「はい、それじゃあ第一回ヤクザを追い払おう作戦会議ー」
道具屋で1日過ごしたが結局誰も来なかったためもう1日ここにいることになった夜月たち、奴らが来ない間にどうやって追い払うかを考えようという名目のもと、彼らは案を出し合った。
「ぶん殴って追い払うのはダメなのか?」
「あんた話聞いてた?あの店主は怪我人を出すなって言ってたのよ」
「霊夢、魔理沙が人の話を聞かないなんて今に始まったことじゃねぇだろ」
「確かにね」
「お前らは私に喧嘩を売ってるのか?」
こめかみをピクピクと動かす魔理沙に対して悪びれるそぶりも見せない2人は話を先に進めていく。
「さてと、怪我人を出すなってことは手荒な真似はできないって事よね」
「でも相手はヤクザだぜ?どうするんだよそんなの」
「そうだな、俺たち3人の力じゃ多分無理だ」
「じゃあどうするのよ?」
「そうだな……使えるもんはなんでも使わないとダメだな」
にやり、と夜月笑った後、2人に自分の作戦を話し始めた。
◆◆◆
「いらっしゃいませ」
「おう!邪魔すんぜ旦那さんよぉ」
道具屋の中に明らかに普通の人間ではない、厳つい風貌をした2人の男が入ってきた。
「きょ、今日は何をお探しでしょうか………」
「いやいや、今日は買い物に来たんじゃねぇんだよ……」
そう男は言うと、店主の目の前に包丁をがんっと突き立てた。
「お前のとこで買った包丁全く切ねぇんだよ!てめぇ、不良品なんじゃねぇのかこれ!?」
「おのれどう落とし前つけてくれるんじゃワレェ!!」
「そ、そんな筈なのですが……」
「なんじゃ?兄貴がイチャモンつけてるっちゅうんか!?」
この2人の厳つい自分こそ、この道具屋に嫌がらせをしてくるヤクザ者の下っ端たちだ。商品にクレームをつけてはこうやって店の扉を開き道具屋の不評を大声で叫ぶのだ。
「これで何回目だ?てめぇの店です買ったものが不良品だったのは!!不良品しか売れねぇならな、こんな店畳んじまえ!」
「そんな………………」
「おい!お前ら!」
店主に詰め寄る2人の後ろから、可愛い声が聞こえてきた。ヤクザ2人が振り向くと、そこには白黒の服を着た金髪の少女がいた。
「包丁が切れないなんかお前が料理下手くそなだけだろ!!店のせいにするんじゃないぜ!」
「なんやクソガキ!!大人の話に入ってくんな!」
「ふざけんな!お前らなんて子供と変わんないぜ!」
「なんだとクソガキ……おい」
「へい、オラァ!黙らんかいこのガキァ!!」
舎弟と思わしき男が金髪の少女をどんっ、と突き飛ばし、その少女は店の棚に頭を思い切りぶつけてしまう。
「ちっ、可愛げのないガキやで」
「お客様!」
「………ひっく、ふぇぇぇぇぇん!」
すると数秒後、金髪の少女はいきなり泣き出してしまった。しかもかなり大きな声で。
「な、なんやこのガキ!!自分から喧嘩売っといて泣きおった!」
「おい!いいから黙らせろ!」
「うるさいわねぇ、なんの騒ぎよ…………」
「あ、巫女様…………」
いかにも眠そうに店の奥から姿を見せたのは赤い大きなリボンを頭につけた黒髪の少女だった。その姿は人里に住む人間ならば絶対に知っているであろう人物、博麗の巫女、博麗霊夢だった。
「な、なんで博麗の巫女がこんなところに………」
「ああ?なんでもいいでしょ……ってなんで泣いてるのよ魔理沙」
霊夢が少し駆け足で金髪の少女、魔理沙に駆け寄ると、魔理沙は泣きながら話し始めた。
「こい、つらが、店の人に絡んでたから……注意したら、突き飛ばされたのぜ……ひっく」
「あんたねぇ、自分から喧嘩売っといて負けてんじゃないわよ………で?魔理沙の話は本当なのかしらそこの2人」
「し、失礼ですが巫女様とそのガキは……」
「知り合いよ、一応ね」
2人の顔が青ざめていく、当然だろう。代々幻想郷を守ってきた博麗の巫女の知り合いを泣かしたとあれば人里での立場はない。
「おっす旦那、今やってるかい?」
さらにそこへ黒髪の男が店へと入ってきた。
「えっと……どういう状況で?」
「いま取り込み中じゃ!出て行けや!」
「あっ、巫女様じゃないですかい!?どうなさったんですか?」
「そこの2人が私の知り合い泣かせたのよ、しかもクソガキ呼ばわりして謝りもしない」
「本当ですかい!?こいつぁてぇへんだ!おーいみんな!この2人が博麗の巫女様のお友達を泣かせて謝りもしねぇらしいぞ!!」
そう黒髪の男が言うと、人里の人間がぞろぞろと店の前へとやってきた。
「な、なんだお前ら!見せもんじゃねえぞ!」
「なにみとんじゃ!消えんかいゴラ!」
見る見るうちに人は集まってきてヒソヒソと何かを話し始めていた。そして、彼らを見る目は何かを咎めるような鋭い視線だった。
「くっ、おい!ずらかるぞ!」
「覚えとけよボケコラカスゥ!!」
そう言ってやくざ者の2人はどこかへと走り去っていった。
「ふぅ、帰ったみたいだな」
「あんた本当に泣いてたんじゃないの魔理沙」
「泣いてねぇぜ、あんな奴ら本当ならボッコボコにしてやるのに、なんで私が泣き役なのぜ………」
そう、これらは全て夜月が仕組んだ作戦だったのだ。
武力を使えないなら民衆を使う、ということだ。
まずなにも知らない普通の少女に扮した魔理沙にヤクザ2人に食ってかからせ、そして突き飛ばされる。そして魔理沙はその衝撃で泣く演技をして奥にいた霊夢が登場する。
博麗の巫女の知り合いを泣かしたとあればヤクザでもただでは済まない。しかし店の中だけでは意味がない。
そこで外にあらかじめ待機していた通行人扮する夜月が大声でことの詳細を他の人間に知らせて精神的に攻撃するという作戦を立てたのだ。
「とりあえずあの下っ端はしばらく来られねぇだろうな、他のやつが来るかもしれねぇからとりあえずもう1日待機してていいか?」
「はい、ありがとうございます………」
◆◆◆
その日の夜、この店の店主である
「邪魔するぜ」
その時、1人の老人が入ってきた。
その老人に好蔵は目を張る。そこにいたのは現在嫌がらせを続けている矢筒組の組長、矢筒然十郎だからだ。
「久しぶりだな好坊、2年振りだな、元気にしてたか」
「然十郎のおじさん…………」
然十郎は棚に腰を下ろし、好蔵を見据える。その目はどこか睨んでいるように思えた。そう考えながら恐る恐る、好蔵は重い口を開いた。彼にはどうしても聞かなければいけないことがあるのだ。
「どうして……どうしてうちに嫌がらせなんかするんだよ……」
「……………」
「どうしてだよ!昔はあんなに優しかったのに………どうして!」
然十郎はかつて、好蔵の前代の店主である八郎の親友だったのだ。
2人の仲はとても良く、然十郎もよく店に品物を買いに来たり立ち寄ったりしていた。その頃は好蔵はにもとても優しかったのだ。
だが八郎が病死してから、すべて変わってしまった。
「教えてやろうか好坊、そりゃあてめぇが弱いからだ」
「弱い……………」
「そうだ、てめぇじゃこの店は護れねぇ、潰れる前に自分から畳んじまいな、そうじゃなきゃ俺たちが潰す」
「そんな…………………」
好蔵は唖然としてその場に立ち尽くしてしまう。
声がうまく出ない、頭が真っ白になる。店を潰す、それは彼にとってお前を殺すと言われているようなものだからだ。
「俺は弱い奴ぁきれぇなんだ、じゃあな。次は本気で潰すぞ……それが嫌なら店をたたむか、俺を潰しに来な」
そう言って然十郎は店から出て行った。
店には膝をつく好蔵1人だけが残されてしまう。
そして誰もいなくなったからか、彼の目からポツリポツリと涙が溢れてくる。どうして変わってしまったのだろう、父が死んだからなのだろうか?それとも自分が不甲斐ないからなのか、もう何もわからなくなってしまった。
「偉そうなジジイだな」
ふと、声がする方を見ると、夜月が眠そうにその場に立っていた。
「聞いていらしたんですか」
「まあな、それで?どうするんだよ」
「…………どうすれば……いいんでしょうか……」
「そんな事しらねぇよ」
夜月は突き放すように吐き捨てた。
これは自分の選択ではない、そういうかのように。
「……父はとても強い人でした。腕っ節ではなく、心がとても強くて、お客様には優しく丁寧に、でも輩には毅然とした態度で接していました。でも私はてんでダメ、昔から父に怒られていたんです」
自分は泣き虫で、人には常に下手に出てしまう。
とても臆病で情けない人間なんだと、彼は自傷気味に話した。
「私には、店主は向いてないのかもしれません……せいぜい、売り子が限界なんですよ、本来の私なんて」
「じゃあ畳むのか、店」
「……その方がいいのかもしれませんね、それなら……先代達の顔に泥を塗る事も無いですし……」
「まあ報酬払ってくれるならなんでもいいけどよ、一つだけ聞かせてくれや」
夜月は、その疑問を好蔵に問いかけた。
「なんで俺に依頼してきたんだ?」
「えっ?」
その問いに、好蔵はあっけに取られてしまう。
「結局店を畳むつもりだったんなら、高い金払って俺を頼る必要なんかなかっただろ?」
「それは………………」
「守りたかったんじゃねえのか?この店を」
ドクンッ、と心臓が脈打つのを感じた。
「向いてなかったとか、自分には限界だとか言う前に、お前はこの店を守りたかったんだろ?継ぎたくなかったら継ぎたく無いって言えば良かったじゃねぇか、そうは言えなくても、やっぱり自分には無理だったってすぐやめれば良かったのに、お前は二年間この店をしっかりと守ってきたんじゃねえかよ」
夜月の言葉を聞くたびに、好蔵は胸が熱くなっていくのを感じて思わず手で押さえてしまい目から涙がさらに溢れてきた。
「親父の代と変わらず人気の店として継続させるなんて、嫌々やってたんじゃ絶対にできねぇよ、まあ俺の憶測だけどな」
「…………………そう、なんです」
震えるようなか細い声で、好蔵は声を放った。
「守りたかったんです、継ぎたかったんです!大好きな親父が働いていたこの店を、この店を継ぐのが俺の夢だったんです!そしていつか、この店で働いてる姿を親父に見せたかった………でも……親父は死んでしまった……まだ話したい事があったのに、教えて欲しい事がたくさんあったのに!!!!!」
好蔵は崩れ落ちて、目から大量の涙を流し始める。
急過ぎる父の死、まだまだ親子として一緒に過ごして行きたかった。
でもそれは叶わず、自分はこの店を守らなければならなくなってしまった。父の死を悲しむ暇さえ無いくらいに
「だから、だから…………」
「ならどんな手使ってでも守り通せよ」
急に、空気の感じが変わっていくのを好蔵は感じた。
そして……先ほどまで気だるそうだった声が急に威厳のある、凛とした透き通る声へと変わっていたのだ。
「店なんて経営した事ねぇから詳しい事はわからねぇが、そこに守りたいもんがあるなら歯食いしばってでも立ち上がれよ。それを脅かすものと戦え。それが親しい人間だったとしても」
気がつくと、彼の眼の前に夜月が立っていた。
「ちなみに料金はお前が店を畳もうが畳むまいがきっちりもらうぞ、商人なら得な方ぐらいわかんだろ?」
夜月はそう言って好蔵に手を伸ばす。
「店を畳んで金を出すか、店を守るために金を出すか、お前はどうするんだよ。この店の店主として、この店のためになる方を、自分の選びたい方を選びな」
「………………お願い……………します」
好蔵は、彼の手をとってこう言った。
「この店を…………守ってください」
それを聞いた夜月は、笑顔で言い放つ。
「お前の願い、この俺が聞き届けた」
夜の道具屋に、凛とした声が鳴り響いた。
まあゆっくり頑張っていきます