路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第十話

ミクロが強化種のオークを討伐して、ティヒアが【ザリチュ・ファミリア】から改宗(コンバージョン)してから数日が経過していた。

「なるほど。私がいない間にそのようなことがあったのですね」

そして、18階層から帰還したリューは全ての事情を聞くと深く溜息を吐いた。

「倒せたからいいものの相手は強化種。今回は運が良かったと思いなさい」

「はい」

正座しているミクロとティヒアにリューは説教をしていた。

無茶をしないという約束を見事なまでに破ったミクロ。

だが、事情が事情なだけにこれ以上の追求はしなかった。

どちらかと言えば問題があるのはティヒアの方だった。

ティヒアが持っていたスキル【英雄探求(イヤロス)】はもうティヒアの背中には刻まれてはいない。自分が求めている英雄が見つかり、そのスキルが消滅したとアグライアは推測したがそれ以前に多くの冒険者を巻き込み、ミクロに危険な目に合わせたティヒアをリューは許すつもりはなかった。

「ティヒア・マルヒリー。私は貴女を仲間としては認めない」

「……」

きついその言葉をティヒアは甘んじて受け入れた。

それだけのことをしたことを自覚しているからだ。

だから、どのような罰でも受けようと下されるであろう罰を黙って待っていた。

「ですから行動で示しなさい。貴女が仲間に相応しいのかどうか」

「―――ッ!?」

リューに言葉に耳を疑ったティヒア。

「私も貴女と同じようにミクロに救われた身だ。だから私はこれ以上何も言いませんが何も罰せられないのはきついでしょう」

リューもティヒア同様にミクロに救われた。

何も罰せられない辛さをリューは知っているからこそ罪悪感に潰れそうになっているティヒアにチャンスを与えた。

仲間として【ファミリア】に認められる。

それがティヒアに課せられた罰だった。

「……謹んでお受けします」

罰を課せられたティヒアはそれを受け入れた。

「話は終わったかしら?」

その光景をアグライアは暖かい目で見守っていた。

「はい、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」

「別にいいわよ。それよりも二人にも見て欲しいのよ。発現したミクロの『発展アビリティ』を」

発展アビリティ。

Lv.が上がる都度【ステイタス】に追加される可能性がある基本アビリティとは毛色が異なる特殊的(スペシャル)あるいは専門職(プロフェッション)の能力を開花・強化させる。

その発展アビリティが五つもミクロは発現していた。

『狩人』

『耐異常』

『治力』

『破砕』

『堅牢』

「「………」」

発現した発展アビリティが記されている用紙を凝視してしまうリューとティヒア。

『狩人』と『耐異常』まではまだいい。

問題はその後の三つだ。

元【アストレア・ファミリア】であるリューでも聞いたことのない発展アビリティをミクロは三つも発現させていた。

「アグライア様。間違いというのは……」

「ないわね」

驚きのあまり間違いだと思ったティヒアの言葉をアグライアは即答する。

「………」

驚くリューとティヒアに対してアグライアはミクロが発現させた発展アビリティについてある程度の推測は出来ていた。

路地裏での過酷な生活とダンジョンでのモンスターの戦闘に加え、リューとの模擬戦。

呪詛(カース)にスキル。

全てを考慮すればまだわからなくもない。

『治力』は自然治癒力を高める。

『破砕』は攻撃の威力を上げる。

『堅牢』は耐久に特化。

あくまで推測の効力だけど、前代未聞の発展アビリティに困惑するアグライア達はそれぞれの意見を述べた。

「私は『破砕』がいいと思う。どのような効力があるのかわからないけど、もし攻撃の威力を上げるものならミクロのパワー不足を補えるかもしれない」

最初に述べたのはティヒア。

強化種のオークとミクロの戦闘をまじかで見たティヒアはパワーや攻撃力が弱いミクロの短所を補える可能性を持つ『破砕』を選んだ。

「ミクロは『狩人』を選ぶべきだ。どのような効力なのかわからないより、確実で堅実の『狩人』の方が今後の為になるはずだ」

リューは確実と安全性を考えて『狩人』を選択。

一度倒したモンスターの同種に対して能力値(アビリティ)が強化される。

これから中層のモンスターと戦うのなら必要不可欠とリューは言った。

「……私はミクロの好きなのを選べばいいと思うわ。貴方が発現させたものですもの」

アグライアは発現させたミクロ本人にそれを選ばせる。

「………」

ティヒアやリューの意見を入れた上で考えるミクロは選んだ。

「俺は『堅牢』を選ぶ」

ティヒアやリューが推薦したものではなく『堅牢』を選択したミクロ。

ティヒアとリューは何か言おうと思ったが選ぶ権利はミクロにある以上何も言わなかった。

「わかったわ。それじゃもう一つの問題を解決しましょうか」

全員の視線がテーブルに置かれている魔導書(グリモア)へと向けられる。

神ザリチュが渡したその魔導書(グリモア)をまだ誰も読んではいない。

「リュー、読む?」

エルフであるリューに魔導書(グリモア)を勧めるミクロだがリューは首を横に振った。

「それは貴方が読むべきだ」

「私もミクロが読んだ方がいいと思う。ザリチュ様もそのつもりでミクロに渡したと思うから」

「そうね、ミクロが読むべきね」

ミクロが読むべきだと押すアグライア達にミクロは了承してソファに座り魔導書(グリモア)を開くとミクロの意識は本の中へと引きずり込まれた。

気が付くとミクロは全体が黒い空間へとやってきた。

『さぁ、始めようか』

そして、ミクロの前に現れたのは白いもう一人のミクロ。

『俺にとって魔法って何?』

便利な力。

魔力や精神力(マインド)を使用して行使する超常の力。

『俺にとっての魔法って?』

わからない。

俺はどのような魔法を望んでいるのか。

どんな魔法がいいのか想像できない。

『俺にとって魔法ってどんなもの?』

わからない。

リューやティヒアの魔法だけじゃなくダンジョンで他の冒険者の魔法を見たことはあるけど漠然としすぎて、どんな魔法が自分に適切なのかわからない。

『魔法に何を求める?』

………俺には生きる気力も未来も何もなかった。

気が付けば路地裏生活で俺は必死に生きた。

でも、壊された。

体も、心も、未来も、希望も何もかも他人に壊された。

だから壊された俺はされてきたように誰かを壊したかった。

その本質や望みが【ステイタス】として現れたと思う。

『それで?』

でも、こんな俺にアグライアは生きる未来を教えてくれた。

世界の広さを、美しさを教えてくれた。

俺にとってアグライアは光だ。

何もない暗い世界へと光を当てる希望の光。

『それが俺の求める魔法?』

いや、まだある。

もう一つは風だ。

リューのように速く、強くなりたい。

誰かの為に怒り、笑い、涙を流す。

誰かを守る風になりたい。

希望の光を照らしてくれたアグライアのように誰かの光になりたい。

リューのように誰かを守る風になりたい。

『欲深いな』

ああ、その通りだ。

今までの俺を否定する気はない。

光になれても、守る風になれても。

俺は壊したいという衝動は一生消えることがないと思う。

それでも、アグライアに出会って、リューに教えて貰った。

俺は生きていいのだと。

死ななくていいのだと。

だから、俺は風のように速く駆け出して未来に向かって生きて行きたい。

『ああ、それこそ(おまえ)だ』

白い俺は、最後に微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミクロ・イヤロス

Lv.2

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

堅牢:I

 

Lv.2となったミクロに新たに刻まれた【ステイタス】。

そして、魔導書(グリモア)により手に入れた新たな魔法をミクロは発現した。

 

《魔法》

【フルフォース】

・付与魔法。

・光、風属性。

・詠唱式【駆け翔べ】

 

「これがミクロの魔法なのね……」

【ランクアップ】を終えたアグライアが目にしたのは魔導書(グリモア)により手に入れた魔法。

光と風。二つの属性を持つ付与魔法。

「光と……」

「風ね……」

アグライアとリューは互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。

ミクロが手に入れた魔法。

ミクロの望みと本質がどのようなものわかってしまったからだ。

ティヒアも少し遅れてそれを理解すると悔しそうにしていた。

「やっぱり遅れてきた分不利ね……」

「?」

耳と尻尾を悔しそうに震わせるティヒアにミクロは首を傾げていた。

「さて、それじゃ私はそろそろ『神会(デナトゥス)』に行ってくるわ」

神会(デナトゥス)』。

一部の神々が退屈しのぎに企画した一種の集会。

そして、神が子供達に二つ名を決める集会。

そこで『痛恨の名』が子に与えられる。

「必ずいい二つ名を手に入れてみせる」

気合を入れながら『神会(デナトゥス)』が開かれる摩天楼(バベル)三十階へと向かうアグライア。

そのアグライアを見送るとミクロ達は早速ダンジョンへと向かった。

【ランクアップ】した体の調子を確かめる為にダンジョン12階層へとやってきたミクロ達の前に早速モンスターが現れた。

「ミクロ。まずは貴方の好きなように動いてみるといい」

「わかった」

ナイフと梅椿を手にすると同時にミクロはモンスターに突っ込んだ。

速いと実感しながらモンスターを倒しつつ【ランクアップ】したんだなと思うミクロは次に新たに手に入れた魔法を試してみることにした。

「【駆け翔べ】」

超短文詠唱を唱えて魔法の引金を引いた。

「【フルフォース】」

魔法を発動させると白緑色の風がミクロを纏う。

その風は周囲をも照らすほど輝いていた。

そして、風を纏ったミクロの姿は消えた。

それと同時にモンスターが次々と倒れて行く。

その動きは閃光のように速く、鋭い。

魔法を発動させたミクロは瞬く間に周囲のモンスターを殲滅した。

「これがミクロの魔法……」

【ランクアップ】した身体能力に光と風の二つの属性を持った付与魔法。

これがミクロの新しい力。

驚愕するリューとティヒアを差し置いてミクロは新たに出てきたモンスターまでも狩り尽した。


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