ゼロから始まる転生者達   作:wisterina

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無印編
第五話「新学期と少女」


みつるside

 校門を抜け、昨日降った雨で早々に散った桜の花びらを踏みながら、校舎へ向かう。

 今日から僕は小学三年生である。けど、それは、年を一つ取っただけで去年と変わらないだろう。僕は、あまり話をしないタイプで、友達の輪に加わらなかった。友達をつくることが煩わしいということはなかった。

 聖祥小学校は、三年生と四年生は二階の教室となる。この階段を毎日上るのは苦痛だな。二階の僕が入る教室の前に席順表に座席表が掲示されていた。僕は黒板の方から見て前から二番目の方であった。先生から最も見えやすい席だけど、僕は授業中は静かに受けているため、先生から注意を受けないのであまり気にしない。

「わたし達また同じクラスだね」

「今年もよろしくたのむわ」

「よろしくね」

 教室に入るときに、とある女子グループの声が聞こえた。あの三人仲が良さそうだなでも、僕のような人があの中に入れそうにないな。先生が来るまで、席に座って本でも読むかな。

座席表に指定された通りに席に座り、カバンから昨日読みかけていた本を探した。目的の本は登校中にカバンの底の方に移動してしまい取り出しにくかった。やっと本を取り出すと、「おはよう」と挨拶が左隣りの席から聞こえ振りむくと、さっきの女子グループの一人であった栗色の髪とツインテールの女の子が隣の席にいた。

「おはよう。わたし高町なのは。よろしくね」

「よ、よろしく」

 話しかけられた。ど、どうしよう、どうやって話をつなげればいいんだ? その後先生が入ってきて、お喋りの機会が強制的に終わり、心の中でホッとしながら、本をしまった。

「みなさん、おはようございます。今日から三年生ですね。まずは自己紹介からはじめましょう」

 この時、僕の心臓がドクンと大きな音を出した。自己紹介……落ち着くんだ。慎重に、冷静に、名前とよろしくお願いしますとだけ言えばいいんだ。

 先生が、クラスメイトをあいうえお順に指名して、指名された生徒が席を立って、短く自己紹介を始めた。僕は、呼ばれるまで深呼吸をしながらイメージトレーニングをし続けた。

「次、冨士ヶ崎君」

 ついに来た。ゆっくりと席を立ち、両手をまっすぐにして太ももにつけて、口を開く。

「ふ、冨士ぎゃさき満です。よ、よ、よろしくで、です」

 自己紹介が終わった後、教室は一瞬静寂に包まれ、先生はハッと次の生徒の名前を呼んだ。

 僕は、着席した後、目の前が真っ青になり、何とも言いようのない脱力感に襲われた。ああ、またどもってしまった。なんでどもってしまうんだろう。これだ、いつもはっきりと喋れない。これのせいで、何を言いたいか他の子に分からず。僕自身喋ることを忌諱してきたんだ。

 

 最初のホームルームも過ぎ、3時間目の休み時間の時、僕は10分と言う短い休み時間の合間に読書していた。昼休みと朝の時にしか本は読まないのだけど、読み続けていた本が佳境に入っていたからこの時間にも読んでいた。

 佳境の頁も半分という所で突然、複数の物が床にたたき落とされる音が聞こえ、床を見てみると筆箱が落ち、中にあった筆記用具が無惨にも散乱していた。

 机の位置が動いていたのでおそらく誰かが隣の子。確か高町さんだっけ、その子の席にぶつかり、高町さんの筆箱が落ちたのだろう。

「じゃあ、昼休みにね」

「じゃあね、アリサちゃん、すずかちゃん。ああっ! わたしの筆箱が!?」

 高町さんが席に戻ってきて自分の筆記用具が教室の上で凄惨な状況になっている事に驚いていた。後、数分としかない休み時間の中で、高町さんは、筆記用具を急いで筆箱の中にしまい込む。

ふと、自分の足元を見てみると何本か鉛筆が転がっている。おそらく彼女のものだろうと思いその鉛筆を拾い上げ「お、落ちていたよ」「ありがとうなの」

 だが、その懸命さもむなしく、無情にも次の授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。

「あっ、授業が始まっちゃう」

「ぼ、僕も手伝うよ」

 余りにも理不尽な状況で、高町さんが先生に叱られるのが忍びなく、僕も高町さんの物を拾うのを手伝った。

「う、うん」

 二人で片付けたおかげで先生が来る前までには間に合った。

 

 授業中というのは、静かなもので、さっきまでの喧騒が虚像のように感じる。この学校の教育レベルは高くて難しいほうであると評判だ。ただ、その中でも僕の得意教科が、国語・社会と理科だ。特に、社会は常に学年トップクラスとこれだけは自身がある科目だ。

 ふと、隣の席の高町さんを見てみると、さっき元に戻してしていた筆箱の中をあさり困った顔をしている。机の上を見てみると、教科書・ノート・筆箱・鉛筆と必要なモノがそろって。あれ? 消しゴムがない。そういえば、僕がさっき拾った中に消しゴムが見あたらなかったっけ。高町さんがすでに入れたのかと思ったけど。

 高町さんの顔を見てみると、ため息一つついていた。どうやら無くなってしまったようだ。

「高町さん、僕の消しゴムあげるよ」

 小さな声で、高町さんに呼びかけ、僕が持っていた青いケースがかぶされた消しゴムを、こっそりと見せた。

「本当! ありがとう」

 僕は、先生に見つからないように、先生が後ろを向いて板書している隙をつき、通路一つまたいで消しゴムを渡した。高町さんは、同じく小さな声でお礼を言った。 

 

 午前最後の授業を告げるチャイムが鳴ると、高町さんが僕の方を向き、僕が貸してあげた消しゴムを差し出した。

「さっきは、ありがとうなの。あのこれ」

「いいよ。高町さんにあ、あげるよ」

「えっ、でも」

「も、もう一個あるし、午後からの授業にも、必要でしょ」

 消しゴムが往復しているやり取りを、先生に見られたら怒られるし。こうした方が得策だと思う。

「うん!大切に使うの。あのねえっと」

「ふ、冨士ヶ崎満だよ」

「冨士ヶ崎くん一緒にお昼ご飯食べない? わたしの友達と一緒に」

 えっ!? ど、どうしよう嬉しいけど迷惑にならないかな、僕なんかが入ってしらけしまったら悪いし、でも高町さんの厚意を反故するわけにも

「? どうしたの」

「え、あ、そ、その」

 やっぱり高町さんには悪いけどここは。

 すると突然、教室の隅々まで届くような大音声を発声しながら、赤髪の男の子が僕の席の方へと近づいてきた。

「なのはー! 一緒に昼ごはん食べようぜ……ン?どうしたんだ」

「あ、としみつくん。あのね授業中に消しゴムを貸してもらった御礼にお昼ごはん一緒にどうかなって」

 高町さんと一緒に話している赤髪の男の子――としみつくんっていったっけ。友達なのかな。

「なるほど決めかねているのか。よしっなのは俺に任せておけ、決断できる魔法の呪文があるんだ」

 としみつくんは、僕と目と鼻の先まで接近し、口を開いた。

「お前!」

「はいっ!」

「なのはと一緒に昼ごはんを食べに行くか行かないのか、はいかYesかで答えろ!」

 え、え~とはいかYesかの二者択一で答えるならまだ気が楽…じゃない! どっちも同じ答えじゃないか!?

「あの~としみつくんそれまったく選択になってないけど」

「残り10秒!」

 なんと、制限時間付き!? もはや強制イベントじゃないか!?

「ちょ、ちょっとまって」

「10、9,8、7、6、5」

 あーもう時間がー

「4、3、2、い、ってー!」

 としみつくんが1と言う前に、としみつくんの背後にいる白髪の男の子に頭を殴られ、悶絶している。

「なに、アホなことをやっているんだバカとし!」

「つぅ~、なんだよつぐ。俺は、昔の大戦で山下奉文将軍がシンガポールでやったことを真似したんだよ。これは、機械的且つ答えやすい選択で」

「機械的じゃなくて画期的だろ。というか、その二択がどっちも同じ答えだろうが!」

 ああ、あれシンガポール攻略後の問答の再現だったのか。まてよ、あのシーンはたしか。

「としみつくん。その、山下将軍がイエスノーと降伏を迫ったのは、脚色で。実際はそんな事はなかったはずだよ。映像も部屋自体が暗くて早回しになっているからそう見えているだけで」

「なに? そうなのか。お前博識だな」

「お前は、少し常識がない。お前がいたらややこしくなる。今日は俺と一緒に食うぞ」

 白髪の男の子が、としみつくんの襟元を引っ張って教室から引きずって出て行く。

「えー、新学期になってからまだなのはと一緒にお昼食べてないのに」

「そうか安心しろ俺もまだなのは達と一緒に食べていない」

「お前とは昨日一緒に食ったばっかだろうが」

 突然起きた突風が過ぎ去ったかのように、教室が静まり返った。高町さんは少し苦笑いをして僕の方を向いた。

「ええっと、どうしようか」

「う、う~んその、一緒に食べるよ」

 この雰囲気で、いいえとは答えにくかった。あの騒々しい風が僕の心の矢印の方向を変えてしまったかのように。 

 

 屋上は、他の生徒が既にお昼を食べていた。屋上は、無機質なコンクリート床とベンチがあり、その周囲をフェンスで囲われていると殺風景な様子だ。しかし、外から見える街と海の景色と校庭から聞こえる歓喜の声が屋上の雰囲気を相殺する。

 さて、高町さん誘われ、ついに屋上でお昼を食べることになった。僕と高町さんは既にお弁当を広げ高町さんの友達を待つだけであるが、はたして僕はチキンと喋れるだろうか。不安が頭の上を過った時、屋上の扉が開くと青色の髪の女の子とオレンジ色の髪の女の子が現れた。

「アリサちゃん、すずかちゃんこっちこっち」

 どうやら、あの二人がなのはちゃんの友達のようだ。

「なのはその子は?」

「冨士ヶ崎くん。わたしが一緒にお昼ご飯を食べようって誘ったの」

「よ、よろ、しくです」

 だめだ。どもってしまう。どうすればいいんだ。

「こんにちは、私は月村すずかです」

 青色の髪の女の子―月村さんがゆっくりとお辞儀をした。その仕草は、どこか気品があり雰囲気も相まって良家のお嬢様という感じだった。その後、オレンジの髪の女の子が僕の顔を見るなり、顎に手を添えた。

「冨士ヶ崎……ああ。社会であたしと何度も学年一位を競っていた」

 学年一位を競っていた? もしかして、この子がアリス・バニングスさん? いつも学年上位、いや一位を獲っている女の子は。バニングスさんとは、今まで別クラスで名前しか知らなかったけど、まさか社会の成績の事でつかかってくるんじゃ。

「えっ、なのはちゃん消しゴム失くしたの」

「うん。でも冨士ヶ崎が消しゴムをわたしにくれたから」

「あんた、貸したじゃなくてあげたの?」

「う、うん。けっ、けっ、消しゴムも、もう一個あ、あるか、から」

「? さっきからどうしたの冨士ヶ崎くん」

 月村さんが首をかしげて尋ねてきた。

「ぼ、僕ずっと、と、友達とかい、いなくてこうやっては、話をす、するのは、慣れてなくて」

 ああっ、どうしよう。うっかり友達がいないことを喋っちゃた。

「じゃあ、わたし達と友達になろうよ!」

 えっ!? 友達に。

「で、でもぼ、僕う、うまくはっ、話しぇないし」

「そんなの関係ないわよ」

「そうだよ。私達と一緒にそれを治していけばいいんだから」

「ぼっ、僕、僕ぐすっ。ぐすっ」

 涙が出てきた。嬉しい。話が普通にできない僕に、友達になろうだなんて、嬉しい。

「ちょ、ちょっとこんなことで泣かないの」

「はい、ハンカチ」

「あ、ありが、とう。ぐすっ高町、しゃん」

「もう友達なんだから名前で呼ぼうよ、ね。みつるくん」

「う、うん。あ、ありがとう。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん」

 初めての友達ができたその日の空を仰ぎ見ると、雲ひとつない快晴であったことに気づいた。まるで僕の今後を現すようだった。今年は、とてもいい新学期になりそうだ。

 

第五話「新学期と少女」 完

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