OVERLORD+Dovahkiin   作:三時のおやつ丸

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初仕事

 宿屋でひと騒ぎ起こした明朝。

 ドヴァーキンはいつものスタルリムの軽装鎧に身を包み、冒険者組合内の掲示板の前に腕を組んで陣取っていた。

 周囲の冒険者たちに限らず、組合職員に至るまで皆が彼を遠巻きに眺めながら何事かを囁いている。昨日のことがもう広まっているのだろうか、と考えた。

 単に〈バトルクライ〉で脅かしてやろうと思っただけなのだが、思わぬ効果を上げてしまったらしい。もうちょっと静かにやった方が良かっただろうか。

 そんなことを考えながら、大きな掲示板に貼りだされた羊皮紙をその青い瞳で上から下までたっぷり五分はかけてじっくりと眺め、結論する。

 

(……文字が読めないな)

 

 羊皮紙に書かれているのは、故郷タムリエルとは全く違う文字だ。ある程度予想はしていたが、しかしこれから仕事を受けようというのに文字が全く読めないというのは少々困る。先ほどから見ていて分かったが、どうもこの紙の中から受けたい仕事を選んで奥の受付に持っていく仕組みらしい。文字が読めなくては選ぶこともできない。

 面倒なことだ、と思う。

 スカイリムでは仕事というのは全て個人から依頼されるものだった。『冒険者』なんて職業を聞いたのもこの地に来てからの事だ。はじめは戸惑ったが、冒険者組合がギルドのようなものだと分かってからは理解も進んだ。

 盗賊ギルドにおいて、ヴェックスやデルビンが仕事を取り纏めて各ギルド員に振り分けていたように、ここでは組合が依頼のあった仕事を纏めて、各組合員に振り分けている。規模が大きくなった為に色々と煩雑な手続きが増えているようだが、要はそういうことだ。

 そして仕事の内容はと言えば、同胞団のやることと大して変わりはない。依頼を受け、メンバーを派遣し、報酬を支払う。害獣の退治が主な仕事だ。ただし依頼を受けず勝手に退治した場合でも、証拠さえあれば報酬が出るというのが大きな違いか。それだけ害獣の被害に常に悩まされているということだろう。

 

(……待てよ)

 

 害獣……この辺りではモンスターと言うらしいが、モンスターを始末すれば報酬が出るというのは分かった。ならば別にここで依頼を受ける必要もない。文字を学ぶのはひとまず後回しにして、外に出て適当に何かを狩ってくればいい。皮や素材を剥げるものはそれを売り払えば金にもなるだろう。

 なんだ。何も問題ないじゃないか。

 解決に心を明るくし、しかし念のために手の空いている受付に確認してみることにする。

 笑顔で応対してくれた受付嬢は、かなりの美人だ。いや、昨日から街を見て思っていたが、このあたりの女性は美人が多い。

 スカイリムの女性達は……十分に魅力的ではあるが、ドヴァーキンの好みからは少々外れている部分もあった。戦いや暗殺を生業とする血生臭い者達との付き合いが多かったせいもあるのだろうが、パッと思いつく女性は誰も彼も色々と濃すぎる。

 翻って受付嬢をはじめとする街の女性たちは、そういったものからほとんど無縁らしい、ある種の爽やかさすら感じる程のすっきりとした美人だった。

 

「すまない、少し聞きたいことがあるんだが」

「はい、どういったご用件でしょう?」

 

 打てば響くような対応。丁寧な言葉遣い。嫌味のない笑顔。スカイリムの女傑達にはまず有り得ぬ反応だ。新鮮さすら覚える。

 

「外でモンスターをいくらか討伐してこようと思うんだが、注意する点などがあれば教えてほしいと思ってな」

「そうですね……まず、モンスターを倒した場合、報酬を支払うためにその体の一部を持ち帰っていただく必要があります。ゴブリンやオーガなどの亜人種なら耳、狼なら牙といったような部分ですね。あちらにリストがありますので、確認をお願いします」

 

 受付嬢が掲示板の脇を指差す。確かにそこには石板に刻まれた何がしかのリストのようなものが掲示されていた。が、ドヴァーキンは字を読めないので確認のしようがないのだが。

 沈黙をどう受け取ったのか、受付嬢が続ける。

 

「あとはそうですね、ドヴァーキンさんは銅のプレートです。あまり無理はなさらないように、同じ銅か、あるいは鉄の方とチームを組んで行かれるのがよろしいかと」

 

 受付嬢が自分が昨日名乗ったばかりの名前を把握していることにも驚くが、それよりもドヴァーキンに引っかかったのがチームという言葉だった。そういえば昨日、宿屋の店主も冒険者たちと親交を深めて仲間を見つけろとか言われたのを思い出す。

 

 ドヴァーキンは今まで基本的に、誰かと一緒に旅をしたり、依頼をこなしたりということをしたことがない。依頼達成の必要に駆られて、あるいは一つの目的を達成するために誰かと一時的に同行したり、共に戦ったりという事はあった。しかし旅路を共にし、一緒に鍋を囲んで食事をし、戦闘になればお互いの背中を預けて戦う……というような、旅の仲間、フォロワーとでもいうものを持った経験はこのドヴァーキンにはなかったのだ。

 故に。

 

「いや、同行者は必要ない。一人で事足りる」

「ええ!? いやしかし、たとえゴブリン相手であっても一人で戦うのは危険で……」

「必要ない」

「しかしですね、ドヴァーキンさん」

「必要、ない」

「いえ、ですが……わかりました。そこまで仰るのであれば……」

 

 あくまで固辞すると、受付嬢は不承不承という感じで引き下がった。説得するだけ無駄だと思ったのだろうか。同時に周囲のざわめきが大きくなった気がして、後ろをちらりと振り返る。

 その場にいた冒険者のほとんどが、ドヴァーキンを奇異の視線で見つめ、こそこそと何かを話し合っていた。耳を澄ませば、非常識な者に対する驚き、嘲りなどの声をわずかながら聞き取ることが出来た。

 もしかして、何かまずいことをしたのだろうか。チームを組むのはそこまで必須の、大事なことなのか。しかし、いらないと言ってしまったものは仕方ない。

 そこからさらに二、三の確認を手早く済ませる。

 

「では、注意事項は以上か?」

「え、ええ……」

「そうか。ありがとう」

 

 ともかく、あとは出発するしかない。

 ドヴァーキンは受付に背を向けると、努めて周囲の視線を気にしないようにしながら、チェックしてくださいと言われたリストに目もくれず、大股で冒険者組合を出た。

 

 一瞬、静寂と共にドヴァーキンの出て行った扉を見つめる視線が残されたが、それも数秒と立たずに消えて、後には今日の予定を相談したり、依頼をためつすがめつしたり、チームメンバーを募集したりする冒険者の姿が、つまり、いつもの組合の日常があった。

 

 

 

 

 

 

「ふっ」

 

 エ・ランテル北側。舗装された街道を外れて森の傍まで寄ったあたりで、スタルリムのメイスを振りぬきながら、ドヴァーキンは拍子抜けしていた。

 今しがた息を吐きながらメイスで頭を斬り飛ばしたのは、ゴブリンを何十匹か片付けた後に出てきた何匹目かのオーガだ。肥え太ったオークを十倍醜くした化け物というような感じで、初めて見る相手だったため少しは警戒もしたのだが、特に相手になるようなこともなくドヴァーキンがメイスを一度振ればそれで終わりだった。

 まあ仕方ないか、とひとりごちる。

 今使っているのは最上位のドラゴンすら容易く葬り去る、ドヴァーキン自ら鍛え上げた伝説級のメイスだ。当然ながら強力な付呪も施してある。それをドヴァーキンが振るえば、リークリングよりも弱いゴブリンや見掛け倒しのオーガなどが耐えられるはずもない。ドヴァーキンからすれば、付呪の為に消費されるマジカがもったいないくらいだった。

 付呪の魔法に用いる魂石はタムリエルでは有り触れたものだったが、どうやらこちらに魂石というものは存在しないか、あっても相当に珍しい物らしい。はじめて訪れた村の住人に魂石と魂縛の魔法の事を話したら、聞いたこともない恐ろしい呪いだと言われたほどだ。まあ、魂石に封じられて消費された魂はソウル・ケルンに送られて終わることのない責め苦に苛まれることになるのだから、呪いという評もあながち間違ってはないのかもしれない。

 考えてみれば、死後も魂を縛られて永遠の苦痛を味わう羽目になるというのはなかなか酷な話だ。だからと言って今まで黒魂石に封じた者に対する謝罪の念などは一切湧き上がってこないが。

 

 メイスをしまって、一息つく。

 すでに日は傾き始めていた。素材を剥ぎ取って持ち帰らねばならないことを考えれば、この辺りでやめにしておくべきだろう。周囲に転がる大量のゴブリンとオーガの耳を一匹一匹削ぎ取っていくのは、そういったことに慣れたドヴァーキンと言えどもそれなりの時間がかかりそうだった。

 

 耳削ぎ用のダガーを取り出そうとして、そういえば、とふと思いつく。この世界の生き物にも魂縛は有効なのだろうか。

 この地がタムリエルではなく、どうやらニルンですらないということを理解するのにあまり時間はいらなかった。何しろ月が一つしかないのだ。ドヴァーキンの良く知るあの美しき双子月、マッサーとセクンダの姿が見えないということは、どう考えてもタムリエルではありえない。

 オブリビオンの一領域ということも考えないではなかったが、それにしてはデイドラを見かけないし、なにより自分の知る魔法を全く見かけない。この世界の魔法は「位階魔法」と言って、タムリエルのそれより細かく区分けされいるらしい。タムリエルの魔術師たちが扱う不可思議で危険な技である魔法に対し、こちらの位階魔法は随分と体系化され、人々の生活に馴染んだものとなっているようだ。塩や砂糖を生み出す魔法があると聞かされた時は、なんの冗談かと思ったものだ。かつて衛兵から「暖かいベッドを召喚してくれ」などと戯言を吐かれたことがあったが、あの衛兵たちだってまさか魔法で塩が作れるとは思いもしていなかっただろう!

 

 ともかく、魂縛だ。世界が違う以上、魔法も同じように使えるとは限らない。ドヴァーキンはあまり魔法を使う方ではなかったが、やはり使えるに越したことはない。確認が必要だろう、と周囲を見渡す。

 ちょうどよくゴブリンが数匹、森からこちらへ向かってよたよたと駆けてくるところだった。

 ドヴァーキンはメイスを構え直し、左手の盾をしまって、代わりに魂縛の魔法をその手にチャージした。

 奇怪な鳴き声を上げて棍棒を振り上げるゴブリンの一匹に魂縛の魔法を放つと、たちまち魔法の鎖がゴブリンの魂を縛りつけた。魔法を掛けられたゴブリンは一瞬、戸惑ったような顔をして、その一瞬後にはドヴァーキンのメイスによって首を刎ね飛ばされていた。ゴブリンの魂は逃げようともがいたが、魔法がそれを許さなかった。極小魂石にその魂が封じられる。

 たった今充填されたそれを眺める。手持ちの充填された魂石と比べても、なんら差異は見受けられない。

 次に、手持ちのスタルリムのメイスにマジカをチャージしてみる。何の問題もなくメイスにマジカが満ち、使い終わった魂石が砂になって崩れ落ちる。これもいつも通り。残ったゴブリン達がおびえているように見えるのは、見たこともないであろう魂縛の魔法の為だろうか。ひとまず無視することにした。

 となると、付呪については問題ない。が、魂石の在庫には今のところ限りがある。

 ドヴァーキンは手持ちの魂石をざっと確認してみた。今のペースで使っていけば、半年。下手をすればもっと早く尽きる可能性がある。

 しかし最悪の場合は『黒き星』がある。この無限に使える魂石さえあれば、魂石の在庫の心配はしなくてもいいのだが……。できればこれを使いたくない理由もあった。

 

「まあ、それは置いておくとしよう」

 

 今、自分が心配してもどうにもならない事だ、と思い直す。それよりも、足元でじゃれついてくるゴブリン共が鬱陶しい。

 貧相な棍棒などで殴られても痛くも痒くもないが、やはり邪魔なものは邪魔だ。メイスを数度振るうと、それで静かになった。

 細かい心配事は後にして、さっさと耳を削いで持って帰るとしよう。まずは金だ。

 スパスパと耳を切り落として懐に入れながら、ドヴァーキンはそういえば一匹がいくらになるか聞いていなかったな、と考えた。

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