3/26 一部変更
「とりえあえずこんばんわだぜな、霊夢」
黒系の衣服を纏い、箒を持った、THE魔法少女の出で立ちをしている霧雨 魔理沙はとても一般的な挨拶と共に現れた。
「魔・・・理沙・・・?魔理沙よね!?なんで!?」
予想だにしない人物の登場で「博麗の巫女」霊夢は驚いた。ギャグ漫画なら頭の上あたりに「!」と「?」が浮かんでいただろう。
そんな霊夢をよそに、
「お、マスターァ。なァんで宝具を止めろなんて言ったんだよォ。つか、あんときだいぶ遅かったんだが・・・」
「うるせー。私のマスパで止められたんだから良いだろお!というか、宝具イコール真名も同義なんだからマスターに確認取れってんだ」
ランサーと魔理沙が先の宝具使用についてで喧嘩を始めた。レベルとしては喧嘩ともいえないものだが。
「あー・・・えーと・・・お、お二人はどういった関係で?」
「霊夢が想像してるようなものじゃないから安心しろー。ただのマスターとサーヴァントの関係だ―っと、こんなところで立ち話もなんだから中に入ろうぜ?」
魔理沙が霊夢の屋敷に入ることを勧める。家主じゃないのに。家主じゃないのに(重要)
勧められた通りに魔理沙、霊夢、セイバー、ランサーの順で中に入る。
「さて、霊夢。お前はどこまで知ってるんだぜ?」
魔理沙が霊夢に確認をする。何を、と聞くのは野暮であろう。土地に似合わぬ装束を纏い、中世のような武器を振り回す二人の男がいるのだ。話題はもちろん『聖杯戦争』について。この場にいるのは霊夢、魔理沙、セイバーの3人である。
「どこまでって、私が『マスター』で、コイツが『サーヴァント』?で、ってくらいしか・・・」
「ハァ・・・ま、そんなことだろうと思ったぜ・・・」
ため息をつきながらも、どこからか持ってきた移動式黒板の前に立つ。
「『聖杯戦争』という名前は聞いたことあるか?」
「いや、まったく。」
「だよな。じゃ、説明するぜ。」
ポケットから取り出した黒縁メガネをかけ、伸縮式の棒を手に持ち説明を始める。
魔理沙の説明全てを書くと大変なことになるので、セリフは割愛で地の文の方で補完させていただく。
『聖杯戦争』、万物の願望器『聖杯』を巡って、『聖杯』に選ばれた7人のマスターと召喚された7騎のサーヴァントが聖杯を求め、最後の1人になるまで戦う、というのが一番最近に行われていた聖杯戦争でのルールだ。
『マスター』とは魔術師、『サーヴァント』とは英霊がなるもの。マスターに選ばれた魔術師にはその証として聖痕、『令呪』が体のどこかに刻まれる。体のどこかというのは個人差がある。サーヴァントとなる英霊は、英雄の魂。聖杯の求めに応じた英雄がサーヴァントとして召喚される。マスターの役割は聖杯によって喚ばれたサーヴァントを留めておく魔力を供給することと後方支援、サーヴァントの役割は敵となるマスターもしくはサーヴァントを殺し、敵からマスターを守ること、というのが定石である。
サーヴァントには7つの『クラス』が割り当てられる。剣の英霊『セイバー』、弓の名手『アーチャー』、槍の使い手『ランサー』、騎乗者『ライダー』、魔術師『キャスター』、暗殺者『アサシン』、狂戦士『バーサーカー』。どの英霊がどのクラスになるかは、英霊自身の素質や逸話が関係してくる。例えば、名剣を持っているのならセイバー、暗殺技能に長けるならアサシン、といった風に。
「そういえばなんだが、初めから思ってたんだがセイバー、アンタ霊体化しないのか?できないのか?」
今までの説明中、黙って座っていたセイバーに話がふられる。
サーヴァントには実体と霊体を自由に切り替えられる技能が与えられる。切り替えるメリットは魔力の消費を抑えられることだ。サーヴァントとは魔力で編まれた仮初めの肉体のため、存在しているだけで膨大な魔力を消費する。その魔力消費量を抑えるために霊体化するのだ。しかし、霊体のときは物理的な干渉はできず、霊体に攻撃する術を持ったものが相手となった場合、為す術も無く倒されてしまう。そのためサーヴァントは実態と霊体を切り替えるのである。
魔理沙の言うとおり、今のセイバーは霊体化せず実体のままでいる。先の解説の通りだと、とても効率が悪い。
「そうですね、なんと言ったらいいのでしょう・・・霊体化しようとすると、この・・・腕だけが霊体にならないのですよね・・・」
右腕を左手で指しながらいう。セイバーの右腕は篭手のようなものに覆われている。
「真名に関わることなのであまり詳しくは言えないのですが、この右腕・・・私の物じゃないのですよ。」
「どういうことなんだぜ?サーヴァントとして召喚されたのならそれも霊基の一部なんじゃないのか?」
魔理沙の疑問ももっともだ。召喚された時点でサーヴァントが持っていたものならば、生前借り物だったとしても霊格にはその人物の所有物として刻まれている。
「えっと・・・その・・・」
セイバーが言いづらそうに言葉を濁す。当たり前だ。右腕が真名に関わるものならば、それを語ることにより真名が露呈する危険がある。
真名が相手にバレることでのリスクは大きい。なぜなら、弱点がばれてしまうからである。例えをいうと、ジークフリートは背中の菩提樹の葉の痣が弱点。ならばその弱点を突く、といったように攻略法が見つかってしまう。この情報量のアドバンテージは、未来の人間に名が知れ渡る英雄ならではである。このことから、最優先で真名を隠す努力をする。宝具を使わないことも努力の一つ。宝具とは英雄の象徴。宝具名を晒すことで真名のヒントとなり、それが真名につながることもある。
「そっか。うちのランサーはヘクトールってんだ」
「!?」「!?」
霊夢とセイバーが驚きの様子を見せる。真名の重要性を説いた本人が真っ先に明かしたのだから当然だ。
「ちょ、マスターァ!?何言ってくれちゃってんのォ!?」
魔理沙が真名を明かした直後に魔理沙のサーヴァント、ヘクトールが現れた。
「別にいいだろー。霊夢は信頼できるんだし。」
「そういうのは事前に言っといてくれよォ・・・」
「宝具使うときも事前に言ってくれればいいのになあ、っと」
「グッ・・・それを言われるとォ・・・」
論戦に負けたヘクトールが渋々己について語った。
「・・・ああ、そうさ。俺ァヘクトールっつうんだ。宝具は・・・見せたから分かるよな?トロイア戦争でトロイア側の将軍を務めたヘクトールですよーだ」
賢将ヘクトール。トロイア戦争において、トロイア側最高の英雄である。圧倒的な兵差を物ともせず、あらゆる方法で籠城を続けた。敵側のとある英雄さえいなければ、戦争はトロイア側の勝利に終わっていたのではないかともいわれる。
「さて、こっちのサーヴァントの真名を明かしたんだ。そっちだって教えてくれてもいいんじゃないか?」
魔理沙が急かすようにセイバーに詰め寄る。
「えっと、マスター・・・?」
セイバーが困った顔をしながら霊夢の方へ救援を求めるが如く、顔を向ける。
「良いんじゃない?相手が教えてくれたんだから。」
霊夢はセイバーの真名を教えるように言った。2対1。逃げ道はない。
「そういうこった。大人しく吐いちまいなァ。」
ヘクトールが加わり3対1となった。完全に包囲されている。現代人なら、大人しく投降しなさい、と脳内警察からの説得が始まるところだ。
数秒の間を置き、諦めたようにセイバーが口を開く。
「・・・真名、ベディヴィエール。それが私の真名です。」
「ベディヴィエール、アンタ『円卓の騎士』サマだったのか。」
ベディヴィエール。ブリテン国を総べた偉大なる騎士王に従ったという『円卓の騎士』の一席、『隻腕のベディヴィエール』その人である。彼はあまり武勇伝は語られることは無いが、隻腕とはいえ他の騎士には劣らない実力を持ち、騎士王の最期を看取った只一人の騎士である。
「でもよォ、隻腕であるアンタがなんで両腕があるんだ?」
ヘクトールがもっともな疑問を口にした。『隻腕のベディヴィエール』の通り名の由来、ベディヴィエールは右腕がないと伝承に残されている。だが、目の前の彼には両腕がある。
「それは、この右腕が義手だからです。」
「義手?そんな繊細な動きをする義手なんて見たことないが・・・」
「それは、この義手の製作者が、かの『花の魔術師』だからです。」
「成程、魔術絡みの義手か。それなら納得だぜな」
『花の魔術師』とは、騎士王に仕えるとある魔術師の通り名である。現在の全てを見渡す千里眼を持ち、理想郷の塔に幽閉され、魔術師としても実力は頭一つ飛び抜けている。
「この義手は、なんていうんでしょう・・・正史の私では絶対に入手しうることがないもの、つまり英霊になった後で与えられたようなものなので、完全に自分の霊基の一部というわけではないのです。」
「そっか。それじゃあ仕方ない。これ以上は聞かないことにするぜ」
ベディヴィエールへの尋問が終わったところで、魔理沙が切り出した。
「さて、霊夢。冬木で行われた聖杯戦争には、あと一つルールのようなものがあったらしいな。」
「あと一つルール?なによ?」
「聖杯戦争の監督役への参加の伝えを兼ねた挨拶だぜな」
冬木の聖杯戦争では、参加者の把握のため監督官である聖堂教会からの使者に挨拶にいくのが通例だったそうだ。実際に守られていたかは不明だが。
「今から行こうぜ!教会へ!」
「はぁ!?今!?何時だと思ってるのよ!」
「時間なんか関係ねぇ!教会は待ってくれないんだぜ!」
「待つわよ!逃げないわよ!」
拒否する霊夢の手を取り、魔理沙は外へ走り出す。
目的地は教会。この幻想郷において教会は一つのみ。今から約1年前に建てられた、和の趣が並ぶ幻想郷ではかなり浮いている、郊外の教会である。そこには今回の聖杯戦争の監督官がおり、マスターの来訪を待っている。
彼女らが教会に着いたそのときから、運命の歯車は回り始める。その結末は救世か、絶望か。それこそ、神のみぞ知る、というものだろう。