凄い人気者だね~」
「…………」
アハハ~と変に感心する絵錬――――の横でペストは、万恨侮蔑絶対零度の三拍子揃った澱んだ瞳で、歓喜極まって卒倒していく者達をまるでゴミでも見るかのように睥睨した。彼女はスッ…と席を立つ。
「ん? ペスト、如何したn――――うぐぅッ!!?」
無言でフードを鷲掴みされ引きずられる絵錬。そのまま倒れ伏す
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
スタートラインには大勢の選手が、開始を今か今かと待っていた。雪羽も飛鳥の隣でその時を待ちに待っているのだが……
「…………飛鳥さん、私ちょっと急用ができました」
「こら。白夜叉がああなのは今更でしょう? ヤるにしても、せめて競技が終わってからにしてね」
「…………分かりました」
滲み出ていた黒い空気を一旦仕舞い込んだ雪羽は、ヒッポカンプの手綱を確りと掴み、同時に赤銅色の立方体を二つ創造した。飛鳥にはそれが如何ような力を秘めているかは理解できなかったが、ヤル気は充分と見て自分もギフトカードから蒼と緋のガントレットを出して両手に付ける。
雪羽や影禍が居れば確かに〝二翼〟との勝負には勝てる(影禍はまだ姿が見えないが)。けど、だからと言って易々と負けてやるつもりは彼女には無かった。強敵は雪羽達も含め他にもいるが、飛鳥はそれに屈することはしない。そう自身を鼓舞した。
スクリーン越しの白夜叉が、ややセクハラが混じったものの真面目な宣言を語り終わり、黒ウサギのルール再確認に移る。
『それでは黒ウサギより、〝ヒッポカンプの騎手〟の最終ルール確認を行います! ――一、水中の落下は即失格! 但し、岸辺や陸に上がるのはOK! ――二、進路は大河だけを使用すること! アラサノ樹海からは分岐路がありますので、各参加者が己の直感で進んでください! ――三、折り返し地点の山頂に群生する〝海樹〟の果実を収穫して帰る事! 以上です!』
黒ウサギの確認が終わった。選手は一斉に表情を引き締める。
そして、白夜叉の準備も整った。
『それでは参加者達よ。指定された物を手に入れ、誰よりも速くカケヌケヨ! 此処に、〝ヒッポカンプの騎手〟の――――開催を宣言する!』
刹那――――一刃の閃きと、白い影が衝突した。