スト魔女って二次でも男性視点からの話って少ないですよね。という発想から書きました。
めっさ短いですが、どうぞ。
男が空に憧れを抱くのは極々自然なことだろう。私もそんな少年の一人だった。
飛行機の雑誌は小遣いの全てを注ぎ込んで買い揃えたし、そういった雑誌を読みながらパイロットになった自分を想像し、空へ思いを馳せていた。
ある日……七歳の頃だったろうか、初めてウィッチというものを見た。ノイエ・カールスラントでの戦勝祭でだ。
ストライカーユニットを身に付け風を切って空を飛ぶ姿に私は感動を覚え、同時に嫉妬を感じた。
……どうして僕はウィッチとして産まれてこなかったのだろう……。
もし自分が女性でウィッチならば、相応の年になったとき軍に入って思いっきり空を飛び回ってやるのに。
その日以来私は飛行機に加えウィッチにも夢中になった。
カールスラントという国は皇帝陛下がウィッチのファンなこともあり、世界的にもウィッチ関する資料が豊富にあったから、買い求めるのは簡単だった。そして、夜になるとベッドの上に横たわり、空を飛ぶ彼女たちの姿を眺めていたのだ。
思えば、それはある意味で恋心だったのかもしれない。空と、そこを自由に飛び回る少女たちに嫉妬を感じながら恋焦がれていたのだ。
幼い私は仰向けになって両手を天に翳していた。
空も、ウィッチも、あまりに遠く感じられた。
私の記憶では、祖国カールスラントの地を踏んだのは1948年、十歳の頃だったとなっている。
私の故郷はオラーシャに近いケーニヒスベルクで、生まれ故郷ではあるものの離れたのが物心つく前だったこともあって未知の領域と言ってよかった。町の中に聳え立つ尖塔が修復中のシートを被せてあったのを覚えている。
そこの家に引っ越し、身の回りを固めて直ぐ私は学校へ行った。
学校は半分新築という変わった成りで、生徒の三分の二はノイエ・カールスラントから引き揚げてきたカールスラント人、残りはオラーシャ人だった。そこで私は様々な友人を得、そのうち何人かは数十年経った今でも度々会っては酒を飲んでいる。
さて、移って三ヶ月ほど経った頃だろうか、夜になり、夕食を終えた私は学校の宿題を片付け、いつも通りベッドの上で雑誌を読んでいた。
この頃の私には変な習慣が出来ていて、日、火、木、土曜日はウィッチの本、それ以外は飛行機の本を読むといローテーションを決めていた。そして、その日は土曜日であり、私はウィッチの雑誌を読み漁っていた。
夏の乾いた風が窓から流れ込んできていた。
雑誌の中では様々なウィッチが飛び回っている。
私はそれを見ながらあの日……七歳の戦勝祭の日に感じた軟かで甘酸っぱい嫉妬を思い出していたことだろう。今でもたまにそれが思い出されるのだ。その時見た写真に写るウィッチはいつもに増して魅力的だったと思う。
そんな調子で雑誌を半ばまで読み終えた時、私の脳裏に電撃的な発想が迸った。
その発想は今思い返すと如何にも子供の考えそうな幼稚なものであったが、当時の私はそれをスリリングで、偉大で、夢あるものに感じていた。
この町の外れに、小さなウィッチ養成学校がある。シールドを張れなくなった、いわゆる『上がり』を迎えたウィッチが教師を勤める学校で、訓練用ストライカーがその上を危なっかしく飛んでいるのを何度か見かけたことがあった。
そこに、忍び込もうと考えたのだ。
いくら養成学校とは言えど仮にも軍の管轄施設である。捕まったらこっぴどく叱られる事位予測は出来たが、
「明日は日曜だし、きっとお休みだよね」
という安直な考えで私は翌日行動を起こした。
翌日昼過ぎ、果たして私はその養成学校へやって来た。この学校を囲う柵には鉄条網が備えられており、柵を登って中に入ることは不可能である。実は、どうやって敷地内に入ったのか覚えていないのだが、大方柵のどこかに穴でも空いていたのだろう。
敷地内に入ると、人の気配がほとんど無かった。多分に、夏期休暇か何かで学生の大半が家にでも帰っていたのだろうが、この時私は「予想通り!」と得意になっていた。
だからだろうか、特に身を隠すこともなく堂々と敷地を歩き回った。
格納庫は鍵が掛けられていて入ることは出来なかったが、思ったより広い基地の滑走路に私は感動して、そこから飛行機やらウィッチやらが発進する様を想像して一人ニヤニヤしていた。
「……何をしている」
その時突如として後ろから声をかけられた。ビクッとして振り向くと、そこには腕を組んでこちらを見下ろす女性……ここの教官だろう……の姿があった。
十歳の頃の私は比較的小柄で、女性はその厳しそうな眼差しも相まって非常に大きく見えた。
「何をしているんだ」
女性は緊張で黙りこくる私にもう一度質問してきた。
「あ、あの……前からここが……気になってて……」
私はそう言いながら女性の首元の階級章を見た。中佐の階級章だった。
「ここは軍の施設だ。民間人が無許可に入っていい場所ではないぞ」
「あの……その……すみません……」
中佐の厳しい口調に思わず涙ぐんでしまった。
「僕、空が好きで……それで、一度ウィッチ隊のユニットとかを見てみたかったんです……」
思えば、情けなく、言い訳じみたものであった。しかし、それは私の本心であったし、中佐もどうやらそれを汲み取ってくれたらしかった。
「カールスラントの男子たるもの、そんな簡単にメソメソするんじゃない」
彼女は私の頭をポンポンと軽く叩くと踵を返して私に「着いてこい」と言った。
中佐に連れられてきたのは格納庫の一つだった。彼女は鍵を開けると中に入り、正面のシャッターを開けた。
格納庫の中は真っ暗だったが、シャッターが開くにつれて光が差し込み始め、中にあったものを鮮明に照らし出した。
「あっ、これは……」
そこにあったのは訓練用ストライカーユニットだった。
訓練用のユニットは二人で使う特殊なものだった。前、つまり飛行時は下になる部分に脚を入れた訓練兵を、後ろの教官が抱き抱えるようにして飛ぶ、といった具合である。中佐はそのストライカーユニットを軽く点検し、こちらに向かって意外な事を言い放った。
「これで飛んでみるか?」
「えっ、出来るんですか?」
「これは新兵に飛行の感覚を体感させる為の物だ。一応ウィッチじゃなくても前の方は大丈夫だ」
中佐は説明するとこちらに歩いてきて飛行ゴーグルを差し出してきた。
「飛んでみるか?」
私は梯子を登り、ストライカーユニットの前部に脚を入れた。どういう仕組みかは知れないが、私の小さな脚にきれいにフィットしてくれた。
「ゴーグルは外したら駄目だぞ」
そう言うと中佐は後ろの本ユニットに脚を入れ、私の身体を優しく抱き抱えた。頭の部分が軍服越しに胸の感触を捉え、私は顔が熱くなるのを感じた。中佐は優しい、大人の香りがした。
「舌を噛まないように!」
ユニットの先端でプロペラが顕現し、大きな音を立てながら高速回転を始める。それと同時に固定ボルトが外れ、ユニットは勢いよく加速し始めた。ユニットの振動は身体にも伝わり、どんどん加速して過ぎ去っていく景色に私は少し怯え、目と口をぎゅっと閉じ、中佐の腕を強く握った。
次の瞬間、私の身体はフワッと軽くなり、振動も心なしか小さくなった。
私は恐る恐る閉じた目を開き、そして言葉を失った。
眼下にはケーニヒスベルクの町並みが広がっていた。それだけではなく、その先の畑、隣の町、そして地平線の向こうも見えた。夏の終わりを迎えたその土地は美しく、空で輝く太陽が一層地上で見るよりも燦々と輝いていた。
「どうだ!綺麗だろう!」
ユニットの音に掻き消されながら中佐は言った。
「はい!すごく綺麗です!」
私の身体を風が包んでいた。冷たい空気が肌に心地よかった。そうか、これがウィッチたちの空なのか……!
「中佐も、ネウロイと戦っていたんですか!?」
私はふと思ったことを訊いてみた。
「そうだ!」
この時答えた中佐の声は何処と無く寂しそうだったように思える。
「仲間たちと一緒にな!ブリタニアやロマーニャ、ガリアの空を飛んだ!」
中佐は上がりを迎えたウィッチである。恐らく、シールドを張れなくなり、一線で戦えなくなったのだろう。そして彼女はもうじき飛ぶことすら出来なくなる。
「あーあ!このままずっと飛んでいたいものだな!」
風とエンジン音の中、中佐がそう叫ぶのを私は聞いた。
飛行時間はおよそ三十分だった。私にはほんの短い時間に感じられたが、時計がそう言っていたのだからそうだったのだろう。
中佐は私の事を正門まで送ってくれた。そしてもう勝手に軍施設に入らないようにと注意した後、
「今日は楽しかった。ありがとう」
と、言って去っていった。
その後数年経って私は空軍の戦闘機パイロットとなり、ベテランと呼ばれるまでになった。
戦闘機はジェット機となり、ケーニヒスベルクの町並みも大分変わった。だが、未だに私はその上空を飛ぶ度に思い出す。
あの風、あのエンジンの響き、そして、優しく強いあの香り……。
終わり
「中佐」が誰なのかは勘の良い人は(余り良くなくても)分かると思います。
誤字脱字報告、感想などがあればくださるとうれしいです。