記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「あははっ、ごめんってばジン~。最初から地面の近くに転移しちゃうと二人が危なかったからさぁ? 取り敢えず空中に出る必要があったんだよ~」
「だからってあんな上に出る必要ありませんでしたよね?! それに半分くらい普通に落ちました!!」
「ジン煩いわよ。高々200メートル落ちたくらい、ザクロにならなかっただけマシでしょ(ホント、後少し惜しかったわ……」
「ペスト、本音が零れてるよぉ~」
『煌焔の都市』にやってきて早々パラシュート無しのスカイダイビングを体験する羽目となったジンの抗議を一言で切り捨てるペスト。ついでに黒い本音も若干洩れたが、素知らぬ顔で視線を外して二度目の訪問となる北の都市を眺望し始めた。
ジンはとても言い返したそうに口を開けるも、自由落下のせいで少々気分が優れないのか情けなく絵錬の腕に掴まっている。そしてそんな彼の頭に手を置いて絵錬は屈託なく笑う。
この時点でジンの心中に別の意味で不安の種が生じた。果たして自分はこの二人の手綱をちゃんと最後まで握れるのか、と。
片や中々に素直じゃない流行り病の霊群様、片や謎多き空間操作の人間? 普通なら隷属の主として命令を下し自重をして欲しい所。だが残念な事に、ジンにはそれを可能にするギフトがあっても今は使えない……正確には使う機会を違えてしまっていた。
因みに、名義上二人の隷属主は雪羽であるのだが、恐らく誰も覚えていないだろう。
とまぁそれはさておき、最初に襲撃したためか北側に思う所がある様子のペスト……の横で、そんな事はおくびにも出さないのか、それとも疾うの昔に置き去りにした様子の絵錬は、都市の中央部に見える巨大ペンダントランプを仰ぎ見て感嘆を洩らした。
「いやぁ~それにしても、デッカイねぇアレ。上から見た時も相当だったけど、下から見るとまた圧巻だよぉ~」
「北側を統治する〝サラマンドラ〟の象徴とも言える恩恵だからね。……それにしても、アレ一つでこの地を寒冷から守ってるなんて、やっぱり何時見ても凄いなあ……」
「……そうね」
特に興味が向かないのか、それ以前に召集会には呼ばれている事がやはり憂鬱なのか、覇気の無く欠伸を噛み殺すペスト。何か暇潰しになりそうな物はないのかと思ったのだが、そう自由が利く身でもないのを思いだし余計陰鬱になった。
取り敢えず、このまま突っ立てるのも嫌なので今後の予定をジンに問うた。
「ねえジン、東の蛟魔王は明日の到着みたいだけど。それまで私達はどうするの?」
「まだ何もないよ。他の地域の支配者が揃うまでも一週間は掛かから、今日はまだ準備期間だね。だから暫くはのんびり過ごしてても問題無いかな」
「うーん? って事は……観光とか食べ歩きとか出来るねっ。
ジン、ペスト。折角だし色々見て回ろ?」
絵錬のマイペースさは平常運転のようで、ジンも多少は慣れたのか苦笑を浮かべて「程々にね」と念を押し許可した。例え止めたとしても彼女なら勝手にフラフラっといなくなってしまうのだ。それなら最初から許容は見せた方が良い。出来る限り下手に動き回らないで貰うのが最良ではあるが……。
しかし、一ヶ月以上寝た分ハイになってる絵錬に対して、ペストは変わらずに素っ気無かった。
「召集会と称した尋問会を控えてると言うのに……はぁ、悠長な物ね」
「あはは。だって私は聞かれても何も答えられる事無いもん。結局情報を持ってるのはペストだけなんだからさ」
「…………」
ペストの疑惑に恨めしさに満ちた視線が絵錬に突き刺さる。しかし絵錬はそんな物気にした風もなく胡散臭い笑みを見せた。神経を非常に逆撫でするような笑みだ。
反射的にペストは何時もみたく彼女の腹部を打とうとする。が、その前にやって来た二人の訪問者のせいで制止してしまった。
「ジン、久しぶり! そろそろ来る頃だと思ってた!」
「ヤホホ! お久しぶりですジン殿!」
訪問者は〝サラマンドラ〟の首領・サンドラと〝ウィル・オ・ウィスプ〟のジャックだった。
ジャックの頭上に腰掛けていたサンドラはジンを見付けるなり子供らしい満面の笑みを浮かべる。ジャックについて相変わらず陽気であった。
どうして二人とこの様な所で出会したかと言うと、曰く新しい恩恵の開発について工房街で話していたようで、その帰りに偶々ジン達を見付けたらしい。
ジンとサンドラ達が会話に花咲かせる中、ふとサンドラは彼の隣にメイド姿で憮然とするペストと悠然とする絵錬を視界に捉え、途端笑みを消し表情険しくなった。
と、そんな彼女の様子を意に介す事もなく絵錬はマジマジとサンドラの顔を覗きこんだ。そのせいか余計に空気が剣呑になってきた……と思ったら、
「……あっ、あぁ~。君、あの時炎をバカスカ飛ばしてきてた女の子かぁ! いやぁ~もう、暫く顔見てなかったからスッカリ忘れてたよぉ~。それに前より大分強くなった感じ? ……うんっ、今のペストの五倍位はいけるんじゃないかな、あははっ。
――――っと、忘れてるかもしれないし念のための自己紹介でもしよっか? 私はエレン、絵錬だよぉ~。君は?」
「え……サ、サンドラ」
「そかそっか、サンドラ……ちゃんね。うんっ、今度こそ覚えたっ。
んでサンドラちゃん、私達って召集会に呼ばれた身な訳でね? 同席する時はお手柔らかに頼むよ~」
矢継ぎ早に自分のペースに空気を持っていった絵錬。最後には彼女の手をとって握手を交わしたかと思うと、彼女の行動に呆けていたペストを正面に抱えてのんびりとその場を後にしてしまった。
何とも無駄の無い様で意味不明でしかない流れるような言動。サンドラ達は暫し呆然としてしまう。そして数瞬程して理解した。まんまと逃げられた、と。
そしてその後、ジンがサンドラへと必死に謝罪をして、それも束の間、都市の象徴である巨大ペンダントランプの上に影禍達が登っているのを発見し頭を抱えるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――――皆ちゃんと着いてこれた?」
煌々と輝く巨大ペンダントランプの上。その一部に生じていた影が不意に色濃く広がり、その中から小柄な体躯の
「っとと……、影禍の影ってこんな便利な使い方もあったのね。どうして今まで教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったからね。それに、この世界に来てから結構使ってるよ? ただタイミングが宜しくなかっただけだね」
「……何だが十八番をとられた気分」
「アハハっ。確かに、影が少しでもないといけないって制約はあっても隠密に適して移動も限りなく短いから耀さんの風で飛ぶより万倍も便利かも? まあその分地味で性格に似て陰険だからそんなに落ち込む事ないって」
「ってか、そもそも春日部の風はギフトの副産物みたいなもんだろ? 一辺倒な黒チビのギフトよりはまだ華がある上応用も利くさ」
「…………へえ? それじゃあ二人とも、僕の『地味』で『陰険』なギフトを是非体験してみようか? 拒否権はないよ」
「「ハハハハッ、だが断る!!」」
〝サラマンドラ〟の象徴であるランプの上ではしゃぐ一行。間違いなく大目玉を喰らうであろう所業をしているというのに気負いの様子は全く見られない。寧ろ、ランプに被害を齎さない程度に軽く暴れたり弁当を持参したりして寛ぐ気満々であった。
離れた所ではジンが肝を冷やし、下方では既に〝サラマンドラ〟の憲兵の方々が集まって来て怒声を上げてるが、てんで聞く耳構う気持たずで和気藹々と歓談を始めた。
因みにこの時、闇邪の内側で雪羽は……、
『ね、ねえ闇邪! 直ぐに降りようよ! ほら、サラマンドラの人達皆カンカンだよ!? 今ならまだ間に合うと思うから! ねえッ『煩い雪羽』(プツン)……――――』
闇邪へと必死に制止を呼び掛けていた……のだが、喧しいと強制的に疎通をシャットアウトされてしまった。
ところで、何故現在闇邪が表に出ているのかと言うとだが……何て理由はない。ただあまりにも最近表に出る回数が少なく楽しみ事を逃してしまっているので変わって貰っているだけである。
一方の影禍がしょt……少年になっているのも、どうやら気分だそうだ。
「……そういえば耀さん。確か何かのギフトゲームに登録してたよね? 何のゲームに出る予定なの?」
「ん……んく、ふぅ……。火龍誕生祭でも開催した〝造物主の決闘〟だよ」
「へぇ、って事はリベンジか。以前とは違って〝
「ちょっと、それは少し失礼よ十六夜君。出るからには優勝を狙うに決まってるでしょ? 私達が下を見据えてどうするのよ」
「ヤハハッ、そりゃ悪かった」
軽快に笑いながらではあるが反省はする十六夜。確かにギフトゲームに出るからには狙うは優勝のみ。途中で負けようなど彼らの意地が許さないだろう。
春日部も、皆の期待をしかと受けとめ英気付けと言わんばかりに、闇邪が次々と創り出す取り敢えず旨い握り飯を消費していった。闇邪……能力の無駄使いも甚だしい物である。
「十六夜君と飛鳥さんは? 何かこの後予定でもあるの?」
アホみたいな供給者と消費者のやり取りに呆れを示しつつ、影禍は二人に問う。
「俺は特に無いな。今日はお嬢様に付いて行ってからは普通に都市の散策に行くつもりだ」
「ふーん? 珍しいね。何時もなら僕達が丸潰れにしてる計画を常日頃に練ってるような君がノープランだなんて」
「ま、俺だってそういう時くらいあるさ。ってか、お前ら今の今まで故意でやってたのかよ。色々と揉むぞ、雪羽を」
「ッ――――ちょっ!? なんで私なんですか十六夜さ――――あーもうっ! 勝手に出てこないで雪羽!
全く……あ、雪羽なら別に好きにしてくれちゃって良いよ? なんなら……近いうちに弄んでみる? 予約は先着三人までね~」
「「「取った!」」」
『取らないで下さい!!? あ、ま、待ってあんj(プツン)……――――』
ニヤニヤと笑みを浮かべる闇邪。如何せん顔立ちは雪羽のまんまなので非常に違和感が……無くは無かった。
勿論好きにして良いとは冗談だ。いくら雪羽より羞恥心等が無いにも程がある彼女でも玩具にされるのはあまり進める物ではない。
それを十六夜達も理解しているのか、話は呆気なく元に戻っていった。
「私は今十六夜君が言ったけど、少し工房街の方に行く予定よ。なんでもジャックがプレゼントを用意してくれてるみたいなの。そうよね十六夜君?」
「ん? 何だ知ってたのか。お嬢様を驚かせようとサプライズとして黙ってたんだがな……」
「ふふ、ごめんねェ十六夜君? 僕、熟々陰湿な質だからさぁ、うっかり話しちゃった♪」
「おおそうか。まぁなんだ、取り敢えず一発殴らせろや黒チビ」
「フフフ、嫌だよっ♪」
爽やかな笑みを浮かべ眉ながらも眉間をひくつかせる十六夜にやたら楽しそうに挑発する影禍。何とも和ましい光景だと思う。本当、下で先程より激しく怒声を飛ばすマンドラや、一同の後ろで憤怒の笑みを浮かべる黒ウサギさえ気にならないくらいに……。
「よっと、それじゃあこの辺で一旦解散しよっか。私は……面白そうだし十六夜達に付いて行くね。影禍はどうするの?」
「僕は……暇な事だし春日部さんに付いて行く事にするよ。一人じゃ寂しいでしょ?」
「…………ありがとう」
「どういたしまして」
少し遅くなった昼食も取り終え、これからの行動予定を決めた彼らは立ち上がり背伸びをした。当然ながら下からの怒声やら後ろの噴気は全て無視
「フフフ…………いい加減に無視するのも止めてくれませんかねェこの問題児様方あああああああああっ!!!」
――――出来なかった。
しつこい位に無視され続けた黒ウサギはとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのか、お馴染みのハリセンをフルスイング。一同を……直前に影に逃げ込んだ影禍と耀以外をペンダントランプの上から叩き落としてしまう。
そして、ここから半刻程に亘って、問題児達と〝サラマンドラ〟の尖兵達との熾烈な鬼ごっこが繰り広げられる事となるのであった。
ツッコミ役(雪羽)が一時退場。