聖杯戦争・・・それは7人のサーヴァントとそれを使役する魔術師達による万能の願望機を巡る血塗られた歴史。此度で4度目になるその争いの参加者の一人、間桐雁夜が蟲に体を蝕まれながらも召喚の準備を行っていた。
「おいジジィ……本当にこんな触媒で大丈夫なのか?」
「カッカッカッ!心配するでない雁夜よ。その石板はかつてのウルクにて採掘された物語の一幕が書かれた物だ。さぞ強いサーヴァントを召喚出来るであろう」
「チッ……!」
舌打ちするもこの戦争では強力なサーヴァントを引き当てなければ勝ち目は無い。情報によれば自身の娘である桜をこの地獄に叩き落した「遠坂時臣」もこの戦いに向けて強力なサーヴァントを召喚出来る触媒を準備している。
「おい、もう一度確認するぞ……俺が聖杯を獲得してお前に渡したら桜ちゃんから手を引けよ」
「ああ約束しよう。孫の頼みを聞き入れるのも親の務めじゃ」
「……残りのクラスは確かキャスターとバーサーカーだったか?」
「そうじゃ。ワシとしてはバーサーカーを薦めるがのう」
「……フン!」
ニヤニヤとバーサーカーの召喚を促す臓硯の意見を聞き流し後ろで見ている桜に視線を移す。濁って死んだ目をしている大事な人の娘を日常に返す為に召喚の陣の前に立ち詠唱を始める。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ」
魔力が急造の回路を熱する。その痛みに耐えながらも詠唱を続ける。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang」
魔力に体が耐えられなくなり腕から血が噴き出る。それでも尚詠唱は続く。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
虫による魔力も少なくなっていき、それに伴い意識も遠のいていくが自身の事など構わないとばかりに確かな意志を持って最後の詠唱へと至る。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
詠唱を終えると召喚陣を中心に魔力の奔流が始まる。それが渦となり一帯の軽い物を吹き飛ばすそうして渦が収まると陣の中心には一人の女性が立っていた。その女性はこの汚く暗い部屋には似つかわしくない黄緑の綺麗な髪と全てを魅了する一糸纏わぬ体を持っていた。目を開き柔らかい声色で告げる。
「サーヴァントキャスター、召喚に応じ参上しました」
キャスターは周りを見渡して召喚の疲れで座り込んでいる雁夜の手の甲に出現した令呪を確認する。召喚に成功した喜びとこんな女性で戦えるのかという不安が混じる表情を浮かべる雁夜に近づき手を差し伸べる。
「問いましょう――――貴方が私のマスターですか?」
差し伸べられた手と朗らかな笑顔を二度見返した後、その手を取り弱弱しくも答える。
「ああ、俺がアンタのマスターだ……うっ」
そう告げると同時に雁夜は気を失う。それを見てあらあらと慌てる様子もなくしゃがみこみ頭をなでる。
「こんなに体をボロボロにして……早く休ませないといけませんね。それで……」
状況を理解しようと周りの人物に尋ねようとするがただ何も言わずたたずむ臓硯と自身に意思が無いかのように近づいてくる桜。あら?と疑問に思い様子をうかがっていると、顔がキスの寸前の距離まで近づくと桜が大きく口を開けるとそこから蟲が飛び掛かる。
まるで魅了されたかのようにキャスターの肌に張り付き魔力を吸い取る。だがその魔力に触れた瞬間に蟲は浄化され消滅する。そうして消滅した数舜後に臓硯がうめき声と共に体が崩壊していく。
「ぐぅ……一体何が……起こったんじゃ?蟲の制御が出来んかった……!?貴様!一体何をした!?」
唐突に核である蟲が消滅した原因であろう雁夜が召喚したキャスターに尋ねる。尋ねられたキャスターは素直にその問いを返す。
「私の体に魅了された蟲が神聖な魔力によって浄化された、それだけですよ?……まさか消滅まで至るとは思ってませんでしたが」
その答えを聞いた臓硯が憎悪をぶつけるが時すでに遅し。油断はあった、何のサーヴァントが召喚されるかはある程度分かっていた。それでも令呪があると御しきれると思っていた。単に対策が不足していた……いや対策していても無駄だったのだろう。何せ相手はかの英雄王の友……神の泥を魅了した者。最後まで生へすがりつきながら臓硯がその真名を口にする。
「おのれ……おのれシャムハト!」
完全に体が崩壊し500年の執念はそこで幕を閉じた。キャスターは何で恨まれているのか理解出来ないままその最後を見届ける。蟲を吐き出し気を失って倒れ込む桜を抱き留め自身のマスターと共に部屋から出ようと立ち上がろうとする。体に纏わりついて魅了し浄化されていく蟲を気にも留めずに。
「……ハッ!ここは?確かサーヴァントの召喚に成功してそれで……」
「気が付かれましたかマスター?」
「キャスター!俺はどれ位寝ていた!?」
「丸二日と言った所でしょうか」
「二日!?聖杯は?桜ちゃんはどうなっている!?ぐぅ!」
「無理しないでくださいマスター。ただでさえ体がボロボロなんですから」
「俺の事なんかどうでも……」
そこで雁夜は自身の体の変化に気付く。顔の爛れた皮膚はそのままだが上半身には丁寧に綺麗な包帯が巻かれている。そして体内に居た蟲が全て取り除かれているにも関わらず魔力も程良く流れている。それだけでは無く屋敷全体の薄暗さが、蟲の気配がこれっぽちも感じないのだ。
「おいキャスター……臓硯は……あの妖怪はどうした?」
「……?ああ、あの蟲の事ですか何か勝手に消滅しましたよ」
「消滅?あいつがか?キャスターお前がやったのか?」
「まぁ……私がしたという事になるんでしょうかね」
「一体どうやって……いや、それはいい。そろそろ姿を現せ」
「わかりました」
霊体状態を解除する。それは召喚した時と同じ一糸纏わぬ姿であった。ガッツリと裸体を見た雁夜はかぶっていた毛布をキャスターに投げつけ前を隠すように命じる。それに従い毛布を体に巻き話を再開する。
「それでキャスター、俺が気絶した後何があった?」
「何がですか……しいて言うならこの屋敷に居た蟲が私に群がって全部消滅した後、マスターに治療と魔力の供給を施して一緒に居た少女の世話をしていただけですね」
「!?桜ちゃんは無事なのか!?」
「魔力の濁りは浄化されたのですが記憶と心までは……あそこまでの苦しみはそう簡単に抜けないかと」
「お前……まさか記憶を」
「魔力の供給の際に少し覗きました」
「そうか……いやそれは別に良いんだ。よくやったキャスターありがとう」
桜の無事に驚きながらも嬉しさでその頬を緩ませる。憂いが無くなり安心していると扉が控え目に開かれる。そこには件の桜が顔を覗かせていた。
「シャムハトさん、雁夜おじさんは目を覚ましたんですか?」
「桜ちゃん……!ああ見ての通りだ。良かった……よかった」
「雁夜おじさん……」
お互い間桐の呪縛からの解放に喜びを顔に出し抱きしめあう。それを微笑ましそうに眺めるキャスターにお礼を述べた後、互いに自己紹介を始める。
「知ってるかもしれないけど、俺は間桐雁夜、一応お前のマスターだ」
「桜さんが申したと思いますが、真名シャムハトと言います。好きなようにお呼び下さいマスター」
「キャスター……いいやシャムハト短い間だけどよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
聖娼婦・シャムハト。世界最古の英雄譚ギルガメッシュ叙事詩で登場する、神イシュタルに仕える女性の名前。主人公ギルガメッシュの友である神の泥エルキドゥを獣から人に変えた逸話で有名である。
「それでシャムハトは聖杯を手に入れて何か望みでもあるの?」
「私ですか?これと言ってございませんね。王や神に仕える身でしたので生活に不自由はありませんでしたし」
「そっか。俺も臓硯が居なくなった今、聖杯に望みなんて無い。後は桜ちゃんを葵さんの元へ送り届ければそれでいいかな。俺ももう長くないからね」
「雁夜おじさん……シャムハトさん……」
聖杯戦争が終わればサーヴァントは現界が困難になる。如何に魔力が膨大なキャスターのクラスをもってしてもである。自身の恩人が消えるなんて考えたくない桜であるが、それが少し顔に出ていたのか雁夜が頭をなでて諭すように言う。
「桜ちゃんはこれから家族と幸せになるんだよ。凛ちゃんや葵さんと一緒にね」
「……です」
「あ、その前に時臣にはガツンと言ってやらないとね」
「……やです」
「ごめんね、おじさんは最後まで付き添えないけど」
「嫌です!」
「桜ちゃん?」
そこには当の昔に枯れたと思っていた涙を溢しながら雁夜とキャスターにすがり付く桜が居た。泣いた幼い少女は
「嫌です……一緒に居て下さい。雁夜おじさんもシャムハトさんも……もう別れなんて嫌です。ですから!……ですから……」
「桜ちゃん……」
拙く、上手く言葉に出来ない。それでも本心を伝える少女を見て困り顔の雁夜。キャスターは桜のお願いを聞き告げ口をする。
「マスター。お互いに聖杯への願いが出来てしまいましたね」
「シャムハト……そうだな。勝とう」
「ええ」
少女の願いを叶えるために2人の聖杯戦争が今、始まる。
とりあえずこんな感じです。
一応バーサーカー枠なんかも考えてますが続くかどうかは分からないゾ!