つぐみちside
月村邸での一件から数日が経ったが、未だみつると密かに話す機会がなかった。いやむしろ避けている傾向にある。ここ数日話しかけることも、授業が終わったらすぐに帰宅してしまう。念話で話しかけてきたら僥倖なのだが一向に飛んでこない。こちらからも何度も飛ばしてはいるが、返事もない。一体どう話したらいいんだ。
「ねえ、つぐみち君はどう? 来られる?」
「え、何が?」
「今週の連休に、なのはちゃん家のお泊り温泉旅行に一緒に行かない? ってことだよ」
「決まっているのは、あたしとすずかとみつると忍さん、ファリンさんにノエルさんで後、聞いてないのはあんたととしだけよ」
アリサが指を一本ずつ曲げながら人数の確認をした。温泉か。行きたいが、みつるとどう話をすればいいか頭でいっぱいの時に出さなくても。とアリサが述べた参加者の中にみつるがいたことを思い出し、さっそくアイディアが出た。そうだ、その旅行に行けばみつると話せる機会が必ずある。
「ああ、いいぞ。母さんにも話をつけておく」
「わりぃけど。俺は、パスするぜ」
「ええ?! どうして? 具合でも悪いの?」
全員が驚愕の表情を浮かべ、なのはちゃんが心配そうに尋ねた。長年の友人であるなのはが心配する理由は分かる。としは、こういう行事には絶対来るはずなんだが……この間のお茶会と言いどいういうことだ。もしかして、親御さんに何かあったのか?!
「そんなんじゃねぇよ。新しい友達と約束がしてな。しばらくそいつとの約束優先だから、みんなと一緒に遊べねぇんだ。用事が済んだらみんなにその子紹介するぜ」
ふ~ん、としの新しい友達か、どんな子だろう……と思いながら旅行にもっていく物の準備とみつるに何を話すか思案を始めた。
日は跨ぎ、旅行当日。行きの車はあいにくみつると別々になってしまい話ができなかった。おまけに、みつるの乗った車が先に旅館に着いて、みつるを捕まえる事が出来なかったと踏んだり蹴ったりだ。
遅れて旅館に着いたが、みつるが今どこにいるのか全く見当がつかない。ここの旅館は、温泉だけでなく裏の山林も見どころともしそっちの方にでも行ったらすれ違いとなる。
とりあえず、先に旅館内を歩き回っていると、なのは、アリサ、すずかの女子一同が風呂場の入り口前で合流した。
「みんな、みつるを見かけなかったか?」
「みつるなら、先に温泉に入っているわよ。ユーノ君と一緒に。せっかくあたしがユーノ君を綺麗にしてあげようとしたのに」
ついにみつると話ができるぞと、心の中で安堵の風が心地よく吹いた。待てよ、なのははみつると一緒にここに着いたはずだ。なのはがもう話したのじゃないのかと思い、なのはに念話で話しかける。
《なのは、みつるともう話はしたのか?》
なのはは、小さく首を横に振った。
《どうして、みつると話ができなかったんだ?》
《車の中じゃ魔法の話はできなかったし、旅館に着いたらすぐにいなくなっちゃって。おまけに念話も応じなくて》
「どうしたのなのはちゃん?」
「う、ううん。なんでもないよ。さあ、温泉に入ろう。今なら誰もいないよ」
なのはが、慌ててすずかを風呂場につながる暖簾の向こう側にまでつれていく際に、片目をウインクさせて念話が飛んできた。
《ごめんなさいつぐみち君。みつる君の事お願いね》
脱衣室は、昼間と言うこともあって誰もいなく、脱いで置いてある服も一人分しかない。もちろんその服は、子どもの服。間違いなくみつるだ。服を脱いで裸一貫にタオルを腰に巻いて、日本風旅館であることを感じさせるように全てが木目調で統一された床を歩き、木でできた浴場への出入り口に手をかける。
すると、中から二人分の声が浴場から聞こえた。一人は、先に入っているみつる、そしてもう一人の声は、ユーノだ。ということは、もう魔法について話しているのか。扉を引くとモワッと湯煙が俺の顔にかかり視界を一瞬遮る。風呂場を見渡すと、みつるとユーノが洗い場にいるのを見つけ、みつるの横に座る。
「みつる先に入っていたのか」
先に入っていたことを伝えないように言ったのは、こそこそとしているみつるを怪しまないためだ。みつる本人はと言うと、隣からチラチラとこっちを見る様子はあるのだが、一向に話すそぶりはない。だったら、こっちから言うか。
「みつる、そのこの間のことなんだが……」
「ぼ、ぼくもつぐみち君に言いたいことが」
どちらから切り出せばいいのか、言いづらくなってしまった。
「つぐみち大丈夫だよ。もう僕が大体の事をさっき話したから」
俺とみつるの間から、ユーノが文字道理割って入ってきた。
「うん。ぼ、僕も魔導師なんだ。母さんが元デバイスマイスターで、母さんの魔導を、ぼ僕が受け継いでいるの」
みつるが、手のひらに小さい魔力弾を一つ出現させた。その色は、湯煙で見間違えることがないあの紅色の魔力光だった。つまり、この間の戦闘で間一髪のところでなのはを守ったのは、みつると言うわけだ。
「そうか、少し質問してもいいか?」
「なんで念話で話しかけなかったの?」
ユーノ君が代弁した。すると、うつむいて一、二分ほど沈黙したが、口を開いた。
「ごめん。二人、ううんユーノ君達が何をしているのかわからなくて、もしかして悪いことしているんじゃないかって、怖くて話しかけられなかったんだ。ご、ごめん、やっぱり僕の方から念話に答えていれば……」
「いや、こっちも具体的に話せばよかったんだ。今まできちんと話せなくてすまなかった」
「い、いや、いいよ。そんなふうにしなくても」
俺が、イスをみつるの方に向けて頭を下げると、みつるが止めた。話が終えると俺達は、体を洗い、一緒に湯船に入った。
「そ、そういえば、つぐみち君となのはちゃんは、いつぐらいから魔導の訓練をしているの?」
「俺は、5歳のころから。なのはは、たしか……今年のいつからだったかユーノ?」
「今月の頭ごろからだよ」
そうか、まだ一ヶ月も経ってないんだよな。思い返せば、なのはが魔導師と知った時から三週間ぐらい経ったのか。思い返すと、この三週間ジュエルシード集めをして大変な目にもあって、まるで半年過ごした感じだ。……逆に考えると、それまでが何もなく過ごしてきたと考えるべきなのか。と思いふけっていると、隣でみつるが湯船の中でうずくまっていた。
「みつるどうしたんだ?」
「劣等感っていうものを感じて…………その、あのなのはちゃんの砲撃が一ヶ月もた、経たないだとわかるとね」
「だ、大丈夫だよみつる魔法にはそれぞれ個人差があるし、それにみつるもまだ若いし、魔法も成長するから」
ユーノは、温泉が入った桶の中からみつるをフォローした。その時、ユーノの「若い」という単語を聞いて頭の中にある疑問が浮かんだ。
「一つ聞いていいか。ユーノはそのフェレット姿がお前の姿なのか? そもそもユーノはいくつなんだ?」
「いや、元の姿は二人と同じ人間の姿で、年も変わらないよ。だけどこの姿の方が魔力消費を抑えられるし、大分癒えたけど怪我の治りも早いからこの姿でいるんだ」
ユーノの姿か。俺の想像力が不足しているのか、今のフェレットの姿だと人間の姿がどうも想像しにくい。気になるぞユーノの人間の姿。
「――誰か来る」
木の扉が再び開くと、脱衣所から士郎さんと恭也さんの高町家男子組ともう一人レモンイエローの髪で五才ぐらいの男の子が入ってきた。
「やあ、二人とも」
「士郎さん、恭也さん。お先に入ってます」
「あ~フェレットさんだ! 可愛い」
男の子は、俺達を見向きもせずに、一直線にユーノに抱きついた。
《みつる、つぐ。た、助けて》
「こら。いく、お風呂に入ったら先に体を洗うんだよ」
「うん。キレイキレイあらったら、フェレットさんをギュッとするからねお兄ちゃん」
男の子がユーノを離すと、洗い場の方へと濡れた床で滑らないように気をつけているのかゆっくりと大股で歩いていく。
「みつる、あの子お前の弟なのか?」
「う、うん。僕の弟の育。五才なんだけど。な、なんだかまだ幼いという感じがあってね」
なるほど、たしかに髪の色といい、動物に対しての愛着といい身体的にも性格的にも似ていると確信した。しかしながら、先ほどのみつるのユーノ救出は、その場しのぎであった。なぜなら、もう育くんが洗い場から出てきて、再びユーノに向かっているのだから。
ちょっと長湯してしまったようだ。最後にサウナに入ったせいか頭がボーっとする。今は、みつると一緒に風に当たりながら温泉で火照った体を冷ましている。すると、アリサがプンプンと怒り、すずかとなのはがそれを宥めていた。
「ア、アリサちゃん何怒っているの?」
「さっき女の人がなのはに変なこと言ってきたの。何あの人! 酔っ払ってるんじゃないの!?」
アリサが、怒りを口に出すごとに怒りのボルテージがますます上がっている。これは、厄介なことになりそうだ。そうそうに部屋に戻った方がよさそうだと思った矢先に。
「もう~この怒り卓球で思いっ切りぶつけるわ。つぐ、あんたが相手になさい」
「なんで俺が……」
「いいから来なさいよ! あんたぐらいじゃないと、まともな勝負にならないのよ」
「すずかがいるじゃないか」
「すずかだと、強すぎてすぐゲームが終わって張り合いがないのよ」
俺はゲームの難易度選択かよと思いながら、アリサは遊技場までを引っ張られて行った。それにしても、なのはにちょっかいをかけた女性か。また気になることが増えてしまった。
「――私達も卓球やろうか」
「そ、そうだねすずかちゃん」
さて、試合の結果だが、俺とアリサの腕前は互角で、一ゲームも譲れない戦いが続き。終盤に至っては、一ポイントも渡さないほどのラリーが続くほどヒートアップした。結局は、夕食が近づいてきたため五対五の引き分けで終わった。
夕食を終えた俺たちだが、アリサは先ほどの卓球の疲れがないようでご満悦のようだが、俺は、くたくたに疲れてしまってい早く寝たかった。幸いにもなのはやすずかも布団の中に入りたいという意見で就寝することになった。旅館から借りた部屋は三つで、男子グループが一つ、女子グループが二つという割り当てだ。
恭也さんと士郎さんはまだ起きていて、布団は空っぽで、俺の隣にはみつるがいる。布団の中に入って目を閉じ、眠りに入ろうとする。すると、なのはの念話からの声で目が開いてしまった。
《――ねえ、みつる君、つぐみち君起きている?》
なのはから念話がきた。まだ起きている大人のみんなに聞こえないよう念話で返事する。
《うん……ねえ僕の念話聞こえ難くない?》
《ううん。大丈夫だよ。みつる君も魔導師なんだね。ユーノ君から聞いたよ》
《うん。なのはちゃん達ほど強くないけど》
最初になのはが話しかけたのは、みつるだった。夕食の時には、なのはとみつるは話し合うことはできたが、みんながいる前だったので魔法の話まではできなかった。だから、その話をいまここでしようと言うことなのか。だとしたら、なぜみつると二人で話し合いをしない。俺は眠たいんだ。
《そんなことないよ。この間わたしを守ってくれたのみつる君なんだよね。助けてくれて、ありがとう。わたし、まだ魔法を知って一ヶ月も経ってないからまだ上手く魔法を扱えてなくて……ユーノ君とつぐみち君に鍛えてもらっているんだ、よかったらみつる君からも魔法を教わっても良いかな?》
《あ、あのときは必至だったからうまく行ったんだ。けど、こんな僕でよければいつでも》
……どうも、話の本筋が見えてこない。この会話に俺の必要性が見えてこない。しかし、次のなのはの念話で、ようやく俺が呼ばれた訳に気付いた。
《あのね、そのジュエルシード集めなんだけど……》
《だめだ!》
なのはが二の句を継ぐ前に、俺が遮る。分かった。なのははみつるにジュエルシード集めを手伝うか話し合うために念話を飛ばしたんだ。もちろん二人だけで決めてはバツが悪い。だから、俺も呼んだんだ。だけど、三週間という短い経験であるがジュエルシードが危険なモノであるというのがもう身に染みている。もし、何らかのミスで命を落とす可能性もある。
《この間の魔法は、本当にたまたまうまく発動できたかもしれない。だけど、みつるの実力が全く知らない。なのに、危険なジュエルシードの封印を手伝うなんて無謀じゃないか》
《で、でも人数が多い方が、町の人に危害を与えることが少なくなると》
《割り込んできてごめんだけど、僕もつぐの意見に賛成する。僕としてもこれ以上一般人にジュエルシード集めに協力させるのは危険だ。人数が増えたら、それだけ危険が増す。そう言いたいんだろう》
《ああ、そうだ。みつるは、自分ではどう思うんだ》
《う、うん。そうだね。僕、ほんと強い魔法なんてできないから足手まといになると思う。だから、その、ぼく、手伝えない》
みつるからの反応を聞くとなのはからの返信が途絶えた。そしてすぐになのはから再び念話が届いた。
《うん。わかった。ごめんね二人とも寝るところ起こしちゃって》
《おやすみなのはちゃん》
なのはからの念話が切れると、再び目を閉じた。
第十話「温泉会談」 完