ストライクウィッチーズ 明日と昨日を繋ぐ魔女   作:乾操

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もっさんを下の名前で表記するのに違和感を感じ、名字で表記したらしたで違和感。どーしよ。


3.第501統合戦闘航空団

ガトリング銃の試射の後、加織は坂本に連れられ隊長室へと向かった。

「私が、ここの責任者のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。よろしくね」

感じの良い人だ、というのが加織がミーナに抱いた第一印象だった。

実はミーナも後世に名を残す有名なウィッチなのだが、実は始めて顔を見たとき、加織はこの人が誰か分からなかった。と、言うのも、彼女の読んだ本に載っているミーナの写真が何故か現役時代のものではなく、ある程度の歳を重ねてカールスラント空軍の幕僚になってからのものなのだ。

(このことは金輪際口に出さない方が身のためだ)

根拠はないが、本能が加織にそう思わせた。

そんな彼女の思いも知らず、ミーナは柔らかい笑顔で話を続ける。

「貴女の身の安全は私が全て保証するから、安心してね。その代わり、時々でいいから話を色々聞かせてもらえるかしら?」

ミーナは単に優しいだけではない。感じのよさの中に強かさを秘めている。未熟な加織にはそれを敏感に感じとることは出来なかったが、坂本は彼女の考えを理解することができた。

(あわよくば戦力に組み込もうとしているな)

未来から来たかどうかはさておき、あのストライカーユニットがネウロイに対し絶大な力を持つことは確実である。

ミーナのことだ。二週間もすれば佐藤加織という存在は連合軍の軍列に加わっていることだろう。

危ない橋なら、渡り慣れているのだ。

 

 

ミーナ曰く、

「しばらくはここに居ることになるんだから、隊の皆とは仲良くなってね」

ウィッチ関連の本になら必ず載っているのがこの『501統合戦闘航空団』こと『ストライクウィッチーズ』である。加織の82式の別称にも使われていることからもこの部隊の勇名の程が知れる。

そんな部隊に自分がいて、そこの人々と接することが出来るとは、なんと素晴らしいことであろう。まるで、歴史書に迷い混んだ気分である。

隊内の案内をしてくれるのはリネット・ビショップ曹長と朝にお粥を持ってきてくれた宮藤芳佳軍曹である。

二人のことはよく知らないが、ウィッチ名鑑にチラと載っていた気はする。

「えと、宜しくお願いします、芳佳さん、リネットさん」

「うふふ、リーネでいいですよ」

芳佳とリーネは雰囲気も、人種も、胸の大きさも違う。それでも、かなり馬は合っているようだ。

(ちょっと羨ましいかな)

「加織さん!」

芳佳が加織の顔を覗き込むように話しかけてきた。

「加織さんてさ、未来から来たんでしょ?」

「えっ?」

「芳佳ちゃん、失礼だよー……」

一体どこからそのような情報を仕入れてくるのだろう。ミーナ中佐も坂本少佐も、このことは外部に漏らすようなことはしないだろう。

「後でその話、聞かせてくださいね!」

芳佳の笑顔には屈託が無かった。普通なら疑ってしまうようなことも、しっかり信じている。

「……はい!」

その笑顔につられて、加織はそれを快諾した。

「それにしても五十年かぁ。私もリーネちゃんも、おばあちゃんだね」

「芳佳ちゃんは良いおばあちゃんになってそうだね」

リーネの言葉に芳佳は「そうかな?」と照れて頭を掻く。

(仲良いなぁ、この二人)

そういえば、と加織は思い出す。

祖母にも外国人の友人が居た。度々手紙の交換をしたり、実際に会ったりしていた。

「友情は国も時も越える、か……」

「何か、言いましたか?」

「えっ?あ、いや、何でもないです」

「そうですか……ほら、まずここ」

加織は芳佳とリーネに連れられ、扉がズラリと等間隔に並ぶ廊下にやって来た。開放的な窓が、狭い廊下を広く見せている。

「ここに私達の部屋があります。加織さんの部屋もあると思いますよ」

「えっ、私の部屋も用意されてるんですか?」

「もちろん!」

至れり尽くせりである。

芳佳とリーネは幾つかある扉のうちの一つをノックした。

「もしもーし、入りますよ?」

返事もないのに容赦なく扉を開ける芳佳に加織は軽く戸惑いを覚える。が、「何してるんでか、早く」と急かされ、

「失礼しまーす……」

と小声で呟きながら入室した。

……目の前には奇妙な光景が広がっていた。

部屋の右半分は非常に綺麗に片付いており、チリ一つ落ちていない空間である。それに対し、左半分は様々な物が無尽蔵に投げ出され一つの山を築き上げていた。そして、その二つの空間は小さな柵によって見事に分離されている。

「誰も、いないのかな?」

リーネが怪訝そうにそう呟くと、左の山が蠢いた。

「ひっ!?」

「あ、ハルトマンさん、いたんですか」

不気味な光景に驚く加織を他所に、芳佳とリーネはいたって冷静だった。

「むぅ、何……?」

山が崩れ、中からボサボサのブロンドヘアーの少女が眠たそうに出てきた。短く切った髪の揉み上げ部分に、垂れた犬の耳のような髪が下がっている。

加織はその顔を知っていた。

「あ!もしかして、エーリカ・ハルトマン少将!」

「私はまだ中尉……て、誰?」

「昨日言ってた佐藤加織さんですよ」

エーリカは「ふーん」と呟いて、またシーツに潜ろうとした。すると、

「コラァァァァァ!ハルトマンンンンンンンン!」

「!?」

加織たち三人の背後から突然怒声が襲い掛かった。咄嗟に振り向くと、鬼のような顔をしたTHE軍人がツカツカと此方に向かって近づいてきていた。三人はモーゼに割られた海のごとく扉の道を開ける。

THE軍人はそのままエーリカが錬成した海に飛び込み、掻き分け胸ぐらをつかむ。

「いつまでも寝てるんじゃあない!起きろ!」

「バルクホルン大尉、小官は非番であります。よってこのハルトマン中尉、朝食後の二度寝をする権利を行使します」

「何を言うか!カールスラント軍人たる者、一に規律、二に……」

「あーもー、うっさいなー」

エーリカは腕を振りほどきシーツの中にくるまった。

「なっ!?ぐぬぬハルトマン……ン?」

THE軍人は此方に気がついたようで、キョトンとした顔しばらく見せた後、カアッと顔を紅くした。

「い、いやすまない……恥ずかしいところを見せたな……宮藤、そこの扶桑人は?」

「ほら、昨日言ってた佐藤加織さんですよ」

芳佳が先ほどと同じ説明をすると加織はペコリと礼をする。

「ああ、あの未来から来たとか言う」

バルクホルンは加織の顔をまじまじと見つめている。

(この人はどうやら半信半疑といった感じのようだ)

だからと言ってここの人からは嫌な印象は受けなかった。

「私はゲルトルート・バルクホルン大尉だ。宜しく頼む」

バルクホルンについてはエーリカと共に、加織の中の最も有名なウィッチの一人である。

エーリカ・ハルトマンとゲルトルート・バルクホルンは俗に『ウルトラエース』と呼ばれるウィッチで、特にエーリカの合計撃墜数である352機というスコアは今後抜かれることは無いだろう。

 

またもバルクホルンの説教が始まったため、三人は部屋を後にした。

「加織さんは、バルクホルンさんとハルトマンさんのこと知ってるんですか?」

リーネがそう訊いてきたから加織は「ええ」と答える。

「スゴいですよね。300なんてスコア。人間とは思えませんよね」

加織は少なからず感動していた。

だから、芳佳とリーネの「まだスコア伸びるんだ……」「ていうか少将って……」という呟きは聞こえなかった。

「ここはサーニャちゃんとエイラさんの部屋です」

「 加織さんは、二人のことは知ってますか?」

芳佳とリーネの質問に加織は「勿論」と答える。

それぞれ『百合(リーリカ)』『ダイヤのエース』として扶桑でもよく知られていた。

「サーニャさんとかは、結構テレビアニメやドラマで登場人物のモデルになったりしてますね」

「テレビ?」

「あ、そうか」

この時代にはまだテレビという概念が無いのだ。

「えっと、簡単に言えば、家で映画を観ることが出来る機械……ですかね?」

「えっ?映画って活動写真(カツドウ)のこと?」

「はい」

「すごーい!」

芳佳とリーネは手を打って面白がった。

「すごいねリーネちゃん!未来だね!」

「じゃあ、ハリウッドとかの映画も家で見れるんですか?」

「ええ、まあ。ラジオみたいに放送されたり、お店で買ったり借りたりしますね」

自分にとって日常の一部であるテレビやビデオと言う存在は、この時代をいきる人にとってはこうも驚かれるものなのか。

(やっぱり、時代が違うんだなぁ)

思えば、そのテレビも芳佳やリーネのような世代が産み出した物だ。

(なんか、感慨深いなぁ)

加織はそう思いながら、ふと扉の方を見た。

鼻の先に、鼻の先に、顔があった。

「うわっ!?」

「なんなんダ、ピーチクパーチクうるさいゾ」

北欧系だろうか。色白の少女が頭だけ扉の隙間から出して此方を見ていた。

「エイラさん、いたんですか」

驚く加織を他所に、やはり芳佳とリーネは冷静である。

「居たも何も、うるさいゾ。サーニャが起きちゃうじゃないカ」

「えっ、でもサーニャさんが寝てるのエイラさんのベッド」

怒るエイラにリーネの遠慮がちな突っ込みが入る。エイラは徐々に顔を紅くして(ここの人はよく赤面する)、「べ、別にいいダロ」と目を逸らした。

「えー、エイラさん、もしかして……サーニャさんとイイコトしてたんじゃないですかぁ?」

「オイ貴様ぶっとばすぞ」

「えへへ冗談ですよ。だから急に声に抑揚つけないでください」

誤魔化す芳佳を睨んでいたエイラだが、ふと加織に気付き、視線を移してきた。

「誰ダ?」

「ほら、昨日言ってた(略)」

芳佳とリーネは訊かれる度にそう答えている。嫌にはならないのだろうか。

エイラは「フーン」と加織の顔をじっと見つめてきた。バルクホルンの時とは違う、何とも不思議な感覚である。

(掴み所の無い人だなぁ……)

喋り方も独特で、何とも言えないオーラを纏っている。

エイラは「とにかく」と言って扉の中に頭を引っ込めていった。

「あまり騒ぐなヨ、サーニャが起きちゃうからナ」

 

 

「何か、変わった人が多いですね」

ここまで来ての加織の感想である。エース集団ともなると、そういうこともあるのだろうか。

(馬鹿と天才は紙一重って言うし……は、流石に違うか)

このようにとてつもなくし失礼なことを考えていると、芳佳が、

「残りの人はお昼の時に紹介しますね」

と言ってきた。

今日は、とても疲れるような予感がした。

 

つづく

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