記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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リンちゃん……本当に済まないと思ってる。



ドSな絵錬

 

 

 

「────それでれリン。如何言うつもりなのか、そろそろ聞かせてくれる?」

「ふぇ?」

 

 

 〝星海の石碑〟展示回廊の入り口前付近にあるカフェテラスにて、リンは不意の質問に小金芋のタルトを持つ両手を止め、間の抜けた声を上げる。対し問いを投げ掛けたペストは、色々と吹っ切れたせいか紅茶のカップを片手に相対する少女の瞳を真摯に見つめる。無垢を宿した瞳は、どうにも実力者であると言う現実を忘れてしまいそうだ。 

 

 

 一刻程前、浴場を後にした六人が向かったのは、最初の神隠しが起こった舞台区画にある〝星海の石碑〟のある展示回廊であった。そこで一行は、調査組みと待機組みの二手に分かれる事となり、ジン、サンドラ、殿下の三人は回廊へ。残った三人はこうして回廊前のカフェテラスで時間を潰しているのである。

 因みに、絵錬は居残り組みと充てられたにも拘らず、少し席を空けると言って何処かへと行ってしまっている。まったく、とことんマイペースな彼女にはペストも呆れて何を言う気にもなれなかった。

 

 ペストは紅茶で口の中を潤しつつ、再度問いを掛ける。

 

 

「ふぅ…………貴女達の目的は分かってる。だから、聞かせて……何時までこの茶番を続ける気なの?」

「おぉ? それは面白い発言だね。ペストちゃんは私達の目的が分かってるんだ? いや~それは驚いたなー意外だなー!」

 

 

 お茶らけたように微笑み、ペストの調子を崩そうとズレたテンポで返すリン。

 だがそれは無意味な事で、ペストの調子など疾うの昔に絵錬に崩されている。現に、今こうしてリンに揺さぶりを掛けようとしているのに紅茶を飲む余裕がある。まったく緊張感が無い。

 

 ペストはさらに、ハッタリの一つでも咬ましておこうかな……と更に踏み込んでみる。

 

 

「言っておくとね、リン。今此処には〝ノーネーム〟の主力が向かってきてるのよ? 貴女がもし北に居たのなら、もしくはアウラにでも話を聞いてたら分かる筈よ。一人でも合流を許したら、このまま逃げ切る事も可能。そうなれば、〝階層支配者〟の襲撃も失敗して、また追い返されるのが落ちね」

 

 

 また一つ追加すると、絵錬がペストには付いている。殿下とリンが彼女を如何判断しているかは不明だが、もしその実力をちゃんと看破しているなら今までで何かしらのアクションは起していた筈。いずれもタイミングが悪いとは言え、背に腹は帰られなかった筈だ。

 

 

「うーん…………そうだね。もしそうなったら計画は此処で終わりだ」

「でしょ? なら今の内に、」

「うん。ペストちゃんを殺すしかない」

 

 

 カップを持つ手が止まる。

 ソッと視線を下ろしてみると、そこには何時の間にか突き付けられているナイフが存在した。そして薄皮を僅かに斬られたのかチクリと刺す様な痛みが首元に奔る。

 分かってはいたし来るかと身構えてもいた。それでも認識すら出来ない驚異の絶技。やっぱり無垢に笑う少女が為せる技術にしては度が過ぎると思えた。

 

 地味な痛みが少々煩わしいが、ペストは少女の殺気を直に受けても涼しい顔で紅茶を啜る。本当は内心冷や汗が止まらないのだが、そこはアレだ。根気を頼りにするだけである。

 

 

「……随分と余裕だね」

「そうでもないわよ。今にも首を刎ねられそうなのよ? 余裕な訳ないじゃない。……ふぅ、慣れない舌戦なんてする物じゃないわ。────取り敢えず座ったら? どうせ今のが偽情報(ブラフ)だって気付いてるんでしょ」

 

 

 自分から今の口先情報を偽りと明かす。そしてこの泰然とした態度。一歩間違えればそのまま本当に、胴と頭が泣き別れし兼ねない。

 でも、リンには最初からそのつもりは無かったのか、刃を握ったまま上体を戻した。そしてフッと、殺気の換わりに悪戯な笑みを浮かべる。

 

 

「……もしかしてペストちゃん。あの絵錬ってお姉さんが近くに居るから大丈夫とか、そんな事思ってる? って事はやっぱり、あのお姉さんってとても強力なギフトを……ペストちゃんが私を前にしても余裕を持てる位の実力を持ってるんだ? ────でもね、私達から離れちゃってる時点で助けは望めないよ。あの人は暫く此処に来れないし、気付けない」

 

 

 ペストの表情がやや険しくなる。

 リンのギフトは以前、魔王連盟に組していた頃に一度だけ聞いている。どうにも〝アキレス・ハイ〟と言う概念的な距離を支配する空間操作系のギフトらしい。が、ペストはその発動条件や効果範囲、正式名称すら一切知らないのだ。つまり、彼女の〝来れない〟も〝気付けない〟も嘘偽りない真実なのだろう。

 

 

「…………」

「あははっ♪ 情けないよペストちゃん。魔王だった貴女が、今は他人の威を借りる(フォックス)でしかないんだもの。……安心して。別に私は今直ぐにペストちゃんを、サンドラちゃんやジン君を殺すつもりなんてない。寧ろその逆────

 

 

 

 

 

────三人ともコミュニティの人材として欲しいんだよ」

 

「なん……ですって?」

 

 

 リンの今の発言にはペストも流石に()()()()()()()()を崩してしまう。「あ、あとあのお姉さんも出来れば欲しいな~」なんて言葉も、全てをひっくるめて唖然とした。

 最初に悩んでいた彼らの目的の一つが、まさか此方陣営の頭狙いだったとは考え付く訳ない。途中で考えるのを止めてしまったペストなら尚更である。

 また、彼女が大々的にこんな往来の傍で危険発言をする事にも驚いたが、そちらは先程仄めかしていたギフトの恩恵なのだろう。チラリと横目で見てみても、誰一人騒ぎもしない上二人を気にも止めすらしていない。

 

 リンがコミュニティ参入時の待遇とか色々嬉々として語っているが、ペストの耳には遠く聞こえた。それが示すは────呆れに失笑。

 そろそろポーカーフェイスも止め時かと考える彼女だが、もう少し話は聞いておこうと思い考え直す。

 

 

「……悪いけど、貴女達とまた徒党を組むつもりはないわ。そもそも今の私は下に絵錬が従っているとは言っても〝ノーネーム〟の……ジンの形式上の隷属下よ? 口説くんだったらまず彼の方にしてくれない」

「む? そっか……でもそうすると、ジン君を手に入れたらペストちゃんもお姉さんさんもセットで付いてくるって事か。それはお買い得かもね」

「ま、もしそうなれば私もそっちに行くしかないでしょうね。絵錬も、アレは特に所属の拘りは無いみたいだし、抵抗は示さないでしょ」

「へぇー。それはラッキーかも……」

 

 

 買い物のオマケで貰えた福引券で一等を当てた位の感覚だろう。絵錬がもし魔王連盟側に付いたとすれば……止められるのは影禍か雪羽(闇邪)の二人しかいないそれもかなりの博打になる。

 

 

「────ところでさ、やっぱりペストちゃんの意見も聞いておきたいなー? ペストちゃんは、今のコミュニティに甘んじてて不満は無いの?」

「ん、そうねー…………何も不満が無い訳じゃないわ。でも、さっさと脱けたいと思う程の不満もないの。リーダーはまだ子供で頼りないにしても、ね」

 

 

 その最たる理由は言わずとも絵錬だろうが、次点で箱庭に呼ばれた元・魔王としての、コミュニティを率いていたリーダーとしての観点で、今の〝ノーネーム〟に溢れる可能性を見届けたいと言う気持ちもある。故に、脱ける気鐚とも無い。

 

 

「……本当に? そんな風に楽観視してたら、ペストちゃんの目的を遂げるなんて夢のまた夢────」

「そう思ってるなら、貴女の慧眼も高が知れてくるわねぇ……ウルボロスのメイカーさん?」

「そうそう、チョロ甘な過小評価は身を滅ぼしちゃうぞ~?」

 

「────ッ!?」

 

 

 リンは握るナイフを持つ腕を神速の勢いで持ち上げようとした。……だが、彼女の体は空間自体に縫い止められた様にピクリとも動かなかった。街路を吹き抜ける微風に、髪の毛一本すら揺れる事はない。耳元に囁かれたマイペースな口調の主へと振り向く事も叶わない。そして何よりも────ギフトが効力を発揮できない。

 発動は出来るのだ。だが、それでもこの状況を脱する事が出来ない。何故なら、一次元だろうが二次元、三次元だろうが、定められた静点は決して、距離を支配しようと意味が無い。距離を使って支配出来るのはあくまでも〝動点〟に限定した物だけだ。

 

 

「遅いわよ。それと、長時間の独断行動は控えるようにってジンに言われたでしょ?」

「あははっ、ゴメンゴメン。ちょっくら美味しそうな物を見つけちゃったから、ついついねぇ~」

 

 

 そう言って、リンの背後から現れた絵錬の右手には、短時間にしてはやけに大き目の紙袋が……空の状態で振られていた。どうやら戻ってくる間に全てたいらげたようである。

 ニッコニコと朗らかな邪気の無い微笑を浮かべる絵錬。だが、その左手には何時か見た先の四角い大剣が握られており、身動きの取れないリンの首筋に添えられている。

 

 

「んで、リンちゃん。ペストの目的が如何とかだっけ? それなら安心してよ、君達()()の力を借りなくても私と言う心強い従者が付いてるんだからね」

「良くそこまで過大に断言出来るわね」

「だって事実だもん。それに、太陽に納まらないで箱庭全ての制圧だって、ペストが望むならやってあげない事もないよ? まぁ、影禍達に邪魔されそうだから少しキツそうだけど……」

「安心しなさい。そんな馬鹿みたいな野望は掲げる予定はないわ」

 

 

 何時もの弛緩した空気で大それた会話を繰り広げる二人。そんな二人を前に、リンは此処に来て初めて焦りを感じていた。

 純粋に二人の……絵錬の力を見誤っていたのだ。何せ、絵錬は北の都市以来まったくと言って良い程その力を大々的に使っていない。情報不足にも程があったのである。

 

 このままでは、全てが水の泡に還ってしまう。こんな所で、たった一人の〝人外〟によって全てが頓挫してしまう。それだけは何としても阻止しなければならない。が、交渉なんて手はまず通用しない。

 リンは、此処まで絵錬と言う人を観察していた。それを踏まえると、彼女に交渉なんて口頭の薄っぺらい約束事が通用するとは思えなかった。

 

 

「それでさーペスト。リンちゃんだけど……どうする? 私としては、此処でサクッと殺っちゃった後、影禍辺りに頼んで偽物でも送ったら面白そうなんだけど? ほら、レティって言う前例もあるし? 完全再現はそう難しい事じゃないよ~」

「分かってはいたけど出鱈目ね。勿論却下よ」

 

 

 リンの額に、ナイフを握ったままの手に、汗が滲む。今の絵錬の発言、冗談で言ってるでもなく本気だった。ペストが軽いノリで突っ撥ねてたが、もし承諾していれば、次の瞬間には首が飛んでいた事だろう。

 

 

「…………だったら……どう、するの? 私をこのまま解放する……って事はないよね?」

 

 

 口が動くのは幸いだった。リンは、余裕の無い声音で二人に問う。

 

 

「んー? あー……別にこのまま解放して上げても良いよ? 但し、仕返しとか反撃なんてしようとしたら……ね?」

 

 

 絵錬は右手に持っていた紙袋を宙に躍らせた……刹那。その紙袋は音も無く縦横無尽に切り裂かれ、ただの紙屑と成り果ててしまった。

 リンの顔から血の気が引く。もしこの状況を身内に公言して行動でも起こせば、紙袋と同じ運命を辿ると言われたのだ。血の気が引いて当然である。

 

 あと、話は戻り彼女のギフト〝アキレス・ハイ〟はちゃんと機能していると言ったが、リンは既にこの状況を逆手に取ろうと往来とカフェテラスに適用していたギフトを解いている。だが、一行に騒ぎらしい声は上がらない。それに違和感を感じ、視線だけでも何とか動かして周りを見た。

 ……一瞬で言葉を失った。騒ぎが起こる筈も無い。まして、微かに望んでいた殿下が戻ってくる事も恐らく無い。

 何せ、リンの視界に映るペストと絵錬以外の全ての〝モノ〟が例外無く、まるで()()()()()()()かのように静止しているのだから。

 あと、ペストも今それに気付き、何故か同じように言葉を失ってる。

 

 

「……え? ちょっと、絵錬。まさか……これも貴女が?」

「そだよー?」

 

 

 軽い調子で言うが、絵錬のギフトがこなしてきた絶技を見てきたペストでもこれは少々反応に困った。

 

『空間転移』『空間破壊』『空間固定』

 

 ここまで揃い踏みで次は何をするかと思えば────まさかの『時間停止』。絵錬のギフトが余計に謎になったのと同時に、規格外さが上方修正されたのだった。

 

 

「まぁまぁ、こんなのは後にして…………答えは『Yes』or『No』だよ~、リンちゃん。野望を達成できないまま此処で肉片になるか、乙女チックに秘密を胸に抱いてこの場を逃れるか♪」

 

 

 シン…。手元のナイフが先程の紙袋と同じく細切れにされる。他に腰にも納めるナイフも一本を残して全て、バラバラと床に落ちていく。顔面蒼白を通り越して最早死人レベルに白くなってきている。

 ペストは少しばかり同情を浮かべた。

 

 

「ささ、ちゃっちゃっと選らんじゃって~。ゴー、ヨーン、サーン、ニー、イーチ────」

「ま、待って!! ……わ、分かった。約束、するから…………誰にも、言わないからッ…………!」

 

 

 前置きも無しに始まったカウントダウン。リンはもう彼是考える余裕などなくなり、慌てて絵錬を遮って叫んだ。

 いくら魔王連盟で重要な役割を担っている彼女とは言えど、まだ十やそこらの少女である。邪気も殺気も一切感じられない絵錬の残酷な振る舞いに、涙腺が決壊し掛けていた。

 ペストは思う。まるで鬼のようだ、と。

 

 苦渋の選択の果てに選ばざるを得なかったリン。彼女に絵錬は……

 

 

 

 

 

「────ゼーロ。はい残念、ザーンネンでした~。私は『Yes』か『No』で答えてって……言った筈だよ、リンちゃーん?」

 

 

 

 

 

……外道の如き宣告を下した。

 ペストは思う。まるで鬼のようだじゃない。紛う事なき鬼だ、と。

 

 右手に握られていた大剣を虚空に消し、絶望的な表情に染まるリンへと歩み寄ると、彼女の腰部から残ったナイフをシャンッと引き抜く。そしてそれを、リンの眼前に掲げて、三度目、今度は破砕音を態と上げながら粉々に粉砕した。

 

 

「ぁ…………ぁぁ…………ッ」

「……一瞬で、終わらせちゃうのも何だかな~。折角だし、下から少しずつヤってく? ヤってっちゃう?」

 

 

 どうでも良い事を悩む絵錬は、更にリンの心を砕こうとする。

 しかし、そんな彼女を流石に見兼ねたのか、ペストが横槍を入れた。

 

 

「絵錬、やり過ぎ。そこまでやれば充分でしょ?」

「えー? でもさぁ、リンちゃん達はペストやジンに好き勝手言ってるんだよ? それにこの程度まだまだ。影禍ならもっとエッグイ事してくるから」

「……何となくだけど理解できるわ。まぁ兎に角、彼女は生かしてあげなさい。偽物とかも用意しなくていいからね」

「は~い♪」

 

 

 「それじゃあ、リンちゃんばいば~い」と手を振る絵錬。

 だが、その声をリンは聞けなかった。別れの挨拶と共に、彼女の顎にハンマーで殴られたような衝撃が奔り、意識が軽く飛んでしまったから。更には、絵錬の手によって適当に人目の付かない場所へと転移させられてしまったのだから……。

 

 

 後に残った二人。絵錬はリンの残していったタルトを頬張り、ペストは酷く頭の痛い展開に眉間を押さえるのだった。

 

 

 

 

 




この後のリンちゃん、混世魔王の勧誘って仕事が残ってるのに……

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