記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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混沌祭-その拾-

 

 

 その少女は、折り返し地点の山頂から眼下を望んでいた。その顔にはオットリとした、それでいて緊迫感を与える笑みが作られていた。

 

 

「ふぅ……これで時間は稼げますね。あの子達の最後の試練となりますかぁ」

 

 

 クスリと笑いを零し、彼女は後ろを振り向いた。其処には、全身ビショ濡れの十六夜と影禍が睨みを利かせていた。二人は、蛟劉が十六夜との殴り合いの末辞退したあと、突如現れた彼女の小規模の()()に前フリなく呑み込まれたのだ。

 影禍は吐き捨てるように呟く。

 

「………想定はしてたつもりだったけど、本当に参加してるとは思わなかったわ……」

 

「チッ……ここに来て真打ち登場かよ。てか、今まで何してたんだアンタ?」

 

「ふふ、少し舞台作りの準備をしていただけです」

 

「……それが、〝大地の変動〟、か。面白えな、真っ先に相手してみたかったぜ、アンタみたいな奴とな」

 

「あらぁ、それは残念でしたねぇ。……ん、そろそろ行きましょうかぁ。折角の舞台、楽しませてあげませんとぉ」

 

 

 彼女はそう言うと、山吹色の外套とスカートをはためかせながら滝の下へと跳んだ。そして、先に行かせていた騎馬に勢いを殺して跨がると、瞬く間に形を変えた樹海の中に消えていった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「くぅ……! ()()()()()!!」

 

 

 飛鳥は茜色のガントレットを掲げ威光を発動、襲い来る〝奇怪植物〟達を纏めて焼き払った。雪羽も長いレースで疲労が溜まってきた騎馬達を回復させながら、応戦していく。

 だが、焼いても焼いてもゾロゾロと現れ、挙句の果てに水霊馬や一部の幻獣らも四方八方と強襲を仕掛けてくる。これらの障害達は、樹海の変動と共に変異&凶暴化が成された様だ。

 

 新たな河川を下りながらの限の無い攻防に、飛鳥は悪態を吐いた。

 

 

「あーもうッ! 雪羽ちゃんのお姉さんは何で皆無茶苦茶なのよっ!! 競技舞台の地形を変えるなんて出鱈目にも程があるわよ!?」

 

「す、すいません……! でもこれでもマシな方なんです! 酷い時は星一つ消えちゃいましたからッ」

 

「そんな人を相手にしてるの私達?! というか、貴女達姉妹って本当に何なのよ!!」

 

「うっ、そ、そのぉ………い、今はそれより! こうなってしまったら早くゴールを見つけ出さないと、この子達もこれ以上無茶をさせる訳にはいかないです────飛鳥さん、傍に寄ってきてください!」

 

 

 雪羽は飛鳥が横に付いたのを確認すると、巨龍を貫いた時と同様の魔方陣を展開。飛鳥が驚く暇も無く閃光を放った巨大な円陣は刹那、周囲の異形共の意識を刈り取った。その隙に包囲網を突破する二人。

 ……本来の競技の障害として、正当なものなのだろうが、ここまで来るともう別の競技に思えてしまう。

 

 

「────あらぁ? 追い着いてしまいましたねぇ」

 

「っ! さ、砂羅お姉ちゃん……!」

 

「っ………!」

 

 

 先程山頂付近に居た筈の彼女の声が聞こえた。後ろを振り返ると、其処には流れを味方につけた砂羅が飛鳥の〝威光〟をも上回る勢いで差迫っていた。飛鳥は、以前出会った時とは全く違う、桁違いの威圧感を放つ彼女に息を呑んだ。浮かべる表情が笑みなのが二人の焦燥と恐怖心を掻き立てる。

 飛鳥の本能は告げた、アレに追いつかれたら最後………いや、最期だと。

 

 

「あらあらぁ、飛鳥さんもご一緒で? 他の参加者の方も見かけませんでしたし…………つまり、雪羽と飛鳥さんを沈めれば必然的に私の一人勝ち……という訳ですねぇ?」

 

「飛鳥さん!! 全速力です! もしお姉ちゃんに捕まったちゃったら…………!」

 

 

 サァー…と雪羽の顔が蒼白になる。一体何を想像したのだろうか?

 

 

「捕まったら? 捕まったら如何なるの雪羽ちゃん……?!」

 

「そうですねぇー………会場の殿方達に裸で媚びては────」

 

「ヒポポさん達、()()()()()ッ!! 兎に角()()()()()ッ……!!」

 

 

 飛鳥は叫んだ。それはもう聞くも嫌な単語が聞こえた瞬間に。

 飛鳥の声に雪羽と彼女の騎馬は今回最高の嘶きを上げ、大河を驀進する。しかし、砂羅は蛟劉とほぼ似通った方法、水の奔流を司って要る為差が中々につかない。また他にも、樹海の変異した生態系を味方につけている彼女を相手取らなければならない。

 二人は砂羅の独擅場にて苦闘を強いられてしまったのだった。

 

 

『KIYSAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!』

 

『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!』

 

「こっのぉっ!! ()()()()()()()!!」

 

「っ、ごめんなさい! ────焼き尽くしてッ!!」

 

 

 本当に申し訳無さそうに謝罪を入れた雪羽は、再度魔方陣を複数展開。飛鳥の顕現する焔に引けを取らない炎を奔らせた。不浄を正す煉獄の奔流は、威光の焔と共に獣と植物の異類異形を蒸発させた。序にと、その熱波に水蒸気が膨大し、視界が白に染まった。

 

 

「………。二人とも、自然破壊は感心しませんよぉ?」

 

「「お姉ちゃん/貴女には言われたくないっ!!」」

 

「…………〝壊れ物〟と〝傷物〟、どちらがお望みですかァ?」

 

「「どっちも嫌だ/よ!?」」

 

「フフ、そうですか………両方ともなんて、最近の子は贅沢ですねぇ。はい、私も大人です。子供の願いは出来るだけ聞いてあげないといけないです」

 

 

 気のせい雪羽と飛鳥の気配が更に遠ざかっていくのを感じた砂羅。彼女はスッ…と目を閉じ、レースラインの残りを確かめる。

 

 

「あと…………2キロ弱ですね。少し趣向が甘かったですか……まぁ、(リミッター)を全掛けの状態ではこれが限度ですねぇ────そろそろチェックを掛けましょう」

 

 

 樹海を侵食する紅蓮を起した濁流で大雑把に鎮火させた砂羅は、騎馬を加速させながら静かに口を動かした。爆走する水音に掻き消され何を紡いだのかは知れないが、異変……というかソレは顕著に現れた。

 

 

「GHOAAAAOOoooooOOOOOOAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「GYYAAAAAAAYOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「ッ! 今度はなにッ………………え?」

 

 

 飛鳥が若干キレ気味に叫び向けた視線の先には…………ギョロリッ! と彼女の顔を映すオニキスの双眸が二つほど。片や蔦や枝葉が、もう片や水分子の集合した二匹の大蛇────と言うよりは龍が、其処には居た。

 途端、声を何処かに置き忘れた音の無い絶叫が響いた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 会場の様子は目紛るしく変化していた。一度あまりにも常識ハズレな展開と光景に唖然とし、次には少女二人の激戦に盛り上がったり。

 そして今、前触れも無く現れた樹海にとぐろを巻く二頭の龍に再び唖然としていた。龍とは言っても、およそ二週間前にアンダーウッドを襲ったあの龍よりかはかなり小さく、大河の幅と同等の胴体を持ったものだ。だが、それが上空と水上にいるというのだから笑えない。

 

 競技もラストスパートに差し掛かりつつある。実況の黒ウサギは、内心で飛鳥と雪羽に声援を送りつつ確りと実況していく。

 会場は……もう〝ノーネーム〟が如何とか関係なく熱い競技状況に大いに沸き立っていた。

 

 

「わぁー砂羅姉さんも本気出してきたなー(棒)」

 

「へぇー(棒)。…………ねえ、レティシア。最強種()の召喚って……あの程度なら太陽の主権とか関係ないの?」

 

「私に聞かれてもな……。系統樹を持たない彼らは私や白夜叉のような主権者以外にも駆使できるという噂は幼少の頃から今までと聞いた事も無い。そもそもあれは、私の知る最強種()とは少々勝手が違う気がするな……」

 

「まあ、少し理が違った龍だからね~。それを言うと雪羽の力も箱庭の蜥蜴とは全っ然違うやぁ」

 

「蜥蜴って……一応〝最強〟種、なのだが……?」

 

「うん? あの輪切りにしたら一生分のお肉になりそうなアレが? あ、でも骨の処理とか面倒そう……あ、骨も食べればいいんじゃ?」

 

「…………」

 

 

 アンダーウッドを貶めかけた箱庭の最強種を蜥蜴、あまつさえお肉と言い下した。

 レティシアは軽く捨鉢な気持ちになり膝を抱え黙り込んでしまった。

 

 

『────見えてきました! 予想外のアクシデントが有りましたが、トップは依然、〝ノーネーム〟久遠飛鳥及び白結雪羽の二名! 続くは〝白星覇〟の白結砂羅! 余す所、800m! 尚も一進一退僅差の攻防は続いています! 』

 

「おっ? ………凄い事になってるねぇー」

 

 

 広がった樹海を漸く抜け黒ウサギが目視できるところまで三人はやってきたようだ。位置の関係上変動した大河は左形に逸れてしまっているため、一部の観客席からは見え辛いが、空を舞う木龍と鎌首を擡げる水龍が遠目でも確認できる。そしてその下方からは盛大な水柱や閃光が迸っている。偶に近くの樹木が宙を舞っているので、誰もが存在を確認できた。

 

 

「…………絵錬。雪羽が先程から行使しているあの魔方陣は何なのだ?」

 

「何って、魔方陣だよ。術を使うための。見た事とかない? フィクションとかで物理科学上ありえない現象を引き起こす人間が追究した奇跡。箱庭って皆現実染みた伝説とか逸話どおりのものばかりでさ~、ああいったカッコイイ夢想ってあまりないよねぇ」

 

「いや、そもそもフィクションとか如何とかって……何?」

 

「え? ……あ、そっか。ペストって時代的に知らないのかー……。丁度魔女狩りなんて風習もあった頃だけど、勝手が全然違うもんね~。ま、興味があるんだったら今度覚えてたら話して上げる」

 

 

 実はこの会場に、雪羽の妙技を不思議に思う人は少なくなかったりする。~~を操るとか、~~を与えるだとか、箱庭は充分に一般常識から外れた現象ばかり溢れた箱庭だが、雪羽の使っている術は、俗にアニメや漫画の創作物に倣った様なものなのだ。外界のそう言った文化に疎い面子の多い箱庭にとっては結構珍しいものだろう。

 因みに雪羽のこの術は、彼女の生まれ故郷でありふれていた技術である。

 

 

──閑話休題──

 

 

 飛鳥はそろそろ限界が近付いていた。騎馬の方もそうだが、かれこれ一時間以上走りっぱなしな上、今の熾烈極まる接戦。元々体力のある方ではない彼女にとって、本来の終盤をとうに超えている戦いは疲弊するも当然だった。

 しかも、今まで頼っていた茜色のガントレットに据えられた火を操る宝珠も、あと一回が限度と言った所。今は琥珀のガントレットも交えてはいるが、下手をすれば自分が失格となってしまうため、あまり乱用は出来ずに居た。

 雪羽はまだまだ余裕ではあるが、戦況はかなり危険。騎馬を走らせながら飛鳥をフォローしつつ砂羅、木龍、水龍の猛攻を耐え凌ぎ、反撃すると言うのはいくら彼女でも辛い。唯一の救いは、砂羅が手加減しているからなのか、大河の水を過度に操っていない事だろう。

 

 

「ぁくっ……うぅ……!」

 

「飛鳥さん! っ、ハアァッ!!」

 

 

 雪羽が木龍の放つ白緑の暴風を、風に触れる剣〝絶風〟で斬り返す。それに続いて、水龍が水中から幾柱も崛起させた白藍の閃光を、紙一重で避けていく。

 猛撃はまだ止まない。最後に彼女らのすぐ後ろに控えている砂羅が前方へと軽く手を振る。たった。たったそれだけで、雪羽と飛鳥を掠めるように亜音速の衝撃波が奔った。

 堪らずバランスを崩しそうになる二人だが、雪羽は予め察知していたので慌てず持ち直し、飛鳥は此処まで来て無様な負けは認めないと意地で持ち直した。

 彼是、数回にもこの接戦は行われている。

 

 

「フフ。────次で沈めます。騎馬に危害は厳禁ですけど、当てなければ何の問題もないですからぁ」

 

「ぐ、うぅ………貴女、絶対に友達以内でしょ!? 性格が陰険よ!!」

 

「フフ、フフフフフ………」

 

 

 幾度と感じた悪寒が飛鳥の背を撫でる。そして再び進行方向前に立った閃光と水柱。だが今度は雪羽が飛鳥を庇うようにそれらを叩き斬った。同時に右手を掲げて陣を展開、異形と樹海を焼いた焔を水龍に向けて放射した。

 

 

「甘いですねぇ」

 

「────GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!?」

 

「っ、」

 

 

 だが砂羅は、上空に居た木龍でその焔を受け止めさせた。構造は所詮自然の植生、瞬く間に燃え尽きた。

 砂羅としては、特に痛手と言うわけでもなし、競技において有利な水を残しただけでも重畳のようだ。余裕の笑みを浮かべて衝撃波をまた放ち、雪羽と飛鳥を分断した。

 

 残り…………400メートル。飛鳥との差は…………無くなった。

 

 

「はぁい、追いつきました。もう逃げられる距離じゃないですよぉ? 観念して諦めては如何ですかぁ?」

 

「ふざけないでッ! ()()()()()!!」

 

 

 決して破廉恥目的ではない。怪我をさせず騎馬に危害を加えないためにはこの手が最前なのだ。

 火の宝玉は、飛鳥の言葉に最期の輝きを見せると、その意思に応じて狼牙の如く剛火は砂羅へと────

 

 

「あらあらぁ? この程度の小火で……私が止まるとでもォ?」

 

 

────届いた瞬間彼女の素手で消し飛ばされた。

 

 

「なっ……う、嘘……!?」

 

「筋は悪くないです。ただ、相手が悪い……それだけですね♪」

 

 

 子供のような邪気無く微笑む砂羅。彼女の右手が飛鳥へと向き、そして……

 

 

「ぐっ……!!」

 

「ゆ、雪羽ちゃん!?」

 

 

 叩き落される、そう覚悟した飛鳥に衝撃は訪れなかった。何故なら、彼女の目の前に雪羽が回りこんできたのだから。衝撃波を庇ったからか、両腕に酷い痣が出来ていた。

 

 

「?」

 

 

 ふと砂羅が後ろを横目で見ると、何時の間にか水龍が跡形も無く消滅していた。

 

 

「(あらぁ? 少しこっちに意識が向きすぎてしまいましたかぁ?)っ!」

 

「つ、かまえたよッ……お姉ちゃん!」

 

 

 余計な思考が隙を生む。砂羅は、騎馬から跳躍した雪羽に抱きつく形で捕まえられた。

 

 

「(……あぁ、駄目ですね。これは大人しく落とされてしまいましょうかぁ……。ふふ、最後の最後で心身隙だらけなんて、三流芸も良い所ですよぉ)」

 

 

 砂羅は笑う。キッ! と睨んでくる空色の瞳が、今日はとても勇ましく見えた。

 

 ゴールまで残り凡そ50メートル。一騎の騎手と騎馬を背に、水飛沫が一つ上がる。その数秒後、〝アンダーウッド〟を揺らす程の拍手喝采が、一人の少女に贈られたのだった。

 

 

 

 

 

「ぷはぁー! はぁ…はぁ……」

 

「フフ、残念。負けてしまいましたぁ」

 

「…………」

 

「? 如何したのですか雪羽、浮かない顔ですけど。お友達が優勝できたのですよ?」

 

「うぅーん…………何だかね、勝たしてもらった感が強くて……素直に喜べな────イタっ!」

 

「こら雪羽。私はそんな事を言う妹は嫌いですよっ? 例え事実だとしても、ここは素直に喜んでおくべき所なんですっ」

 

「………………うん」

 

「はい、分かれば宜しいです。さ、何時までも河の中というのも何ですし、飛鳥さんの祝勝に行きましょう?」

 

「う、うn────ッ!!?」

 

「あらぁ? 雪羽? ほらぁ、早く行きますよぉ?」

 

「ま、待って!! あ、あれ……!? 私のみ、水着は……珠は………!?」

 

 

※珠……姉妹の外套に付いてる衣装換装機能etc……の機能が付いたブローチ。

 

 河面に立つ砂羅。その手には雪羽のブローチと水着が(上下一式)…………

 やっとそれに気付いた雪羽。

 

 

「あ、か、返して! 返してお姉ちゃん!?」

 

「はいはい──────絵錬~」

 

『<りょうか~い>』

 

 

 二人の視界が一転。砂羅は絵錬の直ぐ横に。

 雪羽は…………

 

 

「うぎゅっ……!?」

 

「わっ!? ちょ、ちょっと雪羽ちゃん?! 大丈……夫…………?」

 

「え、あ、えぇ、ええっ!? 雪羽さん?! 」

 

「あ、飛鳥さん? 黒ウサギさ…………ッ!!? ~~~~ッ!!?!?」

 

 

飛鳥と黒ウサギの跨る騎馬、丁度飛鳥の元に。

 

 刹那。観客の歓声と、男共の喜声と、白夜叉の賛美、雪羽の耳を劈くような悲鳴がアンダーウッドを鳴動させるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次で五巻は終了
その際ですけど、原作の進行に合わせて一旦超不定期更新になります。
その間、他のに作品を出来るだけ追いつかせたいと思ってますので、ご容赦下さい。

それでは~、
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