『魔法少女リリカルなのは』の外伝モノ    作:ヘチマール

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第1章 Beginning――始動―― (中編)

 むかし むかし とある せかい の とある おしろ に

 とっても さびしがりやな おひめさま が いました

 

 おひめさま は とっても さびしがりや だったので

 くるひも くるひも ないていました

 

 あるひ おひめさま は おうさま や けらい に

 だまって そとに でていって しまいました

 

 おひめさま は おしろ から あるいて とおく に

 ある もり に つきました

 

 もり には たくさん の どうぶつたち が います

 ちいさい うさぎ から おおきな けもの まで

 

 おひめさま は あるきます もり の なか を

 ともだち を さがして あるきます

 

 おひめさま は ことり を みつけました

 “ことりさん わたし と おともだち に

 

 なってくださらない?” と こえ を

 かけます やさしく

 

 ことり は “いいでしょう あなた の

 おともだち に なって さしあげましょう”

 

 つぎ に おひめさま は うさぎ に

 あいました 

 

 “うさぎさん わたし と おともだち に

 なってくださらない?” と こえ を かけます

 

 うさぎ は “いいですとも きみ の ともだち に

 なってあげますよ” と こたえました

 

 おひめさま と ことり と うさぎ は

 もり の なか を あるいて いきます

 

 きゅう に おおきな じなり が しました

 いえ これは じなり では ありません

 

 おおきくて おそろしい りゅう の ほうこう です

 りゅう は おひめさま の ちかく に やって きました

 

 おひめさま は おそれながら も ききました

 “お おともだち に なってくださる?”

 

 りゅう は “ならない” と いい

 おそい かかって きました

 

  

 第1章 Beginning――始動―― (中編)

 

 

 トンビはレベッカから貰った地図を見ながら街路を歩いていた。ライトグリーンの髪が風を受け小刻みに揺れる。 

 おもむろに足を止める。足を止めた先には、この街のシンボルである

 『人魚の大噴水』が位置している。この噴水、かつてこの地を治め、諸侯に覇を唱えた『メルシナ』王家が建てたモノだとされる。中央の台座には王家のトレードマークとも云えるブロンズ(我々にはその表現が一番伝わりやすい)製の人魚像が王家のために祈りを奉げている。その下から、涙とも謂うべきか、水が流れ出ている。

 (依頼が終わってから、また来ますか……)

 トンビは胸中にこの噴水に対する己の興味をしまい、この場を後ににしようとして足を動かす。その時!右肩に軽い衝撃を受け、顔をそちらへ向ける。

 「ってーなぁ! このガキっ!」

 大柄でいかにも、という顔つきの男が声を荒げてこちらに睨みを利かしていた。怒りのあまりに血管が浮き出ている、まるで茹で上がったタコのように。

 「えっ、あ~すみません」

 とりあえず頭を下げ、謝るトンビ。上目使いで相手の機嫌を確認する。

 「あぁ~ん!? 人様にぶつかっておいて、それだけかぁ~?」

 (うわっ、めんどくせ)

 謝罪の言葉だけでは満足せず、あからさま、それ以外のモノを欲している下種な魂胆が、第三者でも容易に視認できる位、見え見えである。

 そんな下種い顔が近づいてきたので、トンビは心の中で煩わしく思いながら半歩下がる。ついでに男の口臭から身を守るためでもある。

 「おい……何をしている?」

 唐突に男の後ろから別の男の、二枚目で女を虜にしそうな感じの声が発せられる。

 その声がした瞬間、今まで横柄だった男は急に畏まり、「いや~すんません、兄貴。このガキが俺の膝にぶつかりやがりまして……」と、オドオドしながら状況を述べていく。

 兄貴と呼ばれた、二枚目で二十台半ばの顔をした長身の男は、「ヤレヤレ」と謂った感じでトンビに目を移す。

 「すまないね、少年。うちの者がお騒がせをして」

 「いえいえ、ぶつかったのはこちらですし……」

 謝罪をされトンビも畏まり、再び頭を下げる。

 「ほう……まぁこれはお詫びに、ということで」

 男はそう言い、膝を曲げ懐から実弾を取り出し、トンビの手に握らせた。そして体を返して、大男に顎で指示を出す。

大男は若干納得のいかない顔をしながら去っていく。見送った後、男は「ところで少年……君は地元の子かな?」と

質問を投げかけてきた。

 「いえ、違います。よう……旅行者です」

 「……そうかい、じゃ、縁があったら、また会おう」

 トンビの答えを聞き、男は快活な声で挨拶をし、その場を後にした。

 

 (堅気じゃないね、あいつら……)

 トンビは訝しげに男の後ろ姿を見ながら、今の出来事を記憶に留めた。

 そして手の中の実弾で露店のホットドッグを購入し、食べ歩きながら目的地に急いだ。

 

 時は少し遡る。

――『海底遺跡』 入口付近――

 テントが設営され、キャンピングカーが停車している。発掘隊の人びとは、各々作業に没頭している。

 入口の付近で話し合いしている隊員と背広を着た男がいる。なにやら言い争いをしているようだ。

 「だからぁ!! そこを何とかしてくれって頼んでいるんですよ!!」

 「無理だって言ってるじゃないですか、優先して発掘品を回すなんて!」

 発掘品に関する打ち合わせのようだ。背広を来た男は、何としてでも発掘品を優先してもらいたいらしく、必死の様相だ。

 しかし、発掘隊員のほうも譲らないようで、交渉は平行線のようだ。言い争いは続く……かのように思われた。

――爆発音――それと同時に衝撃波が入口から漏れ出て、二人が吹き飛ばされる。

 「なっ!? 何だ一体!?」

 「いっ……遺跡が……」

 遅れて中から煙が漏れてくる。煙の中に人影も見える。

 「……むせる」

 はっきりと煙の中から聞こえ、男が咽ながら現れた。

 「むせる じゃねぇよ!! 今度は何をしたっ!?」

 「そうですよ先生!! 発掘品に何かあったらどうするんですか!?」

 二人は――爆発の影響でアフロになっている――男に鬼の形相で詰め寄る。

 「いや~やっちた。やっぱ一筋縄じゃいかなねぇ、ここの罠は」

 「またか!! お前ひとりで解除するなって言ってんだろうが」

 「メンゴメンゴ、ロット、次は複数でやるよ」

 「ジェフト……お前何回目だそれ?」

 ジェフトと呼ばれた男は指で数え、両手を返し、「さあね」と言った感じの身振りと顔をする。

 ロットと呼ばれた男は怒りを抑えようと拳を握り、震わせている。今にも爆発せんとする勢いで……。

 

 

 「そういえば、今日はお前の教え子が来るんだっけ?」

 先ほどのやり取りからしばらくして、ロットがジェフトに質問を振る。

 「あぁ、そうなんだよ。優秀な傭兵の教え子がね」

 ジェフトは多少鼻にかけた感じで答える。

 「でもガキなんだろ? 大丈夫か?」

 「そんな心配はナッシング!! だよ」

 「お、おう……」

 浅くはない付き合いだが、ロットは未だに親友のであるジェフトの個性的な返答に慣れていない。それが顔に如実に表れてしまう、引いた感じになって。

 「ん? どうかした?」

 「いや、なんでもねぇ……(教え子はマトモでいてくれよ、言動も行動も)」

 しかしその淡い期待は数刻の内に水泡の夢と化すのであった……。

 

 遺跡の入口の遥かに上部から二人を監視する”目”が光る。

 比喩ではない紛うことなく、”目”そのものが浮遊し、監視しているのだ。

 本来目は光を受容し、様々な中継を経て脳へ情報を送る。

 しかし今回の場合、この場に存在するのは目だけである。

 ならば中継は? 脳は? 光から得た情報はどこへ行くのだろうか?

 

 とあるホテルの一室、窓からチョローンの街並みを一望できるほど高いところに位置している。

 部屋の家具はどれをとっても一流であり、このホテルの質の高さを窺わせる。

 その部屋の中で宙に浮いた映像を見ている女がいる。

 女は悠然とソファーに座り、サイドテーブルの上にあるティーカップを取り、紅茶を飲む。

 鋭利な刃物を彷彿させるような蒼い眼。

 愛らしいと謂うよりは綺麗という言葉が似合う端正な顔立ち。

 その顔に負けず劣らずに美しく整っている体つき。

 白銀の糸の纏まりを思わせる髪。

 人形のように白い肌。

 それらすべての要素が氷のように冷たい印象を感じさせる。

「墓荒し供が……」

 氷のように冷たいトーンで俗物をみくだすように声を発す。

 視線を映像から逸らし、眉間を3本の指で押さえ疲れた素振りを見せる。

 不意に耳障りの良いリズムでノックの音がする。

 女はドアに目をやり、ゆっくりと口を開く。

 「どうぞ……」

 ドアが開き、男が入ってくる。二枚目で二十代半ばの長身の男だ。

 男は会釈をし、近くにあった椅子に腰を掛ける。

 「さて、Ms.ジューヌ、ビジネスの話があると聞いてここまで来たのですが……」

 男が軽薄な笑顔で急かすように女に――ジューヌと呼ばれた――問いかける。

 「まあまあ落ち着いて……お茶でも一杯どうかしら? Mr.クラブアーム」

 ジューヌは二枚目の男――クラブアーム――を宥め、慣れた手つきで紅茶をティーカップに淹れる。

 「そうですね、私としたことが……女性を急がせるとは、申し訳ない」

 笑顔を崩さず自らの非礼を、クラブアームは詫びる。

 「ふふ……相変わらず紳士ね、あなたは」

 ジューヌはそう告げると、人差し指と中指で唇を押さえ微笑する。まるで美術品のように美しく止まった微笑だ。

 「お褒めに預かり光栄です。 それにしてもここは見晴らしが良いですね、この美しい街並みを

 一望できる。 まるでこの街の統治者になった気分だ」

 クラブアームは大げさな振る舞いでこの部屋の良さを称賛する。

 「そうですか……今は在りませんが、昔はこの部屋より見晴らしの良いところがあったんですよ」

 「それは残念だ。 私は来るのが遅かったようだ」

 ジューヌの言葉を聞き、クラブアームは残念そうな顔をする。

 「ですけれど最近、近くで過去の遺跡が見つかったんですよ。名前は『海底遺跡』」

 「ほう、それは興味深いですねぇ」

 クラブアームの興味が『海底遺跡』に流れる。

 それを見てジューヌは言葉を続ける。

 「そして今回のビジネスも『海底遺跡』に関することなんですよ」

 「ほう……」

 二人は笑顔のままだ。しかし先ほどの笑顔とは性質が違い、黒いモノを感じさせる笑顔だ。

 

 

 時を戻して。

 「で、今回の仕事というのが?」

 「『海底遺跡』の破壊だ。 中のモノは好きにしていいそうだ」

 先ほどトンビと揉めた大男の質問に、二枚目の男――クラブアーム――は簡潔に答える。

 「しかし何だって一体……あんなところを破壊するんでしょうかね?」

 「女の考えていることは、大抵はわかるが……Ms.ジューヌの腹の内はわからんね」

 クラブアームは遠い場所を見るような目で空を見上げる。どこか儚げだ。

 「ん?」

 突如、何かに刺激されたかのように声を漏らす。

(失恋した女……? しかしあのMs.ジューヌがねぇ、ありえんか……)

 己のインスピレーションから出された答えに納得しかけるが、咄嗟にそれを否定する。

 Ms.ジューヌという女はそれほどまでに『恋』というモノに結びつかないのである。

 「で、兄貴。 作戦はどうしやす? 遺跡の発掘団を強襲しますか?」

 「ん? ああ、いい考えがある……と謂うよりはMs.ジューヌからの助言がな」

 クラブアームは不敵に邪悪に嗤う。その顔の上部に影ができているのではと錯覚させられる。

 「ひっ……へ、へいっ!!」

 大男は一瞬クラブアームの雰囲気に呑まれ、怯える。このことがクラブアームという男を、ただの二枚目の男ではないということを物語っている。

 (まぁ何であれ、今回のビジネス……こちらにとっては好都合!! せいぜい頑張らせてもらいますか)

 クラブアームは己を鼓舞するように心の中で思う。

 

 

 トンビは今遺跡に繋がる道を歩いている。ブーツ越しに土と石が混じった地面を踏みしめる感触がトンビの顔つきを変えていく。それは戦士の顔だ。

 トンビは今回の依頼に至るまで2度の仕事を経ている。少年に心構えを理解させるには十分な回数だ。

 一度目は失敗に終わり、二度目は危なげながらも成功させている。

そして今回、自分の師(座学などの)である『ジェフト=スクライア』の依頼で遺跡内部の調査の際、その護衛としてこの『チョローン』に赴いた。

 家出少年ではなく、観光客でもなく、戦士として、傭兵としてこの地に赴いた。

 覚悟はできている。何人たりとも邪魔はさせない。鍛錬で手にした技と実戦で得た知識を最大まで活かす。

 一歩一歩足を進めるごとに緊張感が高まり、心臓が宙に浮いたような高揚感を得る。

 不意に笑みが零れる。初陣の時とは違い心が落ち着いている、が、踊っていることに気が付いたためである。

 (早く、早く! 早く!!)

 高ぶる気持ちを抑えきれず、歩くスピードが早くなる。

 道以外の景色がぼやけて見える――集中力が高まっている証拠だ。

 自分の道を踏み鳴らす以外の雑音が消える――集中力が高まっている証拠だ。

 前へ、前へと進む度に空気の流れを肌で感じ取ることができる――集中力が高まっている証拠だ。

 「ん……」

 唐突に足を止め、眼を閉じ、耳を澄ます。

 (見られているかな?)

 何者かに尾行されていることに気づくトンビ。

 物音はしない、僅かな息遣いさえ聞こえない。視線は後方の茂みから感じる、が、それは敵を警戒する慎重な小動物のものでもなければ、獲物を狙い、息を潜めている獣のものでもない。

 周囲が静寂と緊張で包まれる。

 突如!! トンビが右腕を勢いよく振り上げる。

 右腕が空のように深く青く光り輝く。輝きはそのまま掌に収束し、マンホール代の円陣の形を成す。それと同時に足元に掌の円陣より二回りほど大きい円陣が形成される。

 振り上げた掌を体と共に後方の視線の主――がいるだろう方向に向け、「Delta Arrow!!」と叫ぶ。掌から、叫んだ言の葉の通り、三角形の鏃のような青い光の集合体が放たれる。

 放たれた鏃は一瞬の間で茂みの中に入り、爆散、周り青い光の粒子をまき散らし、煙を巻き上げる。

 この間、僅か5秒である。

 煙の中から所々破損し、火花を散らす『眼』が現れる。

 「サーチャーっ!?」

 声を上げると同時に苦虫を噛潰した顔になる。そう、これは大きな判断ミスである。何故なら追跡者である『サーチャー』に気づき、攻撃を仕掛けたことにより、『使い手』に自分が戦闘要員であることを教えてしまったのだから。

やがて『サーチャー』は耳に直接衝撃を与えるような音を発てて、淡い水色の粒子を発散しながら爆散した。

 トンビは目を閉じ黙考する。

 (どこからつけられていた? それとも張られていた? 何のために子供をつけた?)

 次々浮かぶ疑問がさらに疑問を呼んでいく。だが、一つだけわかることがある。

 (今回も唯では終わらないかな……)

 

 

 「っ!!」

 こめかみを針で突かれたような痛みがジューヌの頭に走り、一瞬右目を瞑る。

 「……ふふ」

 おもしろいモノを見た、そういった顔をするジューヌ。

 サイドテーブルの上に置いてある手鏡が彼女の顔の右側を映している。再び目を開けるが、その目はするどい『蒼』ではなく、血のように赤くなっていた。

 「これは思わぬイレギュラーが湧いて出てきたな。 子供か……少々詰めが甘かったかな?」

 そう言葉を漏らし、左手の薬指を見る。その指には自らのヒレを掴む人魚を象った指輪がしてある。

 一瞬それが妖しく光る。

 「ははっ、お前もそう思うか」

 赤子をあやすように指輪を撫で、座り直す。

 「さて、我が思い出の地、どうなることやら……心配だなぁ」

 言葉とは裏腹に、先ほどにも増して、楽しげな顔であった。

 

 

 先ほどの出来事で、高まっていた集中力が霧散してしまったトンビは、ついに発掘隊のキャンプ地手前まで迫っていた。

 「もうすぐか……先生にさっきのことを報告しとかなきゃな」

 トンビは自分に念を押すように呟く。

 日は傾き、地平線へ隠れようとしていた。

 そして、轟音が鳴り響く。

 

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