「今から行こうぜ!教会へ!」
金髪の少女、霧雨魔理沙が少女巫女、博麗霊夢を連れ、外へ走って出ていく。
「おいおい、何処行くんだマスターァ!?」
「ま、待ってください、マスター!」
2人がそれぞれ使役するサーヴァントであるヘクトールとベディヴィエールが後を追いかける。ヘクトールは霊体化し、ベディヴィエールは霊体化できないのでそのまま走る。カシャカシャと鎧がうるさい。
教会。ここ、幻想郷には約1年前に郊外に教会が建った。和の趣が流れる幻想郷において、洋風の建物は大いに浮き、目立つ。
教会が建てられた理由はいうまでもない。『聖杯戦争』の監督のためである。
冬木の地で行われた聖杯戦争では、第一回では魔術師同士の只の殺し合いとなってしまった。この反省を生かし、『魔術協会』と『聖堂教会』、両者は『監督役』を設置するようになった。監督役とは聖堂教会からの出向が就く役職で、戦いによって出た被害の隠蔽、サーヴァントを失い戦意が無い魔術師の保護が主な仕事である。そしてもちろんのことだが、監督役には公平な立場が要求される。
途中から移動を徒歩に切り替えた彼女らが教会に辿りついたのはおよそ20と数分後。
「はあ、意外と豪華なものなんだな、教会って」
魔理沙が感嘆と共に率直な感想を漏らす。だが、豪華といっても日本での一般的な教会に比べればの話で、海外の、それこそ世界遺産に認定されているようなものと比べれば小さいものである。
「私、一応異宗教なんだけど・・・来て良かったの?」
「仏教と神道とキリスト教とケルト文化が入り混じった日本で言われてもなぁ」
「それもそっか・・・」
日本人の異様な宗教観念に救われながら、教会の扉を開く。
教会の中は入ってすぐに礼拝堂となっており、その中央には赤髪の青年がいた。
「珍しいな、ここに人が来るなんて。それもこんな時間に。」
「あ、えっと、私たちは・・・」
「分かってる。この『時』に来るということは、マスターなんだろ?」
青年は二人がマスターだということを見抜いたのか知っていたのか。
「ようこそ、俺の教会へ。俺の名前は『エミヤシロウ』。この教会の神父で、一応今回の聖杯戦争の監督役だ。」
青年は『エミヤシロウ』と名乗った。神父、という役職につくにしてはずいぶんと若い。しかし、服装は神父が着用することを決められているものだ。
「ほぉ、アンタが監督役か。アンタみたいな若いのが神父だなんて、教会も人手不足か?」
「いや、こんな『とこ』においそれと重要な人材を送れない、というのが本音なんだろう。なにせ、幻想郷は西暦となった現在でも、色濃く神秘が残っているからな。」
神秘。それは、魔術師が探究するものの一つでもあり、魔術師が扱うものの一つでもある。神秘には多くのものが含まれる。魔術や幻獣、根源等の一般人が伝説や空想上のものだと思っている多くのものは神秘に分類される。そして、この神秘は、西暦となり科学が進歩していくにつれて、徐々に世界から消えていった。しかし、ある特別な理由で、『幻想郷』には今でも神秘が生き続けている。
「さて、改めて確認させてくれ。君たちはサーヴァントを召喚したマスターだな?」
「た、多分・・・」「ああ。」
霊夢は多少不安げに、魔理沙は堂々と答えた。
「了解っと。にしても律儀だな。ちゃんと監督官に挨拶に来るなんて」
「それが通例じゃないのか?」
「普通、冬木の聖杯戦争ならな。だが、ここじゃ勝手が違う。まず神秘が残っていることで、教会と協会の争いでお互いに幻想郷での活動ができなかった。こっちとしちゃ『布教』だな。幻想郷には既に別の宗教もあるみたいだし。」
「それじゃあ他に来た奴らは・・・」
「ゼロだ。けど、それだと監督官としての仕事ができないからだな。協力者に、誰が、どんなサーヴァントを召喚したか、調べてもらっている。アンタらを除いて既に5人確認している」
「『協力者』、ねぇ・・・」
協力者、という言葉に引っかかることがあるのか、魔理沙は真偽を量るような口調で復唱した。
その魔理沙を横目に神父は霊夢へと向く。
「何か聞きたいことはあるか?見た感じ、迷っているみたいだけど」
「・・・あの、聖杯戦争への参加の取り消しってできるの?」
「・・・そんなことを言うやつは珍しいな。今までの聖杯戦争で、おそらくアンタで2人目だ」
この神父に隠し事はできないと悟った霊夢が迷いを打ち明けた。すると、神父は驚いた様子でその回答を告げる。
「YesかNoかで言ったらYesだ。しかし、こんな機会を捨てるのか?万能の願望器だぞ?魔術師はともかく、一般人までもが喉から手が出るほどの代物だぞ?」
「そうは言ったって、私には叶えたい願いなんて・・・無いし、そもそも異宗教の聖遺物の名を冠する物を手に入れていいものか・・・」
「そうか・・・。なら、手に入れる理由を考えよう」
「いやに親切だな?気でもあるのか?」
「いや、困っている人をほっとけないだけだ。それがマスターであろうとな」
魔理沙の言うとおり、監督官という立場にしては1人に肩入れし過ぎな気もするが、『彼』は困っている人が誰であろうと手を差し出してしまう人間なのだ。今は霊夢が「困っている人」であっただけであって、助けようとしているのは「監督官」ではなく、本来の性格からなのだ。
「そうだな・・・願いにもいろいろある。大金、名誉が欲しい。世界中の美女を抱きたい。これらはまだいいが、もしも、勝者となった奴が『悪とされる』願いを持っていたら?アンタ、正義感強いだろ。いや、強いなんてものじゃないかもしれないが」
「・・・そうね、確かに悪い奴の思い通りにさせないために聖杯を求める、というのなら都合のいい理由になるわね」
「それじゃあ、聖杯戦争に参加するのか?聖杯を求める魔術師の1人として、殺し合いに巻き込まれるのか?」
「ええ、みんなが幸せになれない願いを叶える奴が勝ち残るなら、私はそいつを倒して聖杯を手に入れるわ」
自分のためではなく、あくまでみんなのため。人々の幸福のために博麗の巫女である霊夢は戦うことを決めた。今の彼女には、これ以外に自分が『万能の願望器』を求めることを許容できる理由はないから。
「よし、これで7人だな。今夜より、聖杯戦争が正式に開始される。今後はできるだけ教会には来ないでくれ。教会に来た場合は、保護を求めたということで脱落扱いもやぶさかではないからな。用件があるなら手短にしてくれ」
「こっちだって、異宗教の祈祷場になんか来たくないわよ」
「それもそうだな。一応アンタは『巫女』だからな」
神父は笑いながら返す。年相応の青年にしてはぎこちない笑顔だったが、おそらく「苦笑い」というやつだろう。
教会を出て、来た道を戻り博麗神社に戻る途中。魔理沙は、聖杯戦争における他マスターとの協力の重要性について自論を繰り広げていた。
「というわけで、霊夢、私と同盟を組まないか?」
今までの説明を踏まえた上で同盟の話を持ちかけた。実際、過去や別世界線で行われた聖杯戦争の敗者の大部分に「他陣営との協力をせず、孤軍奮闘した者」という共通点がある。
「うん、いいんじゃない?私も魔理沙とは戦いたくないし、私は聖杯が欲しくて戦うわけじゃないし」
「決まりだな!んじゃ、定時連絡ということで毎日昼前には来るぜ!」
「連絡っていうか、それがいつもでしょう」
楽しそうに笑う魔理沙に、満更でもない霊夢。これがこの二人の在り方であり、どこにでもいる普通の少女同士の会話である。
博麗神社に着くと、「色々準備したいことがある」ということで魔理沙は帰って行った。魔理沙の姿が見えなくなったところで、霊体化できずに教会以外ではずっと後ろをついて歩いていたセイバー:ベディヴィエールが話し始めた。
「少しよろしいですか、マスター?」
「何?あ、あと反応し辛いからマスターじゃなくって霊夢って呼んで?いい?」
「わ、分かりましたマs・・・レ、レイム」
「発音に違和感を覚えるけど、まぁそれでよし。それで、話って?」
満足気にうなずいた霊夢が話をもどした。内容としては、教会で行われていた会話についての確認である。
「なるほど、そんなことが。監督官の印象は?」
「悪い人ではないけど、どこかおかしいというか、ほんとにその人なのか・・・」
「どういうことですか?」
「なんていうか、こう、嘘はついてないけど、全ては話していないというような」
「とにかく、安易に信用はできないということですね」
さんざんな評価である。しかし、「信じることは疑うことである」という言葉のとおり、初めは疑ってかかったほうがいいものである。作者はそう思っている。
「そして、本当に聖杯戦争を戦うことを決めたのですね」
「ええ、なし崩しにマスターになったとはいえ、これが私にできることなら、戦わなくちゃいけないから」
「本当に良かったのか、マスター?あのセイバーのお嬢ちゃんと手を組んで」
「ああ、良かった。霊夢なら思考パターンはだいたいは読めるし、下手に初見の奴と手を組んで後ろからバッサリなんて方が怖いしな」
霧雨魔理沙には、戦う確固たる意志を持たなかった霊夢と同盟を結ぶだけの価値があると考えた。それは友情などという生半可な理由ではない。この聖杯戦争で生き残り、自身が願いを叶えるための筋書きが彼女の脳内にあった。そのための最初の最良の一手が「博麗の霊夢との同盟」であっただけ。もしこれが「セイバーの脱落」だったならば、霧雨魔理沙という人間は躊躇いなく霊夢を殺していただろう。
「ところでアンタの聖杯への願いを聞いてなかった。なんだ?」
「なんだ、って簡単に言ってくれるねェ・・・そうさなァ、『叶わなかったトロイアの完全防衛』かな」
「どういうことだ?聖杯を使ってトロイア戦争をもう一回起こすってことか?」
「違うよォ、俺にとってのトロイアは護るべきもの全てを指す。だから、この場合のトロイアってのはアンタだよ、マスター」
英雄ヘクトール。ギリシア神話におけるトロイア戦争において、トロイア側の将軍として強固な防衛戦を繰り広げた英雄。とある韋駄天の大英雄がいなければトロイアの勝利を導けたとさえ言われる。そんな彼の望みが「完全防衛」だということに違和感を覚えることはない。しかし、生前の間接的な死因の「防衛」に拘りをみせるのは執念を超えた狂気すら感じさせる。
「トロイア、マスターの完全防衛ね。安心した。召喚した英雄がワタシにとって最良だったことにな」
「そりゃ嬉しいなァ。なら、各々の願いのために勝ち残るとしますか」
「ああ、絶対に聖杯を手に入れるぜ!ランサー!」
聖杯戦争への思いを再確認し、本当の主として、自身の剣を捧げることを再認識したセイバー。戦う決意をし、明日からの闘争に身を投じる霊夢。己の願い、果たしえなかったトロイアのために槍を振うランサー。我欲のため、人間らしく狡猾でも必ず勝ち残りたい魔理沙。この二組が行き着く運命は、「Destiny」か、「Fate」か、それを決めるのは彼女らでもなく、世界の意思、あるいは予め決められている神のシナリオである。彼女らができるのはその運命に抗うのみ。その先が絶望だとしても、戦わなければ生き残れない。
セイバー :ベディヴィエール/「博麗の巫女」霊夢
ランサー :ヘクトール/霧雨魔理沙
アーチャー :???/???
ライダー :???/???
キャスター :???/???
アサシン :???/???
バーサーカー :???/???