ストライクウィッチーズ 明日と昨日を繋ぐ魔女   作:乾操

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誤字とかを見つけたかたには道端で100円を拾える程度の幸福が訪れます。


6.エーリカと疾風教師 (後編)

エッシェンバッハ少佐が第501統合戦闘航空団にやって来て一週間。隊内は一人を除いて賑やかさを増していた。

そんな日の朝。ミーナは芳佳とリーネに買い出しへ行ってくるように命じた。

「まだ部隊が再結成してから日が浅いわ。だから、色々不足してるのよ」

そして、坂本は、

「佐藤、折角だからローマの街を見てくるといい。どうせ飛行許可はまだ出んしな」

ありがたいお達しである。加織は生まれてこの方ローマどころか海外に行ったことは一度もなかった。海を渡って何処かへ行ったといえば、海峡を越えて函館へ行ったこと以外無い。

「ありがとうございます!」

「貴様らッ!仮にも任務だから、破目を外すなよッ!」

エッシェンバッハは浮かれる三人に渇を入れる。そしてすぐに顔を柔和させ、

「イタリアの酒でいいのがあれば呑みたいッ!」

とウキウキと要求してきた。

「えっと、じゃあトラックの運転は誰にしてもらおうかしら」

「ハイハイハイハイ!」

勇んで立候補したのはエーリカだった。その自己主張の強さといったら立候補しているシャーリーが軽く引いている位である。

「それじゃあハルトマン中尉、お願いね」

ミーナはそんなエーリカを苦笑混じりに運転手に任命した。シャーリーの運転でないことは少なくとも芳佳とリーネにとって幸福ではある。

 

 

基地からローマへ向かう道は険しい山道であり、運転があまりにも下手だと崖下へまっ逆さまである。そんな道を軍用トラック(シャーリー魔改造仕様)は四人のウィッチを乗せてトコトコと走っていた。

「芳佳ちゃん、それは?」

加織は隣に座る芳佳が小さな鞄から一枚の紙を取り出していた。

「前にローマに行ったときみんなの欲しいものを訊いてまわるのが大変だったから、この紙に書いてもらったんだ」

「芳佳ちゃん賢~い!」

リーネに誉められ照れながら「えっとねえ」と紙に書かれた物を読み上げていった。

「ミーナ隊長と坂本さんが真空管、バルクホルンさんが妹さんへの本、ルッキーニちゃんがお菓子、シャーリーさんは新しいエンジンパーツ、ペリーヌさんはハーブの種、エッシェンバッハ少佐がお酒、エイラさんが……五線譜?」

「何?エイラ、音楽にでも目覚めたの?」

エーリカは冗談混じりにそう言ってハンドルを切る。エッシェンバッハが居ないからだろうか、えらく上機嫌に見える。

「サーニャちゃんにじゃないですか?」

「あぁ、それは道理だね……おっと」

対向車にぶつかりそうになり咄嗟にハンドルを右に切った。一番窓側に座っていたリーネが小さく悲鳴をあげる。

「エッシェンバッハ少佐はどんなお酒が好みなんですか?」

加織はシートにへばりつきながらそう訊いた。

「アルコール分があれば何だっていいみたい。きっとエタノールに炭酸入れてビールだと言ったら飲むよ」

「あはは……」

四人を乗せたトラックは一路、ローマへ突き進んでいく。

 

 

ローマの町は紀元前から発達し、文明の源流とも言える場所である。ここで作られた細工はシルクロードを通って遠く扶桑の地まで運ばれてきた。で、あるから古来(ふるく)より扶桑人の憧れの都市の一つでもある。無論、加織のDNAにもそれは脈々と受け継がれている。

「わぁ~!すご~い!」

京都とはまた違う趣の古都、ローマ。

「あれがコロッセオで、あっちの方には、昔の元老院があるんだよ」

「芳佳ちゃん詳しいね」

「前にルッキーニちゃんが教えてくれたんだ」

トラックの窓から見える風景の一つ一つが昔から一度は行ってみたいと思ったローマそのものだった。街を歩く人々は皆お洒落で笑顔が眩しい。

それを見ながら、加織の脳裏にふと昔の光景が映し出された。

中学に上がった頃か、少し前の夏の風景である。

 

登校日の放課後。教室には加織たち以外誰もおらず、校庭からは男子のサッカーをする声がぼんやりと聴こえてくる。

窓は開け放たれ、申し訳程度に吹いている風がベージュのカーテンを揺らしている。加織は下敷きで汗ばんだセーラー服の胸元に風を送りながら仲の良い友達と雑談をしていた。

「昨日のドラマ見た?」「あれでしょ?『僕は死にましぇーん!』でしょ?素敵だったよね~」「私欲しかったCDようやく買えたの!」「えー!いいなー」「てでもさ、もうすぐチャゲアスの新作出るじゃん!」「あーん!お金無い~」

雑談に主軸はない。誰かが何かを言えば、その事をダラダラと話すのだ。

ある時、友達の一人が言った。

「ロマーニャとかさ、行ってみたいよね~」

「ロマーニャ?」

「ローマの休日!オードリーヘップバーンみたいな恋がしたくってね」

友達がおどけるから、加織は「オードリー・ヘップバーンって顔じゃないじゃん!」と言うと、皆がどっと笑った。

「でもさー、行ってみたいね」

「ならさー、卒業したら行こうよ」

その友の放った一言で加織たちはいつか友達同士で旅行しようと約束した。

友達は皆彼女がウィッチになることを心から応援してくれていた。いつか、約束を果たさねばなるまい。

 

「加織ちゃん、着いたよ?」

「せっかくローマに来たのに寝ちゃうなんて勿体ないな~」

加織はハッとして辺りをキョロキョロ見回した。どうやらいつのまにかウトウトと浅い眠りに入っていたらしい。トラックは既に目的の店の前に到着していた。

店はメインストリートの一角にあり、中々に大きな店であった。

「この店はね、基本何でも揃ってるんだよ」

リーネに言われて店に入ってみると、なるほど、区画ごとに様々な分野の商品がところ狭しと並んでいる。薬品や植物、インクなど様々な匂いが混ざりあって独特の空気を生み出していた。

「ホントに何でもありそう」

「エンジンパーツは無いだろうけどねー」

加織は芳佳、リーネとそんなことを話ながら皆に頼まれた物品を探し回っていた。そして、チーズ売り場に差し掛かったとき、向こうにエーリカの姿を認めた。どうやら何かを選んでいる様子である。

「ハルトマン中尉、何かお探しですか?」

「ン?」彼女は顔を商品棚に向けたまま返事をする。「エッシェンバッハのお酒を探してるんだ」

「え」

「買ってかないとうるさいからさー」

そう言うと彼女は棚から一本のボトルを取り出した。

「コレなんかいいかな……」

「ストレガ?」

ラベルの読めない加織や芳佳のかわりにリーネが確認した。

「まぁまぁ強いお酒みたいだよ。きっと、ウォッカほどじゃな無いだろうケドね」

「ウォッカ?リーネちゃんに加織ちゃんは知ってるの?」

どうやら芳佳はお酒の知識が全然無いらしい(ありすぎてもおかしいが)。加織にとっては酒を飲まない人でも知っている酒だった。

「スッゴく強いお酒で、殆どただのアルコールみたいなんだって。北欧の人がよく飲むみたいだよ」

「北欧の人が?」

恐らく、芳佳の脳内では薬用エタノールをらっぱ飲みするエイラとサーニャの姿が浮かんでいることだろう。

「スゴいね」

「まあ、これはそこまで強くないけど、あの人にはちょうど良いんじゃないかな」

エーリカはそう言いながらチーズのコーナーを覗く。それを見ながら三人はひっそりと、

「やっぱりハルトマン中尉、エッシェンバッハ少佐のこと考えてあげてるんだ」

「なんだかんだ言って優しい人だからね」

「いい人だよね」

三人の中で好感度が上がっていることなど露知らず、エーリカは一緒に買っていくチーズを選ぶのであった。

 

 

四人が買い物に出掛けている間、基地は奇妙な熱気に包まれていた。

「さぁさぁ走れ!」

「ヤー!」

「腕立てだァッ!」

「ヤー!」

「五分休憩した後飛行訓練だッ!」

「ヤー!」

隊員たちは日頃から坂本の訓練を厳しいものだと思っていた。しかし、エッシェンバッハが来てからはそれよりも遥かに厳しい訓練を毎日受けさせられているのだ。

「タラタラと動くなァッ!」

エッシェンバッハの怒声が響く。これだけの発声をしていればかなりのカロリー消費だろう。

「いやぁ、訓練とは素晴らしいものですな」

「ダハハ!全くだ坂本少佐!」

二人の訓練マニアは仲睦まじそうに高笑いしている。二人ともこなしている内容は同じなのに、まだまだ余裕の様子である。

それに対して隊員たちは格納庫に集まった頃には既にくたくただった。

「うじゅー……シャーリー、疲れたぁ~」

「くぅっ、さすがのあたしも、キツい!」

「うぅ、眠いし疲れる……」

「サーニャ!寝たら死んじゃうゾ!」

「おいおいお前たち!だらしないぞ。宮藤、お前は何ボサッと突っ立てるんだ!」

「バルクホルン大尉、それは宮藤さんではなくて、ストライカーユニットですわ」

こんな調子である。

「なんだぁ貴様ら!鈍ってるぞぉッ!」

「うーむ、しかしエッシェンバッハ少佐。これ以上は身体に障りそうだ。今日はこのくらいにしては?」

坂本にしては実に珍しい提案であった。隊員たちには(ペリーヌなら尚更)坂本が女神に見えたことだろう。

「それもそうだな……!今日の訓練はここまでッ!」

「ありがとうございました!」

安堵の思いが込められた挨拶が格納庫に響く。しかし、それと同時に基地内に響く音があった。

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

「警報ねネウロイか!」

「予測では、後五日は来ないとなっていたがな……」

坂本は出動できる人員を確認しようとしたが、ここにいる隊員は皆とても戦闘に出られる状態ではなかった。

「いよいよもって予測が外れてきたな……お前たちは買い出し組と連絡を取れ」

「坂本少佐ぁ!私は出撃させてもらうっ!」

「言われなくともそうしてもらう。我々も後に続きます」

坂本はエッシェンバッハの顔を見ずにそう言うと指令室のミーナの元へ向かった。

 

 

 

買い出し組がネウロイ襲来の報を受けたのは丁度ローマらのき帰路についていた頃だった。

『ネウロイは何かしらのジャミング能力を持っていたみたいで、観測基地の網を掻い潜って既に基地の近くまで来ているわ』

通信機の向こうにいるミーナも迎撃の準備をしているようで何時もより落ち着きが無い様子であった。

『今はエッシェンバッハ少佐が迎撃に当たっているけど何時までも持たないわ。急いで戻ってきて頂戴!』

「ハルトマンさん、大変ですよ!」

「わかってるよ宮藤ィ!……三人とも、何かに掴まって!」

エーリカはそう言うとハンドルの横に付いていたレバーを引っ張った。すると、四人のシートの下が激しく唸り始めた。

「は、ハルトマン中尉、これって……」

「加織たちはこのシャーリー魔改造トラックの真の実力を知らなかったね!」

彼女はアクセルをグッと踏み込んだ。エンジンの回転が異常に上がり、トラックは激しい土煙を上げて加速した。車にのっているときにはそうそう感じられないようなGが不意打ちを食らった三人を襲う。

エーリカのドライビングテクニックによりトラックは猛スピードでありながらも華麗に崖っぷちの山道を走り抜けていく。

「すごい!これがウルトラエースの運転!」

「うぅ、リーネちゃん、吐きそう」

「よ、芳佳ちゃん頑張って……」

「にしし!窓から落ちないでね」

エーリカは笑いながらハンドルを切った。しかし、冗談を叩いてはいるが、その目は笑っていなかった。

 

 

現れたネウロイは中型規模のもので、全体的にのっぺりした形状だった。

「まるでヒラメだな」

「ヒラメなら、美味なソテーにするまでよ!」

「少佐!迂闊よ!」

ミーナはエッシェンバッハを制止しようとしたが、彼女は髪をサッと翻して、

「私の撃墜数は現在149!はやく偶数にしたいのである!」

と叫ぶとグンッと加速してネウロイに突撃を始めた。

彼女のMG34が唸る。吐き出された弾丸はネウロイの黒い表皮に次々と着弾し、光の欠片へと変貌させていく。射撃も一点の集中力を高め、より効率的に皮を剥いでいった。

「それほど堅くないようだなッ!」

ネウロイも負けじとビームを放ってくるが、それらを全てエッシェンバッハはハラリハラリと避ける。

「すごいものね」

ミーナは感嘆の声をあげる。

「あぁ、だが……」

対して坂本は妙な胸騒ぎを覚えていた。あの戦い方、あれでは……。

「ミーナ、我々も行くぞ」

「ええ、そうしましょう」

今はそんな縁起でもないことを考える時ではない。そう考えた坂本は烈風丸を抜刀し、ネウロイに向かって飛んでいった。

 

「もう始まってますよ!?」

加織は窓から身を乗りだして閃光煌めく空を見上げた。どうやら三人のウィッチが上がっているようだ。通信からすると、多分に坂本にミーナ、そしてエッシェンバッハであろう。

「このまま基地格納庫に行くから!」

エーリカはアクセルを力の限り踏み込んだ……。

 

ネウロイは表面を徐々に削り取られていき、コア露出まで後少しであった。そして、エッシェンバッハがマシンガンを一斉射したとき、ついにコアの一部が露出した。後一押しである。

「勝ったぞッ!」

歓喜の声をあげる。ところが、次の瞬間ネウロイが不可解な行動を取り始めた。

誰もいない方向にビームのチャージを始めたのである。

「なんだ、撃たれ過ぎて気でも違ったか!?」

しかし、そのビームの射線を見たとき、彼女は自分の考えの安直さを呪った。

ネウロイの矛先は買い出し組が乗り込むトラックへと向けられていたのだ。

「いかんっ!」

彼女は、ネウロイへの攻撃を中止してトラックへと方向転換した。

 

「ハルトマンさん、ネウロイが!」

「くうっ!」

四人は戦慄した。

こんなトラック、ネウロイのビームを受けたらひとたまりもない。四人の身体はあっという間に蒸発してしまうだろう。

ネウロイのビームが瞬く。このとき四人は完全に死んだと思った。

その時であった。

「私の教え子だっ!手を出すなァッ!」

ビームの射線上、トラックのすぐ近く、エッシェンバッハがシールドを展開して立ちはだかった。

「エッシェンバッハ少佐!」

加織、芳佳、リーネが歓声をあげる。

しかし、エーリカだけが、歓声ではない、別の声をあげた。

「少佐、駄目だよ!」

確かに、ビームは多少なりとも減衰した。が、およそ二分の一の威力を持ったビームが、エッシェンバッハの張るシールドを破り、胸を、大きく貫いた。

「くっ!」

彼女は、銃口をネウロイに向けて引き金を引いた。

撃ち出された弾丸は一直線にネウロイの僅かに露出したコアに向かい、そのまま赤い結晶を粉砕した。

「おおっ……!やっ……た!」

そのまま、彼女はトラックの近くへ身体を叩きつける。

一瞬、世界が凍り付いた。

声にならない声が、響く。

 

 

 

「私が!貴様たちを半人前までに仕上げることになった、グリューネ・フォン・エッシェンバッハだ!」

訓練学校に入りたてのエーリカはまず始めにこの人は苦手だと直感した。で、あるからあまり目立たないように行動しようと思った。

が、現実はあまり上手くいかないもので、善くも悪くもエッシェンバッハは贔屓などをしない質であったためにエーリカは皆と平等にしごき回された。

それでも、エーリカはエッシェンバッハが『苦手』でも『嫌い』ではなかった。

「貴様ら!しっかり部屋を片付けろ!」

「タラタラと動くなァッ!」

「食事はしっかりよく噛んで食え!」

彼女の言動はどこか母親じみており、そういうところが、嫌われない要因なのだろう。それに、彼女は怒る以外にも、褒めることも全力でやっていた。

「ハルトマン士官候補生!なかなか優秀な成績じゃあないか!」

射撃訓練で褒められたときは純粋に嬉しかった。これからも精進しようと思ったりした。結局は、生活態度のだらしなさで指摘されその決意は削がれるのだが。

エッシェンバッハはエーリカにとって青春の一ページなのだ。

だから、嫌いではなかった。

 

 

 

エーリカはトラックから飛び降りると転びそうになりながらエッシェンバッハの元へ駆け寄った。

既にエッシェンバッハは虫の息で、目は開いているものの見えている世界はきっとぼやけて歪んでいることだろう。

「先生……」

「ぐぅ、ハルトマンか……!」

エーリカはエッシェンバッハの身体を抱き上げた。そこへ、加織達が駆け寄る。

「少佐!今、治療を……」

「ヌ、そのようなものは……要らん!」

彼女は治療の申し出を頑なに断った。その顔には何かしらの決意が感じられる。

「ハルトマン、見たか!150機目だ……!」

目の焦点は完全に合っていない。胸を貫かれているから、呼吸もしづらいだろう。

「ふはは……!これで、またっ!昇進だな……!」

「いいからさ、もう喋るなよ……」

「ム、ハルトマン貴様……!上官に向かって……!」

エッシェンバッハは大きく咳き込んで、血を吐いた。しかし、顔は笑っている。

「じ、上官には、敬意を持って……カールスラント軍人たるもの……わかったか……ハルトマン士官候補生……!」

そう言うと、彼女は大きく息を吸い込み、そのまま動かなくなった。

「……だから、もう中尉だってば……」

ハルトマンは、そっとエッシェンバッハの目を閉じてやった。

 

 

 

 

夜。

月が雲の隙間から部屋を明るく照らしていた。

「どうしたハルトマン。電気も付けずに」

「あ、トゥルーデ」

エーリカは窓辺の机に頬杖を付いて外を見ていた。

「なんかさー、部屋が綺麗すぎると物寂しいなー」

「私はこれでいいと思うがな」

バルクホルンはそう言いながらエーリカの前に小さなグラスを置いた。

「ハルトマン、酒は飲んだことあるか」

「景気付けに何度か」

「ン……十分だ」

バルクホルンは酒瓶の栓を抜き、グラスに黄色く透明な液体を注ぐ。

「あれ、これって……」

「うむ。お前が買ってきたものだ」

グラスに注がれた液体は月の光を溶かしたように美しく輝いている。バルクホルンももうひとつのグラスにストレガを注いだ。

「……………」

二人は、一緒にそれを喉に流し込んだ。

「……ゲホ……ゲホゲホ……」

「ゲホ……うぅ、ちょっと強いな……」

バルクホルンはストレガの瓶に蓋をする。

「グフ……ゴホゴホ……うぅ」

「いつまで噎せているんだ………」

エーリカはうつ向き、ずっと咳き込んでいた。しかし、その咳の中に嗚咽のような物が混じっているのをバルクホルンは聞いた。

「泣いているのか」

「お酒がさ……うぅ……強すぎて……」

数滴の滴が机をポタポタと濡らしていた。その水滴は小さな水溜まりを作り、歯を噛み締めるエーリカの顔を映した。

「あぁ……本当に強いな、この酒は……」

バルクホルンはそう言って瓶の栓を開け、再びグラスに液体を流し入れた。

夜は、いよいよ更けていった。

 

つづく

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