「馬鹿ですかあなたは?」
私の一大決心を聞いた妹の最初の一声は罵倒だった。
「馬鹿ってなによ!プロデュエリストよ!勝ちさえすれば全てが手に入るのよ!
それに、艦娘として戦っていた頃の高揚感!陽炎型の一番艦として、水雷戦隊を率いていたあの頃を思い出したわ!やっぱり艦娘ってのは戦ってナンボなのよ!」
「……………」
「……………」
暫しの間、食卓が沈黙する。
てゆーか、不知火の目が超怖い…
「…姉さん。」
「な、なによ…」
「仕事があるので、明日すぐには無理ですが、一緒にハローワークに行きましょう。すぐに仕事を決めろとは言いませんから、とりあえず話を聞くだけでも…」
折角人がやる気を出したというのに…
ハローワークなんて行くわけないでしょうが!
行くならカードショップよ!
「いやよ!とにかく!私はプロになります!はい、決定!この話はおしまい!」
私はね、水雷戦隊の旗艦としてずっとやってきたのよ!それを今更誰かの部下として下働きなんて…無理!下っ端なんてまっぴら御免よ!
もう、あんな屈辱を味わうのは嫌!
「…失敗してしまいましたか。」
艦娘として戦っていた頃の姉からは想像もつかないプライド…というより傲慢。
あの時は、旗艦として陽炎型を率いることで、そのプライドも満たされていたのでしょう。
今の姉さんは、過去の栄光に囚われている。
「…誰かが姉さんのプライドを、1度ズタボロにしてくれないでしょうか…」
…私の、どこかずれたぼやきは、独りになったリビングに溶けて消えた。
「クッソ〜!ぜーったいプロになって見返してやるわ〜!」
翌日、私はカードショップに来ていた。どんなデッキを作るかは大体考えてある。そのために、少ないけれど貯金も下ろしてきた。
…結局不知火とは気まずいまま。もうあの家には戻れない。
「イラッシャイマセー!」
店内に入ると、店員に挨拶をされる。丁度いいわね、デュエルディスクについて聞いてみよっと。
「あの、すみません、デュエルディスクは…」
「デュエルディスクデスネ〜?コチラ、最新式ノモデルデゴザイマス〜!
軽量化ヲ重ネテオリマスノデ、長時間ノデュエルモ楽ニナリマスヨ〜!
ロック系ノデッキヤ、エクゾディアヲオ使イニナルデュエリストノ方ニ、特ニオススメシテオリマス〜!」
「値段は?」
「7万9800円(税込)デゴザイマ〜ス!」
「高っか!」
「デシタラ、コチラノスタンダードモデルハイカガデショウカ?」
「ふーん、こっちは幾ら?」
「4万5800円(税込)デゴザイマ〜ス!」
「な、なるほど。」
「オ客様、コチラノデュエルディスクハ試着モ行ッテマスノデ、着ケテミテハイカガデショウカ?」
「お願いするわ。」
「ハーイ!店長〜!試着用ノデュエルディスク持ッテキテ〜!」
店長パシんなよ…
程なくして、持ってこられたデュエルディスクを試しに付けてみる。
…意外と重いわね。
「アリガトウゴザイマシタ〜!」
「はぁ…結局高い方を買ってしまった…」
だって仕方ないじゃない!スタンダードモデルって女の子には結構重いのよ!…と自分に言い訳をしつつ、中古カードの売場へ行く。
「さぁ!ここからが本番よ!」
売場にある大量のカード。レアリティや使用頻度の高いカードはショーケースに入っていたりするんだけど、それ以外のノーマルカードはまとめて箱に詰めてあって、そこから掘り返して探さなきゃいけないみたいなの…
長い戦いが…今始まる!
「で、出来た…なんとか形にはなったわね。」
あれから一日中カード探し。何店かハシゴもしたからすごい疲れたわ…
その後、適当なネットカフェに入ってデッキ作成。久しぶりだったので、レギュレーション違反が無いか何度もチェックもした。
とにかく!デッキは出来たわ!明日からたくさんデュエルして、勝ち星とりまくるのよ!
狙うはここ、ナルカミシティで行われる世界大会、【フォーチュンカップ】
プロアマ問わず、デュエルディスクから送信されるデュエルの成績が良いデュエリストに、参加資格が送られるこの大会。
この大会に参加したアマチュアのデュエリストは、プロ資格の試験を一部免除されるなどの特典もあったり。
何よりも、優勝者はデュエルキングとデュエルをすることができ、もし、もし勝てればその瞬間デュエルキングの座を奪うことが出来る…。
まさに最高の下剋上の舞台ってわけね。
「よし!明日から忙しくなるわよ!おやすみっ!」
…普段なら不知火が返事を返してくれるんだけど、ここはネットカフェ。当然返事が返ってくるはず無いよね…
ほんの少しの寂しさを感じながら、私は眠りについた…
「………ダメだ、勝てない…」
深夜の公園のベンチで、1人消沈する私。
あれから1週間…
私は片っ端からデュエルを挑んだ、はいいんだけど…
ほとんど勝てなかった。
いつも肝心な時に、必要なカードが引けない。
勝ったとしても、プロデュエリストのような魅せる勝ち方とは程遠い、泥臭い勝ち方。
「はぁ…」
「そこの小娘よ、こんな夜中に何をしている?」
「ッ!!」
溜息をついてうなだれる私の上から、男の人の声がした。
驚いて顔を上げると…
(…コスプレ?)
変な形の白い仮面と、白いコート。
ぶっちゃけ超怪しい。
「貴様のような子供が彷徨く時間ではない。さっさと家に帰るんだな。」
「悪いけど子供じゃないの。艦娘って知ってる?」
「ふぅん、なるほど。それは失礼した。だが、こんな所で1人でいるのは感心出来んな。」
「…別にあんたには関係ないでしょ。」
「まぁ、その様子を見るに、大方デュエルでまともに勝てないと言ったところだろう。」
「ッ⁉︎」
こ、こいつ…!
「そのしけたツラと、腕に着けた真新しいデュエルディスクを見れば分かる。」
「だったらどうしたって言うのよ!あんたには関係ないでしょ!もうどっか行きなさいよ!」
「…貴様が勝てない理由。教えてやろうか?」
「…は?」
「どうした?さっさと答えろ!」
「し、知りたいに決まってんでしょ!」
「ふっ、ならばデュエルだ!」
「はぁ⁉︎なんでデュエルなのよ⁉︎」
そいつは、どこからともなくデュエルディスクを取り出し装着すると、いきなりのデュエル宣言。これがデュエル脳ってやつ⁉︎
「さぁ!構えろ陽炎!」
「あー!もう!しょうがないわね!」
てか、さりげなく私の名前呼んでるし!なんで知ってんのよ!
聞きたい事が増えたわね!
??? LP4000
デュエル!
陽炎 LP4000
「私の先行!」
手札は…
【シャドール・リザード】
【シャドール・ドラゴン】
【エフェクト・ヴェーラー】
【
【ガード・ブロック】
…次のターンに
「私は、モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドよ。」
「俺のターン!ドロー!…フッ。」
「…何笑ってんのよ?」
「宣言しよう陽炎。このデュエルはこのターンで終わる!」
「はぁ⁉︎あんた何言って、」
「俺は手札から、【ドラゴン・目覚めの旋律】を発動!手札を一枚捨て、デッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴンを二枚手札に加える!俺が選ぶのは…」
「
「なっ⁉︎ブルーアイズ⁉︎」
よりによって私の思い出のカードを!
「さらに!俺は、コストとして墓地に捨てた【
「ちょっ⁉︎まさか⁉︎」
「魔法カード【融合】を発動!降臨せよ!最強にして最美麗!究極の殺戮モンスター!
【
「ま、マジで…」
「さぁ!バトル!邪魔な雑魚を消し飛ばせ!
アルティメット・バースト!」
「キャア〜!」
なんて威力!でも…
「残念だったわね!シャドール・リザードのリバース効果発動!アルティメットドラゴンを破壊!」
ドゴォン!という効果音とともに、アルティメットドラゴンが爆破される。やったわ!
「あら〜?このターンで終わりにするんじゃなかったんですか〜?」
「ふっ、まぁそう焦るな。」
バサァッ!
突然何かが羽ばたくような音が聞こえ、爆煙が散らされ…
「う、嘘でしょ⁉︎何で⁉︎」
ギシャァァァァ!
散った煙の中から三体のブルーアイズが現れる!
「シャドール・リザードの効果が発動した瞬間、俺は速攻魔法、【融合解除】を発動していたのだ。
残念だったのは貴様の方だな。三体のブルーアイズで攻撃!滅びの
「くっ!リバースカードオープン!陰依の原核!ガード・ブロック!」
「ふぅん、二体は防いだか。だが、三体目は無理なようだな!」
ドゴォン!
「キャア〜!」
陽炎LP4000→1000
グウゥッ!大ダメージね…。だけど何とか耐えたわ…。
「…ガード・ブロックの効果で一枚ドロー!」
よしっ!【陰依融合】!
「どう?耐えて見せたわよ?さぁ!さっさとターンエンドしなさい!」
「何を言っている?まだ俺のターンは終了していない。いや…」
「バトルフェイズさえも、まだ終わってはいない!」
「はぁ⁉︎」
何こいつ!まだ何かあるの⁉︎
「俺は手札から速攻魔法カード、【超融合】を発動!手札を一枚捨て、自分と相手のフィールド上のモンスターで融合召喚を行う!」
「何ですって⁉︎そんなカード、見た事も聞いた事もないわよ!」
「当たり前だ!このカードは伝説と呼ばれる一枚なのだからな!
さぁ!俺は再びブルーアイズを三体融合させる!
我がフィールドに再臨せよ!青眼の究極龍!」
「そ、そんな…」
「終わりだ!青眼の究極龍の攻撃!アルティメット・バースト!」
陽炎LP1000→−3500
また負けた…。しかもワンターンキル…。
「何で…?何で勝てないのよぉ!」
「おい、貴様は…デュエルが、デュエルモンスターズが好きか?」
「え?」
「初めてデュエルをした時の事を思い出せ。」
「………」
初めてのデュエル…。ずっと昔に、姉妹みんなを巻き込んで始めたあの時…
「…楽しかった。」
そうだ、楽しかった。一枚一枚のドローに一喜一憂したり、勝っても負けても、みんなで笑いあって…
「今はどうだ?今の貴様は、結果しか求めていない。功を焦るあまり、楽しむことを忘れている。
そんなデュエリストには、カードの精霊も力を貸さないだろう。」
「カードの精霊?」
「デュエルモンスターズのカードには、多かれ少なかれ精霊が宿っている。」
「何よ、そんなオカルト、信じると思ってんの?」
「科学とオカルトの間の子である艦娘が、オカルトを否定するか?」
「むっ…」
「話が逸れたな。カードの精霊は、デュエルを愛し、カードを愛し、そして、強き心を持つデュエリストに力を貸し与える存在。
精霊に認められたデュエリストは、奇跡とも言えるドローの運命力を持つ。
まぁ、功を焦っている貴様ではそれ以前の問題だがな。」
「うっ…」
耳が痛いわね…
「陽炎よ、今の貴様はチャレンジャーだ。何度負けてもいい。デュエルを楽しめ!そして強くなれ!
たゆまぬ鍛練を積んだ者にのみカードの精霊は微笑む!」
カッコつけて説教なんかしちゃって!
いいわ!やってやろうじゃないの!
「フッ、いい顔になったな。
…このデッキ、お前にくれてやろう。」
「え?」
そう言うと、彼はデュエルディスクからデッキを外し、私に手渡す。
「ついでだ。ブルーアイズと相性のいいカードもやろう。」
「え?ちょっと待って⁉︎貰っちゃっていいの?」
「当たり前だ。そもそも、そのデッキのブルーアイズは、かつてお前の身代わりになったカードだ。」
「え…?」
あの時の⁉︎間違いなく燃えて無くなった筈なのに…
「陽炎よ!」
「は、はい!」
突然大声で名前を呼ばれ、昔の癖か、つい背筋を正してしまう。
「強くなれ!そして、貴様が真のデュエリストとなったその時…真のブルーアイズ使いの称号を賭け、もう一度デュエルだ!」
「…えぇ!約束よ!」
「では、俺は行くとしよう。」
「ま、待って!」
「何だ?」
「名前…あんたの名前!教えて!」
「俺の?いいだろう!俺の名前は…」
正義の味方カイバーマンだ!
「ではさらばだ!フゥ〜ハハハハハハ!」
「ありがとう…カイバーマン。」
高笑いと共に、光の中へ消えていったカイバーマン。
彼の教えで、私は、一つ強くなれた気がした。