記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
その日の朝、久遠飛鳥は〝ノーネーム〟の本拠を珍しく焦燥に駆られ走っていた。視線は無駄に広い屋敷の中を忙しなく行き交い、時に急ブレーキを掛けて配置された家具の隙間を隈無く見ていく。もしかしなくても何かを探しているのは明白だ。
「くっ……! 何処にいったのよ……!」
「……飛鳥? どうかした(ガシッ!)のッ?! え、あ、飛鳥……? 本当にどうしたの?」
偶々通りかかった耀は、尋常じゃない様子で肩を掴んできた飛鳥にビビりながらも問うてみた。
飛鳥は(言っちゃ悪いが宛ら変態のように)息を荒げ、蒼白になりながら、
「か、春日部さん……私のギフトカードが、行方不明なんだけど……み、見てない?」
「………………えっ?」
やってはいけないミスを耀に告げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え、えええええええ?! ギフトガードが無くなったって……本当なのですか飛鳥さん?! え、えっ? ど、何処で無くされたのですかっ?」
「それが分かっていたらわざわざ聞いたりしないわよっ!」
「た、確かにそうですね……」
あの後、飛鳥と耀は黒ウサギとレティシアの元を訪ね、事の詳細を伝えギフトカード捜索の協力を煽いだ。話を聞いた黒ウサギは飛鳥同様顔面蒼白になり、レティシアは冷静に飛鳥からの情報より分析を行う。
だが、飛鳥曰く昨日の夜までは確かにあったらしく、就寝前にちゃんと服の懐に仕舞ったとのこと。だとすると、彼女のギフトカードは彼女が眠りに就いた深夜帯に誰かに奪われた事になる。
そう考えると、少し無理が生じる。
第一に、もし侵入者がいるとすれば、気配察知に優れている白結姉妹と十六夜、黒ウサギが気付かない筈がない。確実に騒がしくなる。
第二に、何故飛鳥のギフトカードを奪ったのか? こう言うのもアレだが、優れたギフトなら〝ノーネーム〟の宝物庫に埋まっている物を持ち去った方が利口だ。または耀の〝生命の目録〟だろう。確かに飛鳥のギフトカード内には神珍鉄の巨大人形『ディーン』に加え、アンダーウッドで授かった数々の高価なギフトが収納されているが、それでも奪うにおいての安全性が事欠かれるのだ。
「……まあ、狙われたのだとしたら十中八九『ディーン』だろうな。錬成と加工には特殊な技法を用いるとは言え、あのままでも充分に利用は利く」
「で、でも! ディーンは私を主としてるのよ? 勝手に扱おうものなら只では済まないわ!」
「本拠に、誰にも悟られずに侵入できる時点で相応の実力者だと分かる。神珍鉄の魔神でも押さえる事が可能かもしれない」
「そ、そんn……くッ!」
「と、兎に角! 十六夜さんや雪羽さんたちにも手伝って貰って探しましょう! 此処で悔いても何も変わりません!」
ギリッと歯を噛み締める飛鳥。その手も、血が滲んでしまうのではないかという程に握りしめられている。
一行は迅速に行動を開始しようと、まずは他の面子を呼び掛けに行く事にした。……と、
「ん? どしたの~皆、随分とお暗い雰囲気でいらっしゃるけど?」
「あ、絵錬」
広間へとやって来たのは、一体何処で掠めてきたのか茶請け用の煎餅の束を持った絵錬だった。今日は農園の方に行っているのか、珍しくペストと一緒じゃない。
丁度良い、よりは最も最適な人物が現れた。空間把握に長け転移も自在に出来る彼女がいれば犯人を早々に見つけられるかもしれない。
飛鳥たちは、緊張感とは縁遠く煎餅を咥えた絵錬に事情を説明した。
すると、暫くポケ~としていた彼女から、一同が思わず驚愕するような言葉が返ってきた。
「んー? 飛鳥のギフトカードなら~……影禍と闇邪が地下の工房に持ってったけど?」
「「「「………………はっ?」」」」
それから数秒後。我に帰った飛鳥は、鬼の様な形相で地下の工房まで猛ダッシュしていった。
「おぉ~、おっかないねぇ。んじゃ、私はペストの所にでも行ってくるねぇ。ほんじゃらばァ~――――」
フルフルと手を振って絵錬はヒュンッと消え去る。
残された耀、黒ウサギ、レティシアの三人は、何かを言おうと唇を開き、結局閉じる。そしてお互いに何度か顔を見合わせ、取り敢えず飛鳥を追いかけようと広間を後にした。
~その頃、〝ノーネーム〟地下の工房にて~
ギフトカードから出したディーンを目の前にして、影禍と(久しぶりに出てきた)闇邪は何やら話し合っていた。と言うか、本人以外がギフトをカードから取り出せなかったと思うのだが…………そこはきっと気にしてはいけないのだろう。
二人の会話は何処から見ても楽しそうで、飛鳥から無断で物を盗ってきた罪悪感の『ざ』の字も見られない。
そんな二人に、どう間に入っていいのか逡巡してた雪羽が声を掛ける。
『お、お姉ちゃんっ、闇邪も……飛鳥さん絶対に怒ってるってっ。 余計な事しないで早く返してあげようよ……』
「余計? なに言ってんの雪羽、この機会を逃して何時やるの? …………それに、」
「今ネタに入ろうか迷ったわね」
「それにっ! ……コホン、飛鳥にだって損はないでしょ? もれなく戦力強化が出来るんだから。雪羽のギフト追加のお誘いは全部断ってたけど、ハッキリ言って彼女、この先下手したら死ぬかもしれないしねぇ」
『…………そ、それでも、無断で持ってきちゃったのは駄目だよっ。今からでも謝りに行こう? ね?』
実際はもう手遅れなのだが、謝るのと謝らないのとではもしかしたら……があるかもしれない。
闇邪と影禍は思いのほか悩む素振を見せる。片や可愛い妹、片や二心同体の存在は、自分たちを思っての忠告を真摯に受け止めようかどうか、一応考えている。
暫くして、意思は決定したようだ。
「はぁ……仕方ないわねぇ」
「相棒の頼みだもんね。無碍には出来ないよ」
『っ! じゃ、じゃあっ────』
「「さっさと改造して謝りに行きましょうか/行こうか」」
『分かってないじゃん!? やってから謝っても意味無いでしょッ?!』
雪羽の叫びを華麗にスルーして、二人は……主に闇邪が手を向けディーンへと意識を集中させ始める。影禍はその補助。
今からやるのは、闇邪がチラリと言ったがディーンの改造だ。理由は……例によって何となくで、一切後先の事など考えていないが、飛鳥には絶対的に損は無い。何せ
影禍が伽藍堂の内部を細かく、的確に指示を飛ばし、闇邪がその箇所を内外部と共に補完していく。あくまで神珍鉄という稀少金属はそのままで……と言うよりは、神珍鉄と闇邪仕込の鉄鋼を上手く合成する。これで強度は格段に上がると思われ、後で影禍が耐久度テストを行うつもりらしい。
たった数分で、全体の半分が強化修了。雪羽はもう叫ぶ事も止めて、ドンヨリとした雰囲気を闇邪にぶつける煩わし過ぎる微かな抵抗をしながら事の成り行きを見守る………と、その時、
「影禍ァッ!!! 闇邪ァッ!!! そこに居るのねッ?! 大人しく私のギフトカードを返しなさいッ!!」
「チッ……思ったより早かったわね(絵錬がバラしたのね……)闇邪、残りは?」
「んーっ……! ちょ、ちょっと待って………………あと三割、かな!」
「間に合わ……ないかしら? ……レティ! ちょっと足止めをしてきなさい」
「……、…………」
影禍の影からこちらもやや久しぶり、レティがヌッと這い出てきた。彼女は影禍の指示に呆れた様子を示しながらも、大人しく工房の入り口へと大剣片手に飛んでいく。
〝ノーネーム〟の工房は図書館同様そこそこに広大で、区画の様な物が設けられている。影禍たちが居るのは飛鳥の事を考慮して最奥。随分と使われておらず多少埃が目立っていたが、作業には支障は無い。
猛然と迫る飛鳥が丁度中程までに到達した所で、彼女の進路を身の丈同じくらいの大剣が遮る。ハッと顔を上げてみれば、悄然と柄先に佇むレティが……。
飛鳥の表情が一層険しくなる。
「レティ、直ぐに退きなさい……。今ならまだ、貴女だけは許してあげる」
「………。…………、」
レティは渋々といった感じだが、首を横に振る。相変わらずの無言動作。いい加減声を出せるようにしてあげた方が疎通も楽になるのだろうが、影禍が不便を感じない限りそれもない。
ギリッと拳が握り締められる。許すとは言っても、今の飛鳥にはギフト〝威光〟しか使えるギフトがなく、その〝威光〟でさえ霊格が高い相手には通用しない。レティはレティシアが元になっている上、影禍の霊格の補正を受けている。実力は全盛期のレティシア以上かもしれないのだ。
そんな彼女に飛鳥が対抗する術は無い。飛鳥は己の無力さを呪った。
こんな姉妹の暇潰しで無力を知らしめられる飛鳥……非常に気の毒である。
飛鳥が立ち往生を喰らっている所へ、後を追いかけてきた三人も合流した────と、同時に、
「ふぅ~、終わった終わった。久しぶりの傑作品だねっ。雪羽が遣竜工房でお父さんに
『わ、私の〝一生の誓い〟と闇邪の不純な考えを同じにしないでよっ! あとそれ私の出生がバレちゃう!』
「別にいいじゃない、隠す事でもないでしょう……お姫様? フフフっ」
『…………もう知らないっ……』
そう言って、雪羽は深層に引き篭もってしまった。
そんな彼女は置いておき、取り敢えずディーンをギフトカードに仕舞い込む。あと、その序とばかりに別のギフトを何個か取り出し、少しだけ弄った。何をしたのか、それは悪ドイ二人の笑みから察するしかない。
二人は影を伝ってレティの傍に移動した。途端に、飛鳥が二人へと詰め寄る。
「ちょっと二人とも! 私のカードはどこ?! 今直ぐ
「はいはい、そう
「…………誰だっけ?」
「闇邪! 雪羽の別人格の闇邪っ!! 出番が殆どなかったからって忘れるのは酷くない?!」
「ご、ごめん……」
久しぶりだったからか、雪羽の黒髪バージョン=闇邪という事をスッカリ忘れていた耀。闇邪も思わず悠然さを崩して突っ掛かってしまった。
そんな二人を横目にレティシアは、影禍へと事の事情を問う。
「影禍、今回は一体何を企んでいたんだ?」
「フフ、別に? ちょっと飛鳥のお人形さんを改造しただけよ」
「ちょ、ちょっと? それってどういう事よ……!?」
「そのままの意味だけど? 安心しなさい、『改悪』ではなくて『改良』である事は保障するわ。それに、改造とは言えば聞こえが悪いけど、性質は今までの通りよ。変に機能とか追加してないから、」
「そういう問題じゃないでしょう?! ディーンの所有者は私なの! 本人の許可も取らないで……人とし可笑しいわ!」
「あらっ、褒めてくれるの? ありがとう♪ 私もやりがいがあったてものだわ~」
「褒めてないから!! ──もういいわ! 改良と言ったわね? なら、貴女で試させてもらうわ! その位の責任は取って然りでしょ?」
「え? あ、飛鳥さん?! いくらなんでも争いごとはいけませんよ!」
「黒ウサギは黙ってて! ……この際よ、実力をハッキリさせましょう御・チ・ビ・さ・ん!」
「…………青臭い箱入りお嬢様ね。いいわ、その無謀さだけは評価してあげる。精々その端正なベビーフェイスが涙でグシャグシャにならないようにねェ!」
「影禍さんも! 挑発し返さないでください! って、少しは話をッ……ま、待ってください二人とも! まだ話せば和解も出来ますからっ、何卒懸命な判断を……って、だから話を聞いてくださいってばーーーー!」
黒ウサギの絶叫を背後に、飛鳥と影禍は外へと駆け出していってしまう。
今思うと、あの二人ってあそこまで仲が悪かったか? と思う所だが、まぁそれはいいとして。これまた残された一同は、闇邪を除き頭が痛そうに溜め息を吐くと、工房を後にした。
今日は何とも騒ぎの多い一日だった。だが、この騒動は数週間後に確かな結果の補正となりえるものになるとは……恐らく誰も知りえないだろう。
──本日の結論としては、今日もノーネームは平和であった。
因みに、影禍と飛鳥の正面衝突はの結果は……ごう想像にお任せします。
作品ごとに文章がシッチャカメッチャカになる癖を如何にかしたいです……