あと、改行時の文頭一文字空けが出来ていません(書いている最中はしているのに反映されない)。
その事を踏まえ、お楽しみください。
修正版プロローグです。ラスト付近を書き足しました。
0.プロローグ(修正版)
1993年7月 扶桑皇国、横須賀市。
「私、海軍に入る」
ごく一般的な団地に住む佐藤家の夕食は加織のその一言で幕を上げた。
父と母は手に茶碗と箸を持ったまま口を開けて加織の顔を見つめていた。リビングには祖母が漬け物をかじる音と横浜ランドマークタワー開業を報せるテレビの音が響いている。
「私、海軍に、入る」
今度加織はゆっくりと、文節ごとに区切って言った。
「加織、父さんの聞き間違えかな。お前は今海軍に入ると言ったか?」
「うん」
加織はテーブルに身体を乗り出して宣言した。
「私、海軍のウィッチになる!」
父はまたも茫然とした後、はぁ、と溜め息をひとつ吐いて、手にしていた食器をテーブルに置いた。
「加織、お前は父さんの跡を継いで、医者になるんじゃなかったのか?」
加織は生まれつき強い魔力を持ち、固有の治癒魔法を使って幼い頃から怪我をした友達を治癒してみせたものである。そんなこともあって、父はてっきり加織が医学の道へ進むとばかり思っていたのである。
「お前なら、医者なんてすぐなれるさ。加織は賢いからな」
しかし、加織は首を横に振る。
「いや!町医者なんかじゃなくて、もっといろんな人を護りたいの!」
彼女は説得の対象を味噌汁を啜る祖母へ変えた。
「おばあちゃんはどう思う?昔ウィッチだったんでしょ?」
祖母はご飯を口に運び、ゆっくりと咀嚼してから飲み込み、加織の方を向いた。
「お医者さんも、人を助けたりする大切な仕事だよ?」
「でも私、おばあちゃんみたいに空を飛んでみたいの」
加織のウィッチへの憧れの源、もとい原因は祖母だった。
小学生の頃、彼女は祖母の部屋に入り浸り様々な本を読んでいた。童話をはじめ、詩集、医学書など、その範囲は広く及んだ。
その中でも特に彼女を惹き付けたのはウィッチについての本だった。
医学書の横にそっと納められていたその本の表紙には『空の英雄』と書かれており、中は写真付きで様々なウィッチの紹介が書かれていた。
更に、祖母がもとウィッチだと分かると度々昔話を求めた。祖母も懐かしいのか様々なことを話してくれ、加織はどんどん空へ夢を拡げていった。
「おばあちゃんはどう思う?私ウィッチになれるかな」
「君枝さん、味噌汁おかわり。美味しかったよ」
「おばあちゃん!」
祖母は母から味噌汁の御代わりを受け取ると「はいはい」と微笑んで加織の頭を撫でた。
「加織や、どうしてウィッチになりたいんだい?」
祖母の目は優しかったが、どこか加織を試すようないたずらっ気のある光を宿していた。
「私、魔法の力をもっと有効に使いたいの。風邪とか、病気とかは薬でも治せるけど、私はこの力をもっといろんなところで使って、いろんな人を助けて、護りたいの」
そう言う加織の表情は真剣そのものだった。祖母はうんうんと頷き、言った。
「なら、咎める理由は無いね」
「ちょっ……母さん!」
父が露骨に戸惑う。
「加織はまだ十五だし、頭も良い。そんな軍隊に入れるなんて……」
「信太郎、私たちはあんたが医者になりたいって言うから、雀の涙ほどしかない預金をおろしたり、借金したりして、大学に入れてやったんだよ?」
そう言われると父はキョトンとして、顔を紅くした後黙った。そして暫くして口を開いた。
「……その、なんだ。加織、今はおばあちゃんの時代と違ってウィッチになるのはとても難しいし、大変だ。それでも、頑張ってやっていけるかい?」
父の問いに、加織は力強く頷く。
「そうか……君枝、お前はどう思う?」
「加織の人生よ。無事でいてくれるなら、それで良いわ」
父はそうだな、と母に同意し、加織の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。
「ウィッチなれるように、しっかり勉強しろよ」
父上の、有難い仰せであった。
1995年10月 横須賀から南へ二十海里……
空母赤城を旗艦とする第三艦隊は中東での作戦を終え戻ってきて以来暫く新人ウィッチの訓練場となっていた。
加織も新人ウィッチの一人として、赤城に座乗している。
数ヵ月に及ぶ地上訓練を終え、初の海上哨戒訓練である。空母からの離陸は初めてであった。緊張で握った手の中はじっとりと濡れていた。
「緊張するか」
手持ち無沙汰で武器のガトリング銃をいじっている加織に教官が語りかけてきた。
この教官は加織が入隊してからずっと彼女をしごいてきている人物で、厳しいが優しさも兼ね備えた良き先生であった。
「はい……はじめてですから」
「私も初めは緊張したものだ」
教官は懐かしそうに話す。
「だかな、一度射出されると、それはそれは気持ちの良いものだ……水平線の向こうまで見えて、潮風が身体を撫でるんだ」
「おば……祖母も、似たようなことを言っていました」
「んん?お前のばあさんは、ウィッチだったのか」
加織ははい、と頷いた。
「そうかそうか」と、教官は手を顎にやる。そして、「どこの部隊に所属していたんだ?」と訊いてきた。
「部隊……ですか?」
そう言えば、祖母は自分が何処に属していたかといった話をしてくれたことはなかった。もっとも、加織としてもそのようなことはどうでもよかったのだが、改めて思い出すと、そもそも祖母が海軍なのか、陸軍なのか、欧州派遣艦隊の一員としてネウロイと戦ったのかすら知らない。
「ふむ、分からないか……なら、名前は?」
「名前……ですか?」
祖母のことは生まれてこのかた「おばあちゃん」としか呼んだことがなかった。こうして思い出してみると、大好きな祖母のことを何も知らないのだなと思い知らされる。
ただ、昔、中学に上がる前、祖母が診療所に出ていたとき、退屈だったことからこっそり祖母の私物を漁ったことがあった。
その中に、小さな封筒があり、開けてみると中からは古い階級章と一枚の紙が出てきた。
その紙はどうやら辞令のようで、全文英語か何かで書かれており読めなかった。しかし、名前の部分だけはローマ字だったために彼女でも読めた。
「えっと……たしか……」
名前は喉元まで出かかっていた。しかし、それもスピーカーから放たれた指示に描き消されてしまった。
『佐藤軍曹!離艦準備!』
「おっと、お呼びだ」
教官は加織の小さな背中ををドンと叩いた。
「名前は思い出したら教えてくれ」
扶桑海軍の使用しているストライカーユニットは「JS-82式」と呼ばれ、リベリオン製ジェットストライカーをライセンス生産したものである。
かつて事故多発で実用化が危ぶまれたジェットストライカーも今では全世界の共通装備である。
ストライカーユニットはそれぞれ両脚に魔導エンジンが搭載され、ジェットエンジンの小型化もあってユニット内部にはウェポンベイが存在する。更には使用者の補助機能として電探装置や衛星誘導装置も搭載されている。
まさに、ストライカーユニットの完成形とも呼べるこの機体は、かつて大戦果を挙げた部隊にあやかって「ストライクウィッチ」と呼ばれている。
レシプロストライカーと違い、ジェットストライカーはより長い滑走距離を必要とする。しかし、空母もそれほど大きくできるわけではないため、ウィッチは蒸気カタパルトで打ち出される。
加織はユニットをカタパルトに固定した。彼女の真上を先に離艦した仲間がパスしていく。
彼女は周りの安全と、自分の身体を指差し確認で確認していき、バブルと呼ばれる管制室にいるカタパルト管制官にOKサインを出した。
瞬間、カタパルトは蒸気圧で急速に加速し、加織の身体を紺碧の大海に放り出した。
彼女の身体には大きなGがかかり、息が詰まる。しかし、打ち出されるとその苦しみは消え去り、かわりにどこまでも続く秋の青空と広い水平線が視界に飛び込んできた。
「これが、教官やおばあちゃんの見た景色……」
彼女の口から思わず溜め息が漏れる。
(このまま、ずっと飛んでいたいな……)
そう思わずにいられない。
……十分ほど飛行した頃だろうか。
「?」
自分の身体が濃い霧のようなものに包まれているのが分かった。首を巡らせて辺りを見るも、一寸先すら見えない。
「……あれ?おかしいな……」
飛行中のウィッチやパイロットにとって視界が無い状況は恐怖そのものである。だが、彼女の心は至って穏やかで、恐怖のようなものは微塵も感じなかった。
「……ン?」
暫くあてもなくうろうろしていると、今度は何かにゆっくりと引っ張られるような感覚があった。乱暴なものではなく、緩やかな流れに身を任せる感覚である。そして、そんな彼女の周りの霧にはぼんやりとした影のようなものが映っていた。
残念なことに、今の彼女にそれが何なのかは分からない。聞こえてくる音も、何やらビデオテープを巻き戻しているような高い音のみである。
そのうち、彼女の意識はゆっくりと遠のき始めた。まるで眠りに落ちるような心地のよいものであった。
飛行中に意識を失うことは即ち死を意味する。
しかし、彼女の脳裏にそのような考えは浮かび上がらなかったし、やはり不安も恐怖も一切感じなかった。むしろ、穏やかな興奮すら感じる。
……そして、彼女の意識は一旦途絶えた。
つづく
主人公の解説を簡単に。
・佐藤加織(16)
所属は扶桑海軍連合艦隊第三機動艦隊。階級は軍曹。
祖母の影響で幼い頃よりウィッチに憧れており、親の診療所を継ぐのを辞めて軍人になる。性格は温厚で活発、それなりの正義感を持つ。頭の出来はそれなりに言いはずだが、未熟さのせいであまりそうは見えない。
髪型は活発な彼女らしくショートカット。ボブとおかっぱの中間みたいな髪型をしている。
誤字脱字報告は貴方の人生を豊かにします。