記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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混世魔王

 

 

 

 慌ただしい憲兵の後を追い十六夜と闇邪がやって来たのは、工房区画の西側にある宿泊施設だった。工房の借用者が泊まる施設にどうして年端も行かない子供が居たのだろうかと気になる点があるが、それは些細な事だろう。事情はそれぞれである。

 どうやら施設に面している街道は一時的に封鎖されていて、〝サラマンドラ〟の人避けもあり野次馬は思ったより少ない。その為、目的の場所には然程苦労せずに辿り着いた。逆に言えば、憲兵達や彼らを指揮していた参謀ことマンドラには容易く見つけられてしまう。

 

 

「……何をしに来た。此処に娯楽何ぞありはしないぞ」

 

 

 露骨な渋面も溜め息すら隠そうともしないマンドラ。応対の仕方も、此処数日辺り二人の自重を知らない所業があって故か少々手馴れている。主に言葉を向けたのは十六夜だろうが。

 

 

「あははっ♪ 別に隠さなくても。〝神隠し〟なんて面白さそうな物をほっとける訳ないってね」

 

 

 ヒョンッと、通行止めの策を跳び越える闇邪。十六夜も上機嫌に笑いながらそれに続いた。

 本来であれば、現場保存に真っ向から喧嘩を売りそうな彼等を易々と見過ごす訳ないのだが、〝サラマンドラ〟の者達は皆、互いの実力を厭と言う程理解させられている。先も言った自重を知らない振る舞いの度に取り押さえようとした事もあったのだが、いずれも悉く撥ね飛ばされてしまったのだ。彼等は何も馬鹿では無い。この様な場では、一度理解させられた実力差も弁えるつもりである。

 

 

「それで、犯人の目星は付いてるのか?」

「分からん。同一の術だとは思われるが、何者なのかは尻尾一つ掴ません」

「? 同一って事は……その〝神隠し〟は連続して起きてるんだ」

 

 

 この少し後、浴場でサンドラ達が話し合っていた件である。

 

 

『遊手好閑』『虚度光陰』『一事無成』

 

 

 上の三つと『混』の一文字が現場には残されていたのである。そして、それぞれの言葉が残される度に被害に遭っているのは、三件とも年端も行かない子供であると言う事。

 

 荒らすなよと念を押されて現場を拝見する闇邪は、マンドラの説明を受け考える。彼女は絵錬とは違い頭はまだ働く方だ。それに、寝てばかりのアレとは違って比較的活動タイプでもあるため見聞した知識は人並み以上ではある。理解力は別として。

 一方の十六夜だが、年端も行かない子供ばかりが攫われていると聞いた瞬間に不快の籠もった舌打ちをした。曰く、子供達への同情、犯人への善悪論への嫌悪などはしていても仕方が無いが、彼には『強い力は、強い者にのみ振るって良い』という確固で断然たる不文律が存在するようで、自身の見渡せ手の届く領域でそれを犯す者はあってはならないと言う。

 何とも彼らしい、傲慢不遜に身勝手で偽善的な決め事だ。しかし、それを口頭だけで済ませない辺り一概な偽善とも言えない。やらぬ善よりやる偽善、口だけの現実論より行動する理想論と言う訳である。

 

 

「まぁ結局の所、十六夜はとことん優しい奴って事。甘々だね。何だかんだ言ってるけど、全部建て前にしか聞こえないや」

「そんな大層で綺麗なもんでもないがな」

「別に良いんじゃない? ……ま、十六夜のその価値観で言っちゃうと、私とは何時か衝突する時が来るかもね~? 私は善も悪も、強いも弱いも関係なし、ただヤるなら殺るだけだもん」

 

 

 ニシシ、と殺人者の笑みを浮かべる闇邪。冗談でなく将来ぶつかり合いそうな危険な笑みである。

 

 が、今はお互いの感性にあーだこーだ言ってる時ではない。それはまた何時か話す機会でも訪れる事だろう。今は〝神隠し〟の案件が優先である。

 

 

「……〝神隠し〟の概要は把握した。犯人もある程度目星は付いたし、見つけたら適当に捕まえといてやるよ。お前達はそのまま召集会の警備でもしておけ」

「適材適所ってやつだね。もし取っ捕まえて引き渡す時は、貴方の名前でも出せば良いでしょ?」

「…………構わない。憲兵隊にはそれで通じる筈だ」

 

 

 優先であったのだが、大凡の予想は立ててしまったようで、事件見聞はこれで終わり。

 〝サラマンドラ〟の憲兵が出張って尚姿すら掴めない〝神隠し〟、早々に簡単に見付かるとも思えないが、今の十六夜なら意地でも見付け出すだろう。表面上は普段通りの彼に戻ったが、依然と内心に燻る怒りの炎は健在だ。

 

 

「んじゃ、私達はもうお暇しよっか。折角()()()()()()()()()()、サクッと終わらせちゃおっ」

「あぁ、そうする…………ってちょっと待て」

 

 

 あまりにもサラリと言われた物だからそのまま聞き流しそうになったが、闇邪は今聞き捨てなら無い事を確かに言った。

 彼女は何と言った? 『折角主犯さんも居る事だし、サクッと終わらせちゃおっ』と言ったのだ。つまり、彼女は既に〝神隠し〟の主犯も見つけている事になる。

 マンドラも、ただでさえ険しい顔をより険しく顰め、闇邪へと問い質した。

 

 

「おい、今の言葉本当か? まさか偽りなどと言うまいな?」

「んー、主犯さんが居るって事? 本当だけど? ────十六夜、外。お隣の屋根の所ね」

 

 

 闇邪が言うや、十六夜は近くの窓縁へと足を掛け、身を乗り出しながら隣に建つ工房の屋根上を凝視した。

 そこには毒々しい配色の煙を吐き出す煙突が存在したが、その下には……『混』の文字を背にしたフード付きのローブを靡かせる〝某〟が居た。

 フードと言い、靡くローブと言い、何処か闇邪達姉妹の外套に近い物を感じる……などはどうでも良い。間違いなくその人物は、件の主犯だと言えよう。再度言うが、背中の『混』の文字。そして顔が見えずとも感じられる並ならざる存在感が是と言っている。

 

 

「……おい、マンドラ。今直ぐ下を固めろ。不逞の〝神隠し〟野郎のご登場だ」

「シシッ、随分気前の良い〝神隠し〟だねー。こんなにも早く出てきてくれたんだから」

 

 

 刹那、十六夜と闇邪は砲弾の如く部屋を飛び出し、瞬きも許さぬ間に『混』の某へと接近。彼は拳を、彼女は身の丈に二倍はある連結棍を絶妙なズレを入れて振りかぶる。しかし、感じた並ならざる存在感の正体は伊達ではなかった。

 『混』の某は、十六夜の拳をヒラリと躱し、そのまま宙へと体を躍らせて棍棒をも回避したのだ。とんだ軽い身のこなしである。

 そして、この時点で手並みを正確に理解した十六夜と闇邪の本気度が切り替わった。

 

 闇邪は改めて相手の全貌を見てみる。一言で言ってしまえば、某は人間ではない。しいて挙げるならば猿の化生だ。

 

 

(猿だけに身のこなしは上々って? ま、捕まえちゃえば関係ないんだけどねェ)

 

 

 彼女はニィと僅かに口角を上げ、手に持つ連結棍を一度消し、外套の袖口周りを一,五倍位に調整した。あまりにも分かり難い変化の為、向こうも十六夜も気付いていない程度にだ。

 

 するとその時、後方の窓縁から身を乗り出したマンドラが何やら声を荒げ、

 

 

「おい、何処だ!? 何処に〝神隠し〟の主犯が居る?!」

「……はい? え、何処って、私達の目の前にちゃんと居るでしょ。堂々と『混』の文字まで見せて…………ん?」

 

 

 彼が何を叫んでいるのか訳分からないと、訝しんだ二人。だが、その様子から主犯の姿が確かに見えていないのだと理解できた。

 十六夜は痛烈な舌打ちをする。反面、闇邪は相手の素性を即座に〝蒐集〟すると、表面だけをザッと理解し、納得した。

 

 

「まさか……見えないのか?」

「おうさ、良い感してるじゃねえか。テメェ等が巷で噂の新参者(ニュービー)かい?」

 

 

 雪羽なら総毛立っているだろう下劣な笑みを浮かべる『混』の某。その言葉使いだけでも性格がある程度理解出来る。

 まぁそれは良い。〝蒐集〟をして表面だけとは言え相手を識った闇邪。十六夜に伝えておくの普通だろうが、彼なら自力で解答に辿り着くだろう。なら自分は好きなように動いて結果捕まえれば良い。相手にとって不足は有り有りでも、この際目を瞑ろう。

 

 

「何処の巷かは知らねが……気になるならテメェの腕で確認してみな」

「そうそう。その手品も何時まで保つか……楽しみだねェ?」

「ヒヒッ、餓鬼だけに威勢が良いいなァ! その不遜さは評価してやるぜ新参者共ッ!!」

 

 

 『混』の文字を靡かせ、某は懐より一つの巻物を取り出す。そしてそれを紐解き、虚空へと『虚度光陰』の文字が浮かび上がった。

 同時、世界からありとあらゆる動作と色彩が奪われた。〝紅焔の都市〟はモノクロの配色に飾られ、街道を歩く人々も、後方のマンドラや憲兵達も皆、一様にその動きを停止させている。

 そんな異常な世界の中で『混』の某は、腹を捩りながら呆れと嘲りを目の前の二人に叫んだ。

 

 

「ヒハハハァ!! 何だよ何だよ、呆気ねえな新参者さんよォ!!? あの蛟魔王を動かした野郎共と聞いて警戒してたってェのに、とんだ雑魚じゃねえか!! いやァ、良いカモを見つけられてラッキーだったぜ!!」

 

 

 この様子、まず世界を何らかの方法で停止させた術は十六夜と闇邪にも適用されている。そう汲み取って良いのだろう。

 だが残念な事に、二人は行動不能になどなっていなかった。片やその正体を暴く為に状況を整理、片や相手の術の見たさに態々動かないつもりでいたため行動を取らないだけである。

 

 

(……嘘、たったこれだけ? なーんだ、知っちゃった分だけギフトの力だけでも実感してみようと思ってたのに……)

 

 

 もう表情を砕いて化生の面の皮を驚きに剥いでやろうかと黒い事を考え始める闇邪。先程広げられた袖口から、感情に呼応するようにジャラジャラと鉄の擦れる音が聞こえ始める。

 その異変には、向こうも違和感を感じたらしく、卑下た哄笑を止めざるを得なかった。そんな奴に、彼女の眼差しがギロリと失望を乗せて向く。

 

 

「────期待外れも良い所だねー三流手品師。猿でも能は有るみたいなんだからさァ? もう少し気の利いた演出とか出来なかったの?」

「…………ハ?」

「────おいおい闇邪、そこまで言ってやるなよ。いくら霊格が良くて猿鬼止まりの三流魔王でも、多少は芸を仕込んでんだ。……魅せ方が最悪なのは戴けねえがな」

 

 

 口々に罵倒とも取れる小言の羅列を放つ二人。だが『混』の某は、それに怒りを覚える訳でも訂正するでもなく、表したのは驚嘆の想念だった。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! 何で動けてんだ?! テメェ等俺の姿が見えてんだろ!? なのに何故、俺の術が効かない?!」

「……へぇ? 今、面白い事聞いたぞ」

「ッ……!!」

 

 

 十六夜の不敵な笑みで失言に気付いたようだが、遅い。彼はもう彼奴の正体をほぼ看破したと言っても良いだろう。

 そして、それは隣で大振りとなった袖(俗称・萌袖)をツマラナそうに鳴らす闇邪も他ではない。

 

 

「十六夜ー、もう延ばさなくても良いからさっさと捕まえちゃおうよ~。もうこれ以上三流に構ってる時間なんて勿体無いからさぁー」

「……お前は飽き性か。その様子だと、アイツの正体は割れてるって見て良いのか」

「当たり前でしょ。私は十六夜みたいに頭の回転速くないけど、〝情報蒐集〟に関しては世界広しと言えど負け気は無いからね。……で、貴方はこれからどう逃げ果せてみせるの、〝混世魔王〟さん?」

「な、なぁッ……!?」

 

 

 『混』の某────混世魔王は今度こそ驚愕に駆られる。今のほんの僅かなやり取りで、己の情報を看破されてしまったのだから。有り得ない……!? と思おうが事実は変わらない。

 彼は焦燥を隠そうともせずに、半歩程後ろへ重心を掛ける。このまま衝突してはどうしても分が悪い。魔王故、そこら辺の切り替えは早いようだ。

 

 だが、見す見す〝神隠し〟を目の前に撤退を許す程十六夜と闇邪は甘くないし優しくもない。

 

 

「覚悟しな。本当の〝神隠し(ゲーム)〟が始まる前に、お前は始末しておかなきゃなんねえ────!!」

 

 

 猛禽類のような眼光を宿し混世魔王へと告げる。

 それを合図に、闇邪は獰猛な笑みを湛えたまま袖口を突き出し、十数本にも及ぶ鋼鎖を蛇蠍の如く踊った。その一つ一つが不規則な軌道を取り、内五本が得物を四方八方から捕縛しまいと唸る。だが身のこなしは一流の魔王様、紙一重の所を圧倒的体捌きで回避してしまう。とは言え、その顔はギリギリだと告げている。

 

 今の猛攻に集中を解いたからか、世界に色と時が舞い戻ってくる。

 それでも、二人は動きを止めない。重量なんて何のそのと十六夜の爆走に闇邪は鋼鎖を蠢かせたまま並走する。

 蛇蠍が行く手を妨げ、その隙に十六夜の突進が掛けられる。だがそれすらも混世魔王は躱してみせた。本当に、身のこなしだけは一流である。

 

 

「じょ、冗談じゃねぇ!! テメェら何者だ?! 人間のガキ共じゃねぇのかよ!?」

「失礼な奴だな! コイツはどうかは知らねえが、俺は正真正銘純粋培養の人間だぞ!」

「阿呆抜かせ! テメェみたいな人間が居て堪るかッ!」

「アハハッ、本当だよ十六夜! そろそろ人外認定でも受けたらどう!?」

「ヤハハ! それはそれで面白そうだなッ!」

 

 

 屋根から屋根へと、市街地の方へ疾駆する混世魔王を二人の規格外が興が乗ったと追走していく。

 北の都市に、〝神隠し〟を追う鬼ごっこと言う、何とも皮肉でいて愉快な構図が出来上がるのだった。

 

 

 

 

 

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