「大倶利伽羅ラプソディ」<番外編>審神者、悲しみの本丸へ行く 作:立花祐子
「そんなことで、長谷部怒ってるのか?」
倶利伽羅君が、腕を組んで不思議そうに言った。
私は、芝生にうつぶせで大の字に寝ている。
…うううう、立ち直れない。あの笑顔が怒りの笑顔だったなんてぇぇぇぇ。
倶利伽羅君が、続けた。
「あいつ、突き飛ばして、光忠に抱き付いただけだろ?」
「ん」
「そもそも、主は長谷部だけのもんじゃないんだし。あいつが、本当にそんな事で怒ってんなら、公私混同も甚だしいよ。」
私は顔を上げて、結構いいこと言う倶利伽羅君を見た。
「そお?そう思うっ!?」
「うん。俺が、先に行って怒ってやろうか?」
「いやいやいやいやいやっ!」
私は飛び起きて、立ち上がろうとした倶利伽羅君の肩に、慌ててのしかかった。
「大丈夫。とりあえずは、一緒に食事会に行こう。」
「ああ。」
倶利伽羅君が、武装具と上着をつかんで立ち上がり、反対側の手を差し出した。
「?何?」
「手、つないでいこう。」
「!!!!」
お前、火に油そそぐ気かぁぁぁぁっ!!!
倶利伽羅君は、いたずらっ子っぽい目をして「どした?」と言った。
くーーっこいつ、確信犯だ。手ぇつないで行って、長谷部君の反応を見ようってわけか。
…よし、私も覚悟決めるぜ。
そう思い、がしっと倶利伽羅君の手を握った。倶利伽羅君が笑った。
「これじゃ握手じゃないか。」
あ、ああ…向かい合わせに手を握り合ってしまった。
「手をつなぐなら、こうだろ?」
倶利伽羅君はそう言って、私と指を絡めて握った。
「!!」
お前もかっ!!ま、悪い気はしないけど。
…2人で、宿舎に向かって歩き出した。
「主、手と足一緒。」
「あ。」
慌てて、歩きなおした。倶利伽羅君が可笑しそうに笑った。
…ま、倶利伽羅君が元気になってよかったよ。(←誰?苦し紛れに、うまくまとめてるやつ)
……
宿舎についた。
ジャージに着替えた長谷部君が、宿舎の裏で何かをしているのが、ちらっと見えた。私が思わずそっちを見ると、私の手を引っ張りながら先に行こうとしていた倶利伽羅君も、長谷部君に気づいた。
「なんでもない。行こう。」
私が、倶利伽羅君の手を引いて行こうとすると、倶利伽羅君が、その私の手を握りなおしてひっぱり、長谷部君の方へ歩いて行った。
ああああああやめてくれぇぇぇ!
「ちょっと倶利伽羅く…」
「長谷部っ!」
オーマイガッ!
ごみをまとめていた長谷部君(似合わないよぉ)が、こっちを向いた。
「何?倶利伽羅」
「お前、何怒ってんだよ。」
「????」
長谷部君が、不思議そうな顔をしている。…あれ?怒ってない?もしかして、倶利伽羅君の勘違い?あ、そうなのー?やっぱりそうなのよねぇ!はい倶利伽羅君、ということで、おうち(?)に帰ろ…
「さっきの態度といいさぁ。迎えに来たなら、ちゃんと主連れて行けよ。」
倶利伽羅君の言葉に、長谷部君がうつむいた。
いや、いいからっ!そんなこと別にいいからっ!!
頭の中を、河合奈保子ちゃんの「けんかをやめて」って歌が駆け巡る。(あのねぇ、この歌はねぇ、2人の男の子が自分のためにケンカをしててぇ…それをやめてって言ってる歌なのぉー←現実逃避)
「お前がいるから、遠慮したんだろうが。」
長谷部君が、私と倶利伽羅君の握りあってる手を見ながら言った。
あああああ…逃げ出したいっ!でも、倶利伽羅君に手をしっかり握られてどうすればいいのかわからないっ!!
倶利伽羅君が、いきなり手を強く引っ張って、私の体を引き寄せた。
「!!」
そして、驚いてカチコチに固まっている私を、長谷部君に向けて突き飛ばした。
「うおっ!」
おっさんのような声が出た。どうしてここで「きゃっ」とか可愛い声が出せないかなぁ…。
長谷部君が、私を受け止めた。
受け止めてくれてよかった。かわされたら、ゴミ箱に突っ込んでるよ私。
長谷部君は倶利伽羅君をにらむように見た。倶利伽羅君がにらみ返しながら言った。
「主のために、食事会開いたんだろ?お前らがそんなんだと、メシがまずくなるんだよ!仲直りしてから、入って来い。」
「…お前も、相変わらず不器用な奴だな。」
「ほっといてくれ。」
倶利伽羅君は、長谷部君の言葉にそう言い返すと、片手を上げて裏口から宿舎に入って行った。
中から「先食ってようぜー。主、長谷部となんか話あるってさ。」という声が聞こえた。(たぶん、わざと大声で言ってる。それに、そこ厨房だし。)
私と長谷部君は、お互い顔を見合わせた。そして、抱き合ってるのに気づいて思わずお互いを突き放した。
あれ?光忠君とは平気だったんだけど…なんだ、この気まずい感。
……
長谷部君と私は、大広間から離れた宿舎の縁側に並んで座っていた。
光忠君のように、手はつないでいない。
ただ、2人とも黙ってうつむいているだけだ。
「私は…怒ってるように見えましたか?」
長谷部君が、突然口を開いた。
いいいいきなり、本題っすか!…直球長谷部君らしいが。
「い、いやその、怒ってるだろうなぁって私が勝手に思ってて、自意識過剰だったね。ごめん!」
両目を閉じて、早口でそう謝った。(いや、謝ったことになるのか?これ)
長谷部君が、私から少し顔を反らしながら言った。
「確かに、突き飛ばされたときは、むっとしましたが。」
ああああああああそうだよねぇ!やっぱりねぇ!
「ほんと、ごめん!」
「いえ。それだけ光忠の事を心配してたんだなって思い直して。」
あーーーーなんていい子なんだぁぁ!
「その後は、きっと倶利伽羅のところに行くだろうってわかってましたから、私はここで用済みだなって思って、離れただけなんです。」
用済み?
「別に怒ってるつもりはなかったんですが、怒ってるように見えたのなら、すいません。」
「いや、長谷部君が謝らないでよ!」
そう言いながらも、さっきの「用済み」という言葉が、やけに心に引っかかってる。
長谷部君が、うつむいて言った。
「さっき、倶利伽羅のところに迎えに行く時も、本当は光忠に行ってもらおうと思ってたんですが…光忠に「長谷部が行った方がいい」って言われて…」
光忠君も、気を遣ってくれたんだろうなぁ…。皆、ごめんよ。
「でも、倶利伽羅が主と寝ころんでる姿を見て…やっと倶利伽羅、立ち直ったんだって。…あいつ、俺たちがどう慰めても、ほとんど口も利かなかったんですよ。」
「えっ!?そうなの?」
「ええ。光忠すら避けているように見えました。」
初めて知る事実に、私は驚いた。そんな風に見えなかったけど。
「あいつが大庭に行くのは、2代目達の弔いの意味もあったと思いますが、光忠と一緒にいるのが辛いんじゃないかって。」
「いや、光忠君の事は心配してたよ?気持ちを抑え込んでるって。」
「!…そうですか。じゃぁ、私の邪推だったのかな。」
長谷部君はそう言い、立ち上がった。そして、しばらく黙り込んでから言った。
「私は…1人で空回りしてるような気がするんですよ。」
「空回り?」
私の脳裏に、さっきの「用済み」という言葉が再びよみがえった。
「近侍として、この本丸を守る役目を負っているのに何もできていない。…妖魔(ウィルス)が本丸に蔓延した時も、私が何も対処できなかったために、結局2代目達が死ぬはめになってしまったし…。今だって、主に会って元気になる皆を見てたら、私は、誰一人として救えていない…。」
いかん!負のスパイラルに、はまり込みかけてる!
「長谷部君!」
私は慌てて立ち上がり、長谷部君の手を取った。
「考えすぎ!長谷部君は、ちゃんと役目を果たしてくれて…」
そこまで言ってから、私は、はっとした。
…私、今まで長谷部君に「大丈夫?」の一言も掛けてない。本丸の中で一番神経をすり減らしているのは彼なのに、「いつもありがとう」すら言ってない。
いきなり短刀達のところに行って、光忠君のところに行って…あろうことか、突き飛ばして…!
私は、長谷部君の手を離して、思わずその場にうずくまった。
「主、どうしたんですか!?」
長谷部君が、傍に座り込んだのを感じた。
…私、長谷部君がいることを、空気みたいに当たり前に思ってたんだ。彼だって、出陣中に命を落とす可能性だってあるのに、いつかいなくなるかもしれないなんて、今の今まで考えたことなかった。
「主…ちょっと、中で休みますか?」
「ごめんねぇぇっ!」
私は、いきなり長谷部君の首にしがみついた。長谷部君が驚いてバランスを崩した。
「うわ…」
次の瞬間には、私が長谷部君を押し倒したような恰好で、折り重なってしまった。
「……」
しばらくそのままになっていたが、はっとして体を上げた。長谷部君が目を見開いて、私を見上げている。
突然、宿舎から倶利伽羅君の声がした。
「ここだったのか、もうそろそろ…」
と言ってから、絶句している。
「…邪魔したな。」
倶利伽羅君はそう言って、足早に去って行った。
ひゃああああああ!違うの誤解なのっ!!私が長谷部君を襲ってるんじゃないのおおおおお!
「そろそろ…行きましょうか。」
長谷部君のその声に、私は、はっと長谷部君を見下ろした。
長谷部君が、私を避けながらゆっくりと立ち上がった。…私は正座して、そんな長谷部君を呆然と見ている。
これまでのこともまとめて、どうやって謝ればいいんだろう…。
そう思っていると、長谷部君が私を見下ろしてにっこりと微笑み、手を差し出した。
「皆が主の事を待っています。このまま私が独り占めしてたら、殺されます。」
…殺されるなんて、また大げさな。
私も笑顔を返して、長谷部君の手を取って立ち上がった。
食事会が終わってから、ちゃんと今までのこと謝ろう。
長谷部君とつないだ手を見ながら、私はそう思った。