記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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絵錬は漫然と、影禍は憤然と

 

 

 

 可笑しい……。絵錬は自身の目と直感を当てにそう思った。どうにも先程からペストの様子が可笑しいのだ。フードを被っていたローブ姿の少年少女、名前は今さっき伺ったところ白髪の少年が殿下。黒髪の少女がリンと言うらしい。サンドラと一緒に宮廷からこっそりと抜け出してきたようだが、ハッキリ言って怪しい事この上ない。

 だがそれもその筈。彼らは以前、アンダーウッドの魔王騒動の時、影禍が影の中から観察していた者達。今現在の呼称で呼ぶなら魔王連盟に所属する最重要人物……よりは最早中核を担っている人物なのだ。そして、ペストが様子を急変させたのは、北の都市を襲撃する前に彼女も彼等魔王連盟と共に行動していたからだ。とすれば当然、絵錬が彼らの事を知っている筈はない。何せ彼女はアンダーウッドでも地上をずっと担当しており、接触したのも竪琴で天候を操り巨人族を指揮していたローブの女性だけである。それで、唯一彼らを知る影禍は今頃耀とこの北の都市の何処かをうろついている事だろう。

 

 しかしながら、絵錬はこの状況を今直ぐにでも察する事が出来る。彼女は〝記録者〟だ。世界を渡る術を持ち、世界の構造を知り尽くし、全ての可能性を蒐集する役目を担う〝全てに外された存在〟である。その気になれば、リンと殿下の素性位手足を動かすように知ることが出来るだろう。

 ……でも、

 

 

(〝記録〟を覗いちゃう……? いやいや、それじゃツマンナイよねぇ~。……うん、少しだけ泳がせてみようかな?)

 

 

 役を担っている割には拘束力の無いそれ。彼等は殆どの場合を己の欲求感情で過ごす気分屋の面が強い。

 気分で傍観に徹したり、気分で他人事情を引っ掻き回したり、気分で人をからかったり、気分で人にからかわれたり、気分で世界を救ったり、気分で世界を滅ぼしたり……。兎に角全てはその時その時の彼女達次第。そしてそれだけの余裕を持てる〝力〟を、〝存在〟を有しているのだ。

 

 

 幼気で天真爛漫を装うリンとお互い朗らかに会話を交える絵錬。彼女に、今直ぐにでも事情を明かしたいペストだが、少しでも不審な挙動をすれば目の前の二人が黙っていない。それ程にこの二人は危険極まりないのだ。

 勿論、ペストは絵錬と言う規格外の力を目の当たりにし、理解している。それでも、災厄と謳われる魔王相手にこの場で事を起されるのは彼女とて御免被りたい。故に、内心焦りを感じながらも黙っているしかない。

 こんな時でもマイペースでいれらる絵錬が少し羨ましいと思うペストであった。

 

 

「あははっ♪ 絵錬さんって面白いねー。何て言うのかなー……お話してても飽きない?」

「おぉ? それは嬉しいこと言ってくれるじゃないの~リンちゃん。────いや~それにしても? まさかリンちゃん達とペストが知り合いだなんて……お姉さん嫉妬しちゃうなぁ~」

「いえいえそれ程でもっ。私達もペストちゃんにこんな所で出会うとは思ってませんでしたよー♪ ね、ペストちゃん?」

 

 

 急に話を振られてペストは一瞬言葉に詰まった。だが、違和感を悟られない程にほんの一瞬である。

 

 

「そ、そうね…………久しぶり、リン。殿下」

「あぁ。そっちも元気にやってるみたいで安心した。愉快な同士も居るみたいだしな」

「だね~。でも、本当に偶然。まさか〝サラマンドラ〟の本拠、それもこんなタイミングで会うなんて思わなかったよ」

「っ……」

 

 

 ペストは心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。だが、隣には変な所で聡い絵錬が居る。もしかしたら自身やリン達の僅かな機微を察してくれるかもしれない。

 チラリと彼女は視線を流す。相変わらず何を考えているのか分からない曖昧な笑みを浮かべている絵錬。彼女がこの状況をちゃんと理解しているのか……不安は拭えない。が、逆に言えば信じるしかなかった。

 リンは保身と追跡においては埒外も良い所のギフトを所持している。しかし、絵錬はその完全な上位互換だと認識している。今彼女が覚ってくれれば、一時は現状を脱する事が出来る筈……。

 

 ここで、念話を忘れている辺りペストも大分焦ってるんだなーと暢気に考える絵錬であった。

 

 ────と、その時。ペストにとってある意味救いとなる会話が宮殿内から聞こえてきた。

 

 

「おい、大変だ! サンドラ様が何処にも見当たらないぞ!」

「何だと!? また抜け出したのか?!」

「ま、まずい! マンドラ様が外出中のうちに探し出せ!!」

 

 

 〝サラマンドラ〟の憲兵達のそんな慌しい声。どうやらサンドラは、リンと殿下を連れてお忍びで外出するつもりだったらしい。道理でフードなんて怪しさ満点の恰好をしている訳だ。……なんて、今はそんな事を考えている状況ではない。

 サンドラは憲兵達の会話にハッ、と本来の目的を思い出すと、

 

 

「い、いけない! こんな所に居たら見張りに見付かる! 皆、今は兎に角付いて来て!!」

「え、えぇ!? ちょっ、サンドラ────!?」

 

 

問答は受け付けないとばかりにジンの手を引いて市街地の方へと駆け出してしまった。

 そして、「ありゃりゃ、これはまた大変だねぇ~」とまだマイペースを通す絵錬も、ペストに行くよと促して一足先に駆け出してしまう。ペストからしたら、それはこの上なく最悪のパターン。今はもう、逃げる機会を実質失ってしまったと言っても良い。

 

 結局、その直後にリンの抗えない脅迫を受けて、先行した三人の後を追いかける事となるペストであった。

 その頃、先を行く絵錬は、ペストに悪い事したなーと少し心の中で謝罪をしつつ、反面、全てを見透かす愉快な笑みを湛えていた。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 紅焔の都市の舞台区画が一角、〝星海の石碑〟の前に位置する闘技場傍。全体的に煌びやかな都市のの中でも一際ステンドグラスや芸術品が煌く場所に、影禍と耀は訪れていた。と言うのは勿論、耀が今度こそ勝つリベンジに意気込むギフトゲーム〝造物主の決闘〟のエントリー申請をしにやって来たのである。

 だがしかし、当の本人は此処まで来て何やら浮かない表情。先程から一人黙ったままである。

 そんな彼女とは対比的に、男児となった影禍は並び亘る芸術品の数々、石と鉄鋼の織り成す都市景観に感嘆し、熱い吐息を洩らしていた。

 

 

「ハァア~……もう三日も居るのに全く飽きないな~。それにこの感覚……少し、〝故郷〟を思い出すよ」

 

 

 最早浮かれ具合から空似の別人と思われても可笑しくない彼。だがこれも(彼女)の歴とした一面である。何も冷静冷酷だけが彼ではないのだ。

 郷愁の感覚を胸中に浸っていく影禍。中々レアな光景である。

 ……だが、それもそこまで。もうそろそろ会話が無いこの状況が嫌になったのか、何やら腕を組んで思い悩んでいる耀へとハラリと振り向き、下から視界にヌッと現れる形で彼女の目の前に顔を出した。

 

 

「っ! え……影禍?」

 

 

 いきなり至近距離に顔を覗かれた物だから思わず仰け反る耀。そんな彼女に影禍は物申そうと……

 

 

────ズガシュッ!

 

 

……した所で、額に不意打ちの衝撃を受け堪らずその場に蹲った。唐突に飛来した〝それ〟は、恐らく軌道と飛来位置的には耀の脳天に当たる筈だったのだろ。だがそこに運悪く影禍が踏み込んできてしまい、しかも身長差のせいで見上げる形で顔を上げていた彼の額に命中してしまった訳である。

 

 

「あ、え、えぇと……影禍、大丈夫?」

 

 

 影禍が唐突に顔を覗かせてきた事もそうだが、額に飛来物を受けてしまった事にどう反応して良いか困惑してしまう耀。取り敢えずは、彼を心配しつつ、彼の額に命中したそれを地面から拾い上げて見る。

 それは先の丸まった十字型の何かであった。しいて言うのなら鈍器、名指しなら金槌と言った所だろう。問題は何故そんな物が飛んできたかだ。幸い影禍には目立った傷は無い。少し額が赤くなっている程度である(顔を上げた際、瞳がやや涙目になっているのが可愛いと思ってしまったが、黙っておく事にした)。

 

 

「誰が可愛いって……?」

「っ……な、何の事デショウ……?」

 

 

 心情を読まれギクッとした耀は片言になりながらも誤魔化す。が、その程度影禍は引かない。少女である時も見せる怪しくも妖しい笑みを携えてズイッと耀の顔を至近距離で覗き込もうとする。当然、耀は驚き一歩下がり、彼は一歩踏み込……

 

 

────ズガシュッ!

 

 

「~~~~ッ!?」

「…………」

 

 

もう一度飛来してきた金槌に同じ箇所を負傷してしまった。まんま、先程の再現である。

 しかし、今度ばかりは耀も確証を持てた。この金槌は何者かの故意で投げられていると。それも、耀の鋭い五感を持ってしても感知できない程鮮やかな手口で。影禍自身もそこそこの感覚を持っているので、その実力は同等か、それ以上になるだろう。

 耀は今度は自分も被害を受けかねないと、五感を尖らせ、雑踏を察知圏内からなるべく排除し周囲の気配を限定していって……

 

 

「…………大丈夫?」

「!!?」

 

 

今回三度目の驚きを見せた。

 五感を尖らせていた耀に、少なくとも半径五メートル圏内の気配は完全に把握出来ていた。しかし今聞こえてきた声の主は、耀の斜め前、影禍の隣に何時の間にか立っていたのだ。

 しかし、耀は思ったより冷静に彼女を観察できた。何せ、彼女コミュニティ内には神出鬼没で寝惚介の空間系ギフト保有者が一人居るから。彼女は長距離短距離問わず、それなりの頻度で瞬間移動(テレポート)を使ってくるのだ。そりゃある程度は耐性は付く。恐らく金槌もその手のギフトで飛ばしてきたんだろう。

 

 耀は改めて、眼前で影禍の()をヨシヨシと撫でる命知らずなツインテールの少女を見る。

 身長は耀と同程度で、その恰好は胸元、肩、腿とが晒されており何とも扇情且つ蠱惑的だ。この様な状況でなければ女性である耀ですら見惚れていたに違いない。だが、この状況だからこそ彼女の人間離れした容姿に警戒心を抱くことは容易かった。

 

 すると、不意に童顔の彼女は影禍の頭を撫でながら耀の方へ顔を向け、一言

 

 

「……貴女も、ゲーム出る?」

「え……ゲーム?」

 

 

 それよりも影禍に謝罪をした方が良いのではないだろうか。額を押さえ顔を俯けたままの彼が酷く恐ろしくてしょうがない。

 だが、それはそれとして少女の言ったゲームと言う言葉も気にかかる。そのゲームとは〝造物主の決闘〟の事なのか……

 

 

「……〝造物主の決闘〟の事?」

 

 

 耀は問うてみると、少女はコクリと頷いた。思ったが、この少女は耀と同じかそれ以上に口数が少ないようで。影禍が居なければ会話が途切れてしまう。

 取り敢えず、耀はゲームには参加するつもりと首肯で返した。すると少女は、ポツリ「……そう。出るんだ」と呟き、微かに笑みを浮かべて

 

 

「よかった。これで、コウメイとの約束が果たせる」

「え…………、」

 

 

耀にとって聞き捨てなら無い名前を口にした。そして、

 

 

「…………………………………………え?」

 

 

次の瞬間には呆然と、あるいは愕然とした面持ちで表情に欠ける瞳をやや見開いた。が、耀はその様子を気に掛けている暇など無い。

 〝コウメイ〟。確かにこの少女は、耀の父の名前を口にしたのだ。なら、彼女はきっと何かしら彼の事を知っているに違いないと。アンダーウッドでガロロに『父の軌跡を追え』と言われた言葉が、頭の中で反芻された。

 

 

「…………ねぇ「ちょっと待って貰えるカナァ、春日部サン」っ……!?」

 

 

 意を決して少女に父の事を問おうとした耀を、心臓を鷲掴みにするような冷え切った声が遮った。思わず、決意を中断せざる終えない程の強烈でいて風一つ吹かない湖面のように静かな殺気。それが今、目の前の少年から滲み出ている。

 言わずとも、彼……影禍の機嫌は最悪の極みであった。隣の少女も引き攣った悲鳴を上げ、今直ぐにでも駆け出したい気持ちだった。

 だが、先程の少女の驚愕した理由は、彼女がこの場から動けない理由とも合致しているのだ。と言うのも、彼女の足元に落ちる影が、彼女自身も気付かない内に足首までを覆いつくしているのだから。

 

 影禍は垂れていた頭を持ち上げると、ユックリと少女の方へ視線を向けた。

 

 

「ッ……!? ひ、ッ…………!!?」

 

 

 彼の瞳は纏う雰囲気と声音が示す通りに、憤怒に燃えていた。だが反面、その口許は裂けんばかりと三日月の弧を描いている。そのギャップが寧ろ堪らなく恐ろしいと感じた二人。

 

 

「……ねェ、君。僕の頭にコンナ物を落としておいて、掛けた言葉が『大丈夫』? え、ナニ? それだけなの? そこは普通『ごめんなさい』でしょゴ・メ・ン・ナ・サ・イ! ……で? 謝罪も無しに今度は春日部さんにプライベートなお話? …………死ニタイノ? ねェ、死ニタイノかなァ?」

「~~ッッ!!?!? ひ、ぅ………………ご、ご、ごめん……なさい……」

 

 

 喉の奥から何とか掠れながらも出した謝罪の言葉。あと関係ないが、気付けば周りの通行人が、危険を感じたのか半径二メートル位間を空けて三人だけ厭に浮いている。

 

 少女の謝罪をシカと聞いた影禍は、スゥ…と殺気を治める。そこで漸く、少女と耀は無意識に止まっていた息を吐く事が出来た。

 

 

「……春日部さん。悪いけど、この子への折り入った話は今度にして貰えるかな? まだちょっと……気が治まらないからさ」

「………………え? ゆ、赦して、くれたんじゃ……」

「『言う事あるでしょ、ごめんなさいは?』とは言ったけど────赦すなんて一言も言ってないよ?」

 

 

 瞬間、少女はその場に〝落ちた〟。比喩表現でも何でもなく、足元に溜まっていた夜の闇よりも深く暗い深淵の闇へと身体が沈んでいっているのだ。今はもう丁度、胸の辺りまで沈み込んでいる。

 

 

「ッ!!? な、何、これッ……!? い、いや…………いやァっ!!?」

「大丈夫だよ。少し〝オハナシ〟をする為の場所へ移るだけだから。安心して────落ちろ」

 

 

 そう最後に告げた途端、少女は影の中へと完全に沈みきってしまった。

 一人、決意半ばに残された耀は、彼女が沈んだ地面を凝視し、微かに震えながらも影禍を見る。

 清々しい位、恐らく北の都市に来てから今までで最高の笑顔を湛えていた。

 

 

「さ、春日部さん。早くギフトゲームのエントリー、済ませてきたら? あの子に関しては……うん、彼女の都合もあるだろうしそこまで時間は掛けないよ。だから……ネ?」

「は、はい……!」

 

 

 有無を言わせない凄みに耀も直立して頷いた。もし此処で下手に口答えをしたら……少女の二の舞は確実だ。

 影禍は快く分かってくれた耀へと最後に「頑張ってね」とエールを送ると、そのまま足元の影に沈み込み、跡形も無く消えてしまった。

 

 今度こそ取り残された耀。何とも言えない状況の変化に困惑が未だ拭えないでいるが、兎に角今は影禍の言葉に従い大人しくギフトゲームの募集所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 




ウィラ……
一応、ゲームには間に合わせますよ? そうしないと話が進まないので。
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