としみつside
天候は雲一つない快晴、芝生良し、風は穏やか、絶好のサッカー日和だ。
今日は、士郎さん率いるサッカーチームの試合を見に来た。俺を含めていつものメンバーで応援に来るはずだったんだが、つぐの野郎は、「俺はパスする」なんて来ていない。サッカー嫌いなのかよ。インドア派なみつるは、来んのによ。
「全員集合!」
士郎さんが、集合を呼びかけると士郎さん率いるサッカーチームのメンバーが一列に並んで集まっていた。その中に俺も加わっていた。
見ているだけというのは我慢できず、士郎さんに無理を言って入れさせてくださいって頼んだら、前半だけという条件で俺も加わることになった。士郎さん曰く、みんな遊び感覚で集まった草サッカーチーム同士だから飛び入り大歓迎だそうだ。
「整列!スタメン発表の前に今日試合に出たがっている子がいるんだが前半だけでも入れてもいいかな?」
「「はい!だいじょうぶです!」」
「うん。じゃあ樋口君あいさつをして」
列から前に出て振りかえり、チームメンバーにあいさつする。
「樋口敏光です。試合なのに無理をしていれてもらってすみません。足を引っ張らないようにしますんで、よろしくお願いします」
チームから拍手が送られ、その歓迎の中へ俺は戻って行った。
「じゃあアップ始め!」
みんなが、準備運動を始める前に、俺は一旦ベンチに戻って在るものを取りに戻った。五才の時にかあちゃんがくれたお守り。いつも離身離さず持ち歩くように言われているから、普段はバッグのチャックの穴に結び付けている。試合中は持っていけないからパンツのポケットの中に入れておく。お守りがポケットの中にあることを確認して、チームのみんなと準備運動を開始した。
試合前のアップと、相手さん方との挨拶が終えると試合開始を告げる甲高い音の笛が鳴った。
「みんなガンバレー」
「としみつ君がんばってー」
「とし、外すんじゃないわよ」
「が、が、がんばれ~」
3人の熱い声援と恥ずかしながら声を出しているみつるの声援をBGMにして試合が始まった。俺のポジションは、味方ゴールのすぐ近く、DFだ。FWはうちの選手を出したいからという理由でDFなった。まあ、どんなポジションでも、俺は体を動かせばいいし、ちゃんとDFとしての仕事をこなさなきゃな。
「ボール行ったぞー!」
試合開始から15分、敵のFWがボールを前へ前へとドリブルして味方陣地へ進軍する。味方は誰も相手の動きに追いつけず妨害できなかった。ついに相手は俺の目の前までやってきた。このままじゃシュート圏内に入っちまう。こうなったら一か八かスライディングを決めてやる。俺は芝生を蹴って走り、勢いを殺さず体重を地面の方向に落として右足を出した。
「デアァァァ!!」
しかし相手は、直前にボールをパスし、スライディングをかわした。蹴られたボールはスタンバイしていたもう一人の敵側のFWが受け取り、そのままシュートを放った。ボールは、勢いよくゴールネットへ向かった。
「くそっ」と悪態をついた。このままじゃ、一点取られちまう。しかし相手が蹴ったボールは、右に大きく跳躍したキーパーの手の中に収まり、相手のゴールとは成らなかった。
「ナイス! キーパー」
俺は、足に付いた泥を払うと、親指を立ててグッジョブサインを出した。
「ああ。樋口君お願い」
プレイ再開の笛が鳴ると、キーパーがスローイングで俺にボールを渡した。ボールを胸で受け取ると、それを脚に持っていき「おっしゃあ! ロングパスだー!」と少しでも前線へとボールを飛ばすように強めに蹴った。その時、ポケットが少し熱く感じた瞬間、重くて硬いボールの感覚がまるで赤ん坊が遊びに使うゴムボールのように軽くなり、ボールが破裂するかもしれないほどに半分にまで抉れ、真っ直ぐ相手の陣地へ勢いよく飛んで行った。
ボールは、勢いが落ちることもなく真っ直ぐ相手ゴールネットへ向かう。ネットの前には、キーパーが待機していて、そのままならボールをキャッチできる位置にいたが、ボールのあまりにも速いスピードに身動きが取れず、ボールはネットの中にへと飛び込んで行った。
「ゴール!」
なんと、俺の蹴ったボールはゴールポストに入ってしまった。俺を含め、敵味方両方とも茫然とした表情をしていた。
「樋口君ナイスロングシュート!」
俺にボールを渡したキーパーだけが、拍手を送った。
「お、おう。ありがとな」
俺は、キーパーに向かって手を振った。でもなんだったんだ。あの感覚…………
試合は三対〇で勝利した。〇に抑えてくれたのは、あのキーパーのおかげが大きいけどな。しかし、あの後もボールを蹴る機会はあったが、結局あの感覚はもう一度も来なかった。
「としみつ君お疲れさま」
「あのロングシュート凄かったよ」
「か、かっこよかったよ」
俺達は今、翠屋の前でお菓子とお茶を頂いている。お店の中は、士郎さんとこのサッカーチームの選手達でいっぱいだから外で食べるように桃子さんに勧められて屋外で食べることになった。話題はさっきのサッカーで持ちきりだ。
「四人とも応援ありがとうな。まあ、ピンチと女の子の声援がありゃあんなのだせらぁ」
「とし、あのシュートをわたし達とサッカーをやる時に出さないでよね。」
「出さねえよ。いくらなんでも女の子相手にだしゃしねぇよ」
アリサはそういうが、あんなボール俺自身どうやって出したかわからねぇし、もう二度と出せねぇんじゃねぇかな。
「それじゃあ、お男の子全員には出すってことだよね。ぼ、僕も含めて」
クッキーを一つ口に放り込んだ時に、みつるに指摘され、クッキーが喉に詰まった。すずかがあわてて、ミルクが入っているマグカップを俺に渡し、それを貰ってグイッと流し込んだ。
「ぷはっ、みつるにもしねぇよ。いや、訂正弱い奴と女の子にはしないと宣伝しよう」
「それをいうなら、宣言だよとしみつくん。そういえば、なのはちゃんユーノ君どう? 元気?」
ユーノ君? ああ、前に話していたイタチか。
「うん元気だよ」
「ね、ねえなのはちゃん。そ、そのユーノ君をさ、触ってもらってもいいかな?」
「うん。いいよ」
なのはが、自分のカバンの中に入っていたユーノ君をみつるに渡した。
「うわ~、もふもふだ~」
イタチに触れ始めた途端、みつるの目がトロンとした。まるで風呂に入ったかのように極楽の状態だ。みつるがこんな幸せそうな顔を見るのは初めてだな。
「にしてもこの子フェレットとは少し違わない?」
「そういえばそうだね。」
「そうか?俺はただのイタチにしか見えないんだが……」
「もう、としみつ君ったら。ユーノ君のことお父さんと同じこと言ってる」
「ユーノ君お手」
みつるが、イタチにお手をさせた。すると間髪いれずにイタチは、お手をしたこのイタチ結構賢いなと感心してしまった。俺も飼ってみようかな。
「かしこい、かしこい」
「わぁ~」
アリサとすずかもユーノ君をもふもふする仲間に入ってきた。
カランカランと翠屋の入口が開く音がすると、中からぞろぞろと士郎さんとチームのみんなが出てきた。
すると、なのはが「あっ!」と突然何かに驚いたような声を出した。
「ん?どうしたなのは」
「う、ううんなんでもないよ」
まるで、何事もなかったかのように手を振って誤魔化した。なんでぃ、気になったことがあんなら言えばいいじゃねぇかよ。
「はい、なのはちゃん返すよ」
俺が不貞腐れると、みつるからユーノ君が帰ってきたようだ。
「よし、じゃあこれから」
「じゃあ、あたし達も解散ね。さっきの試合中にも言ったけど、あたしはパパとお買い物」
と俺が、この後の遊びを提案しようとした矢先、アリサが解散の宣言をした。おいおい、俺がサッカーしている最中にそんな事話していたのかよ。
「そうだね。私はこの後お姉ちゃんとお出かけするから」
「ぼ、僕はお母さん達とデパートへ」
みんな午後から家族と出かけるんだな。うちは八百屋だから、みんなが自由な時間を取っている時が稼ぎ時だからそんな暇ねぇからな。俺も手伝わなちゃなんねえし。
「みんなも解散か?」お、士郎さんだ。
「今日はお誘いいただいてありがとうございました」「試合かっこよかったです」
「すずかちゃんもアリサちゃんも応援ありがとな」
「俺も無茶言って試合に入れてもらって。」
「いやいや、試合に勝てたのも、としみつ君がいたおかげだよ。あのロングシュート凄かったよ」
「へへ、どうもです」
「じゃ、じゃあみんな。ま、また月曜日にね。」
午後からはもう用事もなく、店も夕方までは暇だから散歩していた犬とにらめっこしたり、コンビニの前にあるカチャポンの景品を眺めたりと帰路をブラブラしていた。街の様子は相変わらずで、俺の心の中でなんかでかい事起きねぇかなあと思ってしまった。
思えば小学校に上がってからこういうことを何度も考えるようになってきた。士郎さんが退院し、なのはの家族がなのはをかまうようになり、なのは自身俺以外の友達と遊ぶようになった。その一方で、俺は店の手伝いをするようになり、なのはと遊ぶ機会が減った。
いや、俺自身も変わってしまったのかもしれねぇ。なのはとばっかり遊ぶのは周りから変だと、自分の心の中で少し気にするようになり、クラスの男子女子関係なく遊び相手や友達を増やそうとふざけたり、クラスのノリに乗じたりしている。しかし、なんだか上っ面だけの付き合いだけで心の底からの友達と遊ぶって感じがしない。あの時、恭也さんと約束した日の後がなのはと本当に一緒に遊べる友達って感じたんだけどな。そのなのはとはもう疎開感というのか、いや疎外感か?
なのはだけじゃない、五人ともっと深くわかり合えるような関係に持っていきたいのによ。つぐも、最初にあった時はいけすかない奴と思っていたんだけどよ、一人だけパスなんて、……淋しい。なんかきっかけねぇかな。そんなことを思っていた瞬間。
《―――》
何か、目に見えない衝撃のようなものを何かに触れてもいないはずなのに、まるで肌で感じ取ったかのように体がぶるっと震えた。その元凶を探すため歩いてきた道の前後を見渡したが、何も見つからなかった。
その直後だった。今度は、間違いなく体で感じるほどの地震と思うほどの揺れを感じ取り、倒れないようにバランスを取りながら揺れが収まるのを待った。揺れが収まり、再び周りを見たその時だった。俺が歩いてきた道をふさぐほどの巨大な木の根っこが俺の方にへと迫ってきた。
「な、なんじゃこりゃー!」
俺は、全速力で逃げた。幸い、木の根っこは、自転車ほどの速度で迫ってきているのと、気付いたのが早く距離が離れていたのでなんとか逃げ切れそうだった。次の十字路を曲がろうとしたその時だった。パンツのポケットから何かすっと落ちていく感覚があった。ポケットに手を突っ込むと何もなかったが、その時あの感覚は、試合前に入れておいたお守りだと言うことを思い出した。振りかえると、それはまだ根っこに呑み込まれてなく道に落ちていた。手を伸ばしてお守りを拾うと、もう根っこがお守りを落とした道を呑み込んだ。
俺はまた走ったが、さっきとは違い、距離の優勢がさっきのお守りを取に戻ったせいで縮まり、体もへばっていた。このままじゃ走っても追いつかれる。マジで誰か助けてくれと思い、ギュッとお守りを握り締めた。
すると、お守りが光を放ち、目を丸くした。
〈Guten tag.Wie heißen sie?〉
耳慣れない言葉が聞こえた。そして、それはお守りが放った言葉だと認識した。えっとハ、ハイセン?
「に、日本語で……」
〈……あなたの名前は?〉
名前? ええいもやしにすがる気持ちだ!
「樋口敏光だ!」
〈Ja.Ich erkenne Meister.Ich fange es an《了解。マスターを認証しました。セットアップ》〉
一瞬、光が辺りを包み込んだと思ったら、お守りが破れ、その中から光の屈折で刃が銀色に輝き、柄の部分は金色で鍔に丸い宝石がはめ込まれたまるでゲームに出てきそうなロングソードが現れた。大きさは俺の身長ほどあった。それを手に取ると、鉄の塊を持ったようなに重く、剣ごと体を持って行かれそうになったが、すぐに片手で持てるほど軽くなりそれと同時に剣の大きさも少し縮んだ。
これで切れってのか? 振り返り、目の前にへ迫って来る木の根に向かって、剣を振り下ろす。その時俺は、しまったと思った。つい恭也さんとの剣術の癖で、剣を縦に振ってしまった。腕は、止まることなく振り降ろされる。こんな巨大な剣を縦にバッサリと切れるはずがないと諦め目をつむった。
俺は、目を見開いた。なんと、木の根は縦に真っ二つに裂け、俺を避けるかのように二股になり止まっていた。両手で握っていた剣は、さっきまでなかった群青色の光をを帯びていた。剣を裂けた根っこの方に向けて振ると、群青の光線が出て、裂け目がまた大きくなった。目の前で起きた様々な出来事に混乱し始めていた。一瞬俺は立ちながら寝ているのじゃねぇのかと思った。
「なんだよこの木の根っこは……」
とにかく、目の前にあるものが本物だと思いてぇ気持で、木の根に触ろうと右手を上げた時、俺は右手に篭手が付いていることに気が付いた。見ると、服もさっきまで着ていたものと変わっていた。
丁度近くにカーブミラーがあり、自分の姿を覗いた。そこに映っていたのは左手にロングソードを持ち、中世の軽装な鎧騎士の格好をした俺がいた。
「な、なんじゃこりゃー!」
ついに感情のマグマが噴火した。もう、なにもかもわからねぇ! どうなってんだよこれ! ファンタジーの世界に迷い込んじまったのか?! でもここは家の近所だし。……もしかしてこの剣の力か? 持っていた剣を見ると、鍔にある宝石がピカピカと光ると同時に、剣が語りかけた。
〈Guten tag Meister.〉
「あ~、何語言っているのかわからないからさっきのように日本語で頼む」
〈はい、わかりました。わが騎士〉
「はぁ!? 騎士ぃ?」
その言葉に理解が追いつかなかった。単語の意味ではない、さすがに『騎士』の単語ぐらいわかるが、さっきこいつから出たのは明らかに、魔法のようなもの。肉体と刃で戦う俺の騎士のイメージとは異なる。
また大きな音が聞こえて身構えると、さっきまであった木の根が忽然となくなっていた。何だったんださっきのは……
「まあ、とにかくよろしくな。え~と」
〈私の名は、鋼の守りシュッツェンシュタールです。〉
「よろしくな、シュッ、シッュ……長いからシュターって呼ぶぜ」
〈わかりました主〉
「ところで、この服どうやって脱ぐんだ? いきなりだったからわかんなくて」
〈……マスターはどうやって私を起動したのですか〉
「どうって、少し強く握ったらいきなりお前が話しかけてきて」
〈………〉
「ん? どうした?」
〈いえ、では解除します〉
ふう、あんな目立つ格好で町をうろついたら別の意味で注目の的だぜ。学校で何て言われるやら。まあ、このことはみんなに内緒にしておこう、このことが噂で漏れて変な組織に関ったりでもしたらいやだし。
第八話「町は木に覆われて」 完