記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
……遅れて申し訳ないです。
工房街から始まった鬼を追いかける鬼ごっこは、場所は商業街に移っていた。普通の商店以外にも露天が目立つ此処は、他同様裏路地がそれなりに存在するので、逃走には最適。追跡には少々厳しい構図となっている。
が、そんな事は関係ないと闇邪と十六夜は屋根の上を、路地裏を疾風迅雷の勢いで疾走し、混世魔王を追いかける。混世魔王自体も、圧倒的軽業を以って縦横無尽に街を疾駆するが、その距離は一向に離れる気配は無かった。それよりも寧ろ、距離自体は徐々に詰められてしまっているかもしれない。
「ぐぉ……!? (畜生が! アイツら周りの無関係な輩にもお構いなしかよ?!)」
今しがた通し過ぎた雑踏の最中に突き刺さった幾本もの鋼鎖を一瞥し内心悪態を吐く混世魔王。少し口汚い所を無視すればまるで追っ手から逃れる主人公サイドの台詞だ。だがまぁ、そう零したくなるのも無理はない。一応怪我人は出ていないとは言え往来のど真ん中に躊躇無く鋼鎖を突き立てる所業は物騒極まりないだろう。そしてそれをやっている当人が悪役宛らの狂喜に満ちた笑顔を向けてくるのだ。本当、どちらが悪役か分かったものじゃない。
「ほらほらほらほらー!! 逃げ足しか取り得が無いんだし、早くルートをよぉく考えて逃げないと~! アハッ、アッハハハハハハ♪」
「マジ頭のネジ半分は飛んでんだろあの餓鬼!?」
「お褒めに預かり大変嬉しゅうってェ? ほらァ、目の前がお留守だよ!!」
ハッとして後ろに配っていた視線を前に戻す。そこには、今さっきまで後方で喚いていた闇邪が路地を丸々塞ぐように鋼鎖の壁……牙の無い
「っぶねェ!!?」
呑まれる直前、地面を大きく蹴って跳躍し、壁を足場に屋根上へと躍り出た。下の方で鋼鎖がギチリと噛み合う嫌な音が聞こえた。
もう冷や汗が止まらない所の話ではない。明らかに圧殺してても可笑しくはなかっただろう。冗談抜きで、あの少女は半ば殺すつもりで追ってきているのだとヒシヒシ感じられた。
その上にだ
「背中がお留守だぜ三流魔王!」
「ッ!! (畜生……! 一人でもヤバイってのに、同レベルがもう一人居るとかマジありえねえぞ!?)」
混世魔王が飛び出してくるのを見計らっていたのか、実にタイミングよく背後に十六夜が差し迫っていた。
建物を衝撃で破壊しかねないため本気で追い縋れない彼だが、闇邪の立ち回りのお陰である程度のカバーは利いている。別に二人で打ち合わせをしたとかそんな事は全くないのだが、何故か息は不思議な程にあってるのだった。
因みに、闇邪の狂気にも近い状態に十六夜は完全スルーを決め込んでいる。口出しするだけ徒労だと悟るには容易すぎた。
車は急には止まれないと言う。勢い付けて直進してきた十六夜の手を空中に居るまま身を翻す事でやり過ごし、二人とは反対方向へと混世魔王は駆け出した。そしてそのまま路地へと姿を眩ませようと滑り込む。
「ちょっと十六夜ぃ~。今の大チャンスだったでしょ? ここで突撃癖なんて発揮しないでよー」
「狂犬みたいに暴れてるお前にだけは言われたくねえ! こちとら下の奴らに気を配ってやらされてんだぞ」
「うっわぬるっ、温過ぎるよ十六夜! 私達は態々しなくてもいい神隠しの犯人逮捕に協力してあげてるんだよ? 多少の被害は必要悪として割り切らないと。あぁ、あと。こんな可憐でお淑やか美少女を狂犬呼ばわりって酷くない!」
「粗悪で野蛮の間違いだろそれ! 美少女ってのは認めるがな!」
混世魔王を視界に何とか捉え疾駆しつつも、小言の応酬をする二人。命辛々必死に逃げ惑う混世魔王が少し哀れに思えてくる。
と、そんな夫婦漫才も束の間。闇邪は袖から伸ばす鋼鎖を纏めて回収し、一本の短槍を右手に創造する。
気のせいか闇邪と十六夜共々、さっきまでの楽しそうな表情は何処へやら、気力をなくしたような顔をして溜め息を零した。
「……もう、飽きたなぁ(これだけ手加減して追いかけてあげてるのに、手応えの手の字も感じられないよ。さっさと奥の手出してくれれば良いのに……)」
「流石に、興も醒めてきたな(下手に切り札切られてもな……面倒な事になる前に終わらせねえと不味いか)」
実に十数分は続けているこの鬼ごっこ。進展がない分飽きも当然ながらやってきた。心中微妙に差異があるが、二人とも次の一手でとっとと終わらせようと思案する。
────そんな時だった。
はためく〝混〟の文字が唐突に虚空へと大跳躍したかと思うと、その
十六夜は顔を顰め舌打ちをした。
闇邪は口角を吊り上げ、狂喜を孕んだ声を押し殺した。
「させるかッ!!」
「クヒヒッ────って、え? あ、ちょ、十六夜!?」
次の瞬間、二人の反応は真逆となった。
十六夜は今まで抑えていた力を解放し、煉瓦の歩道を軽く崩壊させながら混世魔王へと跳躍した。闇邪は、衝撃を残し一瞬で隣から消えた十六夜に(先を越された!?)と喜色満面な顔を唖然としたものに変えた。
「させるかぁっ!!」
奇しくも十六夜と同じ声を上げて闇邪も、街道の煉瓦を彼以上に巻き上げて魔王の切り札〝主催者権限〟を阻止しようとする彼、を阻止しようと追い縋る。もう本来の目的など念頭から消え去っている事は……言う必要もない。
「後ろだ、避けろッ!!」
「「────っ!?」」
あと少しで両名の手が届くか否かという所。そこで、突然背後からマンドラの叫びが二人の意識をそちらへと移させた。
十六夜の後ろの闇邪の後ろ。そこには、光焔の街の対極を示すかのように、極寒の風が吹き荒れていた。そしてそれは、寸分の狂いもなく闇邪と十六夜を襲おうと直前にまで迫ってきていた。
(うっそ……!? 気配とか何も感じなかった、て今はそれ所じゃな────!!)
「なっ、おい馬鹿! 何して────!」
先に、咄嗟に動いたのは闇邪だった。
回避の仕草を見せていた十六夜を背後から抱きしめたかと思うと、外套の肩甲骨辺りが不自然に盛り上がった……その瞬間。
外套が粒子状に霧散し、代わりに彼女の背には深遠の如き漆黒の竜翼が出現した。
「!」
「くっ……!」
小柄な身の丈二、三倍はあろうかと言う巨大な翼を、闇邪は十六夜と自身を包むように丸めた。そこへ、吹き荒ぶ極寒の風と、その風によって鋭利に凍りついた二人の巻き上げた瓦礫の弾幕が殺到する。
「ひゃぁ!? つ、冷たっ!!?」
鋼の硬度にも迫る程の剛皮剛毛の翼は、普通であれば殺人的威力を持った風を、瓦礫の弾丸を、その全てを防ぎきっていく。だがその反面、確りと感覚は通っているためかその驚異的な冷たさに闇邪の口から可愛らしい悲鳴が上がった。
やがて自業自得の散弾と不意を突いた強襲を凌ぎきった闇邪は、残った冷気を翼を広げる事で吹き飛ばし、大きさを身の丈と同等にまで縮小させ静かに羽ばたきながら地上にゆっくりと降り立った。
掴まえていた十六夜をそっと離し、思わず身体を震わせた。
「うぅ……つ、冷たかったぁ。あ、あーもう、痛んじゃったらどうしてくれるの……」
目の前にまえ翼を折りたたみ、その先をスゥッと撫でる。すると、キンキンに冷え切ったその箇所から翼全体へと亘るように橙の光が包み込んだ。
程なくして、闇邪の表情がホッと緩み、調子を確かめるように一度翼を羽ばたかせる。
そこへ、追いついてきたマンドラと話をしていた十六夜が興味有り気に寄ってきた。
「ん? あぁ、十六夜。そっちの話はもう終わったの?」
「一応な。この展示回廊まで付き添いだとよ」
「そっかー……はぁ、まったく。折角の娯楽を逃したり、冷たい風に当てられたり……もう色々災難だよ」
「そんなお前には因果応報って言葉を返しといてやる。……それよりもだ。その竜翼、アンダーウッドの時は影禍に巧く誤魔化されたが……詳しく聞かせて貰おうか?」
好奇心に満ち満ちた視線を向け意地の悪い笑みを浮かべて十六夜は言う。デジャヴだろうか、闇邪は雪羽の箱庭に来た当初の記憶から似たような光景を想起した。そう、彼らが黒ウサギを始めて見た時のような……
「……察しの良い十六夜なら聞くまでもないでしょ」
「何を言うか。知的好奇心の探究は直に聞いてこそ意味と有り難味があるんだろうが。んでもう一つ、察しの良い闇邪なら……聞くまでもないだろ?」
「…………。こう言うのは雪羽担当なんだけどなぁ……はぁ。ま、別にいいかな。その……お手柔らかにね?」
「なるべく善処はするぜ」
その後、十六夜からの(序に同行するマンドラからも)質問に適当に答え、オマケもやらされつつ闇邪は展示回廊〝星海の石碑〟へと足を向けた。
最近モチベーションがやや不安定気味。
家に居ると進まないのに電車の中だと不思議なほど捗るというね。ただ炎天下、悪天候の外出は勘弁……何とかならないものか、