ある男女の学生が喧嘩していた。それだけなら、傍から見れば学生らしい青春の一コマであった。だが、女学生が脇目を振らず横断歩道を渡ろうとした時、ほほえましき赤の背景が、血の赤で染まろうとはだれも思いもしなかった。
横断歩道に、ホウタ・バイエーズという世界が誇る自動車工場が生み出した大型のバンが侵入した。女学生は、信号が赤とも、バンが侵入してきたことも知らず横断歩道に入ってしまったのだ。バイエーズは法定速度から急ブレーキをかけたが、停止距離が足りないことは明らかだった。
なすすべもなく、車は人をひいてしまった。その様子を見ていた人々の様子は三者三様であった。すぐに電話で救急車を呼ぶ人、その目で見た事故を近所の人に話す人。そして被害者になりかけた女学生は、現場の様子を理解できないまま膝を折りながら思考を停止していた。
彼女は、多少の擦り傷があるものの生きていた。彼女は、助けられたのだ。先ほど喧嘩していた男子生徒に。だが、その男子生徒は彼女が呼びかけても返事は来ない。なぜなら、男子生徒が代わりに轢かれたのだから。
「あー、くそーわけわかんねぇ」
海辺に隣接する海鳴公園で、悪態をつく俺。そんな俺は、5才児の転生者のようだ。
なぜようだなのか、俺は、前世の記憶がほとんどない。気づいたら古風な家具一色に囲まれた居間で寝ていた。
あまりにも状況が飲み込めず、この世界での母ちゃんと思う人に公園の場所を教えてもらい此処に来た。別に用事なんてなかった。そもそも、転生ってことは、死んだことを意味済んだろ。頭で転生したんだて分かっても、受け入れられねぇ。頭がパニックの状態だった。
そうだ、自分の顔を見てみよう 俺がいる場所は、丁度公園が海に面して柵が設けてある場所だった。
柵から身を乗り出し、自分の顔を見てみる。犬歯の一部が目立つが八重歯ってやつか、後は髪が少し後ろの方になであがって、髪が立っているような形になっている。こうして見ると我ながらイケメンの部類に入るんじゃねぇの? 将来が楽しみだぜ……なんてな。
これから生きていく自分の顔に気晴らしに自画自賛したが、逆に虚しくなった。ふと、髪の色がなんか黒っぽくない事に気づく。一本抜いてみると、赤色だった。
…………もういいか。柵から飛び降り、公園の方に戻りゆっくりと歩き出す。腹もすいてないし、明日からどうすれば良いかなんて考える頭もない。目標がねぇ状態だ。転生する前の俺は、こんな時、どうしたんだろうなぁ。記憶がありゃぁ対処できたんだがなぁ。
そんなことを考えながらふらふらと公園内の舗装された歩道を歩いていると、ベンチに一人の女の子がいた。見た感じは、同い年ぐらいで髪は栗色で白のリボンで髪をツインテールにしている。しかし、うつむいていてよく顔が見えない。何かあったのだろうか。
……声かけてみようかな。でももし深刻な悩みじゃなかったら、つかそもそも悩んでなかったらどうすんだ? でも放って置けないよなあ。まあ声を掛けてみるかどうせやることもねぇし、それであの子の悩みが解決できるのなら御の字だし。俺は、その子に近づき、声をかける。
「ねえ、なに悩んでいるの」
「え?」
顔を挙げたその子は、クリっとした大きな目に釣り合うほどの可愛らしい顔をし、その頬が血色の好さを表し、より一層幼子としての良さを引き出せた。だが、今の女の子は、それを打ち消してしまうほど暗い表情と弱々しさを醸し出していた。
「何か悩んでいるのかなぁと思ってさ。君さえ良ければ悩み聞いてあげるよ。言いたいことは声に出したらすっきりするしさ」
女の子は、少し間を置いて口を開いた。
「お父さんが事故で入院して、お母さんとお兄ちゃんたちお店が忙しくて。一人ぼっちで寂しいけど迷惑を掛けないように……いい子にしないと。グスッいけないの……」
おおぃ、泣き出しちゃったよ。なんだよやべぇほど深い悩みじゃねぇかよぉ。この子、結構しっかりしているなあ。同い年とはおもえねぇぜ。ええぃ、乗りかかるなんとかだ。フォローだ、フォロー!
「君すごいね。俺も親が忙しいのに迷惑掛けていてさ、君を見習いたいほどだよ」
まあ、気がついたの今さっきだけど。え~と俺の家なんか八百屋みたいだったから、それとなく言っておこう。
「ほら、涙を拭いて、泣いてたら君の両親が悲しくなるだろ」
俺の履いている短パンのポケットを探ってみたが、ハンカチがないことが分かると、代わりに自分の袖を使い女の子の涙を拭いた。
「寂しいんなら俺が友達になってやるよ。うちに遊びに来ていいしさ。なんなら、君んちにたくさん果物プレゼントしてやんよ。俺んち屋親だから売るほどあるからよ」
「ふふっ、そんなことしたら怒られちゃうよ。ありがとうなの。私、高町なのは」
そういえば自己紹介してなかったな、俺の名前は確かハンガーに掛けてあった幼稚園児服の名札に書いてあったな。えっとたしか……
「俺は、樋口敏光だ。なあ高町さん、よかったら一緒に遊ばない? 」
「うん。あっ、私たちもう友達だから苗字じゃなくて名前で呼ぼう」
「友達? 」
「うん。だってとしみつ君、友達になってやるってさっき」
そういえば言ってたな俺。…しかし、名前で呼び合うのか、恥ずかしいけど俺も名前で言うか。
「うん。じゃあ遊ぼうなのはちゃん」
「うん」
こうして、俺は女の子――高町なのはちゃんと遊んだ。ここの海鳴公園は、児童施設が少なかったがそれでも鬼ごっこやだるまさんが転んだなど、遊具を使わない遊びであっという間に夕暮れになってしまった。
「そろそろ暗くなるし帰ろうっか」「うん。今日は、ありがとうとしみつ君」
「そういえばなのはちゃんのお店って何屋さん? 」
「翠屋ていう喫茶店だよ」
「喫茶店か、もしかしてケーキとか売っている? 」
「うん。お母さんが自分でケーキを作っているの」
「そうか、俺んちで果物を届けたりするかもしれないから、なのはちゃんとちょくちょく会えるかも」
「ほんと! じゃあまた明日会おうね」
なのはちゃんは、笑顔で俺にさよならを言って手を振り公園を後にしていった。その笑顔は、先ほどの
「ああ、また明日な。」
俺も大きく手を振ってさよならを返した。
俺は、しばらく夕暮れ時の空をボーと見つめ、空に浮かんださっきの笑顔を思い出していた。……いい笑顔だったな。さっきまでの暗さが、たった数時間遊んだだけでウソみたいに光を取り戻した。
……転生してどう生きていけばいいのかわからなかったが、目標が見えてきた。ギュッと足に力を込め、跳んで行くように公園から飛び出していった。
俺は、なのはちゃんが見せた様な笑顔が見たい、女の子が悲しい思いをすることはいやだ。俺は女の子をみんな笑顔にするんだ。そのためには、そのためには!
駆け足で走って数分が経った頃だろうか、木造の屋根瓦の家が見えてきた。あれが、俺の家だ。そこに、頭に鉢巻きを巻き一本の口ひげを生やした男性――俺の父ちゃんだ。
「ふ~い、今日も繁盛したなあ。お、とし今帰ってきたのか」
「父ちゃん! 」
「ん、なんだとし。父ちゃんに相談か? 」
そう、女の子を幸せにするために。
「ハーレムの作り方教えてくれ!! 」
「い!?とし何を言って」
「父ちゃん」
あれ? 母ちゃんなんか眼が獣を捕える眼をしているんだが。
「いったいあの子に何を言ったんだい」
「し、知らねぇよ母ちゃん。イデデデデ」
「じゃあ、なんであの子がハーレムなんて言い出したんのよ」
「ああ、母ちゃんギブ、ギブ……うっ」
父ちゃんが技を掛けられダウンした。
とにかく母ちゃんに訳を話したら女の子を幸せにするならハーレムじゃなくて、分け隔てなくやさしくすることだと言われた。しかし、父ちゃんが理不尽だなと、言わなければこんなことにならなかった張本人が言うのはなんだが。
第二話 「転生と決意その二」 完