「大倶利伽羅ラプソディ」<番外編>審神者、悲しみの本丸へ行く   作:立花祐子

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乱藤四郎を慰める

私は、今、短刀君達に囲まれて、豪華な手料理を食べさせてもらっている。

ほんと、野菜も魚も採りたてで美味しいし、豆腐とか全部手作りだから、ヘルシーだ。

 

長谷部君達、打刀、太刀は、少し離れたところにいる。短刀君達、優先というわけだ。

どうもこの後、第1部隊だけで2次会をするらしい。(もちろん、誘われてるよん)

 

「主様っ!これ、僕たちみんなで作ったの食べて!」

 

今剣(いまのつるぎ)君が、豆腐ハンバーグを丸ごと(!)フォークに刺して、差し出した。

私はあーんと口を開く。がぶりとかじって「うん、おいしいっ!」と言った。

 

いや、まじで美味しい。

実は、ここでは肉系は食べられない。手に入らないのだ。つまり、正真正銘の豆腐ハンバーグなんだが、これがなかなか食べごたえがあって、おいしい。

 

「光忠様に教えてもらったの。」

「そう。上手にできてるよ。」

 

私がそういうと、短刀君達がそろって得意げな顔になった。

 

可愛いなぁ…あーもう、たまんないっ!!

 

…ただ、1つ引っかかっていることがある。

この本丸の華である「乱(みだれ)藤四郎」ちゃんの姿がないのだ。

 

乱ちゃんは、私がここに来るといつも「お母さーんっ!」と言って、抱きついてくれるのだ。(むふっ役得ぅ)

いつ来るか、いつ来るかと、出入り口をちらちら見たりするのだが、30分経った今もまだ来ない。

 

私は、思い切って、隣に座っている「薬研」君に尋ねてみた。

 

「乱ちゃん、来ないけどどうしたの?病気?」

 

薬研君の笑顔が消えた。

 

あっ、何かやばい雰囲気。

他の短刀達の笑顔も消えてしまった。

 

「なっ何?ごめん、私なんか悪いこと言ったかな?」

「いえ。」

 

薬研君が「そんなことないです」と言って、困ったような表情をしている。

 

「あのね。」

 

平野君が、口を開いた。

 

「うん?」

「乱君ね。3代目さんと付き合ってたの。」

 

私の思考が一時停止した。

付き合ってた?何?付き合うというのは、私が思ってる「付き合う」ってやつですかっ!?彼らは「男女の仲」だったわけですかっ!?

 

えーっと、ちなみに、ここで説明しよう。

 

「付喪神」とは、あくまで神様であり、人間のような性別はない。(子孫を残す必要がないしね)ただ、戦うために男装しているだけのことなのだ。その中で、乱ちゃんは、唯一女装している、異質の付喪神なのだが…。

つまり、付き合うったってプラトニックには違いないけど、なんだ、この動揺はっ!?お母さん聞いてませんよっ!

 

「つつつつ付き合ってるって、どうしてわかるの?」

「だって…いつもいちゃついてて…」

「いちゃつく!?たとえば!?」

 

「はい、ストーーーーップ!」

 

上から、突然声がした。

倶利伽羅君だ。

 

「悪いけど、ちょっと主借りていいか?」

 

倶利伽羅君のその言葉に、短刀君達が顔を見合わせてからうなずいた。

 

「え?何?今、すごい大事な話してるんだけど…」

 

私は、倶利伽羅君に後ろから両脇に腕を差し込まれ、立ち上がらされた。

 

「えっちょちょっと!何?こらー!ひきずるなーーーっ!」

 

私はそのまま引きずられて、光忠君が開いている障子から、強制的に退場させられた。

 

……

 

何故か、私は大広間から離れた廊下で正座してる。

 

「主、まじで、乱と3代目の事、知らなかったのか?」

 

前であぐらをかいて座っている倶利伽羅君が、不思議そうに言った。

 

「知らなかった。仲のいい兄弟にしか見えなかったもん。」

 

倶利伽羅君が、足を伸ばして座りなおしながら言った。

 

「確かにな。まぁ、兄弟程度の付き合いだっただろうけど…乱の落ち込みが半端じゃなくてな。」

 

私は、目を伏せた。倶利伽羅君が、続けた。

 

「…藤四郎兄弟達が、交代で様子を見に行ってくれてるが…1週間経った今も、部屋から出てこないそうだ。」

 

まぁ付喪神だから、食べなくても生きてはいけるからいいとしても…それは、よくないなぁ。

 

「ちょっと、乱ちゃんの部屋に行ってくる。」

 

私はそう言って、立ち上がった。

 

……

 

「石切丸君?」

 

乱ちゃんの部屋の障子をそっと開いて、私は驚いた。

月明かりしかない部屋に、石切丸君の袈裟の色が見えたからだ。

 

石切丸君が、部屋の隅でうずくまっている乱ちゃんの頭に手を乗せたまま振り返り、私に会釈した。

私は、そっと中へ入り、石切丸君の傍まで行った。石切丸君が、囁き声で言った。

 

「…闇落ちしかかっています。」

「!?…」

 

私は両手を口に当て、乱ちゃんの傍にしゃがんだ。石切丸君も、しゃがみながら言った。

 

「今のところ、何とか抑えていますが、悲しみが深すぎる。とにかく、この悲しみから解放してあげないと…」

「……」

 

解放すると言っても…3代目君が帰ってくる可能性は0だし、どうすればいいのだろう…。

 

「!主っ!」

 

石切丸君が突然、声を上げた。

私の体が突き飛ばされた。壁に激突しかかったが、何かのクッションに助けられた。

 

突然、灯りがついた。

誰かが、私の体を抱きしめている。振り返ると、倶利伽羅君の顔が痛みに歪んでいた。

 

「…!…」

 

見ると、石切丸君も飛ばされていたが、光忠君に支えられている。

 

私の前には、長谷部君が守るように立っていた。

うずくまっている乱ちゃんの体から、青い炎が上がっている。そして、ぐらっと、その炎が大きく広がった。

 

「倶利伽羅返せ…」

 

乱ちゃんの声とは思えない、低い声がした。

 

「私の倶利伽羅返せ!」

「乱ちゃん!」

 

私は、倶利伽羅君を振り払おうとした。だが、強く抱きしめられ動けない。

 

「主は動くな!」

「倶利伽羅、主を外へ。」

 

長谷部君が、乱ちゃんの方を見たまま言った。

 

「何する気っ!?」

 

私は倶利伽羅君に抱かれたまま、外に出されかけたが、必死に抵抗した。

 

石切丸君が、光忠君にかばわれながら、ゆっくりと立ち上がった。

そして、刀身を出現させた。

 

「!石切丸君!」

「主!石切丸に任せよう!乱に危害を加えるわけじゃない!」

 

倶利伽羅君がそう言ったが、私は首を振った。

 

「石切丸君!悲しみを解放しなきゃ、どうにもならないんじゃなかったの!?」

 

私のその言葉に、石切丸君が驚いた目でこちらを見た。私は続けた。

 

「あなたの本体が、ただの刀じゃないことはわかってる!でも、その刀で、あの炎を断ち切っても、乱ちゃんの悲しみが消えない限り、また同じことを繰り返すんじゃないのっ!?」

「…主…」

 

倶利伽羅君の手が緩んだのを感じて、私は彼を振り払って、乱ちゃんの体に抱きついた。

 

「主っ!」

 

私の体はまた飛ばされ、襖を突き破って廊下に放り出された。

 

「石切丸!早く!」

 

倶利伽羅君の声がした。石切丸君が、刀身を抜いたのが見えた。

 

「だめっ!!絶対に斬っちゃだめっ!」

 

私は、再び飛びつくように乱ちゃんの体を抱いた。

 

「!!」

 

間一髪、石切丸君が、私の頭の上で刀を止めた。

 

「主!乱から離れてくださいっ!」

「やだっ!!力ずくで祓ったってどうにもならない!」

 

倶利伽羅君が、怒った表情で近づいてきたのを見た私は、思わず怒鳴った。

 

「誰も寄るなっ!これは命令だ!」

 

その言葉に、倶利伽羅君達が驚いたように目を見開いて、動きを止めた。

…そういや初めてだ。私が命令だなんて言ったの。そうよ、こういう時に主命というのは使わなきゃ!

 

私は、再び暴れ出した乱ちゃんの体にしがみついた。また振り払われそうになったが、今度はそうは行くかっ!何が憑りついてるか知らんが、絶対に彼女を取り返して見せるっ!!闇落ちなんてさせるもんかっ!!

 

「乱ちゃん!聞こえる!?私の声聞こえる!?」

 

必死にしがみつきながら、暴れる乱ちゃんに言った。

 

「乱ちゃん私っ!!あなたのお母さん!わかるっ!?」

 

そう言うと、乱ちゃんが動きを止めた。

 

「!…」

 

「お母さん」の言葉に反応した!…そうか…よおし、わかったぞっ!

 

「乱ちゃん、遅くなってごめん!お母さん帰ったよっ!!」

「…お母さん?」

「そう、お母さん!私の事、思い出して!」

 

乱ちゃんが、顔を上げて私を見た。大きな瞳がまっすぐ私を見ている。

瞳の色は、変わっていない。綺麗な乱ちゃんの瞳の色だ。

 

「…お母さん?」

「そう!思い出した?」

 

私は息を切らしながら、微笑んでそう言った。

 

「帰るのが、遅くなってごめんね。」

 

そう言って、乱ちゃんの頭を撫でた。すると乱ちゃんの大きな瞳から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ出した。

悲しみの放出までもう少しだ。私は、乱ちゃんの顔を両手で包んだ。乱ちゃんがぽろぽろと涙を零しながら、震える声で言った。

 

「お母さん…倶利伽羅が…」

「うん。」

「倶利伽羅がね…」

「うん。知ってる。…遠くに行っちゃったんだよね。」

「…そう…」

「乱ちゃんに何も言わないで、行っちゃったんだよね。」

「…うん…そう…」

「ごめんね。お母さんも、どうしようもなかったの。ほんとごめんね。」

 

乱ちゃんが、嗚咽をもらしはじめた。

よし泣けっ!!

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

私は、声を上げて泣き出した乱ちゃんの体を、強く抱きしめた。

 

……

 

私は、膝に乗せた乱ちゃんを背中から抱いて、宿舎の縁側に座っている。

石切丸君達には、大広間に戻ってもらった。

 

乱ちゃんは、もう落ち着いているが、時々しゃくりあげては涙を払っている。

そして突然、3代目君の事を話し始めた。

 

「倶利伽羅が初めてだったの。私に「どうしてそんな格好をしてるの?」って聞いたの。」

「え?そうなの?」

 

私は驚いて、乱ちゃんの顔を覗き込んだ。

 

「うん。誰にも聞かれたことなかった。」

 

そういや、私も聞かなかったな。その姿で生まれてるから、本人に聞いても仕方ないって思ってたから。

乱ちゃんが、続けた。

 

「それで私、倶利伽羅に言ったの。藤四郎兄弟の中で私だけ「乱刃」なんだって。そしたら、びっくりしてた。」

「!…そう…」

「それで「僕は、僕自身が嫌いだ」って言ったの。そんな事、誰にも言ったことなかった。」

「ああ、だから3代目君、ビデオレターで「自分を好きになれ」って言ってたのね。」

「うん。」

「そっかぁ。3代目君は、乱ちゃんの事を一番わかってくれたんだね。」

「うん!」

「ビデオで「自分を好きになる事、約束だぞ」って言ってたよ。守らなきゃ。」

「…うん。すぐには無理だけど、頑張る。」

「そうだね。急がなくていいよ。」

「うん。」

 

私は、乱ちゃんの体を抱きしめた。

3代目君も、今の私と同じ気持ち…自分が守ってあげなきゃって思ってたんだな。

…だったら、逝くなよなー。こんな、幼気(いたいけ)な弟(妹?)残してさー。

 

……

 

私は、乱ちゃんと手をつないで、大広間に入った。

 

「?」

 

何か、広間の中は沈んでいた。石切丸君は机に頭を伏せているし、その傍にいる倶利伽羅君達もうなだれている。

短刀君達もさっきの元気はなく、うつむいている。

 

「!…乱…!」

 

薬研君のその声に、短刀君達全員がこちらを見た。

私は微笑んで、乱ちゃんに向いた。

 

「皆、心配してたよ。あっち行こうか。」

「うん!」

 

私は、短刀君達のところへ乱ちゃんを誘導した。

 

「お腹すいた!」

 

乱ちゃんが、薬研君の隣に座って無邪気に言った。短刀君達がとたんに笑顔になった。

 

「乱、これ食べろよ!僕たちが作ったんだよ!」

「え?そうなんだ。食べるっ!おいしそう!」

「だろー?」

「でも、このハンバーグ形がばらばらだね。」

「それがいいんじゃないかー。手作り感満載だろ?」

「あははは!」

 

すぐに打ち解けた短刀君達と乱ちゃんのその姿に、私はほっとして石切丸君達の方に振り返った。

チーーーンという、鐘の音がしたような気がする。

 

「…落ち込んでますな…」

 

彼らは、うなだれたまま動かない。…今度は、この子たちが闇落ちしそうだ。

 

……

 

石切丸君、光忠君、私、長谷部君、倶利伽羅君、で、途中参加の獅子王君(ずっと厨房で洗い物をしてくれてたらしい。すまん。)の順番で宿舎の縁側に座り、皆で月が輝く夜空を見上げている。

 

短刀君達は、大広間で寝入っている。

本当なら、それぞれの部屋へ運ぶのだが、乱ちゃんが薬研君と手をつないで寝ていたために、タオルケットだけ皆それぞれに掛けてやり、そのままにしておくことにした。

 

「乱は、家族が欲しかったんだな。」

 

ぽつりと、倶利伽羅君が呟くように言った。私が「そういうこと」と答えた。

 

「藤四郎兄弟の中で、彼女自身、孤立してるように思ってたんだろね。」

 

石切丸君が、うつむいた。

 

「でも、これでもう大丈夫よ。本来の兄弟達のところに戻れたんだから。」

 

私の言葉に、隣にいる長谷部君がうなずいて言った。

 

「今回は…本当に主には感服しました。」

「あらぁ、今回だけなの?」

「えっ?」

「いつもは、どう思ってたのよ?」

 

獅子王君と倶利伽羅君が、笑いながらこちらを見てる。長谷部君がしどろもどろに言った。

 

「いえ、その…。いつも尊敬はしていますが…」

「尊敬だけー?ショックー!」

 

私がわざとらしくそう言うと、反対側に座っている光忠君が、ぽんと私の腕を叩いた。

 

「長谷部を、いじめないで下さい。」

 

光忠君が、そう言って笑った。石切丸君も笑顔で私を見ている。

私は、長谷部君に向いた。長谷部君は、頭を抱えてしまっている。

 

もうほんと、長谷部君は生真面目なんだからっ!イジリがいがあるったらありゃしない!!はい「へんたーい止まれっ!いちにっ!」←(正しくは「変態」ではなく「全体」止まれです。)

 

「さ、そろそろ2次会始めようぜ。」

 

倶利伽羅君が、立ち上がりながら言った。私も「そうだね」と同意して立ち上がった。

 

「ねぇ!月が綺麗だからさー!障子開けたまま、飲もうよ!」

 

私がそう言うと、一緒に立ち上がった光忠君と長谷部君が、苦笑した顔を見合わせた。

 

「?何?どうしたの?」

 

私が2人を交互に見ながらそう聞くと、光忠君が答えた。

 

「約1名、庭に転がり落ちる方がいらっしゃるもので。」

「?」

 

…誰それ?

考えていると、部屋の中から倶利伽羅君の声がした。

 

「そん時は、また長谷部にお姫さんだっこしてもらえよ。」

「????」

 

長谷部君を見ると、顔が真っ赤になっている。

…ちょっと待った。それってまさか…

 

「えっっ!?私、いつ長谷部君にお姫様だっこしてもらったのっ!?」

 

私がそう言うと、皆に大笑いされてしまった…。

 

 

 

 

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