真・恋姫†無双 ~転生者の章~   作:河流

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第四話『陳留の司馬懿』

「ふむ」

 

華琳様に仕え始めてから一ヶ月が経過した。

 

陳留の街は私が来た時には、既にこの規模の都市としては大陸でも指折りな程に発展していた。俺が新たに手を加える事も殆ど無く、今現在は陳留の警備案見直しために警備隊に出向。警備隊員として活動する傍ら、現行の警備体制の穴を見つけ、改善に努めている。

 

「矢張り現在の人数では陳留全体を隙間なく、というのは難しいか」

「はい、現状陳留市街地を四つの区画に区分し各区画に詰所が一つずつ。主要な通りなどの騒動にはすぐさま対処できますが区画の境界になると対応が遅れてしまいます」

「区画間への詰所の増設とそれに伴う増員で事足りるか?」

「詰所は直ぐにでも、ですが警備隊に志願する者は少ないと思います。となると増員が決定するまでの間、各区画の人数を減少させ割り振るしかなくなります」

 

今、俺と意見の交換をしているのは北区画の警備隊長の曹休、真名を(かい)。華琳様の一族だが、当人が志願しこの職を努めているらしい。だが会って話をしてみればかなり優秀な人物であると理解した。陳留市街地の商店や裏路地を自らの足で歩き詳細な地図を自作し、他区画の隊員たちとも情報交換を頻繁に行い自らの能力の及ぶ範囲内で可能な事を常に模索している。本来、命令系統が別々だった四区画の警備隊を取りまとめているのも曹休だ。

 

「増員が出来るならば現況を解消出来る、という事だな?」

「簡明に申しあげればそうなります、無論他にも細かい点を見直して行かねばなりませんが」

「うむ、可能な限り対処するとしよう」

 

警備隊に出向して間も無く、槐に聞いた事がある。それだけ実力があって何故警備隊へと志願したのか?と。

 

『春蘭と秋蘭が軍にはいます、内政も荀彧殿がいます。華琳様の傍らに侍るのは現状、この三名がいれば十分でしょう?だから紫狼様もこちらへと出向する事を決めたはずだ。私は三人の手が届かないところを補佐しよう、と考えているだけです』

 

一つの勢力に一人、こういう補佐役に徹する者がいるだけで屋台骨の強度が変わってくる。俺も曹休も、表舞台を棄て裏方に徹する覚悟がある。後はこれから成長するであろう勢力の中で、どれだけ理解者と協力者を得られるかだ。

 

「槐、市街地で黄色い頭の鼠は見たか?」

「・・・・二、三匹。大事には至りませんでした、ですがもしかすれば陳留郊外の村々にはもっと多く出ているのかもしれません」

 

黄巾賊。

 

生前では歴史の教科書に記される程の大規模な農民反乱。張角、張宝、張梁の三兄弟を長とし太平道の信者で編成された賊党。官に搾取され生きる術を失った農民たちを瞬く間に取り込み、官軍を圧倒的に上回る兵数で大陸各地を暴れまわった。それが乱世の始まりとなった、そしてそれはこの世界であっても変わらないだろう。既に朝廷に力は無く、表立って動いているのはわずかではあるが諸侯は各々好き勝手に勢力を伸ばし、軍備を拡大させている。権勢を握っているのは十常侍と大将軍何進一派、帝は傀儡。既に漢王朝は落日を迎える寸前まで来ているのだ。

 

「既に各地で勢力を伸ばしている、とも聞く。発見し次第、民に気づかれぬように即、処分しろ」

「無論」

 

―――――――――

 

「という結論に至った」

 

夜、華琳様の執務室にて俺、華琳様、夏侯惇、夏侯淵、荀彧による会議が開かれていた。主旨は情報交換、市井にて業務を行う俺と、城勤めの他三名。得られる情報の種類、精度には特色が別れるため定期的にこの会議が執り行われる。今回は俺と曹休が取りまとめた警備改善案に関するものだ。

 

増員、の一言につきるわけだが・・・・

 

「あのねぇ、アンタ馬鹿でしょ!?ただでさえ領内の賊討伐で兵力が足りないってのに街の警備に五割増の人員とか無理に決まってんでしょ!」

 

真っ向から反論をぶつけてくるのは荀彧、真名を桂花。陳留の内政を一手に担う軍師兼文官だ。実力もあり、才能もある、努力もしているが経験不足。最近では幾分か解消されて来たが、出会った頃はそれが目立っており一度真っ向から指摘した事がある。それ以来、互いに様々な政策について真っ向からぶつかり合う事がしばしばである。

 

「誰が今すぐ増やせ、と言った。徐々に、と俺は言った。人の話を良く聞きもせず罵詈雑言を浴びせるだけならば市井の童でも出来るぞ」

「なんですってぇえええっ!!」

 

俺の言葉に怒鳴る桂花を愉快そうに見ているのが夏侯惇、真名を春蘭。武官側の筆頭で、頭の出来は正直よくないがそれを補ってあまりある武力を誇る。華琳様への忠誠と武、それが彼女の大部分を占めている。桂花とは馬が合わないらしく、しばしば言い合いをしている姿も目撃される。

 

そして俺と桂花のやり取りに静かに耳を傾けているのが夏侯淵、真名を秋蘭。春蘭の妹とは思えない程に内政にも精通しており、軍事と内政を兼務出来る貴重な存在でもある。姉のことになると前後不覚に陥る事もあるが、その程度は弱点にならない程に優秀である。

 

「現状、槐の負担が多すぎる。今のところ春蘭と秋蘭、二将が交代で領内の討伐に歩いている。ならば調練の時間を一部削り正規兵を交代で警邏に回せば良い」

「簡単に言うけど、正規兵から見れば警備兵は戦場に出るのが怖い腰抜けって言われてるの知ってて言ってんの!?やる気の無い連中をあてがうだけ無駄よ無駄!」

「春蘭と秋蘭にも警邏に参加して貰えば良い、将が率先し警邏に全力を注げばその部下たちとて粗雑な真似をする訳にもいかないだろう。ましてや警備兵を馬鹿にする、という事はその手伝いに入る二将をも侮辱する事になる」

 

兵だけにやらせるならば桂花の言う通りだ、だがそこに夏侯惇、夏侯淵と他領にも名が広がっている将が参加する事でまた意味合いは違ってくる。二将が率先して参加しているのだ、兵士たちとてやらざるを得なくなる。しかも将の手前、手抜きなどできようはずも無い。

 

「やってくれるな?春蘭、秋蘭」

「む?良いぞ」

「ああ、そう言う意図があるならばそれも良かろう」

 

春蘭はあまり深く物事を考える事が無い、だがその代わり自分が実力を認めた者の指示には一切の異論を挟まず従う。それは自らの認めた人物の指示なのだから、それ相応に理にかなっているのだろう。だが自分にはその考えに及ばない、だから従う、という確かな意思がそこにある。

 

秋蘭は姉とは逆に物事を深く考える。出された指示の意味を理解しようと勤め、実行し、その後も理解する努力を怠らない。そう言う人物が一人、現場側に居てくれるだけで指示を出す側は相当楽になってくる。今後は秋蘭以外にもこういう将が出て来てくれる事を願うばかりだ。

 

「春蘭はともかく秋蘭まで・・・・もう、それで?予算はどれぐらい確保すれば良いの?」

「これで頼む」

 

予算を詳細までまとめた竹簡を手渡す。警備隊に出向させる兵への手当、詰所を新築する土地が現状無いので空家を借りる家賃、増員人数分の警備隊専用の捕縛装備の購入、雑費他諸々。

 

「まぁ、これぐらいならなんとかなるでしょ」

「助かる」

 

正直な話、総合的な能力ならば俺は桂花に優る自信がある。だが内政、こと資金のやり繰り、兵站の確保などに関しては俺は桂花に遠く及ばない。だからこそ、俺が劣る部分に関しては遠慮会釈無しに力を借りる。人一人に出来ることなどたかが知れている、無理に無い知恵を絞り出すよりもあるところから持ってくる方が遥かに楽なのだ。

 

「紫狼」

 

と、ここでようやく華琳様が口を開いた。

 

「『黄巾』の動きは掴めたかしら?」

「何とも、朝廷は漢王朝の転覆を目論んでいる、として順次諸侯に出陣要請を出しているようですが正直それすらも怪しいと思っています」

 

史実の黄巾賊は困窮した民たちが『太平道』と言う拠って立つ『柱』を得て、死すらも厭わぬ戦闘部族と化していたはずだ。だが今回のそれは全く性質が違う、殆どが賊崩れ、跳ねっ返りが真似事をしただけ、のようなモノだ。今のところ、宗教の気配すら感じられない。

 

「俺たちは、もしかしたら思い違いをしているのかも知れません」

「思い違い?」

 

俺の言葉に眉をひそめたのは荀彧だ。俺、華琳様、桂花の三人のこれまでの黄巾に対する共通認識が何らかの新興宗教により取りまとめられた集団である、と言うものだった。信者が集まり、力を得るに連れて何かを勘違いし「我が神こそが天を統べるに相応しい」とか言い出した程度のものだろうと思っていた。だが人の心理とは思いのほか単純だ、もしかしたらこの乱の根っこはもっともっと単純なモノだったのではないだろうか?

 

「まだ、それを論ずる時では無いが・・・・」

「そうね、確かに私たちの見当はズレていたのかも知れない。それでも時は待ってくれないわ」

 

そう言って、華琳様が取り出したのは紙で作られた書簡。それを広げれば真っ先に目に入る『勅令』の二文字。

 

「黄巾討伐の勅、ですか」

「そういう事よ、もはや黄巾の思惑を推し量っている暇などないわ」

 

ようやくか、とも思った。朝廷は幾度か単身で黄巾討伐の軍勢を発した、だがその殆どが戦果を挙げるどころか返り討ちに会う始末。唯一の成功例が飛将軍呂布、彼女が率いた軍だけが賊五千を壊滅させる成果を挙げた。が、それまでである。そもそも軍の頂点である大将軍が肉屋の時点でその配下にまともな者がいるとも思っていないし、まともな者がいても人選が期待出来ない。

 

「紫狼、今回は貴方にも遠征に出てもらうわ。留守の間の取りまとめは槐に任せるわ」

「・・・・槐の負担にならぬよう、留守居の文官は厳選しましょう」

 

槐が留守の責任者、と言う人選は問題無い。それだけの能力を槐は持っていて、今後は警備のみならず様々な場面でその力が必要になってくる。そのためにも、今回留守の責任者、と言う大役を任せる事により周囲にもそれを認識させる事が必要なのだ。

 

「今回は総指揮を紫狼に任せるわ、私をも一人の将として、見事使いこなして見せなさい。それと桂花、この遠征中は貴女は紫狼の下に付きなさい」

「紫狼の、ですか?」

「えぇ、その傍らで学びなさい、紫狼の用兵を」

 

華琳様が俺の軍才に期待してくれている、と言う事は分かる。だが俺は何か学ぶことがあるような特殊な事をしている覚えは無い。あくまで常道、あくまで定石、堅実なのが一番なのだ。

 

「まぁ良いでしょう、なればそろそろ俺はお暇しましょう」

「あら、今日はもう下がるの?」

 

既に今日の議題は全て消化している、普段ならばこの後は他愛も無い雑談をするのが常なのだが・・・・

 

「軍権をあずけられるからには編成から、と言う事でしょう?」

「真面目ね」

 

苦笑する華琳様に一礼し、踵を返して部屋を出る。

 

―――――――――

 

夜風が少し冷たく感じる。

 

「やるしかない、か」

 

実戦経験はあの時のたった一度、しかも殺し合いでは無い調練の範疇だ。だが今回は違う、あちらもこちらを殺しに来るし、こちらもあちらを殺しに行かねば殺される。総勢でどれほどの兵を連れて行くことになるかはまだわからない、だが兵たちの命を預かる立場になってしまうと言う事だ。

 

「祖父さん、アンタならどうしてたよ?」

 

生前の、俺を世話してくれてた祖父さんの事を思い返せば、自然と口調はかつてのものへと戻る。司馬懿でも無く紫狼でも無い、■■だった頃のものに。

 

「でも前に進むしか無いんだろうな」

 

なんの因果か一度失った命、それをこの世界にて新たな生を受けた時の事は不思議とハッキリ記憶に残っている。あの時に、俺は覚悟を決めていたんだ。なら一度決めた事を曲げず、愚直だろうがなんだろうが邁進するしか無いんだろう。

 

「さて、忙しくなるな」

 

止まっていた歩みを、俺は再び進めるのだ。




あーでもない、こーでもない、と迷いながら書いているうちにお気に入り登録が100を突破していました。ヤッター!!と思っていたらようやく付いた評価が全部低評価でした。ヤダー!!

でもめげずに書いていこうと思います、今後とも宜しくしていただけたら幸いです。
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