記録者達が異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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漸く六巻終了。



一騒動を終えて

 

 

 

 

「あはは……殿下ってばメンドクサイことしてくれたよねー本当。最後にあんな事大声で言うもんだから、私達に間諜の疑いがある! とか〝サラマンドラ〟が言い始めてさ? ジンとペストは牢屋に入れられちゃったんだよ~。まぁ、十六夜達が誤解を解いてくれるだろうから一時的だとは思うけど」

「ふーん。……で? その二人と一緒に居て同じく間諜の疑いを掛けられてる筈の絵錬さんは、どうして僕の隣で人様の串焼きを頬張っているのかな?」

「……えーと、それはほら。私ってあの時ボロボロだったじゃん? 重傷者を牢屋に打ち込むのはアレだろうって救護室に案内された所をチョコッと抜け出してきただけだよ。大丈夫、ちゃんと見張りの人にもオハナシはしたからsギニャッ!!?」

 

 

 鉄串を額にもらった絵錬は猫のような悲鳴を上げ、恨めしそうな目で影禍を睨んだ。が、サラリと危険な事をした当の本人は何事も無かったかのように手の影から串焼きを取り出してパクつく。

 

 会話からも察せるが、殿下の打った一芝居のせいで〝ノーネーム〟は間諜、要するに魔王連盟からのスパイ容疑に掛けられていた。それは影禍も、一時的にとは言え殿下と行動を共にしていた絵錬も例外ではなく、本来ならば〝サラマンドラ〟の宮殿で事情聴取を受けていなければならない筈だ。そんな状況で、二人は宮殿の上で影禍が闘技場崩壊時に露天で買ってきた串焼きに舌鼓を打っているのだった。二人のせいで事態がややこしくならないか色々と心配である。

 

 

「それで……行かなくていいの、二人の所。今頃冷たい壁越しに慰めあってるかもよ?」

「いつつぅ……そう言う影禍もさぁ皆の所に行ったらどうなの? って言うか何であの時勝手に居なくなったのさぁ。あの時の私、珍しく真面目にやってたんだよ?」

「自分で言うの、それ……。まぁあの時は……あれだよ、話が長くなりそうだったからね。ちゃんと影越しに聞いてたから問題ないよ」

「そういう問題……ふぎゃッ!?」

 

 

 また横から串焼きを盗ろうとした絵錬の額、さっきと同じ箇所に鉄串が見舞われる。

 情けなく転げるそんな彼女を影禍は呆れた様子で見下ろし、話はもう終わりと言わんばかりに影の中に沈んでいった。

 

 残された絵錬は、まだ若干残る鋭い痛みに悶えながらもここに来て勝手が過ぎる彼に対し溜め息を吐いた。だからどうこう言うつもりもない上、そもそも人の事を言えた義理ではないので一瞬思うに留まったが。

 

 

(……さぁて、っと。そろそろペストとジンの所に行こっかなぁ。二人とももしかしたら私が居なくて寂しがってるかもしれないし……なぁーんてね)

 

 

 二人の気配は宮殿の端の方に感じる。どうやら影禍の言う通りに一枚の壁越しで捕らえられているようで、何やら壁越しに会話をしているようだった。

 これは自分も加わらなければなるまいと、謎の使命感を感じた絵錬。折角だし差し入れも持っていこうかと、昼間カフェテラスで大量購入した小金芋のタルトを二袋取り出して二人の元へ転移した。

 

 

「「イタッ……!?」」

「んん? ……何してるの二人とも」

 

 

 絵錬が()()()()()()()()()をしつつ牢屋へとやってくると、そこには揃って後頭部を押さえ重なるように倒れこむペストとジンが居た。一見するとジンにペストが寄り添ってる形にも見える。

 直前にゴチンッと少しばかり痛々しい音が聞こえた気もするが、それよりもこの状況の把握に絵錬は努め……

 

 

「あ。え、えーと……今夜はお楽しmゲフッ!!?」

 

 

 明らかに誤った状況を察した彼女の腹に、ペストの容赦ない回し蹴りが突き刺さった。

 

 

 

 それからほんの束の間。毎度の如く「今日も厄日だなぁ」と暢気に笑いながら絵錬は冷たい石畳の上に腰を下ろした。そして持ってきたタルトの差し入れをそれぞれ二人に渡す。

 この時点で色々とツッコミ所満載だろう。百歩譲って絵錬が転移で牢屋にやって来たのはいいとしても、牢屋間の仕切りを取っ払ったり悠長に差し入れを持ってきたり。ジンは何処から指摘すればいいのか困惑し……結果的に深く考えないことにした。

 と言うのも絵錬が来る直前までペストと彼がしていた話の内容が内容だったから。何時ものノリで絵錬に蹴りを加えた彼女も、今は居心地の悪い雰囲気を醸しながら絵錬を挟んでジンと距離を取っている。半ば押し付けられて手にしたタルトを少しも口に運ぼうとしない。ジンもそれは同じだった。

 

 

「「…………」」

「あぁむっ。うん、やっぱり美味しいねぇ~……って、どしたの二人とも? そんな、とっても報われないバックストーリーを打ち明ける女の子と、その子にどう言葉を返せばいいか迷ってる男の子ーみたいな顔して」

「…………聞いてたなら空気くらい読みなさいよ、馬鹿」

 

 

 思わず口から溜め息を零すペスト。だがそこには普段の呆れよりも、悲しみや怒りのように複雑な思いが混じってるように感じられた。

 遂さっきまで影禍との話に集中していた絵錬は当然ながら、ペストの話────生前から今に至るまでの話は聞いていない。しかし、既に知ってはいた。今まで本人が話してくれる気配がなかったので敢えて触れていなかったのだ。

 

 

「まあまあ細かい事は気しない気にしなーい。────それだでさぁ……ねぇ、ジン」

「は、はいっ」

 

 

 朗らかな声音から一転、突然トーンの下がった絵錬の呼び掛けに、ジンは身を強張らせた。気付けば彼女の瞳は、普段のオットリ感を忘れさせる程に険しかった。隣からふと顔を覗き込んだペストも、思わず息を呑んでしまう。

 

 

「ペストの話を聞いてさ、ジンはどう思った? この子ったら、本当に優しいでしょ? とてもじゃないけど八千万の悪霊の代表とは思えないくらい。何時もは冷たくて、ぶっきら棒ぶってるけどさ、根はどこまでも素直な子なんだよ。あんな時代に、村の人達とずっと笑い合っていたいって、その為に家系になんか捉われないで自分の体の事なんか二の次で一生懸命だったんだよ」

「え、あ、ちょ、ちょっと……!? え、絵錬?!」

 

 

 急にマジトーンで自分の素性をペラペラと喋り出す絵錬に、ペストは堪らず赤面した。

 またも空気をぶち壊しだった。だがしかし、絵錬もジンも至って大真面目に続ける。

 

 

「呪いの成就で悪霊になった後も、自分と同じ理不尽に死んでいった境遇の人達一人一人に手を差し伸べて、今はその沢山の人達の為に戦ってる。こんな惚けた神様とか訳の分からない化生が集う箱庭で、魔王なんて向こうにとって都合の悪いだけの輩に付けられるレッテルまで貼られて、ずっと理不尽に苛まれながら戦ってるんだよ……」

「あ、あぁ、も、もうその辺でいいでsyモゴッ!!?」

 

 

 耳まで真っ赤になったペストが絵錬の外套を掴んで必死に止めようと縋る。が、その時空間に固定されて手出しが出来なくされた上、タルトを丸々一つ口の中に詰め込まれて黙らされた。

 そんな彼女を置いておき、絵錬はジンへと最後に再び問うた。

 

 

「ねぇジン、もう一回聞くね。ペストの話を聞いてどう思った……うぅん。どうしてあげたいって思った? 小難しい前置きとかいらない、ジンただが思った事を言って」

 

 

 真剣に細められた花緑青の瞳がジンを見据える。その瞳は暗に、返答次第によってはジンの命に関わりかねないと、そんな意思も感じさせられた。

 月明かりが鉄格子の隙間から二人を照らす。

 

 ……ジンはおもむろに口を開いた。

 

 

「僕は────彼女を手伝いたい」

(な……ジン……!?)

 

 

 彼の率直な言葉を聞き、ペストは目を見開いた。

 ペストの手伝いをする。それが示すところはつまり、太陽に関する神仏達、そして黒死病が起因で生ずる歴史の転換期(パラダイムシフト)に関連する者達諸々を敵に回さねばならないと言うことだ。

 現時点、ペストのそんな無理難題にも等しい目的に手を貸すのは絵錬ただ一人のみ。それも、彼女はそれを実現出来るかもしれない可能性を孕んでいるが故に。昼間に魔王連盟ウロボロスの頭に一杯食わせたとは言ってもまだまだ未熟なジンでは、この決断は何の迷いも無くしていいものではない。

 

 絵錬は依然とジンを視線で射抜く。だが彼の瞳には、確固たる決意が見て取れた。

 

 

「それは……本気?」

「本気です。手伝うのは〝ノーネーム〟の再建が終わってからにはなると思うけど、それでも彼女の願いは叶えるべきだ。十六夜さん達には僕から説明してみるし、もし駄目だって言われても……その時は僕一人でも彼女に協力する」

「…………そっか」

 

 

 真摯に正直な胸の内を告げるジン。もう、これ以上の追究は無粋だった。

 シリアスに徹した絵錬も、ここでその瞳から険しさ消してニッと邪気の無い笑みを浮かべた。

 

 

「うーんそっかぁ~、良い返事がもらえて良かった良かった。……ところでジン。ぶっちゃけ少し強引に迫っちゃったけど、ペストの話を聞いてからその気はあったりした?」

「……コミュニティの長として、最初は少し迷いました。だけどやっぱり、こんなに優しい彼女が……彼女達が報われないなんて僕は見過ごせない」

「おぉ。まだちっちゃくても男の子だねぇ~ジンってばぁ。ほぉらっ、ペストも何か言っtグフッ!? ッ、ムグゥ!!?」

 

 

 カラカラと笑いながら絵錬がペストの方へと振り向いた瞬間、本日二度目の回し蹴りに加え、さっきのお返しとばかりに口にタルトを詰め込まれる。そしてギンッ! と、まだ若干頬が赤み掛かったままジンに鋭い視線を送った。ジンもやや怯みながらも落ち着いて彼女を見つめ返す。

 

 

「……もう一回聞かせて、ジン。……本気なの?」

「僕の答えは変わらないよ。今回の一件に決着がついて、コミュニティ再建の目処が立ったその時は、必ず君の力になる。約束だ」

 

 

 流石のペストも、三度も宣言されてしまっては言い返す言葉が見つからなかった。そして、心の内でそれを嬉しく思う自分がいると自覚した途端、気恥ずかしさのような熱い感情がこみ上げてくるのを感じた。

 

 

「そ、そう…………ありがとう」

「ん、んくっ、ふはぁ! いやぁー、柄にもなくそれっぽい事遠まわしに言ってみたけど、ペストの照れ顔見れたから偶にはこういうのも悪くないかもねぇ~」

「アンタはいっぺん死ねえ!!」

「アグフッ!!?」

 

 

 見事な顎蹴りを食らい再び沈む絵錬。

 ふと、ペストは倒れこむ絵錬に苦笑を浮かべるジンにまた険しい視線を送り一言釘を刺した。

 

 

「ジン。さっきの話だけど……最後以外忘れなさい。もし誰かに口外しようものなら……覚悟シナサイヨ?」

「あ、あはは……ペストが嫌がる事なら言い触らしたりはしないよ。と言うか、うん、絶対言わない」

「……フンっ」

「おうふッ!!?」

 

 

 こうして、何時もとなんら変わらない三人の契りを交わした夜は過ぎていく。今を懸命に、その先を見据えて。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「やあ皆。事情聴取お取り込み中悪いけど、差し入れ持ってきたよ~」

「こんな時に何してるのお姉ちゃん?!」

 

 

 絵錬と別れた影禍は、そのまま十六夜達が雪羽達が事情聴取を受けていると耳に挟んだ宮殿内の執務室にやって来ていた。その両手にはまだ影に仕舞っていたのか四袋の串焼きが握られており、そんな悠長にも程がある姉に堪らず雪羽はツッコンだ。

 

 

「……おいこら、俺達が言われもない疑いを掛けられてるって時になに暢気に寛いでんだよ。一袋貰おうか」

「本当よ。こっちは魔王連盟の主力と接触して大変だったのよ? 二本貰うわ」

「二袋頂戴。……抜け駆けはずるいよ、影禍」

「真面目な振りしてなにさり気無く貰ってるんですか?! それと耀さん! お腹空いてるのは分かりますけどもう少し取り繕ってくださいよ!」

「そもそも話をマトモに聞かんかお前らはあああああああ!!」

 

 

 こんな時でもノリは平常運転の問題児四人だった。

 結局、雪羽もマンドラも影禍の差し入れを受け取らされて、一時落ち着くことに。そして一息吐いた所で閑話休題、一同は真剣な表情に戻った。

 

 

「それで、話は何処まで進んでたの?」

「魔王連盟が俺ら〝ノーネーム〟と繋がってんじゃねえのとかいう嘘八百もいい話だよ。あの白髪鬼の小芝居のお陰でとんだ迷惑被ってんだ」

「……それについてはさっき言ったが、奴らの正体に気付けず、見す見す逃す嵌めになった我々の落ち度だ。二の句も継げん」

「…………ふぅん? そういう事。ま、サンドラちゃんの初陣を飾る為とは言え魔王を利用するくらいだもんね。今更咎める気にもならないよ」

 

 

 最早呆れで言いたい事も言う気が起きないと肩を竦める影禍。少し前に十六夜達にも同じ事を言われたのだろう、顔に分かりやすく悔いてる心情が見て取れた。彼は、ここから更に攻め立ててみるのも面白そうと内心嗜虐心を募らせたが、自重。何よりここでまたふざけては雪羽が煩い。

 キッパリと話を切り、今度は魔王連盟について十六夜に尋ねた。

 

 

「ところで十六夜君。魔王連盟については何か分かった事はあるの?」

「いいや。正体を暴こうにも確証が〝尾を喰らう三頭の龍〟の旗印程度だと今考えるだけじゃ結論はでない」

「? 十六夜君はあの旗印の意味に心当たりがあるの?」

「確信は無いがな。ポピュラーに不死性の象徴なんだが、その上に元々多様性があるんだ。そこに多少のアレンジも加えられてる可能性も考えると、断定するのはまず困難だ」

「と言うより、影禍達の方が何か知ってそうな気がするんだけど……」

 

 

 耀の何気ない疑問に四人の視線が影禍と雪羽に集まる。だが、「あ、え……」と困惑する雪羽は真っ先に除外され、影禍も困ったように肩を竦めて答えた。

 

 ……別に知りたければ今すぐにでも知れるとは、面白みが無いので決して言わなかった。雪羽は素で思いついてもいないが。もし彼女がそれに気付いてしまったら直ぐに闇邪が表に出て口封じをする事だろう。

 

 

「……何れにせよ、敵の尻尾どころか全容が掴めそうって事だ。全員気合入れておけよ」

「えぇ。彼らの背中に手が届く日も近いわ」

「そうなったら……いよいよ取り戻せるかな」

「取り戻せますよ、きっと。私達の今までは、絶対に無駄じゃなかたって胸を張って言えるようになるんですっ」

 

 

 熱く決意を胸に頷き合う四人。

 これからそれ程間も空かず、魔王連盟はまた攻めてくる事だろう。その時には今度こそ決着をつけようと、そんな意気込む彼らが影禍には少々鬱陶しくも、頼もしく思えた。

 

 

 ────そんな時、突然執務室の扉を勢いよく開け放つ者が現れた。

 

 

「ヤ、ヤホホヒョヒョヒョ!!? ノ、〝ノーネーム〟の皆さん、大変でございますよ!!?」

 

 

 飛び込んできたのは、意外にもジャックだった。普段の彼ならノックもなしにいきなり扉を開け放ってくる事も無いのだが、その様子からして相当慌てていると分かった。

 

 

「ジャ、ジャックさん!? ど、どうしたんですか、そんなに慌てて……」

「じ、実は……く、黒ウサギ殿が……黒ウサギ殿が、大変なことになっているのですよ……!!?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、四人の顔色が瞬時に変わった。

 

 

「……悪いが、残りの話は後だ」

「ジン君達の釈放、お願いね!」

「あとご飯も宜しく!」

「耀さんさっき串焼きあんなに食べましたよnじゃなくて!! こんな時に食欲に忠実にならないで下さいよ!? ────ジャックさん! 黒ウサギさんの部屋に案内して下さい!」

 

 

 口々にそう早々と言って、四人はジャックの後を追いかけて執務室を出て行ってしまった。

 残されたマンドラと共に暫し呆気に取られる影禍だったが、束の間、ハァ……と溜め息を吐きつつ彼らの後を追った。

 

 宮殿内を慌しく先行する五人の気配を辿っていく……ものの、途中で面倒になったのか、彼らが黒ウサギの病室近くに差し掛かったなと感じた辺りで影を通し、雪羽の足下に移動した。

 

 

「ひゃッ、ヘブッ……!?」

 

 

 足首を掴まれ出てきたせいか駆け足の最中盛大に顔面から転ぶ雪羽。

 そんな彼女を気にも留めず影から飛び出した影禍は、先に病室へ駆け込んだ十六夜達に続いて……珍しく硬直した。

 

 中には一人の少女が居た。月明かりが集まり青味掛かったストレートに、数ヶ月前に見た時から変わらないディーラーもどきのやや露出度の高い格好が特徴的な彼女。

 だが、彼女には決定的に足りないものが一つあった。

 

 

「う、うしゃ……黒ウサギのウサ耳が……ウサ耳が無くなったのですよぉーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 頭の上の変わりに側頭部の耳を押さえる彼女────黒ウサギの悲痛な叫びが宮殿に響き亘った。

 

 

 

 

 




次は七巻。アジ=ダカーハ登場まで一応行って、そこで一旦区切る……かな?
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