『魔法少女リリカルなのは』の外伝モノ    作:ヘチマール

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第2章 Retry――再起―― (エピローグ)

 

 

――エピローグ――

 

 

 クラウンは窓から広がる夜の街を見下ろしていた。

 先刻の爆発による騒ぎも今では治まり、いつもの日常と変わらず人びとが夜の街灯の下で闊歩している。

 「『何が起きても何事も変わらず、時は流れていく。それは素晴らしきことである』」

 ベルカが戦乱の世に変遷する前に生きたとある学者が残した言葉である。その後、すぐ戦乱の時代になったと伝えられている。どのような思いで彼女は生きたのだろうか? 時々そんなことを考えてしまう。

 “Pi Pi Pi ”と電子音が鳴る。

 彼は音源である通信機を取り、通信に出る。

 「はい、こちらクラウン――」

 「やぁ、ご無沙汰だね。Mr.クラウン」

 間髪入れずに女の声が耳に届いた。ちなみにお得意様の声だ。

 「どうも、お久しぶりです。ジューヌ嬢」

 紳士的な声調でクラウンは返礼し、言葉を続ける。

 「しかし……いきなり、どういたしましたかな? 私めに電話とは」

 「ハハッ、なに、そんなに畏まらなくてもいいですよ。私とあなたの仲じゃないですか」

 クラウンの畏まった口調に、ジューヌは軽い口調で返す。その後、なんともない世間話で会話を盛り上げていく。

 「……ところでMr.クラウン、あなたが魔導式建築工学を修めたと、以前お聞きしましたが……」

 そこまで言っておいて、ジューヌは一端言葉を区切る。

 「ええ、その通り。尤も……昔取った杵柄程度ですがね」

 「本当に!? それは良かった!!」

 苦笑混じりにクラウンは肯定する。彼にとってはその程度のモノでしかないものが彼女にとっては、狂喜に価するほど喜ばしいことであるらしい。

 「――ツゥ!! ジューヌ嬢、声が……」

 「あ……あぁ、申し訳ない」

 不意に耳に入ってきたジューヌの狂喜の歓声に、クラウンは耳を傷め、苦悶の声をあげる。

 「いえ。どうぞ、話に戻ってください」

 「は……はい。まぁ、ここからが本題なのですが」

 「ふむ」

 改まった態度でジューヌは本筋に入る。

 「率直に申し上げると、ビジネスを、爆破の依頼をしたい」

 「ほう……」と興味を惹かれたような声で相槌を打つ。

 「具体的に言えば、ベルカ式の……それも『シュトゥラ式』の堅牢な遺跡をね……」

 ジューヌの声が腹に野心を抱えた者のような声になる。

 「たしかにそれは、興味が無いといえば嘘になりますな」

 「でしたら……引き受けてもらえないでしょうか?」

 「こちらとしても、引き受けたいのはやまやまなのですが……」

 「……ですが?」

 クラウンが喉の奥から絞り出すように声を出す。

 「情けないことに……今、管理局に追われているんですよ、私」

 通信機越しに、ふたりは重たい沈黙に包まれた。

 だが、それを破るかのように建物の外で車が数台止まる音が小さく短く響く

 「――!!」

 嗅ぎつけられたか、クラウンはそう判断し、直ちにジューヌとの通信を切る。その際ジューヌが「ミスター、話が――」と叫んでいたが、そんな余裕は持ち合わせていなかった。

 階段のステップを踏みつける複数の足音が部屋に伝わる。

 ヘタクソめっ!! 声に出さずに毒づく。自分なら足音を完全に消して上り下りすることができるのに、と思いながら術式を奔らせ、トラップ系の魔法陣を設置していく。

 その間にも、階段を上るけたたましい音が伝わってくる。

 窓に向き直る。

 音が大きくなる。

 窓にむかって走り出す。

 丁番が勢いよくはずれ、ドアが蹴破られる、

 「こちらは時空管理局だ――!?」

 同時にクラウンが窓ガラスを破り、外へ脱出する。そして、部屋が光に包まれた。

 

 

 「ふぁ~」

 間の抜けたあくびが夜の街に響く。その主の顔はパーカーのフードに隠れていて見ることができない。が、身体つきからして15、16の少女だということはわかる。さらに、パーカーのダブルジッパーが胸の下部から顎元まで隠している。が、その一方で胸より下は大胆に艶めかしく露出していおり、それを際だたせるようにホットパンツを着ている。

 そして、ここはスラム街に近い歓楽街である。故に、

 「はぁ~い、お嬢さん」

 「どうしたの? こ~んなところで」

 痴/恥性溢れる男がふたり、壁に背中を預けた少女を囲むように甘いトーンで、少なくとも当人達はそう思っている、声をかける。

 「……」

 少女は無言で関心をふたりに向ける。

 「ナニナニ、誰かと待ち合わせぇ?」

 「……待ち合わせと言えば、待ち合わせね」

 男の盛ったような声色の質問に少女は気だるげに、かつ素っ気なく返す。

 「待ち合わせぇ!? 誰とぉ!? もしかして、パパ待ち? 血の繋がらないパパ待ちぃ!?」

 「パパじゃないわ、オジさんよ」

 「Oh!! そいつはいけないなぁ~」

 「そうそう。それにこんなところにひとりでいるのは危ないよ~」

 男たちは軽薄な調子で少女を慮るような言葉をはいていく。

 少女はうんざりしたような素振りをし、ため息を吐き、

 「……いいよ、相手してあげる。あそこの曲がり角の路地裏でいいでしょ?」

 そう告げ、顔を上げ、曲がり角を一瞥し、ふたりを見渡した。

 男たちは「しめたっ!!」と言わんばかりにガッツポーズを取った。

 少女はその様を一瞥し路地裏に向かって足を進める。男たちはその後に続いて、スキップを踏むようについていく。

 角を曲がる際、少女は唐突に足を止め、

 「そうそう。私、熱い女よ」

 フードの中から、狂おしいほど美しい緋色の眼が、ふたりの男を見ぬいた。

 

 

 「はぁはぁ……」

 クラウンは息を切らしながらも懸命に、管理局からの追手を撒くために、少々運動不足気味な足を走らせていた。

 ここまで来れば、と思い足を止める。

 歓楽街に近いスラムだった。

 「んっ……ボヘェッ!!」

 鼻に、腐った肉を焼いて冷ました感じの異臭が吸い込まれ、嘔吐感に包まれる。

 (何だこの臭いは?)

 抱かずにいられない疑問を抱き、異臭の出処と思われる場所に、サングラス越しに目をやる。

 曲がり角の路地裏だった。

 コツ……コツ……

 やけに響く靴の、おそらくヒールブーツだろう、音が聞こえてきた。

 クラウンは咄嗟に構えた。

 角から人が現れ、

 「……ん? クラウン、何で構えてんの?」

 知り合いだった。

 クラウンは構えたまま疑問に答える。

 「ふむ……てっきり管理局に待ち伏せをされたのかと思ってね、つい構えてしまったのだよ」

 「そう……」

 現れた人物――フードで顔を隠し腹部を露出させている少女は、返ってきた答えに抑揚のない声で返した。

 クラウンは少女の体をじっと見据えたまま、「今度はこちらから質問させてもらおう。何故君がここにいる? アメリ―嬢」と、問う。

 「ジューヌに言われたから。あなたを回収してと、ね」

 アメリーと言われた少女は間を置くことなく答えた。

 「回収……?」

 人間を対象に使うにしては不適切な言葉に、訝しげにクラウンは聞き返す。無論構えたままである。

 アメリーは答えを返さず、曲がり角を一瞥し、

 「ここは臭うから……場所を移しましょう……いいかげん構えを解いたら? 少なくとも何もしなければ何もしないわよ」と促す、抑揚のない声で。そして足を進める。

 促されたクラウンは渋々構えを解き、アメリーから少し離れてその後を追う。

 一刻も早く、この嗅ぎなれない臭いが漂う場所から離れたいという思いもある、がそれよりも、

 (ジューヌ嬢から恩を買ってしまったか……)

 そんな考えがふと頭によぎり、交渉でのアドバンテージを取られたことに辟易した。

 そして少女から漂う嫌な臭いにも。

 

 

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