設定にある束とすごした時系列の話です。
プロローグだと早く、あっさりしすぎたので
時間的には研究所襲撃時に救出され、ISを起動させる前の時期です。
「う・・・あ・・」
「さっきのがきょうくんだったなんて、未だに信じられないよ」
研究所を襲撃後、隠れ蓑にしている一つの場所で束はコンピューターのキーを叩いていた。
異形だったものが自分のお気に入りの一人であった事に驚きながらもキーは休まず叩かれている。
「スキャンをかけてみたけど、もう人間の細胞じゃないね。別物になってる」
「これはサンプルが欲しくなるねー」
束は笑顔を浮かべるがそれは化学者としての笑みだ。
自分にとっての未知、それが科学者である束の心を刺激してくれる。
「サンプルはきょうくんだけど、ね」
束は視線を横になっている鏡夜から一瞬離すと、キーを叩く事に専念する。
「たば・・ね?さ・・ん?」
「そうだよ、だけど今は休んでね?検査も兼ねるから」
「は・・・い・・・」
それから数日、鏡夜は会話は可能なくらいに回復した。
「はっきり言うね?今のきょうくんはボロボロだよ」
「え?」
「今は少し回復したとはいえ、細胞を別の物に変えられて身体は衰弱に近い状態なの」
束はいつものハイテンションではなく毅然とした態度で話をしている。
「俺の身体はそんなにも・・・?」
「うん、それにね・・きょうくん、これ読める?」
束は紙に書いた「時間」という文字を鏡夜に見せた。
「それは・・・えっと・・あれ?読めない?」
「細胞変化で知能も下がってるみたいだね、このままだとマズイよ」
束は紙を放り捨てると鏡夜に向き直った。
「束さん」
「何かな?」
「俺を鍛えてくれる事は可能ですか?」
鏡夜は顔を束に向けて話しかけていた。
「束さんの特訓は並大抵じゃないし、容赦しないよ?」
「それでもいいです、むしろ鍛えないとダメな気がして」
「わかった、束さんは本当に容赦しないからね?でも今は休んで」
「はい」
束に催促され、鏡夜は身体の回復に専念した。
その後、回復と同時に束の特訓が始まった。
「はい、ここ間違い!もう一度基礎からやり直し!」
「・・・うう」
朝起きたと同時に勉強をし、間違えたら基礎からやり直しをさせられ。
睡眠学習は当然の事、風呂以外は勉強の集中講座だった。
束さんが言うにはちゃんとした理由がある。
この隠れ家を破棄するのと同時に、特訓を終えた俺を日本へ戻すということらしい。
だが今の俺は知能は下がっており、筋力も萎縮状態だった為に無くなっている。
そんな状態で戻れば何も出来ないのは当たり前だ。
束さんの特訓は本当に地獄すら生温いのではないかというレベルだ。
それでも勉強をやればやるほど知能が向上していき、理解出来てくるのは快感だった。
「ふうん、束さんには及ばないけど随分知能が付いてきたね」
「束さんのおかげですよ、でもまだまだ先へ行きたいです」
「ならこのままISの知識もつけちゃおっか、でも!その前に!」
束は勉強の他にも特訓させようと何かを作っていたようだ。
「確か、きょうくんは空手やってたんだよね?」
「幼少時代ですけどね。義姉達と被るのが嫌で、休日に道場に顔を出して稽古するくらいでしたけど、それが?」
「うん、ならそれを鍛えるようにしていこう!」
「え?」
束はいつものテンションに戻るとマラソンマシンに似た装置を見せていた。
「まずは体力作りからね!準備運動したらこれから毎日、フルマラソン!」
「いやいや、死にますって!!」
「鍛えてくれって言ったのはきょうくんだよ~?」
うん、束さんは極上の笑顔だ。
元々美人だし、胸も大きいし、スタイルもいい。
普通なら見惚れてるところだ。
だけど今は、うさ耳をつけた最凶の兎と書いてオニと読むの如しだ。
「そうでした、やるっきゃない!」
「そうだよー、それとフルマラソンの後は筋トレだよ!腹筋、背筋、腕立て伏せを各500回3セット!!」
「ぶほぁ!!?(俺、死んだかな・・・)」
あまりのメニューに一瞬だけ死を見そうになった鏡夜だった。
「やかましいわ!って誰に言ってんだろう俺・・・」
「さぁさぁ!独り言はやめにして!レッツ、トレーニング♪」
「ぎぃやああああああああ!!」
絶叫が響くがそれでも容赦のない基礎訓練は続く。
◇
勉強と鍛錬を続け、数ヶ月が経った。
「ふ!シッ!!」
鏡夜は正拳突きの練習をしており、体格も見違えていた。
知能は大学卒業レベルまで向上しISの知識も基本的な事だけはマスター出来るようになっていたが科学者とまではいかず。
筋力の方は束による基礎訓練と機械による組手、稽古によって免許皆伝レベルまでのし上がることが出来ていた。
「きょうくんのおかげでサンプルも取れたし万々歳だよ!」
「ふう、束さんには感謝してます。抑制細胞と特訓までしてくれて」
「他ならぬきょうくんの頼みだったからね!」
しかし、鏡夜は表情を曇らせていた。
「束さん、俺は!うっ!ああああああ!?」
突然、鏡夜の方腕があの時と同じ
「教えて下さい、俺は・・・人間ですか?それとも怪物ですか!?」
「はっきり言えばきょうくんは人間じゃない、怪物だよ」
束は表情を引き締め、鏡夜の目を見ていた。
「たばねさ・・・・」
「でも、きょうくんはきょうくんだよ?そうじゃなきゃ私が手を貸すわけがない。分かるでしょ?」
束の声はまるで機械のように感情がなく、淡々と言い続ける。
「ただの怪物なら今頃サンプル取って、解剖してる頃だよ?」
「ッ!!!!!」
「でもね、きょうくんだから助けた。私にとってそれだけだよ」
「束さん・・・」
「きょうくんはどうしたい?自分の中の怪物を使って何をしたいの?」
「俺は、自分の手に届く物をを助ける」
「それだと助からない人も出てくるよ?」
束の声はあくまで冷徹に鏡夜に向けられていた。
「助けても意味がない時が必ずある。それなら自分の目の前で死なれるのはゴメンだ」
「わがままだね?それって犠牲論と似てるよ。大を生かすために小を殺すって事と」
「一人が全部を守れるわけがない、それなら目の前の犠牲を止めるだけだよ」
「矛盾してるけどきょうくんの答えなんだね?それが気に入らない悪い奴でも?」
「悪い奴でもです」
鏡夜は束の目を見つめ返した。
「なら、それを抱えて進むといいよ?いつかは必ず躓くことになるけどね」
「構いませんよ、自分で決めた事ですから」
「ふーん、成長したね?きょうくん」
「束さんには負けますよ」
真剣な空気が緩み、束から笑みがこぼれた。
「やっぱり、きょうくんはきょうくんだよー!」
そういうと束は思いっきり鏡夜を抱き締めた。
「ちょ!束さん、やめて!その・・・む、胸が当たって//」
「んー?気にしない気にしない!」
「いや、気にしますから!」
頑張れ青少年、目の前の誘惑は大変だがな。
「だったら助けろ!って束さん!更に抱きつかないでー!//」
「きょうくん昔からウブだったもんねー!」
年上の魅力と子供のような無邪気さと天才的頭脳、こんな美人に勝てますか?
「勝てる訳ないいいいい!」
鏡夜の葛藤はこの日、一日中続いたという。
そしてあの出来事が起こる前日。
「きょうくん、そろそろこの隠れ家も破棄するね」
「え?」
「ずっと同じ場所にいるとバレちゃうから」
今まで忘れていた。
束さんはIS開発者、今世界中が血眼になって探している。
俺と一緒に居れば足がついて発見されてしまう、それを危惧しているのだと。
「束さん、特訓。ありがとうございました」
「お別れになるけど会えない訳じゃないからね!」
「ええ、そうですよ!」
明るく別れよう、その時はそれしか考えてなかった。
「きょうくん」
「はい?」
「理性を失ったまま怪物化しないようにね?」
「はい・・・」
それが束さんとする会話の最後の締めくくりだった。
◇
「このベルトにISの機構を組み込もうとしたら飛行だけになっちゃうなんて」
アマゾンドライバーを改修している束は不満を漏らしていた。
「きょうくんが使えば更に抑制できるかな?私が作ったアレだけじゃ意味が薄いし」
キーを叩きつつドライバーとの親和性をあわせようと進めていく。
「なるほどね、活性化装置だったのかー」
「ISの起動と同じ原理で応用できる」
束自身にしかわからない事が少しずつ組み上がっていく。
「二重ロックになっちゃったけど・・無理はないね」
「天鎧、きょうくんを守ってあげてね」
その後、ISを起動し鏡夜はIS学園へ行く事になる。
天鎧に込められたのは「守ってあげて」という優しい想いだけ。
その優しさは喰われるか、成就するか。
番外編は書いていこうと考えてます。
次の番外編は鈴視点の過去話になるかと思います。
ここに来てネタが切れかかってますが無茶せずいきます。
それでは。