「………」
地上への帰還に準備を進めている中でミクロは
表面には
キュオの
試しに左眼の嵌めてはみたが特に変化はないことからミクロが持つ『シリーズ・クローツ』とは違うことだけが判明した。
ミクロは
詳しいことは地上に戻ってからと心に留めて団員達に天幕の回収を指示する。
「あの、団長……」
「どうした?」
どこか居心地が悪そうに声をかけてくるベル。
その背後にはヘルメス達と申し訳なさそうに俯いている命達。
それを見てベルが何を言いたいのか察した。
彼等とも一緒に地上に帰還したいのだということに。
「【タケミカヅチ・ファミリア】。俺はお前等を許したわけじゃない」
ベル達を危険な目に合わせたことをミクロは許したわけではない。
主神であるアグライアの指示によって処罰だけは勘弁しただけ。
その事を言及するミクロ。
「ベル達に貸し一つだ。それで同行を許可する」
「は、はい!!」
償いとしてベル達に貸しを作らせて貸しを返せば許すと言外で告げるミクロに命達は返答。
無事に同行を認められたことに安堵するベル。
「ベル、アイズ達には挨拶したのか?」
「はい!」
既に別れの挨拶を済ませていたベル。
ゴライアスは既にミクロが倒している今は万全に近い【アグライア・ファミリア】が先頭に立って地上に帰還することになっている。
アイズ達はその次の為、次に会えるのは地上になってしまう。
「ミクロ。帰還の準備が終えました」
「わかった。全員!地上に帰還する!」
ミクロの号令で17階層に向けて前進する【アグライア・ファミリア】。
共について行くヴェルフや命達。
中層からのモンスターをセシルやベルを中心に幹部以外の団員達に任せてミクロ達は無事に地上に帰還した。
二週間ぶりの地上の光を全身に浴びながら
正門の前には主神であるアグライアを始め団員達がミクロ達の帰りを待っていてくれた。
「お帰りなさい」
その言葉を微笑みながら言うアグライアにミクロ達は一斉に唱和する。
「ただいま」
【アグライア・ファミリア】の長い『遠征』は終わった。
『遠征』から帰還後の夜は全員、泥のように自室のベッドで眠りについたその次の日の朝。
ミクロは二週間ぶりの自室のベッドで目を覚ました。
二週間ぶりにアイカに抱きしめられながら目を覚ましたミクロはアイカを起こさないようにどかして部屋を出て行く。
魔石やドロップアイテムの換金や
『遠征』メンバーに選ばれた団員達は今は束の間の休息を満喫している。
その中でミクロ一人、中庭に足を運んで一人で鍛錬を始める。
全員無事で帰って来れて、収穫も手に入れた【アグライア・ファミリア】は更に名が上がることは明白。
しかし、ミクロに名誉などどうでもいい。
へレスに敗北した。
あれは完膚なきまでの敗北だったミクロに休む暇などない。
一秒でも早く強くなってLv.7に到達しなければならない。
敗因は単純な経験の差と実力差。
少しでもそれを埋めるためにミクロは自己鍛錬を行う。
「もっと……強くならないと……」
へレスには勝てない。
ミクロは朝日が顔を出すまで自己鍛錬を行った。
それから朝食後の【ステイタス】の更新。
ミクロ・イヤロス
Lv.6
力:D532
耐久:C676
器用:D597
敏捷:C602
魔力:C642
堅牢:D
神秘:F
精癒:E
適応:F
魔導:H
久々の【ステイタス】の更新。
新しい魔法、スキルの発現がないことを確認して燃やす。
ミクロ以外の団員達も早速と言わんばかりに【ステイタス】を更新して貰い新しい魔法、スキルが発現した者は喜んでいた。
「シッ!」
「やった!」
その中でリュコスとティヒアの叫び声が轟いた。
二人は今回の『遠征』で【ランクアップ】した。
「これで……」
しかし、【ランクアップ】したのは二人だけではないリューもついにLv.6に【ランクアップ】した。
ミクロの隣に立てたと歓喜するリュー。
「よっしゃああああああああああああやってやったぜええええええええええええええええええええええッッッ!!」
ひと際歓喜の声を上げるリオグもゴライアスの戦闘で【ランクアップ】した。
今回の『遠征』で【ランクアップ】をした者や新しい魔法、スキルが発現した者は多く【アグライア・ファミリア】はますます強くなることが出来た。
第一級冒険者が三人になって第二級冒険者が増えてきた。
「………」
【ファミリア】が強くなったことに素直に嬉しく思うミクロだが自分は弱いことを思うと浮かばれない。
今以上に強くなるにはどうすればいいのだろうかと悩む。
Lv.6のミクロにとって現到達階層で得られる【
更にはミクロは団長という立場もあり、導く側。
自分の【
それでもミクロがLv.6になってCクラスアビリティが三つあるのはオッタルや
「………」
もっと強くならないといけないミクロにとってどうすれば今以上に強くなれるのかはわからない。
とりあえずは団長として『遠征』の報告書をまとめる為に執務室に足を運ぶ。
『遠征』から帰ってきてからもやることは多い。
魔石やドロップアイテムの換金はセシシャに一任しているとはいえ、それの確認は団長であるミクロが行わなければならない。
報告書の作成、
その時、執務室の扉を叩く音が聞こえた。
『ミクロ君、いいかな~?』
「問題ない」
「お邪魔しま~す」
「どうした?」
「女の子のお客様が~ミクロ君に会いたがってるんだけどどうする~?」
「客室に案内して。後で向かう」
「は~い」
『遠征』から帰還した翌日に客人が来たことに訝しむミクロだが、女の子の客人が誰だのかミクロはわからない。
アイズ達ならすぐにアイカの口から名前が出てくる。
ナァーザ達ならアイカ達も知っている。
それ以外でというのなら入団希望者としか思いつかなかった。
区切りが良いところで報告書を書きとめて客室に向かう。
客室の扉を開けるとアイカはソファに腰を下ろしているミクロと歳の変わらない金髪紅眼の少女に接客していた。
「お待たせ」
見覚えのない少女に声をかけると少女は和やかな笑みを浮かばせてその場を立ってミクロに近づく。
「ミクロ」
そして抱き着いた。
「誰?」
名前を呼ばれたがミクロは抱き着いている少女の名前も知らない。
尋ねると少女は抱き着くのやめて笑みを浮かばせたまま答える。
「シャルロット・イヤロス。貴方のお母さんよ」
シャルロット・イヤロス。
目の前の少女は優しい声音でそう答えたがミクロの表情は険しくなる。
「俺の母親は死んだ。嘘でもそんなことを言うな」
「嘘じゃないわ。確かに私は一度死んだ。それは事実よ」
母親の名を語る少女に言葉に怪訝するミクロに少女は笑みを浮かばせたまま言う。
「取り合えずは私の話を聞いてからでも遅くはないでしょう?その後、私を煮るなり焼くなり好きにしてもいいわ」
「………わかった」
対面するようソファに座る二人。
一方の表情は険しくもう一方は微笑むなかでまずはシャルロットが口を開いた。
「私の名前はシャルロット・イヤロス。【
死んだ人間が目の前にいる。
しかし、ミクロはフェルズからシャルロットは死んだと聞かされている。
それだけじゃない。目の前にいる少女は自分と歳も変わらない姿をしている。
以前にセツラが持っていたブローチでシャルロットの顔を見たことがあるが、目の前の少女とは似ているようで似ていない。
「そうね、まずは貴方が抱えている疑問から解消しましょう。まず、この身体は『神秘』で作り上げた
自身の胸に手を置いて説明を続ける。
「モンスターは魔石を核として生きている。それをヒントに作り上げたのがこの身体。私はこの体の核に自分の魂の一部を注入して生き永らえることが出来たの」
核に魂を注入して前の体を捨てて別の体に入れ替わる。
それが一度死んだシャルロットが生き永らえることができた。
「………」
シャルロットの説明にミクロはにわかに信じ難い。
理論は理解出来たがそれを実行するとなるとまた話が変わってくる。
前もって魂の一部を注入して身体を作っておくことで命を繋ぐ。
それは不死と言ってもいい。
その言葉通りならシャルロットは肉体は捨てることになっても命を繋げて生きることが出来る。
『神秘』のアビリティを持ち、様々な
「でも、この身体に馴染むまで時間が掛かる欠点があったの。本来なら一度死んですぐに貴方を見つけるはずがこんなに遅くなってごめんなさい……」
頭を下げて謝るシャルロット。
だけど、ミクロは困惑していた。
死んだと思っていた人は実は生きていた。
それだけでどう受け止めていいのかわからなかった。
喜べばいいのか、悲しめばいいのか、怒ればいいのか何がなんだかわからなくなった。
「あの、一つよろしいでしょうか?」
ミクロの後ろに控えていたアイカがミクロの様子を見て尋ねた。
「私にはよくわからないところもありましたが、今まで貴女はどちらに?」
「女神フレイヤ様に匿って貰っていました。シヴァの計画を知り、ミクロがお腹の中にいる頃にフレイヤ様に協力する代わりにミクロと一緒に匿って貰う契約を行っていたのです」
ゼウス、ヘラの【ファミリア】の他に【シヴァ・ファミリア】に対抗できるのは【フレイヤ・ファミリア】か【ロキ・ファミリア】になる。
しかし、当時の実力を考慮すればへレスと互角に戦った【フレイヤ・ファミリア】の方をシャルロットは優先した。
シャルロットはミクロを逃がした後に一度死んでシヴァから逃れ、別の身体に生き返った後にミクロを見つけてフレイヤの保護の下、ミクロと共に生活するつもりでいた。
唯一、作り上げた肉体と魂が馴染むのに時間が掛かるという欠点がなければシャルロットの計画は完璧だった。
「………俺の母さんは自分の命を俺にくれた」
「ええ、代償魔法で私は貴方に命を与えたわ。でも、あれは『肉体』の命であって『魂』じゃないの」
一度死んだことを話すミクロに説明をするシャルロットはミクロの隣に座って頬に手を置いた。
「貴方の活躍はフレイヤ様の下でたくさん聞いたわ。立派になったわね………私の愛しいミクロ………」
その一言を聞いたミクロの目から――――一筋の涙が流れた。
「………母さん」
涙を流し抱き着くミクロをシャルロットは優しく抱きしめる。
今も頭は混乱している。
抱き着いている人が本当に母親なのか確証なんてない。
どうすればいいのかもわからない。
けど―――――今だけは甘えよう。
赤子のように幼子のように今まで甘えられなかった分を甘えよう。
感情のままに。
望むままに。
ただ、ただ、甘える。
「………」
アイカは静かに客室から出て行く。
子供にとって親は特別な存在。
その存在は絶対であり、何事にも負けない絆がある。
しかし、ミクロはその絆を知る前に路地裏で生活をしていた。
辛く苦しい経験をしてアグライアに拾われて冒険者となってから自分の存在を知った。
母親に守られたこと。
父親と戦ったこと。
そして、今は母親と再会できたこと。
結ばれていなかった絆が繋がった気がしたミクロにシャルロットは口を開いた。
「………ミクロ。私がここに来たのには理由があるの」
その表情から笑みが消えて沈痛な表情を浮かべるシャルロットはミクロに残酷なことを告げる。
「私と戦って欲しいの」