×DODの続き来ないかな
「まだ見つからないのか?」
灰色でロン毛の男性が大型のモニターを見ながら問いかける。三十代半ば位だろうか、顔つきはハンサムといえる。
大型のモニターには建物の図面が映し出されており、内部の数か所がピックアップされている。また、大型モニターのサイドには小型のモニターが多数設置されており建物内部の映像が映し出されている。映像から察するに、どうやらこの建物はデパートらしい。なら、ここはデパートの管制室といったところだろう。
「はい、現場に5名向かわせましたが、いずれも発見できたのはダミーで……」
「ちっ……」
問いかけに答えた女性オペレーターの発言に男性は舌打ちをする。そして、眉間を親指と人差し指で挟み、黙考する。
(どこに本命を隠した?)
「あっ」
「どうした? 見つかったか?」
オペレーターの呟きに男性はすぐに反応し、少々期待を含んだ声で問う。オペレーターは彼に顔を向け、気まずそうに口を開く。
「マキネ隊員がカメラに映りまして――」
「なぜにッ!? あぼっ!!」
聞くやすぐに男性はズッコケてデスクにアゴをぶつける。
「チーフ!?」
「あたた……大丈夫だ、続けてミッションに当たってくれ」
男性はアゴを押さえながら立ち上がり、腕時計を見る。
(この時間は開発部にいるはずなんだが……あのバカ、どうしてここに?)
目を閉じ、沈痛な面持ちで思案する。が、顔を横に往復し口を開く。
「マキネのバカは放っておけ。全員に次ぐ、もう一度館内を隈なく探せ。不審物、不審人物がいたら職質をかけろ」
一通りの指示を終え、チーフと呼ばれた男性はため息を吐く。その顔には焦りが見られる。
「なぜ、このビルに仕掛けたのでしょうか?」
先ほどと同じ女性オペレーターが口を開き疑問を口にした。彼は天井に顔を向け答えはじめた。
「……牽制だろうな」
「牽制、ですか?」
「そうだ」
オペレーターの聞き返ような確認に男は間髪入れずに肯定した。そして、言葉を続ける。
「コエルクスは管理局が創立して間もない頃に生まれた。最初はただの小さな運輸業者で、管理局を支援する一組織にすぎなかった。しかし、
掌を口に当て、言葉を選ぶそぶりを男はする。
「発展と伴に、事業の種類を増やしていった……医療、技術開発、食品全般といった感じに……管理局を支援をするためにな」
一度話を止め、男は胸ポケットに手を入れガムの容器を取り出す。黒を基調とし、銀字で商品名がプリントされている。刺激が強そうなデザインだ。中身を取り出し、口に入れ、噛みほぐしていく。
「『わが社の隣には、常に管理局があった』……コエルクス創始者の言葉だ。こんな言葉を残すから、テロの標的にされるんだよ」
やってらんね、といった感じに手を挙げる。それを見たオペレーターが苦笑する。
「でも、わたし、その言葉好きですよ。助け合うことは大事ですから」
そんなこんなでデパートにやってきたトンビたちは今昼食をとっている。ランチタイムというには少し時間が遅い。
「そこで俺は言ってやったんだよ!! 『お前の攻撃は見切った、もう当たらねぇ……』ってな!!」
トンビは左手の串でたこ焼を頬張り、右手に力を込めて熱を上げ演説している。もちろん聴衆はシンイチただひとり。
「で、この話どこまでホントなんだい?」
《七割ほど脚色されているゆえ、フィクションと判断します》
「はぁ……」
真実とはいつもガッカリするものだと誰かが言っていた。シンイチはそのことを現在進行形で実感している。それでも、トンビは己の武勇伝を暑苦しく語っている。
「……シンイチ、最近何かあった?」
「えっ?」
トンビは唐突に話すのを止め質問を吹っ掛けてきた。突然の質問にシンイチは一瞬、頭が真っ白になる。
「なにって……特になんもないけど?」
「……そうか」
シンイチの答えに不満なのか、観察するように目を細める。が、立ち上がり、足を売店に向ける。
「ま、いっか。ゲッティー買ってくるけど、シンイチは食べる?」
「いや、僕はもういいよ。ていうか、まだ食べるの?」
シンイチがそう言って、テーブルに目をやる。そこにはキレイに食べ終わった食器が大量に積み重なっていた。洋食器、中華食器、有田焼、他ミッド製の食器や古代ベルカ風の食器、他にもありとあらゆる食器が積まれていた。
「さすがにお腹壊すと思うんだけど……」
「料理は食っても喰われるな、っていうだろ!!」
シンイチの苦言を無視し、トンビは、まだいける!! と謂わんばかりに胸を叩き、パスタ専門店へ向かっていった。
「初耳だよそれ……」
呆れたように声を洩らし、シンイチはテーブルに戻った。
イスに着いた瞬間右ひじに軽い痛みが走る。静電気のような痛みだ。
「――ッ!!」
咄嗟に右ひじを押さえようとする。が、その反射行為で動いた左手を意思の力でねじ伏せ、止める。息をつき、すぐさま周りを見渡す、特にトンビがいる方向を――!!
「マーボースパゲッティ特盛ひとつ!!」
「まっ、まだ食べるのかい?」
特盛は通常の三倍の量、少なくとも子供ひとり何度もで食べられる量ではない。故に注文を承った店員は困惑の色を隠せなかった。それを見てシンイチは安堵する。
《シンイチ……あなたケガをしていましたね?》
不意打ち気味にエックスが問いかけてきた、起伏ない機械特有の声でだ。
「……三ヶ月前くらいになるかな。右ひじを、練習試合でね」
《完治したのは、一ヶ月ほど前ですね》
「そんなことまでわかるんだ……」
《ええ、マスター及びその周囲の人々の健康を観察するのは、わたしのロールのひとつですから……あの小僧が今のマスターというのは不満が残りますが》
言葉のわりにエックスがそこまで不満を持っているように、シンイチは思えず、微笑を零す。
《話を戻しますが、まだ、そのケガに思うところがあるみたいですが?》
「うん。ケガが治ってすぐの試合でね、ボクのポジションはアーチでロングパスに特化したポジションなんだけど……まぁ、以前より思うところにボールが行かなかったんだ」
笑顔で言葉を口にし続ける。しかし、声は暗く乾いたものだった。
「投げるたびに右ひじが痛むんだ、関節に静電気が走る感じかな」
右ひじを押さえながら空を見上げる。苦い顔をする。そして、再度口を開く。
「んで、少し嫉妬したんだ。トンビの仕事の話に……活き活きと喋るトンビにね」
《あれにですか? あの話にですか?》
「うん。あんな話でもボクには遠いような気がして」
エックスの疑問にシンイチはあっさり返事を返す、憂を帯びた言葉を付けて。
《……理解不能。あなたはスポーツ選手でトンビは魔導師。求められる資質も役割もまったく違います。なぜ嫉妬の感情が湧くのですか? 説明を求めます》
エックスの中でさらなる疑問が生まれた。シンイチは首を振り、こう答える。
「そのまえに同じ男だ……まぁ、ライバルってことかな」
《理解不能》
「いつかはわかるさ……」
シンイチは静かにほほ笑んだ。
「ふんふんふ~ん♪」
特盛用の大皿を両手で抱えながら上機嫌で鼻歌を独唱、宙に浮くような足取りでスキップしながらトンビは自分の席に戻ろうとしていた。この光景が、もし美少女ならばどれほど絵になっただろうか。
しかし、そんな奇行が祟ってか不注意になり、ベンチの横から飛び出してきた幼児に不意を突かれる。
「なんとぉぉ!?」
「うい?」
このままだとぶつかっちまう!! と思うや否や、トンビは足の運びを変える。まず前に降ろしかけていた左足を無理矢理斜め左方向に持っていき、そのまま身体もシフトさせる。次に右足のブーツの靴底でアスファルトを踏みつけ、勢いにブレーキを掛ける、が。
「なんなんとぉぉぉ!?」
あまりにも勢いよく掛けたため、下半身だけが止まり、勢いが残った上半身につられ体全体が弧を描くように飛翔した。当然両手で抱えていた『マーボースパゲッティ』も空中で四散し、トンビが地面に倒れ込むのと同時にその身に容赦なく降りかかった。
見るも無残で滑稽な姿になってしまった。ああ無常。
「おにいちゃんだいじょうぶ?」
「お、おう。大丈夫だよ……うう」
さらにはぶつかりそうになった幼児に心配され、その優しさに思わず涙してしまうトンビだった。
「さてと……ん?」
立ち上がろうと体を持ち上げようとする、そこでベンチの下にある黒い大きめの鞄が目に入る。
「あからさまに……怪しいなっ!! ととっ」
ベンチの下から鞄を引き上げるが思いもしない重さに多少バランスを崩す。
「それ、さっきサングラスしたあたまくりんくりんのおじさんがわすれていったカバンだよ」
「へぇ~じゃ、届けてあげなくちゃな。と、その前に一応中身を確認しとかなきゃな……」
「なにはいってるかな? おもちゃかな?」
「まさか!! 意外にロストロギアだったりとか」
「あ~、ぼくしってるよ、それ!! あぶないものなんだよね?」
「そうそう。まぁ、でも、そんなのものが……」
人懐っこい幼児との会話のキャッチボールを楽しみながら鞄を開ける。
「――!!」
トンビの顔から一瞬で笑顔が失せる。
「どしたの? なにはいってたの?」
「ん、ああ、なんでもないぜ。それに……中にはでっかい時計が入ってたぜ」
笑顔を作り直し、心配させないようほほ笑む。無論、中身が時計というのはウソである。
「な~んだ、つまんないの……あっ、ママだ!! ぼく、もういくね!!」
「おう、気をつけてな!! 転ぶなよ!!」
「おにいちゃんもね!!」
笑顔で幼児を見送り、トンビは鞄の中身に再び目を向ける。
中ではカチッカチッと小刻みに時計の針が動いていた。時計の周りには導線や雷管があるが、それらとは別に円筒の箱と小型のモニターが付属している。
「あばばばばば……!!」
慌てふためき言葉が出なくなる。周囲の目なんてお構いなしに慌てる慌てる。ついでにバッグの口を閉める。
(待て待て落ちつこうぜオレ。そうさ、こんな所に爆弾があるわけない。きっと、さっき転んだ時に幻覚を見るような強いショックを受けたんだ。そうに違いないぜ)
そして再び恐るおそるバックの口を開ける――現実は非情であった。
時計の長針は刻一刻と十二時を――爆発の時を目指し、その身を進ませている。
「これが現実っ!!」
《さっきからあなたは何をやっているのですか?》
「トンビ、流石に恥ずかしいよ……他人として」
「ランクダウン!?」
ひとりで寸劇を演じているうちにエックスたちがトンビの近くまで来てた、呆れた顔をして。
「ていうかどうしたんだい? 口をパクパクさせるわ、まるで爆弾でも見たみたいな顔をするわ」
《彼と同意見です。詳細に現状を解説してください。でなければあなたを不審者として管理局に引き渡します》
「ヒデェぜ、その扱い!! なんで管理きょ……」
――プシュン――
トンビが抗議の悲鳴を上げようとした瞬間、鞄の中のモニターの電源が点く。トンビは慌ててそれを覗き込む。
『は~い、なにも知らずこのバッグを開けてしまった哀れな一般市民さん、もしくは血眼になって爆弾を見つけたコエルクスの兵隊さん。ど~もはじめまして、クラウンです!!』
わけがわからなかった。
モニターが映し出したのは幼児向けの番組に使われるようなスタジオと大きなボールに立ってバランスを取り、高らかに挨拶をするピエロだった。
「爆弾って……嘘だよね?」
シンイチが縋るような声で同意を、現実の否定を求めた。
「いや……マジもんだぜ、これは」
「……」
トンビは躊躇いがちに答えた。
『うんうん、これは、ドッキリ!! じゃなくて、ほんっものの爆弾!! でも安心して、威力はせいぜい屋上とその下のフロアをっ!! 跡形もなく焼滅ぅぅっ!! させるぐらいだよ!!』
「沸いてやがる――!!」
たったこれだけの情報でわかる――この男の狂った思考、狂った価値観。トンビはそれに対して毒づいた。
クラウンと名乗る男、その男のピエロのメイクに使われているのは狂気だろう。モニターのなかで満面の笑みを浮かべながら、彼は話をし続ける。
『で・す・が~爆弾の常なのか、王道なのか!? もちろん解除できます!! はいっ!!」
クラウンが合図すると同時にモニターに爆弾の図面が映る。図面を見るに術式と集積回路の混合型と思われる。
「……やっかいだぜ」
精一杯の強がりを口から洩らした。
トンビが持っている爆弾に関する知識は浅いものでしかない。
《トンビ、私に見せてください》
「ああ、わかった」
エックスを鞄から出し、図面を見せる。
計算しているのだろうか、エックスの表面ボディが淡く光る。トンビとシンイチは静かに見守る。
「……ゴクッ」
シンイチが唾を呑んだ。それほど大きな音ではないはずなのに、トンビの耳にはっきりと伝わった。
緊張が静寂を創る。
《……間に合いません。この場から避難することを推奨します》
『おっと~、そこのキミ、今、ここからどっか行こうとした? ダメだよ!! そんなことし・た・らっ!! 僕がここにあるスイッチをポチッと押して爆発させちゃうよ? もちろん通信もダメ!!』
「畜生が――!!」
トンビが静かに激怒し悪態をつく。
《サーチャーの反応はありません。器具による監視が妥当かと推測します》
「そんなことは至極どうでもいいぜ……エックス、術式と回路へのハッキングと、さらにバスターを同時に展開することは?」
《可能です……意図を理解しかねます》
「OK、ある作戦が頭の中に浮かんだんだ……シンイチ」
簡潔に、抽象的に己の意図を話し、トンビは晴れた顔でシンイチに声をかける。
「えっ? な、なに?」
「右腕を貸してくれ」
「どゆこと?」
これまた抽象的な発言にシンイチは困惑した。
「コーヒーのお替りはいかがですか?」
「お願いできるかな」
「かしこまりました」
ウェイトレスに尋ねられた男性は紳士的な声で了承する。返事を受け取ったウェイトレスは快活に返事をし、空のカップにコーヒーをいそいそと注いでいく。
「どうぞ!!」
注がれたカップをテーブルに丁寧に、無駄を省いたスムーズな動作で置くとウェイトレスは一礼し、会計待ちのレジへ向かっていった。
男性はコーヒーを口へ運ぶと窓から向かい側のビルに目をやった。
置いたカップの中身は小さく渦を作っていた。
「ふっ……」
微笑を浮かべる。
ブロンドのボブ、外から見れば特徴的なラップ型のサングラスを掛けている。
しかし、掛けている本人の目に映るは窓からの景色ではなく、まったく別のところを、トンビたちがいるデパートの屋上であった。
「まず、エックスが爆弾にハッキングして外部コントロールを一時的に無効にする。次にシンイチが爆弾を47の角度で屋上から投げる。その際シンイチに筋力強化の魔法を掛ける、俺がね。んで、それと同時処理でX-Blasterを展開……」「トンビ!!」
トンビが作戦の手順を声に出して再確認している最中に、シンイチが声を荒げて止める。
「なんだよ?」
「やっぱり止めよう。僕には無理だ」
そう言い、シンイチは目を伏せ右腕を抑える。ひどく弱々しい姿であった。
トンビはその姿を一瞥し、息を吐き、顔を横に振り、己の頬を三度叩く。その場に透き通ったように響く良い音だった。
「シンイチ」
静かに呼びかける。
「俺は、お前に……お前の右腕に何があったのか全く知らない」
「――っ!!」
気づかれていた、シンイチの頭の中が真っ白になる。知られたくない、心配を掛けたくない相手に知られてしまった。そのことが少年の思考を急速に闇に包んでいく。
「でもよ、その右腕はそんなヤワじゃないと思うぜ。思い出せよ。あの試合を、お前のロングパスが逆転のキッカケになったのを……」
しかし、ライバルの言葉が闇の中で星のように煌めく。
頭にあの時の光景が蘇る。
体にあの時の感覚が蘇る。
心にあの時の高揚が蘇る。
「ハァハァ……」
接戦だった。追いつき、追い抜いた。そう思ったら追いつかれ、追い越される。
疲労の蓄積はあるものの、体は潤滑油を塗った機械のように滑らかに動く気がする。
今できないことはない、脳に身体がそう告げる。
フィールド全体の情報が頭に入ってくる。味方の位置、敵の行動予測、風の流れ、それらがクリアに頭の中で開先された。そして、針の穴に糸を通すかのごとき精密なロングパスがシンイチの右腕から投げられる。
敵のゴールリングから斜め右方向約7ヤードの地点にボールは落ちる。それを味方のオフェンスがスパイクを決め、ゴールにダイレクトに叩き込む。
逆転――歓声が沸き上がる。そして、リードを維持し決着。
シンイチは歓喜の雄叫びを上げていた。
「また懐かしい事を掘り起こすね、トンビ」
「ん~そうか? 俺はシンイチがプロになったとき、親友として真っ先にその話をするぜ」
シンイチはヤレヤレといった感じに首を振り、笑う。
「OK わかったよ。最高のロングパスを投げるよ。その代わり――必ず決めろよ」
「任せとけ!!」
二人は再び腕を組み、互いを奮い立たせる。
《準備はできましたか? 残り5分ですよ》
「ああ、万端だぜ。シンイチ!!」
「OK!!」
トンビに促がされ、シンイチは鞄の中から爆弾を取り出す。
(けっこう重いな……でも、大きさはボールと同じくらいか)
頭の中で比較し、現状にマッチするよう修正していく。
「トンビ……」
「了解……ブーストアップ・アームパワー!!」
トンビの詠唱に呼応し、シンイチの右腕に青色の光が灯り内に入っていく。
「よっし!!」
確認と同時にシンイチはフェンスに向かって一気に駆け出す。
「エックス!!」
《了解――huck to bomb……complete》
爆弾の時計をはじめとする全ての機能が停止する。
「決まったか!! そうなりゃ、こっちのもんだ!! バスター展開!!」
《take a X―blaster . launch a charge.》
トンビの命令を聞き、エックスがトンビの左腕に、ガントレットの形態を省略し、バスターの装着を施す。同時に周りの魔力素の吸収を開始する。
シンイチは投擲姿勢に入る。体を横にし左足を上げ、両腕を閉じ、体を捻り力を蓄える。
「四十七の角度で――!!」
狙うはここから見える二柱の高層ビルの間の上空、そこに目線と意思を合わせる。
左腕を開き、左足を前に突き出し踏み込む。埃が舞う。そのまま腰を捻り上半身を前に向け、鞭のようにしなやかな右腕から空に向かって爆弾が投げられ、斜めに上に直線の軌跡を描く。体重はスムーズに左足に乗る。
ニヤリとシンイチは笑う。
この投擲は必ず成功する。
《理想通りの角度、速度をマークしています。お見事です……予測通過点を七カ所に分けて表示します》
「俺の親友で将来プロになる男だぜ? 当たり前だ!!」
エックスの賞賛に、シンイチに代わってトンビが誇らしく答える。
《そうですか……では、私たちも成功させねばなりませんね。彼のスーパープレーを無駄にしないために》
「もっちろん!!」
そう言うとトンビはバスターの照準をエックスが表示した通過点の四つ目――二柱の高層ビルの間の上空に合わせる。
『カウントダウンに入ります。3……2……1……0!!』
「ブラスターファイアっ!!」
砲口が唸り輝き、プラズマをその身に奔らす魔力の光弾が放たれた。
(投げるつもりか――!?)
シンイチが投擲姿勢の入っているのを見て、あまりにも無謀すぎる解に、クラウンは動揺を隠せず、口元まで運んだコーヒーカップの取っ手を離しそうになる。
(落ちつけ、落ちつけ、落ちつけ……そうだ!! こんなイレギュラーな事態を想定して、このコントローラを用意したんじゃないか)
脳がその記憶を引き出すやいなや、クラウンはサングラスの縁にひとさし指を置き軽く押す。
ピッと音がし、レンズの内側にコンソールが表れる。コンソールには『外部コントロールで起爆しますか?』と表されている。
もちろん、と微笑混じりの小声で言い、再び縁を軽く押す。
(これで終わりか)
窓を一瞥し、テーブルに置かれた請求書を手に取る。
何人が爆発に巻き込まれ、その命を儚く散らすのだろうか? 考えれば考えるほど笑みが零れる。そして、コーヒーのお替りの回数に吹き出す。
そして、ふと、窓に眼をやり違和感を覚える。
誰もかれもが何事も起きてないかのように通りを歩いている。
クラウンは会計を済まし、慌てて店の外に出る。
直後――爆音が轟く、二度も。
すぐさま、その場所に向き直る。「なんだと……!?」
あらぬ場所で爆煙が舞っていた。
噛み砕いて説明すれば『爆発で爆発を相殺』。これがトンビの考えついた作戦だ。
空中に放られた爆弾が、予めハッキングして一時的に外部コントロールの一切を受け付けないようにし、特定ポイントを通過したらブラスターを発射、ハッキングを解除し爆発を促す。同時に魔力制御でブラスターを爆散させ……相殺。
見事……とは謂えないものの、被害を最小限に抑えることができた。幸い二柱の高層ビルには人がいなかったため人的被害も無い。が、爆風で片方のビルの窓ガラスが割れ、デスクが一時的に飛翔したのが主な被害といえるだろう。ちなみにコエルニクスのビルである。
「お~美の欠片もない爆炎だなぁ」とトンビが手で双眼鏡を作り一言。周りはに喧騒に満ちおり、爆炎を撮影する者、ネットの世界で実況する者、食事の手を止める者、「管理局!! 管理局!!」とわめき散らす者様々である。
《して、事後処理は?》という疑問にトンビは「そんなもんは考えてない」と胸を張って宣言する。だが、言葉を続けて、「まぁ、今回のケースを顧みれば……良くて、減棒、厳重注意、厳罰、ゲンコツに加えて始末書で済むだろうさ……うん、全然よくない」と予測されるペナルティのせいで段々と落ち込み、目から光が消える。
《首の皮一枚で耐えているようなものですね。これまでお世話になりました》
「ハハッ、ハハハ……」
「トンビ、大丈夫かい?」
「おうっ!?」
現実逃避に陥り、口から魂が出ているような状態のトンビにシンイチが声を掛ける。我に返ったトンビは首をブンブン振り、ぎこちなく笑う。
「うん、正直気持ち悪い」空に放られた大根を刀でバッサリと斬りおとすように言い放つ。
「ヒデェ!?」、死んでいた目が涙目になる。
「まぁまぁ、それはそれとして……トンビ」
シンイチが改まり、腰を曲げ言葉を紡ぐ。
「いろいろ心配を掛けて、ゴメン」
トンビはその場に腰を下ろして聞き入る。
「まぁ、なんだかんだで、悩み……吹っ切れたよ」
晴れた顔で、今回の事件のMVPはそう告げた。
「ってぇ~」
頭の理想的なタンコブ(三段型)を撫でながらトンビはコエルニクスのPMCカルナログ支部の廊下を歩いていた。
「トビく~ん」
「あっ……モルテンさん」
向かい側からインカムを掛けっぱなしのモルテンと呼ばれた女性が手を振って駆け寄ってきて、「おわっ!?」転ぶ。それも盛大に転がり、そのまま三回転もこなす。
またか、と呆れ気味に呟きトンビは膝を曲げ、ヒップを突き立てうつ伏せになっているモルテンに手を差し伸べる。
「いや~面目ない」
「よっと。転ぶのは別に良いけど、食器とかコーヒーを運んでいる時には転ばないでくださいよ?」
「善処します!!」とモルテンはサムズアップする。
「頼むぜ……頼みます。ところでなんかよう……何か御用ですか?」
はぁ、と溜息を吐き、モルテンは腰を曲げ、左手のを腰に当て右手のひとさし指をビッと立てる。
「もう、親しいんだから、わざわざそんな丁寧な言葉は使わなくていいの!! ドクターが帰ってきたって連絡が在ったわよ。ついさっき」
「ほんまでっか?」
「うんうん、お姉さんはウソをつかないよ~」
ていうかその言語なに? とモルテンは呟きながら、首をうんうんと縦に振る。
「OK. 今からバスに乗って、研究所に行きます……何か他には?」
う~ん、と人指し指を唇の端に当て、モルテンはしばし熟考する。本人曰く、この仕草は『女子力あっぷ』というしょうもないものから来ている仕草である。
「そうだ!! 研究所の近くのケーキ屋さんで帰りにお土産を買ってきてよ」
「いや、そのまま直帰ですから、オレ」
「ショック!!」と声を上げ、モルテンは涙目で「ここのところ、碌に甘いモノを食べてないの!! お願い!!」と続け懇願したが、トンビは「ダイエットしろ!!」と返し、バス停に急いだ。
バス停に着くとタイミング良くにバスが到着し、乗車用のドアがトンビを迎え入れる。乗り込むと同時に懐のリンクスから電子音が鳴る。
《おや、メールのようですね》とエックスが反応した。
「ああ、誰からだろ?」と返し、疑問に思いながらリンクスを取り出し、メールボックスを開く。
「シンイチからだ……」
意外、とは思わなかった。
あの後、阿修羅の形相をした警備隊長兼トンビの直属の上司、名前はゲルト=ブルーマー、彼がトンビにゲンコツを食らわし連れて行ったきり、連絡を取れていなかった。
心配かけたな~、と思い、メールを読み進めていく。ボックス(いわゆる交番)で軽く事情聴取を受け、ご両親に迎えに来てもらったらしい。その後こっ酷く叱られたらしい。
そして、最後の一文に目が留まる。
クスッ、と笑う。
《何かおもしろい事でも、トンビ?》
「ああ」とトンビは笑顔で答え、エックスが入っているアタッシュケースを開け、メールの内容を見せる。
《……来週の日曜日に休暇が貰えると良いですね》
「そうさな……」
トンビはそう言い窓に顔を向ける。淡いネオンの光が差し込んできた。
メールの最後の一文にはこう書かれていた。
『来週の日曜に試合があるから、ぜひ、見に来てよ。損はさせないからさ!!』
次の話の舞台は砂漠で、聖王教会関連の話にしようかと思います。