リハビリがてらこっちの方を書いてみました。
今回は某作品とクロスオーバーしてますので苦手な方はご注意を。
焼き鳥
一般的には串打ちした鶏肉を焼いたもの。
昔の話ですが「事、肉料理に関してフランス料理以上の物はない」と豪語する友人と肉料理について口論になった事があり。
「俺はフランスの肉料理食えなくなるのと焼き鳥が食えなくなる二択なら、迷わずフランス料理食えなくなる方を選ぶね!」と言ったら「すまん……。俺もだ」となって仲直り。
ビバ焼き鳥。
フォーエバー焼き鳥。
モモ、皮、レバー、ハツ、つくね、砂ぎも、他色々……シンプルに塩もよし、醤油のタレで濃厚に食べても良し。
ご飯から酒まで何でも合う素敵な食べ物、それが焼き鳥。
今回は、そんな焼き鳥のお話。
―花の金曜日―
「スーパーエ○ジェルフェニックス♪輝く明日を掴もう♪」
キラキラしたシール入りのビックリなチョコを連想する歌を口ずさむ一人の女性。
総武高校教師平塚静、彼女は女性らしくない歌を口ずさみながら車を走らせ帰宅している最中だった。
「今日は、もう遅い……。行きつけの食堂も閉まってるだろうしイ○ンで適当なの買って帰るか」
静はそう呟くと、ウインカーをいつもとは反対に点滅させ、スーパーへと寄り道するべく進路を変更した。
―千葉 某スーパー―
(やはり今の時間はロクな物がないな……)
半額シールが貼られてから結構な時間がたったのだろう、目当てとしていた弁当や寿司、空揚げ等が微妙な物を除いて軒並売り切れている。
(これとこれ……あとこれでいいか)
そんな中、残っていた硬くなった焼き鳥を数パックカゴに入れる。
(今夜はビールと行きたいところだが……タマにはこういうのもアリだな)
この串焼きでビールはなぁとおもった静は、近くにあった氷な缶チューハイを手に取り定番のレモンをはじめ数本カゴにぶち込む
(何か学生の頃に戻った気分だ)
カゴの中はまるで大学生の頃のよう。総菜コーナーにて半額シールが貼られる時間を狙いすまし手に入れた戦利品を安いチューハイで流し込んでいたあの頃。ただ酔うだけでも良かった時代を思い出す。
(……いっそあの頃食べたものを買うか……となると、あそこだな)
あと一つ足りない、酒コーナーから離れとある場所へと向かう。
(あった!これこれ!学生の時よく食べたな)
それをカゴに入れると静は、昔を思い出しながらレジへと向かった。
―自宅―
帰宅し直ぐにスウェットに着替え、買い置きの冷凍枝豆を解凍し、串焼きをレンジでチン。アイスペールに氷を入れテーブルに持っていく。
「さて今日は何を見るか」
動画を見ながら晩酌モードに入る。
「いつもなら熱くなる展開のが見たくなるが今日は、昔をまったりと味わいたいもの……」
あれじゃない、これじゃないと動画一覧を適当に流して行き。
「おっ!これいいな」
一つの動画に目が止まり、それを再生することにした。
「曖昧3センチ♪」
なんか出る~ような歌が流れ、かわいい女の子たちが埼玉で踊っている姿が流る。
静は味が濃く甘だるい串焼きをレモン味のチューハイで流しながら動画をしばらく見た。
「懐かしいではないか。しかし……黒井先生か。あの頃はクリスマスケーキネタで笑っていた私だが、今は全然笑えんのは何故だろうな」
それについて答えは書くまでもない、真実はいつも一つ。
「ふっ、認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」
笑えない意味が頭に浮かぶと同時に思考を切り替える。それが出来なければ彼女の精神は生き残れない。
「それにしてもだ……。チューハイに見切り品の惣菜にあの時のアニメ、昔と変わらないはずなのに今改めると全然ちがうな」
あの頃、良く食べた物も今になって食べると、また違った味わいに感じる。
「とはいえ甘だるい焼き鳥に冷凍枝豆、安っぽいチューハイ……まあ、なんだかんだでこれが合う」
「そして酒の締めと飯を兼ねてポロいちの塩を茹でて、野菜ミックスに肉入れて……と」
「出来た出来た!」
これも学生時代の定番、肉野菜入れインスタント麺。
「うん、旨い旨い!」
なんだかんだでアルコールが回った彼女には美味しいもの、ペロリと平らげる。
「それににしても……飯はなんだかんだ旨いし、アニメも面白いのだが。満たされないのはなんだろうな」
「やっぱり焼き鳥は焼き立てが食いたい。チューハイも良いが、やはり焼き鳥にはビールだ」
「塩ちょい強めのネギまに七味をパラパラかけてかぶり付いて、熱々の肉汁とトロッとしたネギが口に広がって、ん~!ってなった時キンイキンに冷えた生でグイッとやって爽やかな香りと苦みで流して、喉にギューッとくる感覚がたまらんのだよな」
「それと比べてしまうと、どうも満足できない」
一度連想してしまうと物足りなくなってしまう、こんな時にすることはただ一つ。
「……まだ宵の口ではあるが寝るとしよう」
さっさと寝るに限る。静はそう判断しッさっさと床についた。
「……寝れん!焼きたての焼き鳥を連想したせいで寝れん!」
「焼き鳥か~。フランチャイズの店も結構旨いし、居酒屋の焼き鳥も悪くない」
「そういえば学生時代にタマの贅沢で行ってた店のは旨かったな」
焼き鳥と言えばで、静は昔よく言った店を思い出す。
「幸い明日は休み、店は4時からやっていて、早い時間なら比較的空いている。いっそ食いに行くか?いや行こうではないか!」
もはや彼女に行かないという選択肢は存在しない、そうと決まればさっさと寝よう。
静は顔をにやつかせながら、寝息を立て深い睡眠へと入って行った。
―翌日―
(開店時間まではかなりある、何せまだ昼ちょい過ぎだ)
朝昼兼用で10時頃に立ち食いソバで軽く食べた静は、何となく街を散策していた。
その時だった。
「ねぇ、俺らとちょっと付き合ってよ」
「え?あの……困ります」
静の耳に入るナンパしている男とされてる女の声。
「いいじゃん、ちょっとお茶するだけだから」
「いや、だから僕は……」
「「僕っ子キターーー!!!」」
(チッ!ナンパか)
別に自分がナンパされないのが気に食わないわけではない。
「断る婦女子を無理やり誘う。男の風上にも置けんな」
彼女から溢れる男気が答え。こまった人を見過ごせない。
「……ん?あのナンパされてる子もしかして」
ナンパされてるショートカットのジャージ姿の子、どこかで見たことがある。
(あれは戸塚ではないか!)
仮にも男?とはいえ自分の教え子、見過ごせない!下手をすればナンパ野郎の世界に腐った扉が開きかねない。
「どうしたのかね戸塚」
「あ、平塚先生!」
静は戸塚に声をかけると、戸塚は困っていた顔から笑顔になる。
「ああ先公だぁ!?関係ねぇ奴は引っ込んでろ」
「それとも何?先生が相手してくれるなかなぁ?」
ナンパを邪魔されご機嫌斜めだったが、邪魔してきた人も何だかんだ美人さん。すぐさま行動を切り替える。
「どちらもお断りだ、私にも選ぶ権利はある」
「じゃあちょっと力ずくで相手してもらおうかなぁ」
そう言うとニヤニヤ近づく野郎ども。静の格闘能力なら、こんな奴ら簡単にねじ伏せることができるが……
(チッ!流石に生徒の手前で暴力は不味いどうする?)
さすがに今は生徒の前、手出しが難しい。静は窮地に陥っていた。
―少し前―
(ようやくついた……。そして仕事の待ち合わせの時間には、ほんのり余裕)
駅から出てきた長身の男、個人で輸入雑貨商を営む、井之頭五郎。
彼は目的の場所まで歩きながら、大いなる悩みにより葛藤していた。
(無性に甘いものが食べたい!喫茶店でパフェを食うか?いやギリギリだな……いやしかし!)
彼は非常に甘党、そんな訳で頭の中では仕事より糖分を欲していた。
「え?あの……困ります」
「ん?」
その時聞こえてきた女性?の声。
(女の子がナンパされてる。おっ美人さんが助けに入ったが……あいつら!)
助けに入った女性にも手を出そうとしている。
(仕方ない……)
ここはさすがに見過ごせない。
「その辺にしたらどうだ?」
「ああん!?……っ!」
(デカい、それに何か威圧感あるなヤクザか?)
もしサングラスをかけていたらヤクザにしか見えない風貌の男にたじろぐ男。
「ああ!?おっさんは引っ込んでろ」
「お、おいバカ、止め!」
だがもう一人は状況が見えていなかったのだろう、止めようとしてる仲間を無視し襲い掛かろうとする
「痛ぁ!!」
(脇固め!?入りが早い!初動に無駄がないな……経験者か?)
一瞬の出来事で動きがわからない。唯一、静だけが見極めた。
「く、くそっ」
「ほ、ほら逃げるぞ!」
明らかに普通じゃない風貌に実力、ナンパ野郎たちは逃げ出した。
(やってしまった)
暴力はきらいな彼は少し落ち込む。
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
静がお礼を言うと戸塚もそれに習い同じく礼を言う。
「あ、いえ、当たり前の事をしただけですので」
「恩人に礼も無しでは申し訳が立たない、何かお礼でも――」
「――いえいえ私、少し急いでますので失礼します。お気をつけて」
(本当は喫茶店でも寄りたいところだが。仕方ない先を急ごう)
可愛い子と美人に言われ少し気恥しくなった五郎は逃げるように、その場を後にした。
―自動販売機前―
(イカン、甘いものを口にしたくて仕方ない。さっきの喫茶店が悔やまれる……おやっ?)
俯き、落ち込みながらため息をつく五郎、そんな彼の目に一つの光景が映る。
(あれは……噂のマッカンというやつか。にしてもあの少年、美味そうに飲んでるなぁ)
そこには身長が170中ごろくらいの高校生、彼は黄色いマッカンを缶の注意書きに書いてある通りに振ってプルタブに手をかけ、非常にいい顔で飲んでいる。
「よし、俺も飲もう」
アレを見てたら自分も飲みたくなって仕方ない。直ぐに自販機へ向かいお金を投入し迷うことなくマッカンを購入する。
(ふむふむ、振らせていただきます)
右手に持ち、ちょうど目に付く赤文字“軽く振り、少し待ってから、あけてください”の文字に従う五郎。
その後プルタブを開け一口
(甘い!けど、この甘さは何か懐かしい気がする。これは、昔よく飲んだベ○ミーコーヒーのような甘さ。コーヒーと言えばこの甘さだった頃を思い出すような味……そしてこの甘さは何だか癖になる)
初めてのようで懐かしい、そんな不思議な気分。五郎はそんな空気に包まれながらマッカンに酔いしれれる。
(さて、エネルギーチャージ完了!血糖値も上がった事だ、バリバリ働きますか!)
残すは仕事だけ。五郎は空になったマッカンをゴミ箱に入れ気を入れ直し、お客のもとへと向かうことにした。
―ゲームセンター―
「ふむ、見回り以外で来るのは久しぶりだな」
何となく時間をつぶしに来た静はむかし良く行ったゲーセンに来ていた。
(昔はよくバーチャルファイターや鉄拳をやりに来たものだが、当時と比べるとラインナップが変わっているな)
「おっ!マジアカか懐かしいな、まだあるのか……ん?」
(比企谷だ、マジアカやってるのか)
プレーに集中している八幡を気遣い声をかけずに後ろから眺める。
(おっ!決勝まで進んだのか)
(比企谷は文系で後の奴らはアニメか……)
結果は八幡の一位で幕を閉じた。
「やるではないか比企谷」
「あっ、ども」
「ここで会ったのも何かの縁だ、一勝負と行こうではないか」
勝負事は血が滾る!静は小銭を取り出し勝負を挑む。
「……俺の負けでいいんで帰って良いですか?」
「つれないことを言うな、どうせ一人なんだろう」
「何んで確定してんすか、てか先生に言われたくな――――」
「――――何か言ったか比企谷」
言わせねぇよ!!殺気ととに拳を握る静。この殺気を出せばナンパ野郎も逃げ出しただろうに……。
「な、何も言ってませんでさぁ」
いのちだいじに、八幡は作戦を変更した。
「そうか、では一勝負と行こうではないか」
「一応この後予定あるんで始まるまでに終わらせてくださいよ」
「ああ構わん、デュエル開始だ!」
―そして―
(平塚先生は回答は早かった……そして弱かった)
そう、回答は早いのだがひっかけ問題にすこぶる弱く、普通に八幡がかってしまった。
「クソ!もう一回だ!両替してくるついでに花を摘んでくる!」
財布に小銭がないことに気づいたのだろう、トイレに行くついでに両替してくるようだ。
「あの人、どんだけ負けず嫌いなんだよ」
「何をしてるのかしら貴方」
「ゆ、雪ノ下……お前こそ何してんだ」
「用事ついでに寄っただけよ」
「ついで……ねぇ」
手に持っているパンさんのぬいぐるみ、それを見る限りとても、ついでとは思えないあきらかに
「そのゾンビのような目で見ないでくれるかしら戦利品がゾンビになってしまうわ」
「いつから俺の目が感染源になったんだよ。てか人形に感染するわけねぇだろ……って何してんだお前」
プレーしている人が八幡以外にいないとはいえ、いきなり隣に座る雪乃。
「別に、少し疲れたから座っただけよ」
「そうかよ」
「待たせたな、おや?雪ノ下ではないか」
「平塚先生、こんなところで何やってるんですか?」
あきれ顔で静を見る雪乃。
「なあに、偶然会った比企谷とデュエルしていただけだ。そうだ雪ノ下もやるかね?」
「え゛?」
嫌な予感がする、八幡ピンチ。
「結構です」
「そうか、雪ノ下と言えどもクイズで負けるのは怖いという事か、仕方ないな。比企谷、デュエルの続きと行こう!」
(何挑発してくれてんの先生!?)
「いいでしょう、先生の顔を立てて、その安い挑発に乗ってあげます」
(やっぱりこうなったか……)
このような展開になるんだろうな、そう思った八幡だったが、それが的中する形になった。
―そして―
1位 八幡
2位 雪乃
3位 静
「「「……」」」
(この二人、引っ掛け問題に弱すぎだろ、てかヤバくね?)
「……(ギリギリ)」
すました顔で歯ぎしりしてないのに伝わってくる悔しさと熱気。
(ガチの負けず嫌いに火が付けてしまった)
(イカン、これは雪ノ下が勝つまで止めない流れだ)
片方熱くなると冷静になる法則、静は突然冷静になる。
「わ、私は用事を思い出したからドロンする、良かったらこれを使ってくれたまえ」
小銭と八幡をサクリファイス、静はエスケープを唱えた。
「お、俺も用事があるので」
この流れは不味い!彼もすぐに逃げようとするが「初心者相手に勝ち逃げするつもりかしら逃げ谷君?どうせ大した用事なんて無いと思うのだけど」と逃がさない雪乃。
「おい決めつけんな、これから塾なんだよ」
「あら、そんなの私が後で貴方に勉強教えてあげるから今はこっちをやれば良いじゃない、みっちり教えてあげるわ。感謝なさい」
「えっ?ちょっ!」
雪乃は困惑する八幡を無視し小銭を投入し座らせる。
「ハハハ……じゃあ後はお若い者同士二人でごゆっくり。私は失礼させてもらう」
何とか逃げ出せた!静はすたこらサッサとゲーセンを後にした。
(さて、開店5分前……か。結構いい時間だな)
時計を見る限り、到着時間がちょうどピッタリになる計算。
(ついた!この暖簾、店構え、あの時と変わらないなぁ)
「ごめんください」
静は暖簾をくぐり懐かしの店内へと入る。
「いらっしゃい……あら静ちゃん!久しぶりじゃない!!」
店員のおばちゃんが嬉しそうに声をかける。
「どうも、しばらくです」
「すっかり美人さんになっちゃって~、今日は一人?」
「はい、お恥ずかしながら」
ここでは、一人ですジェスチャーはいらない。静にはそれが嬉しかった。
「それで、どうしたの今日は?」
「昨晩、無性に、ここの焼き鳥が食べたくなってしまいまして。せっかくの休みだし足を運んだんですよ」
「うれしいこと言ってくれるじゃない、飲み物はどうするの?」
「そうですねぇ……」
メニュー表ではなく壁に書いてあるドリンクを眺める。
(いかん……頭の中ではビールのつもりでいたが、ハイボールも飲みたくなってきた!いや、ここは初志貫徹と行こう。だが問題はタレにするか塩にするかだな)
しばし悩む静。
「とりあえず生に……砂肝酢漬け、あと盛り合わせ塩で」
「かしこまりました。盛り合わせ1入ります」
どうやら接客では敬語に切り替えるタイプのようだ。
「はいよ!」
奥で店主が焼き物をしながら返事をした。
―少しして―
「お先にビールと酢漬けの方失礼します」
「ども!」
(先ずは生から)
ビールがしっかり入った上での泡、静好みのバランスによく冷えた中ジョッキに胸が高鳴る。これは飲まずにはいられない自然な流れで口に運びグイッとあおる。
「……~~ッ!!」
軽く顔をしかめた後、思わず笑みがこぼれる。
(生にして正解だ!やはり生は旨い!!)
多分ハイボールでも同じことを思いそう。
(よくビールは泡が旨い、泡がビールの味を決めると言うが、私個人としてはビールがあるから生が旨いだ!)
つまりビール最高。
(これはこれは、ご無沙汰しております)
次につまみに頼んだ砂肝酢漬けに手を伸ばす。
(いい漬かり具合、それに硬すぎず柔すぎず、あの頃と同じ味ではないか)
南蛮酢に漬けた砂肝、コリコリした歯ごたえと独特の旨味が絡み合い、アクセントに効いた、ごま油の香りが酒のアテにピッタリ。
(野菜のほうもいい漬かり具合だ)
細く切った、大根と人参それらも砂肝との相性は勿論、単体でも活躍できるレベル。
(だが、ここで調子に乗って食べきってはいかん。焼き鳥屋と寿司屋は待つ時間も重要だ)
一気にガツガツ行く人は例外として、ゆっくり食べる場合は冷めてしまい、せっかくの店での串焼きの味が落ちてしまう。
―時間が少し遡って千葉某所―
「それでは、この条件でお願いしますね井之頭さん」
和服美人の依頼主、雪ノ下母が鉄仮面な空気を漂わせながら笑顔で言う。
「はい、かしこまりました。商品が到着次第、ご連絡させて頂きます」
こちらも営業スマイルで返す五郎。商談は無事うまく行ったのだろう、笑顔でその場を後にする。
「ふぅ」
(今まで会った依頼人の中で1、2を争う美人だが威圧感も1,2を争うな。なんというか笑顔が怖い。マッ缶飲んでなかったら途中で力尽きたかもな)
(それにしても雪ノ下建設か……。あ~~怖かった!)
気持ち的にも開放されたのか、軽く背伸びをする。
(解放されたら急に……腹減った)
顔をしかめ、口が半開き。ガチで腹が減ってるもよう。
(良し!飯にしよう)
空腹が彼を突き動かす。五郎はすぐさま足を動かし飲食店のありそうな場所へと急いだ。
(焼肉……は昨日食べたな)
(鮨は……何か気分じゃない)
おなかは空いているが、いまいちフィーリングが合わない。
(いかん!これは前後不覚になるパターンだ!)
(落ち着け、俺は腹が減ってるだけなんだ)
ここでハズレをひいたら目も当てられない、彼は悩む。
「ん?」
(この匂いは焼き鳥か?)
頭に浮かぶのはタレの焼き鳥とご飯……五郎の頭の中が支配される。
「いいじゃないか!ここにするか」
そうと決まれば即行動、五郎は暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ」
「ん?ああ!先ほどはどうも!」
店内に新しく入ってきた客に目を向ける静、その先にいた五郎を見るなりすぐに挨拶をする。
「え?ああ、いえいえ」
まさか再開すると思わなかった五郎がびっくりしながらも言葉を返す。
「あら静ちゃんの知り合い?」
「ええ先ほど、生徒と不良に絡まれてる所を助けて貰ったんですよ」
「あら~、そうなの!」
「ここで会ったのも何かの縁だ。一杯おごらせてください」
「いえいえ、お構いなく」
これで礼ができる、しずかは酒を頼もうとするが五郎がそれを断る。
「そうご遠慮なさらずに」
「いや~その私、下戸でして」
お酒が飲めない五郎は、今まで何度言ったか分からない台詞を言う。
「なんと!」
「あら、お酒強そうなのにね」
以外だ、そう思った静と店員。
「よく言われます」
「飲み物はどうなされます?」
「じゃあウーロン茶で」
五郎はいつも通りウーロン茶を頼む。
(どうする?態度から察するに一見さんだろうな)
酒がダメなら食べ物だ、静は少し悩み
(この人は人見知りというわけでは無いだろうが飯の時間は一人でゆっくり行きたい派みたいだな、これ以上は失礼になるから一品なにか出すくらいがちょうどいいのかもな)
「奥方、これと同じのをあちらの方に」
どうやらこの店は夫婦で営んでいるのだろう、静は小声で店員に注文をし店員は頷く。
「失礼します。こちら、あちらのお客様からです」
「ああ、どうもすみません、ありがたくいただきます」
「いえいえ」
(ここで断れば失礼に値するな)
こういう好意はありがたく頂こう。五郎はそう判断し少し料理を見つめてから箸をとった。
(おお、これは旨い……。酸味のおかげで、さらに食欲が湧いてきたな)
)
五郎は砂肝と野菜を小気味よく噛みながら厨房眺める。
(この店、あたりだな)
続けてメニュー表を開く。
「う~ん」
(塩も良いがタレ捨てがたい。だが今はご飯も食いたい)
(おっと、焼き鳥定食なんてものもあるのか。よし!ここは攻めるとしよう)
少し悩み注文をする
「すいません」
「はい」
「焼き鳥定食と串焼き盛り合わせを下さい」
「塩とタレはどうします?」
「えーっと……定食の方をタレ、盛り合わせを塩で、あっ!あとご飯大盛出来ます?」
「もちろん出来ますよ」
「じゃあ大盛でお願いします」
「かしこまりました。盛り合わせ2一つ塩で」
(盛り合わせが2?ということは、盛り合わせと定食は一緒ということか)
タレだけではなく塩も堪能できる。どうやら今回は両方で攻めるようだ。
(にしてもこれ旨いな~。この酸味は箸休めにもなりそうだから、野菜だけ少しおいておくか)
箸を起き少し待つことに。
「お待たせしました。焼き鳥定食大盛と盛り合わせです!」
(きたきた!)
最初にご飯と味噌汁、浅漬けの入った小鉢。ねぎま、皮、レバー、ぼんじり、ハツの串焼きが塩とタレに分かれて運ばれてくる。
「では、ごゆっくりどうぞ」
五郎はそう言って去っていく店員にかるく一礼し料理に向き合う。
(先ずはねぎまの塩から。……おっほ~!いい火加減と歯ごたえネギの甘味もイイ)
モモ肉の肉汁が口に広がり、次いでやってくるほど良い歯ごたえの肉とネギが味に膨らみを持たせる。
(旨い!今の俺ならこの量の串焼きはペロリと行けそうだ)
柔らかく焼きあがったレバーとハツ、程よく火がとおり濃厚な味わいのぼんじり、パリッと焼けた皮、それらをあっという間に平らげる。
(あの人、旨そうに食べるなぁ……)
あまりにもおいしそうに食べる姿に静にも思わず目が行ってしまう。
(次はタレ……。このタレ旨っ!これは間違いなくご飯に合うぞ)
甘さだけではなく醤油の持ち味を生かしたタレ。当然、継ぎ足しではあるものの、それだけでは無い、元のタレには火を通すが、継ぎ足すタレは火を通しすぎないようにしあえて醤油の風味が残るように調整された物。熟成の管理が徹底された味わい。
(少し辛めのタレがご飯にも合うな)
そして閃く五郎。
(どうしよう、行儀が悪いか?いやしかし……。だがこのタレは我慢できん、男ならやってやれだ!)
串焼きをご飯の上に外して乗せ、タレをかけ丼にする五郎。
(う~ん!これは想像以上に旨いぞ!)
醤油の風味と熟成の深みが両立したタレ、焼いた肉の香ばしさと、肉の味が白米に絡み箸が止まらなくなる。
(箸休めに酢漬け食べて……と)
強めの酸味が、口の中をリセットし、また食べ出す度に同じ感動を与えてくれる。
(この店、入って大正解)
気づいたらご飯もあっという間に完食。
(これはいかんな。あの人の食べている姿を見ると無性に私もご飯が食べたくなってきた……。分かっている!ここのタレはご飯に絡めると滅茶苦茶うまい!だが今はダメだ、私には、もう一つの目的がある)
ご飯を頼むと、お腹の容量的に、それをきつくなる。
(なにせ、ここのラーメンは絶品なのだ。質の良いガラを徹底的に煮込んだ鶏白湯に醤油の香りが立ったスープ。麺は加水率低めの、やや細い麺。具は、ぼんじりと砂肝、モモとネギの網焼き……これらの調和のとれた味わいは、まさに絶品だ)
(だが、タレとご飯が頭にチラついている、どうする?)
(モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなければいけない……そしてこういう時こそ冷静にならねば)
「すいません!ラーメン一つ」
「あら、もう〆入るの?」
「いえ、なんだか小腹も空いていたので、その後ご飯と串焼き頼みます」
「あらそうなの。ラーメン一、お願いします」
「はいよ~」
(ラーメン……焼き鳥屋でか)
まだ食い足りないのかメニューと睨めっこしていた五郎が顔を上げる。
「お待たせしました。ラーメンです」
「どうも(コレコレ!久しぶりだなぁ)」
早速レンゲでスープをよそい一口。
鶏白湯と生醤油のタレが混ざったスープ、それらをささえる香味野菜の甘味が出しゃばる事無く支え、鶏と醤油の旨味を存分に味わえるようになっている。
また、チャーシュー代わりの網焼きの具が、スープにさらなる風味と形を持たせる。
ラーメン専門店にも引けを取らない味わいに、ラーメンマニアの静は一心不乱にラーメンを食す。
(何アレ?めちゃくちゃ旨そう!にしても、あの美人さん旨そうに食うなぁ……よし!)
さっきやった事をやりかえされた五郎。
「すいません!ラーメン下さい」
(少し食いすぎか?いや今食わなければ、きっと後悔する)
モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・。
かつて、そんなことを言っていた彼は食べないで後悔はしたくなかった。
(うほ~!実に旨そうだ。まさか、焼き鳥屋でこんなラーメンに出会えるとは)
(あ~やばい)
風味や具の旨さもさることながら、麺もそれに見合った味わい。五郎の食べるスピードが落ちない。
―そして―
「ごちそうさまでした」
いつものごとく、お行儀よく挨拶。
「すいません、お会計お願いします」
「ありがとうございます」
「あ、砂肝ありがとうございました。すごくおいしかったです」
本当に美味しかった。普通に注文していたらスルーしていたかもしれない五郎は素直にお礼を言う。
「いえ、お口にあったようでよかったです」
お礼に頼んだかいがあった。しずかはの残ったビールを煽ると、そう言った。
「ありがとうございました~」
(あ~旨かった!近くに来た時はまた来よう)
五郎は暖簾をくぐり店を出ようとしたした時だった。
「あ、失礼」
「あ、いえ、こちらこそ」
ちょうど出入りのタイミングだったのだろう、ニコニコしたオジサンとぶつかり、お互い謝りながら別れる。
(にしても……さっきの人、この前もどこかで会ったきがするんだよなぁ)
「まあ、いいか」
(美味しいご飯に出会えたし、帰ってからも仕事を頑張れそうだ)
五郎は軽く背伸びをすると、そのまま駅へと歩き出した。
―一方店内―
「千葉の麦茶は旨いなぁ~……。うんうん、タレも旨いから余計に旨い!」
そういいながらニコニコとビールと焼き鳥をやっつけているオジサン。
(あの人もヤケに旨そうに食べるではないか……。いかん飲みたくなってきた!)
「すいません!皮をタレ、それとおしんことハイボール」
静の夜はまだ始まったばかりのようだ。
次回の更新は未定です。