記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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混沌祭-その玖-

 

 最初に動いたのは、影禍の許に戻っていたリンネだった。海中に潜らせていた触手で雪羽と彼女の騎馬を巻き取った。

 その不意打ちに雪羽は槍剣で触手を斬り落とそうとするが、その前に海樹の近くへ開放されたため思わず呆けてしまった。ここで本来なら、騎馬への危害を加えてはならないと言うルールに反してしまうのだが、彼女がしたのは()()()()()()()()()()だ。恐らくセーフだろう。

 そして、同時にフェイス・レスと影禍は動いた。果実を手に入れようと伸ばした蛇腹剣を、影禍の影が阻止する。

 

 

「雪羽、気が変わったわ! さっさと飛鳥さんと一緒にゴールを目指しなさい。本意で、足止めは引き受けてあげるわ」

 

「えっ!? え、ま……お姉ちゃん!?」

 

 

 困惑に駆られる雪羽。そんな彼女にリンネは果実を無理矢理押し付け、触手を全て五指の形状のものに入れ替えた。

 十六夜と明日かも彼女らの意図が読めなかったが、この契機を逃す訳には行かないという判断には直ぐに至った。

 

 

「お嬢様、雪羽。今果実を手にしてんのは二人だけだ。俺が影禍と時間を稼ぐ、その隙に此処を抜けろ」

 

「ちょっと、本気なの? 影禍は私達の、」

 

「分かってるっ。だが、今はアイツの言葉を信じる以外最良の打開策はねえだろ」

 

「………飛鳥さん、行きましょうッ」

 

 

 雪羽は再度アインスとツヴァイを顕現し、飛鳥に訴える。

 飛鳥も、覚悟は決まった彼女に数秒の逡巡を捨てさり、手綱を確りと取った。

 影禍とフェイス・レスの応戦は続いている。レティとリンネは不気味に()()()()()蛟劉を警戒している。今なら……行ける!

 

 だがしかし、やはりというか彼は動きを見せた。

 

 

「うーん……中々楽しんでる所悪いけど、僕も勝ちに行かないといけないわけでな? ほんま、悪いんやけど────一気にケリ付けようか」

 

「「っ!」」

 

 

 レティとリンネは弾かれるように蛟劉へと肉迫した。方や影の龍剣を、方や数多の五指の壁を突っ込ませる。だが……〝覆海大聖〟、蛟魔王はそんなに甘くはない。

 二人は何かに気付いたように、急停止を図る………瞬間、巨大な水柱に飲まれてしまった。二人の実力ならば、この程度の水柱は鬱陶しいだけの障害物に過ぎない。しかしながら、この競技中全身を水に浸かった者はリタイヤとなるルールが存在する。蛟劉は予め距離を測って下がっていたため被害及ばずだが、完全に呑まれてしまった彼女らはもうアウトだ。

 だが、これだけが蛟劉の本命ではない。彼はスッ…と右手を掲げる────途端、一帯を激しい揺れが襲った。その正体は、先程の揺れが流水の逆流とするのなら、これは……

 

 

「え、ま、まさか………つ、津波!? いくらなんでも冗談でしょう?!」

 

「デカイな……! お嬢様、雪羽今すぐ行け! このままゲームオーバーなんぞ笑い話にもなんないぞ!」

 

「は、はい! 行きましょう飛鳥さん!」

 

 

 騎馬に鞭を入れ、雪羽は 先程通ってきた迂回路…………ではなく、流れ落ちる滝を目指し、そして────躊躇なく跳んだ。

 後を追いかけようとした飛鳥は、彼女のまさかの行動に瞠目した。

 

 

「う、嘘……!? ちょ、ちょっと雪羽ちゃん!?」

 

「躊躇うなお嬢様! 続いて跳んでけっ!!」

 

「s…………~~ッ、ああああああもうッ! 後は任せたわよ十六夜君! 影禍!」

 

「オーケー、任された!」

 

「フフ、失敗したら骨くらいは拾ってあげるわ!」

 

「──()()()()()!」

 

 

 影禍の笑えない冗談を聞き流し、騎馬を走らせた飛鳥。きっと心中あれやこれや自棄に叫んでいるだろう彼女は束の間、下からの抵抗の消失そして、一瞬の浮遊感を感じた。何時だったか感じたこの感覚……など思い出す暇も無く、彼女の姿は滝壺に向かって落下していった。

 

 

「あら、彼女も以外に図太い度胸はあったのね────っと、仮面の貴女。今回はもう諦めなさい? 如何足掻いても貴女は逃げられない」

 

「………クッ」

 

 

 フェイス・レスが、きっと初めて悔しそうに歯噛みをした。彼女の体には、影禍が操る影が絡み付いている。影禍の影は場所も環境も選ばない。例え海中の影だろうと、彼女の手足と成り得るのだ。

 しかし、このままでは二人とも津波に呑み込まれてリタイヤとなってしまう。まぁ、影禍がそんな心中みたいな事をするはず無いのだが……

 

 

「十六夜君! 頼んだわ!」

 

「ハハッ! 今日は頼まれてばっかだ、なッ!!」

 

 

 十六夜は影禍が水上に設けた影の足場に跳躍すると、海を割り山河を砕く拳を津波へと振るった。それも一発だけではない、二度三度四度と愚直に殴打し続ける。その拳圧により津波はその勢いをどんどん漸減していき、最終的には半減まで持っていかれた。

 決して勢いが止まった訳ではないが、本来の被害よりは確実に 良い結果だろう。それに、あの程度なら飛鳥と雪羽なら十分切り抜けられる。

 

 

「悪いが、今日は濡れてやるわけにはいかないんだよ」

 

「なんやそれ。まるでしょっちゅう濡れとるみたいな言い草やな」

 

「おう。今んところ月一ペースで全身濡れ濡れだ」

 

「濡れ場の王様ね。賞でもあげようかしら?」

 

「んなもん要らんわっ」

 

 

 そう言う十六夜だが、軽く下半身が濡れてしまったのは最早お約束だ。

 因みに、影禍は無事全身濡れることなくまだ競技続行可能。彼女に捕縛されていたフェイス・レスは、位置の関係上津波を被ってしまい此処でリタイヤだ。

 これで残るは目の前の元・魔王様のみ。彼さえ抑えれば残った選手は雪羽と飛鳥の〝ノーネーム〟コンビ。他の選手はフェイス・レスや影禍達が粗方片付けてしまっている。

 

 

「あー成る程な。落馬扱いは全身水に浸かった場合にみ、か。こりゃしくじったなあ。きっとあの子らも無事かもしれん」

 

「無事だろうさ。お嬢様は箱入り育ちだが、根性は筋金入りでな」

 

「雪羽は意外と負けず嫌いなのよ」

 

「あぁ、何となく分かるな。……最後の最後でお嬢様と張り合ったりしてな」

 

「さぁ? それはあのこ次第ね」

 

 

 二人は痛快そうに笑う。

 

 

「僕としてはそれは願ったり叶ったりやけど……望みは薄いなあ。ま、ええか。取り敢えず君ら、海樹の果実だけ貰って退散してもいい?」

 

「「冗談。逃がすと思う/か?」」

 

「………魔王のゲームを退けた最高の貢献者二人と僕がやりあったら、僕なんて相手にもならんかも――――」

 

「それはやってみなければ分からないでしょう? ……フフ、貴方は七大聖の蛟魔王だもの。最強種を打ち倒せる二人程度、苦でもないでしょ?」

 

「いや、それ僕死んでしまうで……?」

 

 

 愉快におどけてみせる影禍。そんな彼女と十六夜はもう臨戦態勢をとっている。二人の気迫は相当なもので、蛟劉も冗談抜きで冷や汗を掻いている。まだ一人だけだったらマシだったかもされないが……。それでも、余裕を垣間見せているのは己に自信を持っているからか、まぁ何でも良い。

 

 蛟劉はやれやれと首を横に降り、尚も悠然と対峙する。腰に下げる曲刀に手は掛けない。彼は先に飛び出してくるであろう人物を何となくだが想像できた。

 二人も、それが如何いう意味か理解して、影禍は足元から一振りの柄の無い漆黒の刀剣を引き出し、腕を垂れ下げる。それを横目で見た十六夜は、グッと腰を落とすと、

 

 

「――んじゃあ行くぜッ、蛟魔王!!」

 

 

地を思いっきり蹴って蛟劉へと直進し、津波に大穴を開けた一撃を放っ――――

 

 

「………なっ、」

 

「こら少年。幾らなんでもな、格上相手に正面衝突は下策やろ」

 

 

 今まで彼の一撃を止めた者がいなかった故の慢心があったのかもしれない。十六夜の拳はパシンッ! と乾いた音をたてて、受け止められた。

 

 

「ふ~ん? 名だけでは無い、って今更ね。私も空気を読んで武で挑んで上げようかしら」

 

 

 影禍は蛟劉に感心の息を吐くと、引き出したばかりの刀剣を影にと落とし容れた。

 

 

「拳で語るなんて………何時ぶりかしらねェ。柄にないものだからもう忘れたわ、っと。お帰りなさい」

 

 

 蛟劉に吹っ飛ばされた十六夜が戻ってきた。けれど、タダでやられた訳ではなく、如何やら見舞いに蹴りを打ち込んだようだ。あちらも吹っ飛んでいた。

 

 

「貴方……やっぱりブッ飛んでるわね、色々と」

 

「お前らに、だけは、言われたくねえ、ぞ……!」

 

「あらごめんなさい」

 

「………。少年……君、如何いう体の仕組みしてるんや?」

 

「ぐ……二度も、言わせんな。こっちの台詞、だっての……!」

 

 

 意外と周りに格上は多かったと、改めて痛感する十六夜であった。それでも嬉々としてかかっていくのが彼なのだけれども。

 今思えば、十六夜がマトモに格上と戦うのは今回が初めてかもしれない。格上と言えば一番身近なのは白結姉妹だが、雪羽は性格上、影禍は合流した場面上、絵錬はここぞと言う時に寝ていたため、勝負する機会など無いに等しい。結局のところ巡り合わせが悪すぎたのだ。

 そんな彼が、久し振りの興奮を感じている。……まあ、何が言いたいかと言うと、

 

 

「(これってねェ……手を出したら十六夜君が煩くなるわよね……? はぁ、私の楽しみはお預けってことなのね……。今から雪羽を弄りにいこうかしら?)」

 

 

影禍が手持ち無沙汰で少々不機嫌になってしまった。

 しかしまあ、雪羽の後を追いかけようにも、影移動や飛行が禁止な今、障害の無い彼女に追い付くのは至難の技だ。なんと遣る瀬無いことか……

 影禍は仕方無く後ろの海樹の果実を二個取って、片方を食して観戦することにしたのだった。

 

 

「………甘い」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 少し遡って滝から跳び発った雪羽と飛鳥は、お互い本気で競技に入り込んでいた。同じコミュニティであるため、コミュニティとしての勝負は決しているのだが、彼女達は個人で競っている。

 滝からの自由落下という無茶をした二人だったが、雪羽はアインスとツヴァイの障壁を応用して衝撃を緩和。飛鳥は………温存していた水流操作の力を持った琥珀のガントレットで、驚異的な事に、水面を跳ねるなんて神業を為して無事だ。

 

 

「うっ……!」

 

 

 飛鳥の火を操るガントレットによって雪羽のキューブ二機が燃え尽きた。その隙を付いて、飛鳥は雪羽の横に騎馬を追い付けさせた。

 

 

「っ、やりますね飛鳥さん!」

 

「それはどうm………手加減されて言われると無性に腹ただしいわね……」

 

「それは仕方ないです! 私が本気出したら飛鳥さん、直ぐにリタイヤになっちゃいますよ!」

 

「ッ、言ってくれるじゃない! ………水着を剥いじゃおうかしら……?」

 

「飛鳥さん!? 自分がやられて嫌なことを人にしようとしないで下さいよ!?」

 

「何を言ってるの? 雪羽ちゃんだからに決まってるでしょ!」

 

「余計悪質です!?」

 

 

 今雪羽には、飛鳥と自分の姉達が一瞬重なって見えた。

 彼女は切迫した表情で騎馬に鞭を入れて加速する。万が一飛鳥の間合いに入ってしまえば………顔がマジなだけ考えるのも恐ろしかった。

 

 

『いいぞ飛鳥ッ! 最後の興だ、躊躇などいらん! 先の妙技を以てそやつの顔を羞恥に染めてやれいッ!!』

 

「白夜叉さんッ!! 後で覚えててくださいねェ!!?」

 

「雪羽ちゃん、観念しなさい!」

 

 

 飛鳥がかなり本気になってきた。今彼女に影禍の意思が乗り移っていたとしても否定は出来ないだろう。

 

 

「………飛鳥、壊れたか?」

 

「あれは寧ろ八つ当たりじゃない? 何だか今まで表に出さなかった鬱憤を晴らすようだわ」

 

「飛鳥も溜まってたんだねぇ~……」

 

「だからといって、此処で晴らすのも如何なのだ?」

 

「良いんじゃない? 別に」

 

「ぺ、ペストさん……そんな他人事みたいに、」

 

「実際他人事でしょ?」

 

 

 二人の必死の攻防に気が気じゃないリリ。応援をしてあげたい彼女だが、正直どっちかなんて選べないでいた。若干今は雪羽を応援したい気持ちでわあるが……

 

 雪羽と飛鳥はゴールまで残り1キロメートル弱の所まで来た。移動してきた絵錬達からも目視できる距離だ。

 火の力で的確に雪羽の水着を狙う飛鳥はが恐ろしい、そう感じたレティシアとリリ。雪羽の泣きそうな表情に同情を覚えた。

 

 

 

 

――――とまあ、これにて競技はもう()()()を超えた。ここからは………後半戦だ。

 

 

「――――……っ! 来たっ」

 

 

 絵錬が不可思議な笑みを浮かべた。

 ………すると、

 

 

「――――さぁ、猶予は与えましたよぉ、雪羽?」

 

「「…………えっ?」」

 

 

 唐突に河川流域、会場全土にオットリとした声が響いた。それは雪羽にとって、絵錬にとってとても聞き慣れた声音。

 

 刹那だった、

 

 

「きゃッ!」

 

「な、何なの……!?」

 

 

舞台全域を強大な地鳴りが襲った……と思うと、目前と迫っていたゴールが突然姿を消した。………否、遮られた、が正しい。

 

 

『っ、今すぐ映像を上空視点に変えて下さい!』

 

 

 地鳴りの正体に気付いた黒ウサギは、映像を映し出すラプラスの端末達に声を上げた。

 直ちに切り替わる映像。そこには、アラサノ樹海含む河川流域全土が映し出された。映し出された光景を見て、皆は唖然とした。白夜叉でさえ、驚愕に声を出せないでいた。

 

 

「あーあ、遂にやっちゃった。アハハ、本っ当に、()()姉さんも大きく出たね~」

 

 

 スクリーンに映るのは、()()()()()()()。広大な自然が、大きく変動し、コースがその様を変えている様子であった。

 

 

 

 

 

 

 




次でレースは最後だと思います。
何だかんだで最後しか出せない彼女でした……
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