記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
殿下が、この場に居る全員を唖然とさせる言葉を放った……その直後。
ブォンッ!! と、殿下の右肩に向かって鋼色の残像が引かれる。彼はそれを、体を半身ずらすことで危なげなく回避し、その際刀身を裏拳で横殴りにした。
地殻をも砕く拳により弾かれ宙を舞ったカーテナは、しかし、次の瞬間には持ち主の手元に転移で引き寄せられる。彼は折るつもりで拳を打ちつけたようだが、刀身には罅割れ一つ見当たらない。
殿下の笑みが一層色濃くなった。
「本気で折りにいったんだがな……生半可な鍛冶屋が造ったものじゃないって事は理解できた」
「そーでしょそでしょ~。……んで? 私を木っ端扱いしてくれる殿下はここからどうするのかな~? 何なら、今から投降するってのも有りだけど?」
「前言を撤回する気は無い。……それよりも、剣を向けてきたって事は俺とやり合うと見ていいんだな?」
足下の石畳に罅割れを起こしつつ、そう言って殿下は絵錬の懐に踏み込んできた。尋常じゃない速度。だが、彼女が反応できない速度ではない。
ニィッと悠然と笑ってみせながら絵錬は殿下の元居た位置に転移をする。そして、彼の拳が空を切ったところにジンを後ろに下がらせた黒ウサギの神槍が振り被られる。それは既に雷の特性は開放されており、バチバチと神鳴り、周囲に膨大な熱を放っていた。
「覚悟ッ……!!」
「〝箱庭の貴族〟も……ふっ、仕方ない」
不敵に笑ってみせる殿下。その頭上から、連続で転移してきた絵錬のカーテナが音速で迫る。
彼はそれを冷静に見極め先と同様に回避。直後、絵錬が黒ウサギの攻撃の余波を受けぬよう姿を消し、隙だらけの彼だけが残ってしまった。
「穿て……
当たればどの様に強大な存在でさえも一撃で勝利を奪っていく必勝の槍。それが今、がら空き胴体へと吸い込まれ、雷を伴い幾重にも及んで空間を爆発させる。
周囲の客席に居た人達は一様に吹き飛ばされ、絵錬も間違えて巻き込まれないようにと闘技場中心の虚空に避難する。しかしそこで、彼女は初めて不味いと眉を顰めた。
「な……何で……!?」
黒ウサギの驚愕が閃光で不自由な中でも伝わってきた。
彼女の放った帝釈天の神槍。当たれば必勝を約束されたその槍の切っ先が……殿下の胴体、ほんの数ミリ手前の所で停止していたのだから。その上、眼前の敵を屠ろうと勢いを上げる雷の余波さえ歯牙にも掛けず平然と立っているのだ。
「相性が悪かったな。この類の武具は生まれついて効かないんだよ」
「ッ(しまった────!?)」
殿下の言葉から彼の正体を突き止めようにも、彼がそれを許さなかった。
目の前で弾いてる槍を平気で掴み取ると、不敵から獰猛な笑みを浮かべて無慈悲に黒ウサギへ警告をした。
「一瞬だけ時間をやる。死にたくなければ〝鎧〟を出せ」
インドの神話に語られる不死の、太陽の輝きを持つ鎧。それを身に纏った者は外的要因のいかなる死をも防ぐという。
だが、黒ウサギの持つそれには些か無視できない制限が存在していた。帝釈天の神槍と合わせて使う事が出来ない……否、許されていないのだ。もしその則りを破れば、彼女がどうなるか分からない。
しかしそれでも、今この場を確実に生き残るにはその鎧を顕現するしかなかった。
黒ウサギはあらゆる思考を放棄して反射的に太陽の鎧を呼び出した。溢れる雷光と合わさり絶え間ない閃光が視界を覆いつくさんとばかりに奔る。
それとほぼ同時に、殿下は引き絞り……
「っ……!」
「えっ……?!」
黒ウサギの愕然とした声が、殿下の
今の一瞬、黒ウサギの決死の決断も空しく、状況をヤバイと見た絵錬が即座に転移で場所を移させたのだ。言ってしまえば、最悪のタイミング。
けれども、殿下の一撃を押さえ逆に一撃を叩き込む体勢は出来上がった。
「ちょっと痛いかもしれないけど、良い子は我慢してねぇ!」
「っ!(やっぱり、空間転移を相手にするのは厄介だな……!)」
ギリッと歯を食い縛り、絵錬を睨み返す。左手は有り余る万力を持ってしても振り切れない。それに相手は空間転移が可能。万一にこの一撃を逃れられたとしても、次は無い。
間延びした叫びと共に振り下ろされた大剣が、今度こそ殿下へ致命傷を与えようと迫る。
────この時絵錬は結果的に言って三つのミスを犯していた。
一つ目は、殿下を捕らえる事があくまでも目的のせいで力を抑えていたこと。
二つ目は、心の内に余裕を持ちすぎていた……言い換えるなら何時もの平常運転で行動していたこと。
そして、三つ目は……
「んなっ……!!?」
「…………」
絵錬の顔に驚愕が浮かぶ。(不味いッ)、そう思って転移をしようとするが……。
この時、火事場の馬鹿力とでも言うべきか、逃してはならない契機を逃すまいと殿下の思考速度、挙動の速度が、絵錬のそれ全てを上回ってしまった。その結果、
(ッ、ァ……う、そ…………!!?)
コンマ一秒にも満たない世界。絵錬が次に思考出来たのは、闘技場舞台端の石壁に体を埋もれさせた時だった。辛うじて開いた左目で、何が起こったのかを確認しようとする。しかしまた、彼女から少し離れた客席で、耳を劈くような爆音が鳴った。そこには、太陽の鎧を大きく陥没させ、目に見えて重傷を負った黒ウサギと、彼女を止めようとして巻き込まれたジャックが朧気に見えた。
そこで、全てを理解する。
(っ、つぅ……ッ!! …………ハ、ハハっ。ちょっ、と……油断し過ぎ、ちゃった……のか、な?)
顛末はこうだ。
殿下は絵錬が転移を行おうという意思を実行するよりも早く、彼女に全力の拳を叩き込んだのだ。彼へと迫っていた剣は……当然だが届いていない。
絵錬は予想してたのだ。黒ウサギの神槍には余裕を見せ、自分の大剣は必ず回避をする。ここの違いを。もしかしたら〝刃〟の有無なのではないかと。殿下は刃こそ防げるがそれ以外は大丈夫ではないかと。
既に言ったが、絵錬のカーテナには刃と呼べる箇所はあるにはあるが、刃としての機能が存在しない、謂わば無刃剣である。彼女が、殺傷能力を削ぐために今回そう調整したのだ。それが偶然功を奏した……そう思ったのだ。
しかし結果は見ての通り。どうやら絵錬のカーテナも彼を守るギフトの対象圏内とみなされたらしかった。
何にせよ結論としては油断大敵。やはりこの一言に尽きる。
第三宇宙速度で殴り飛ばされた挙句、石壁に叩き付けられたお陰で指一本と動かせない。大半の骨、内臓も逝って、真面目に思考が出来ているのが奇跡なレベル。そんな状態で、自嘲的に絵錬は笑った。何時もと変わらない、「やっちゃったなぁー」と暢気に悠長にただ笑った。
阿鼻叫喚と逃げ惑う客人で溢れる闘技場内。その中絵錬は、遠くの方にジャックの怒号が聞こえた気がした。黒ウサギも大怪我を負っているのも考えると、自分達の治療のために指示を出してるのかもしれない、と。
次いで、丁度正面の位置から聞こえる飛鳥と耀の怒号。間違いなく同士を傷つけられたことに怒り心頭のようだ。
(……って。これじゃあ私、もうちょっとで死んじゃうみたいじゃんかぁ。可笑しくて余計に笑えてきたよ……!)
思考を一旦クリアーにし、体に積もる瓦礫を浮かせ一箇所に集束させる。
「挟み込むわよ! やりなさい、ディーン!!」
「DEEEEeeeeEEEEN!!!」
飛鳥とディーンの殺る気……もといヤル気に満ちた声が聞こえた。それを保護者のような幼児のようなどっちつかずの笑みを湛えながら聞きつつ、絵錬は「よいしょ……」と立ち上がった。
全身は外套も含め彼女の血で真っ赤に染まり、今も流血は続いている。だが、目に見える程の速さで致命的な傷が次々と塞がっていた。
誕生祭の時の雪羽もそう。アンダーウッドでの影禍もそう。彼女達の凄みは何も馬鹿げたギフトのみではない。法則不明、概念不明の不死性も、彼女達を規格外たら占めているものなのだ。
因みに当人等曰く、一般的にイメージ付いた不死性とは性質が全く異なるそうだが余談である。
「はぁ……まったく。一瞬だけど当麻との激闘を走馬灯で見ちゃったじゃないか。幻想殺しなんてトラウマはもうご免だって」
激痛を無視して肩を竦め、意味不明なことを宣ふ絵錬。
離れた所に転がっていたカーテナを回収しつつ、瓦礫を更に集める。この場に居る誰もが無双をする殿下に視線を向けている。飛鳥と耀が頑張っているが彼に勝てるわけ無い。
と、ディーンの剛腕を掻い潜り距離を取るため荒れ果てた舞台上に降りてきた殿下は、漸く後方で思わず殴りたくなるような笑みを浮かべる絵錬に気付き。目を見開いた。彼に続いて、耀と飛鳥も目を丸くしていた。
絵錬はそこへ間髪を入れず、殿下へと集束させていた瓦礫の砲丸を第三宇宙速度で撃ちだした。しかし殿下の咄嗟に放った裏拳で粉々に砕かれたしまう。
「あーちょっと、殿下~。何で折角のお返しを弾いちゃうのさぁ?」
「お前…………いや、まさか……」
「んー? 何を想像してるか知らないけど……私は多分ソレじゃない。ただちょっと頑丈な女の子だぞっ♪」
「……ぐッ!?」
他愛なく話し掛ける絵錬は、全く予期させず、さもその会話の流れであるかのように殿下を目の前に引き寄せ腹部へと回し蹴りを打ち込んだ。
元の位置まで蹴り返された殿下が、初めて苦悶の声を漏らす。それなりに強力な蹴りだったようだ。だが直ぐに苦悶から押し殺した笑いへと声は変わっていった。
「……仕方ねえから殺すつもりで殴ったんだが耐えられた。そして空間転移に加えて今の脚力か……これは、今すぐ手に入れられないのが惜しいくらいの逸材だ」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ~、っと」
殿下の言葉を軽く受け流し、客席の少し顔色が青くなっているペストとジンの傍に転移する。
「あー、あとねぇ殿下。これ忠告ね? ────早めに逃げたほうがいいんじゃない?」
寄ってきたペストを受け止め軽く殴られつつ、最後に彼女はそう告げた。
────刹那、闘技場に三度目の爆音が轟き、視界を瓦礫と粉塵が遮った。
少し雪羽の沸点が分からないくなってきたこの頃。
まぁ、黒ウサギと自分の姉がズタボロで、ジャックも損傷、耀もそれなりの怪我を負っている光景を見れば……
と、詳しい事は次話で。
P.S
見てるだけのせいか影禍の出番が極端に少ないことに今更ながら気付いた。
どしよ……