「大倶利伽羅ラプソディ」<番外編>審神者、悲しみの本丸へ行く 作:立花祐子
さぁ、準備はできた。
可愛い子たちのいる本丸へ出発だ。
…ただ今回は、いつものように遊びに行くのとは違う。
2代目3代目4代目「大倶利伽羅」君達がいなくなった本丸に、初めて行くのだ。
彼らから、最後のメールをもらってから1週間が経ってしまっていた。だって、仕事休めなかったんだもの。
長谷部君のメールによると、いまだに本丸は悲しみに沈んだままなのだそうだ。
…そりゃ、そうだろう。
彼らを忘れろってのは無理だ。一緒に暮らしていない私ですら、3日3晩泣き続けたくらいだ。仕事先で毎日目を腫らしていくものだから、いないはずの「彼氏に振られた」ことにさせられて、みじめな慰め受けて、どんなに迷惑だったか!!
そんなことはおいといて、とにかく行かねば。少しでも、付喪神達を元気づけなきゃ。
前の2代目君が死んじゃった時みたいに、迷惑はかけられない。
今度は、私が彼らを元気にしてやらなきゃ!
……
目を開くと、長谷部君の顔が見えた。布団の上だ。
「主(あるじ)!」
嬉しそうな、長谷部君の顔。そして、武装具を外した紫の正装姿。…そういや、2代目君達のビデオレターに「風船がしぼんだような顔」だって言ってたっけ。できれば、しぼんでない顔で迎えて欲しいんだが。…ま、無理かな。
いつものように、長谷部君が私の背中に、手を差し込んで起こしてくれた。
そう、介護士がおばあちゃん起こすようなアレだ。…そうじゃなくて、両手をひっぱって欲しいんだけどなぁ。…なんて、わがままは言えない。特に今日は。
「お待ちしておりました。」
「ごめんね。遅くなって。」
私はそう言って、あらためて長谷部君の顔を見た。
…目が腫れてるな。まだ。
いつもなら、お茶を入れてもらって、光忠君の作ってくれたお菓子食べてから、本丸を散策するのだが、今日はそんな余裕はない。
「まず短刀君達のところへ行こうか。」
「はい。」
長谷部君は、丁寧に頭を下げてくれた。このばか丁寧なのもいらないんだけどな。
……
本舎から、庭を横切る。長谷部君に「第2宿舎、第3宿舎、どっちから行かれますか?」と言われて答えようとした時だ。
何か、キャーキャーと子供が騒いでいるような声が、遠くから聞こえた。
長谷部君が、眉をしかめた。
「?…なんだろう?」
第3部隊の宿舎の方だと言うので、そちらに向かう。
ん?声がなんだか楽しそうだぞ?皆、落ち込んでるんじゃなかったの?
「あいつら、まさか、気が触れたんじゃないだろうな。」
長谷部君のその呟きに、私はぞっとした。
「早く!」
私は、長谷部君を促して走り出したが、しまった…彼の機動MAXだった…。
一瞬で、長谷部君の姿がなくなっていた…。
……
ぜえぜえと息を切らしながら、なんとか奇声のしている部屋にたどりつくと、長谷部君が苦笑しながら、部屋の中を指さした。
「?」
私は、そっと中を見た。
畳の上には、布団が敷き詰めてあり、その上で短刀君たちが奇声をあげてやっていたのは…。
「枕投げ」大会だった。
目の前で枕が飛び交い、彼らの心地よい笑い声が響いている。
嬉しさのあまり「私もやるーっ!!!」と、部屋に飛び込んだ。長谷部君の「おやめください!」という言葉は、ほぼ聞こえていない。
その時、ナイスタイミングで私の顔面に枕が飛んだ。
「ぶっ!」
思いっきり、仰向けにひっくり返った。だが、敷き詰めてある布団のおかげで、痛くない。
「え?主様?」
私が起き上がると、隣にいた「薬研(やげん)藤四郎」君がそう呟いた。すると、今までの奇声がとたんに消え、一時停止ボタンを押したように、皆の動きが止まった。
沈黙、1、2、3…
「キャーーーーーッ!主様だーーーーーーーっ!!」
その声とともに、私は、薬研君の頭突きを顔面にうけてしまいひっくり返った。
「主っ!大丈夫…こらっ!お前たち!どきなさい!主がつぶれるぞっ!」
長谷部君の声がする。するが、前が見えない。薬研君の頭突きを受けた眉間がじんじんしている。たぶん、私の上で、短刀君達が折り重なっている。
あっ息ができなくなってきた。…や…ば…い…
……
目が覚めると、不安げな短刀君達の顔がドアップに見えた。
「あっ!主様、目が覚めた!」
良かった。生きてた。圧死したかと思った。
「主!良かった!」
長谷部君の声がしたが、短刀君達のドアップで彼がどこにいるのかわからない。
「ごめんなさい。主様、」
口々に半泣きになりながら、短刀達が言う。
「だいじょぶ、だいじょぶ。」
私は、自力で起き上がった。
「皆が、元気でよかったよ。」
私がそういうと、私に頭突きをかました(しつこい)薬研君が、
「3代目の遺言ですから」
と、少し沈んだ声で言った。
そうか。そういや、ビデオレターで週に1回「枕投げ」しろって言ってたな。
今日は、彼らがいなくなってからちょうど1週間…。
「そうか。それで…」
長谷部君が、うつむき加減に言った。誰?気が触れたとか言った人?
…しかし、それからがやばかった。皆が泣き出してしまったのである。
「ぅわあああああああああああああああああああ!!」
あああああ…だめ、この負の状況よくない。
「こらあああああああっ!」
私は、できる限りの大きな声で叫んだ。短刀君達が、驚いて泣くのをやめた。
「3代目の遺言に、泣けってのはなかったぞっ!!なぁ!長谷部君!」
「……」
私の無茶振りに、長谷部君が困ったような顔をした。
「さぁ!枕投げの続きをやるぞっ!!」
私がそう言いながら立ち上がると、皆の元気な声が返ってきた。
-1時間経過…
「あー夢かなったわー」
私は、放心状態で思わずそう呟いていた。長谷部君の声が、どこからかした。
「主」
「何?」
「いくらパンツスーツを着ておられているとはいえ、そのお姿は…」
「しゃーないでしょ?この子たちが、皆しがみついて離れないんだから。」
私は、仰向けで大の字になっていた。疲れて寝入ってしまった短刀君達が、腕に足にしがみついている。
(たぶん2代目君達も、こんな風にしがみつかれてたんだろうな。)
その姿を想像して、目頭が熱くなってしまった。
…だめだめ、今日は私は泣かないって決めたんだからっ!
「ちょっと私から、長谷部君が見えないんだけど。どんな状況?」
「私も同じような格好です。」
みっ見たいっ!長谷部君の大の字見たいっ!!でも見えないっ!!
私は、なんとか顔だけを上げて、長谷部君を探した。
あっいたっ!いたけど、残念、頭頂部のみっ!!
ん?あれ?ちょっと待てよ?
私はもう1度、顔だけを上げた。
ひーふーみーよーいつむーなーやー…がっ腹筋が無理!
ええい、もう1回!
ひー?ふー?みー?よー?いつむー?あーっ!腹筋がけいれんしてるっ!だめっ!
何をやっているかというと、2代目の「前田藤四郎」君と「平野藤四郎」君がいないのだ。
…もしかして、今日も彼らは、鍛刀部屋にいるのだろうか?
「長谷部君」
「はい、なんでしょうか?主」
「前田君と平野君いないよね?」
「あっ」と小さく声が聞こえて、今、たぶん彼も顔だけを上げてる。
しばらくして「いないですね」と返事が返ってきた。
……
なんとか、短刀君達を起こさないようにして起き上がり、私たちは鍛刀部屋に向かった。
起こさなかったつもりだったが、私の腕にしがみついていた「五虎退(ごこたい)」君が、寝言で「帰ってきてね」と呟いたのが、胸をしめつける。頭を撫でてやって「帰ってくるよ」と言ったが…2代目か3代目に言ったのか、私に言ったのか。
思ったより、皆の悲しみは深いなぁ…。その悲しみを拭い去ってやるのは無理というもんだろう。でも、前を向かせてやらなきゃ、このままじゃ、なんかまた違う妖魔に襲われそうだ。
長谷部君が、鍛刀部屋の戸を開いた。
いた。2人とも。そしてなんと「獅子王」君もいる。
「!主!」
獅子王君が、先に私に気が付いた。立ち上がって、丁寧に頭を下げてくれる。
あんた、ほんと成長したよね。生まれた当初は「隊長じゃなきゃ、出陣行かない」なんてごねたのに。
今は本当、体操のお兄さんばりに、さわやかだよ。
前田君と平野君が、いつの間にか、両腕にしがみついてきていた。
「主様、いつ来たのっ?」
あっやめて!そのキラキラした目で見上げんの!まぶしくって、涙がでそうだ。
「ついさっき、来られたところだよ。」
長谷部君が、代わりに答えてくれた。
「倶利伽羅君達を待ってるの?」
なんとか、涙声にならないように、私は前田君達に尋ねた。
「うん!」
「そう。でもね。さっき第3部隊の宿舎で、皆、3代目君の言いつけ(遺言とはどうしても言えなかった)守って、枕投げしてたよ。君たちも、ちゃんと参加しなきゃ。」
前田君と、平野君がうつむいた。
あっ泣くなよ?泣かないで?お願い!
「うわああああああん!」
ああああああああああああああ私のばか!
「こら、泣いたらだめだ。主が困ってるだろう。」
ああ、獅子王君!あんた、本当に変わったよ!イケメンだよ!天使だよっ!!
…でも、前田君達は、両手で涙を払いながら、黙り込んでしまった。
あー…なんて言ってやればいいんだろうなぁ…。もう帰ってこないなんて言っちゃ、可哀想だし。…それに…ねぇ、もしかすると帰ってくるかもしれな…
はっ!私まで、なんかおかしくなってるっ!?
「さぁ、お前達。今日、主と皆で食事会をするから、準備を手伝ってくれないか?」
私が何も言わないからか、長谷部君が何か苦し紛れみたいな提案を2人にしている。でも、前田君達が少しうれしそうな顔をしてくれた。獅子王君が、前田君達に手を差し出して言った。
「俺も手伝おう。野菜を取りに行くか?」
「うん!」
獅子王君が、私にウィンクして(きゃああああああああああああ!)2人を連れて外へ出て行った。
「…ごめんね。長谷部君。」
3人を見送ってから、私はため息交じりに言った。
「何がです?」
長谷部君が、目を見開いて私を見た。あっ…その表情、やめて。惚れそう。
「やっぱり私、いざとなるとだめみたい。今の前田君と平野君にも、何にも言ってやれなかったし…」
「主」
長谷部君が目を細めた。ああああその表情もやめてぇぇ!
「主は、いらっしゃるだけでいいんです。それだけで、皆元気になります。」
あー…まじで惚れる。もう惚れていいか?
「さぁ、主。次は、誰に会いますか?」
長谷部君が、首をかしげて言った。あっ、それもやめて。いや、止まれ私っ!!
私は、平穏を装って答えた。
「光忠君。…にする。」
…にする…と付け足したのは、倶利伽羅君と迷ったからだ。
倶利伽羅君は、誰よりも悲しみが深そうだから、先に会うか後に会うか迷うところなんだが、やっぱり、私も会うのが怖いのだろう。つい光忠君と言ってしまっていた。
「承知いたしました。」
長谷部君が丁寧に頭を下げて、第1部隊の宿舎に向かって歩き出した。
え?置いていくの?先に歩いちゃうの?ねぇ、腕組んでくれないの?手をつなぐとかさぁ!
ってか、宿舎に行ったら、倶利伽羅君にも会っちゃうんじゃないの?
…などと、いろいろ毒づきながら、私は小走りに長谷部君について行った。