ストライクウィッチーズ 明日と昨日を繋ぐ魔女   作:乾操

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サブタイが付きました。
感想で指摘されまくり、改めて己のツメの甘さを思い知りました。読んでいて気付いたことがあればどんどん教えてください。ミスを見つけた人は幸せになれます。

それにしても、戦闘シーンの描写が相も変わらずずば抜けて下手だ。いいお手本になる二次とか小説があれば教えてくださいまし。


4.成すべきこと

昼食は和食だった。

加織は基地の場所が場所なだけにロマーニャ料理でも出てくるのかな、と少し期待したりしたが、意外や意外。和食とは想像の斜め上を行っていた。

献立はご飯、豆腐の味噌汁、納豆、ヒジキと大豆の煮物と見事なまでの豆推しである。

加織としては何が宮藤芳佳に大豆推しという行動をさせているのかが甚だ疑問であったが、彼女は正確には部隊の人間ではないし、そもそもここにいる人々は全員彼女のおばあちゃん世代であるため、疑問をぶつけることは無かった。佐藤加織は年寄りに頭が上がらないのである。

そんな彼女の目の前に一人ツンツンした少女が献立に文句を言っていた。

「宮藤さん!このような腐った豆を一日に二度も出してくるなんて、新手の嫌がらせですの!?」

余りにもツンツンしていた為に加織はこの人物が誰かわからなかった。が、芳佳から紹介を受け、『ブループルミエ(青の一番)』の名で知られたペリーヌ・クロステルマン中尉であることを知った。

加織がわからなかったのも無理はない。

ペリーヌは一般的に「優しく気品に溢れ、慈悲深い女性」という認識なのだ。

ガリア解放のため戦い、退役後は褒賞金で子供たちのための施設を建て、議員にもなり福祉活動に全力を尽くした……。おそらく最も有名なガリア人の一人だろう。

(若い頃はこんなにピリピリしてたんだ)

加織は結構な衝撃を受けた。

そんな加織の思いも知らずペリーヌは加織の何が気に入らなかったのか知らないが急に突っ掛かってきて、

「いいですこと?あなたが未来から来たとかどうとかはこの際関係無く、少佐と馴れ馴れしくするのは私が許しませんわ」

「は、はぁ」

「何ですのその気の抜けた返事は!宮藤さんそっくり!」

「どういう意味ですかソレ」

こんな調子のペリーヌであるが、それとは対照的にフランクに接してくれる人もいた。

「気にすんなよ、ペリーヌはいつもこんな調子だからな」

シャーロット・E・イェーガー大尉は加織と同じ位の歳とは思えないほど大人びている。特にスタイルは後世に『グラマラス・シャーリー』の名を残しただけのことはある。

「加織をいじめるなー、ペチャパイ~!」

シャーリーの背中からヒョイと顔を出して加織に加勢してきたのは部隊最年少、フランチェスカ・ルッキーニ少尉である。

「な……!ルッキーニさんこそ、人のことをとやかく言える大きさですの!?」

「あはー!怒った、ビリビリメガネー!」

二人のやり取りはエースに似つかわしくない、非常にレベルの低いものだった。

しかし、と加織は思う。

(どんな時にも素直な感情を持って相手と接するのも、エースに必要な要素なのかもしれない)

「佐藤、お前何か勘違いしてないか?」

成る程成る程と一人納得している加織にバルクホルンが後ろから話しかけた。

加織は立ち上がって「ば、バルクホルン大尉……」と無意識に直立の姿勢をとった。先にバルクホルンの見せた如何にも軍人然とした姿勢に緊張していたのだ。

しかし意外にもバルクホルンは慌てて「いや、そんな(かしこ)まらなくていいぞ」と制してきた。

「それが、この部隊の特徴だからな」

「そうなんですか」

加織の所属していた部隊も雰囲気はかなりラフな感じではあった。だが、やはり軍隊。何よりも規律や上下関係は重視された。

その規律や上下関係というものが、この部隊では薄い。

それが良いことかどうかはわからないが、考えてみると癖の強いエースを一ヶ所に集めて規律云々説教することは馬耳東風、無駄なのだ。

「ミーナは個性を重んずるからな。私も嫌いではない」

「大尉は、規律を大事にする方なのでは?」

加織はそれが皮肉ではなく、純粋に疑問に思って訊いた。

バルクホルンはフッと小さく笑う。

「個性を大事にすることは規律を蔑ろにすることではない。それに、私みたいなのが居なかったら部隊として成り立たないさ」

「なるほど」

「私はこれがここの仲間のために出来ることだと考えている」

「よっ、バルクホルン大尉!良いこと言うじゃぁありませんか?」

シャーリーの茶々が入る。バルクホルンはまた顔を赤くして、頭から蒸気を出しながら大股で向こうへ言ってしまった。

(仲間の為に出来ることか……)

羞恥を払拭するような歩き方をしているバルクホルンの背中を見ながら加織は思った。

それがエースがエースたる所以なのだろう、と。

バルクホルンは常に自分の成すべきことを理解し、それに対して責任と自信を持っているのだ。

かつて、教官が言っていた。

「一般的に優秀なウィッチは自信に満ちている。この自信は慢心とかそういうのではない。自分の技術と、成すべきことへ自信を持っているのだ。自分の技術と行動に自信の持てないウィッチは戦場で生き残れない」

加織は納豆に醤油を落とし、シャカシャカとかき混ぜた。そして、

(自分もそうすればここの人達みたいになれるのだろうか)

と思った。

おこがましい事だとは思う。しかし、彼女にとってここにいる人々は憧れの存在なのだ。

そんな人々と『仲間』になりたいと思うのは当然のことだ。

 

 

昼食が終わり、午後の訓練が始まろうとしていた頃。

基地内にけたましい警報が鳴り響いた。

「ネウロイだ!」

たちまち基地は騒がしくなる。なにもすることのない加織は邪魔にならない食堂の隅にポツンと座り、大きな窓の外を眺めていた。

向こうに海が見える。地中海は降り注ぐ太陽の光に照らされキラキラと輝いていた。

「あっ」

その輝きの中を四人のウィッチが影のように飛翔していくのが見えた。レシプロの軽い音の振動が僅かに窓ガラスを揺らす。

加織はネウロイというものを写真や記録映像でしか見たことがない。

衛星放送で流れていたウィッチの記録映像に出てきたネウロイは禍々しく、恐怖を具現化したような存在に思えた。

「ここの人たちは、あれと戦っているんだ」

加織にとってネウロイは遠い過去の存在だった。記録映像を見ても、祖母の話を聞いても、あくまでそれは昔話の鬼と同義であった。

「敵わないなぁ」

彼女がそう呟くのと、館内放送が流れるのは、ほぼ同時だった。

『佐藤軍曹、至急管制室まで………』

 

管制室は作戦司令部でもあり、沢山の通信機器や、大きな机に拡げられたロマーニャ一帯の地図がその事を示している。

その地図をミーナさ坂本が何やら話し合いながら覗いている。

「あ、佐藤さん」

先に加織に気づいたのはミーナだった。午前に会った時と違い、顔付きは正しく軍人そのものであった。

「そこの通運機のところにインカムがあるからそれで四人の様子を確認しているといいわ」

「いい経験にはなるだろう」

二人は顔を上げずにそう言った。

「……?」

そんな二人を不思議に思いつつ、加織はインカムを耳にはめた。

 

 

出撃したのはバルクホルン、芳佳、リーネ、ペリーヌの四人である。何故四人だけかというと他のメンバーのユニットが整備中なのだ。予測ではネウロイは五日間は現れないと言われていたのだ。

三十分ほど飛行を続けると、遠くの空に大型のネウロイが姿を見せ始めた。

ネウロイは雲を切り裂くようにゆっくりと飛行している。

「どこに向かってるのかな?」

「おそらく、基地だろう。宮藤、ペリーヌは私に続け!リーネは援護頼む!」

「了解!」

バルクホルンの号令で三人はそれぞれの行動をとった。リーネの射撃で敵の動きを牽制しつつ、三人はネウロイの懐に潜り込む。

三人はそれぞれの武器をネウロイの腹に照準を合わせ引き金を引いた。

三つの火線が延び、ネウロイの腹を抉る。しかし、効果は薄く、表面が多少剥離したに過ぎなかった。

「ちぃ!やはり、一点に集中するしかないか」

ネウロイはどうやら爆撃タイプらしく、守りがえらく固かった。リーネの打ち込んだ弾丸もとい砲弾の傷も凄まじい速度で回復していく。

「一度離脱し、再度攻撃をかけるぞ」

「了解!」

三人は散開し、もう一度合流しようとした。しかし。

ネウロイは今度はこちらの番と言わんばかりの勢いでビームの嵐を吹かせた。

「なにっ!?」

「きゃっ!」

その弾幕はこれまでにないほど濃かった。血のように赤黒いビームが豪雨の如く三人を襲った。

三人は慌ててシールドを展開する。ビームの一本一本は細く、威力はそれほどに無い。シールドを張ってしまえば大したことはなかった。

が、一人……ペリーヌは今までに無いほどの弾幕に度肝を抜かれたか、シールドの展開が儘ならなかった。

「し、しまった!」

シールドは一瞬でパッ、と展開されるわけではない。その速度、防御力は人それぞれ違う。それ故に、一瞬の判断の違いが生死を分けるのだ。

そして、ペリーヌはその展開が一瞬遅れた。

実弾よりも遥かに速く飛ぶビームが赤い粒子を撒き散らしながらペリーヌに迫る。

「ッ!」

「ペリーヌさん!」

しかし、そのビームがペリーヌの身体を串刺しにすることはなかった。 芳佳が前に躍り出て展開の不十分な彼女の盾となった。

シールドを張らせた部隊内に宮藤芳佳の右に出るものはいない。彼女のシールドは速く、厚い。が、やはりとっさの判断で張ったシールドである。

防ぎきれなかった細いビームの一本が芳佳の右胸に突き刺さった。

「ぐっ!?」

「宮藤!」

「芳佳ちゃん!?」

鮮血が宙に舞った。

 

 

「いかん!直ぐ帰還しろ!」

「ユニットの整備はまだ終わらないの!?」

坂本とミーナは通信機に向かって其々吼えていた。

加織は耳にはめたインカムから現場の混乱を直に感じ取っていた。

芳佳が負傷したと言うのだ。

(芳佳さん……)

胸を撃たれたのだ。早急に治療が必要だろう。

自分の手が震えているのが分かった。訓練ではあり得ない、仲間が撃たれて死ぬという状況が起こりつつあるのだ。

(芳佳さん……)

仲間?……いや、私はまだ仲間ではない。この時代に私は存在しないし、ここで手を出したら未来を変えてしまうかもしれない……。

加織は、悩んだ。助けにいきたい。しかし、行かない方がいいとも彼女の一部が言っている。

どうする?どうする……。

この時加織はふとバルクホルンと教官のことを思い出した。

「自分の成すべきことをする」

自分の成すべきこととは何だ?ここで事の成り行きを見守ることか?

否、否だ。

自分は何故ウィッチになった?単に空を飛びたいという幼稚な理由からか!?

加織はインカムを放り出し、管制室から飛び出した。背中からミーナと坂本の呼ぶ声が聞こえたが構っていられない。彼女はそのまま階段を落ちるように降りて通路を走り、格納庫へ飛び込んだ。

自分のストライカーユニットはすぐに見つかった。

驚いてこちらを見る作業員達を無視して、一直線、加織は愛機のそばへ駆け寄り、脚をユニットの中へ入れた。淡い光が彼女の身体を包み、柴犬の耳と尻尾がピョンっと飛び出した。

「何事じゃ!?」

ジェットストライカーのエンジンが回る激しい音の中、キュンメル翁がスパナ片手に訊いてきた。

「私が何をするべきか分かったんです!」

「なんじゃって!?」

「行きます!」

ジェットストライカーの馬力はレシプロストライカーの数倍はある。彼女は武器を手にすると微妙にサイズの合っていない固定ボルトを力任せに破壊し、そのまま滑走して轟音と共に大空へ飛び出した。

 

バルクホルンとペリーヌ、リーネの三人は気を失った芳佳を護りながら戦線を離脱しようとしていた。しかし、ネウロイの猛攻がそれを容易に許さない。

「くっ……このままでは……」

芳佳を捨てなければならない。

バルクホルンはそんな最悪の事態を想像し、戦慄した。それを防ぐためにも、どうにかしなければならない。

シールドを間を空けずにネウロイのビームが打つ。一発一発の威力が弱かろうと、一度に大量に、しかも間髪空けずに殺到してくるのだ。シールドがいつまで持つか分からない。

ああ、これまでか。

バルクホルンを含め、三人はそう覚悟した。が、その弱気な覚悟はネウロイの猛攻の中に聞こえる音が払拭した。

「……!?」

ゴオオオ…。

レシプロでも、ネウロイでもないこの音。空気を伝わり、腹の底から響いてくるような轟音。

「まさか」

三人はシールドを張りながらサッと後ろを振り向いた。

高速で飛行する加織の目には大きなネウロイの姿がハッキリと映っていた。

巨大な、禍々しい恐怖の塊。その姿を見ただけで身体を悪寒が疾る。

「だけどッ!」

彼女はガトリング銃を構えた。

「遅いし、大きい。ウィッチの方が遥かに手強い!」

引き金を引くと同時に銃身は高速で回転し、凄まじい速度で弾丸を吐き出していく。吐き出された光の筋は真っ直ぐバラけることなくネウロイの強固な肌を布を裁つように引き裂いていく。そして更に、ユニットのウェポンベイを開いて底から小型ミサイルを二発、ネウロイに向かって放った。

ミサイルは炎の尾を引きながらギュンッと空気を切り裂き、ズタズタに引き裂かれたネウロイの肌を回復させる間もなく粉砕した。

吹き飛ばされた装甲は光の粒子となって桜吹雪のように舞い散る。そして、その中から赤々と輝く結晶体、コアが顔を出した。

加織はグンと加速して一気にコアに近付き、銃身を向ける。

「獲った!」

ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

回転する銃身から放たれた弾丸は硬いコアをいとも簡単に砕いた。コアがパン、と音をたてて弾けた。そして、それに連鎖するようにネウロイの硬い身体は光の粒子となってボロボロと崩れ、地中海の空に消えていった。

三人はその様子を呆然と眺めている。

「皆さん、大丈夫ですか!?」

加織の呼び掛けにハッとしたバルクホルンは「佐藤、お前……」と口を開いた。加織はそれを掌を突きだしバッと制止するとリーネに支えられる芳佳の側についた。

「加織さん、どうするんです?……」

リーネは泣きそうな顔をしている。

「大丈夫、大丈夫ですから……」

そう言うと加織は芳佳の怪我をした右胸に掌を(かざ)す。すると、掌はポウッと淡い光を放ち、傷口を癒し始めた。

「さ、佐藤さん、貴女もその固有魔法を?」

「…………」

加織は目を閉じ、すべての意識を掌に集めた。とにかく、出血を止めなければいけない。

治癒の魔法は身体の組織を活性化させて傷や病気を治す能力である。かなりの体力と魔法力が必要だった。

「……う……ん……」

数分経った頃、芳佳の口から小さな呻き声が漏れた。

「宮藤!」

「宮藤さん!」

「芳佳ちゃん!」

そして、顔中汗だくにした加織を見て芳佳は弱々しくも、ハッキリとした笑顔を見せた。

「ありがとう、加織ちゃ()()……」

朦朧とした意識の中でそう呟いた芳佳に加織は、

「あぁ!よかった……」

と安堵の声をあげた。

そして、そのまま意識を手放した。

 

 

 

目が覚めると、そこはいつかの病室だった。

空はとうの昔に暗くなり、青白い月明かりが病室を優しく照らしている。

壁の掛け時計を見ると、丑三つ時を少し回ったくらいだった。

(そうだ、私は魔法力と体力の使いすぎで……)

「加織ちゃん?」

昼のことを思い出していると、部屋にもう一つあったベッドから声をかけられた。

「あ……芳佳さん」

「今日は、どうもありがとう」

月明かりに照らされた芳佳の顔を見ていると、まるで鏡を見ているようだと思った。

「いえ……私も、がむしゃらで」

今になって思えば、やはり早計だったかな、と思う。ミーナや坂本に何を言われることやら。

それを察してか、芳佳は、

「大丈夫。私も似たようなことやったことあるから」

と、何が大丈夫なのか分からないフォローをしてきた。

「あの、芳佳さん」

「えっと、その……なんか『さん付け』ってこそばゆいからさ……あの、リーネちゃんみたいに私のことは呼んでよ」

唐突なお願いだった。

加織は一応『年上』にあたる人だからさん付けにしなければならないと思っていた。言われてみれば、先から芳佳は『加織ちゃん』と呼んでいる。

「でも、芳佳さんたちは、一応年上ですし……」

「そんなの。今は同い年だし、何よりもさ、一緒にネウロイと戦った仲間でしょ?」

芳佳の言葉は加織を驚かすに十分だった。

仲間と呼んでもらえた……。

対等でなくたっていい。私は、未来に帰る時がくるまで、ここ501戦闘航空団の一員として、ここに居て良いんだ……。

今の加織にはそれだけで十分だった。

穏やかな波の音だけが、病室に流れていた。

 

 

続く




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